2023年10月02日

音読のメリットとデメリット



冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

今日取り上げたいテーマは、音読の利点と欠点です。この話題に触れたいと思った背景には、僕がいつもこちらで話しているように、ヒンディ語の勉強には「ランゲージリアクター」というGoogle Chromeの拡張機能を利用しているのですが、この拡張機能でヒンディ語と日本語の字幕を同時に表示し、ヒンディ語を読むことで学習しています。辞書も手軽に引けるので、この方法を取り入れています。そして最近、この字幕を音読するようになりました。単に聞くだけでなく、自分で声に出して読むことで、言語形式への意識が高まると感じました。以上が、僕がこちらで話したかった理由です。

言語形式には「ただ目で読むだけ」では気づきにくいポイントがありますね。それを音読、つまり声に出して読むことで初めて気づかされる瞬間があるんです。このことに改めて気がつきました。前から気がついてはいましたが、今日はそれについて話してみたいと思います。

さて、音読とは一体何でしょうか。一般的には、文字があって、その文字を声に出して読む行為を指します。例えば、英語を学ぶ日本人であれば、英語の文章を声に出して読むことが一般的に音読とされます。この方法の良い点は、手軽さです。英語の文章があればすぐに始められますから。特に、英語を学ぶ日本人にとっては、インターネット上には多くの英語のコンテンツがあります。だから、取り組む敷居が非常に低いと言えるでしょう。

これが、例えば実際に英語を話す相手と対面したりオンラインで話したりする場合、お互いに時間を合わせなければいけませんし、間違えたら恥ずかしいですよね。何を言っていいかわからなくて相手を待たせてしまうという事態も考えられます。しかし、音読ならただそこにある文章を読むだけで済むんです。もちろん、意味がわかっていないと効果は低くなると思いますが、知らない単語があっても大丈夫です。音読している内容に未知の単語が含まれていても、それが意味がわからなくても音読できないわけではありません。発音を類推してみることもできます。このように、音読は始めやすくて便利な点がありますね。

最近はChatGPTで音読用のコンテンツも簡単に作成できます。自分のレベルに合わせてもらえるし、興味のある内容についてもコンテンツを作成してもらえます。そのため、自分の好きなコンテンツを自分のレベルに合わせて音読することが、容易にできるようになっています。だから、敷居が低いという利点があると思います。さらに、先程も少しお話ししましたが、ただ読むだけでなく、その内容を声に出して発音するので、語彙や文法に対する意識が高まり、覚えやすくなるという点もあります。表立って言う人は少ないかもしれませんが、達成感も感じられます。音読にも一定の限界があるとは言え、少なくとも「今日も勉強した」という気持ちにはなれます。これは、瞑想やラジオ体操と同様に、日々の生活を向上させる面があります。そして、これが自信に繋がり、「こんなに音読したから英語が話せるはず」と自信を持つことが、実際の第二言語習得には必ずしも繋がらなくても、成功体験を生む動機になると思います。

次にデメリットですが、デメリットというよりも、よくある誤解と言えるでしょう。音読だけで英語が話せると考えている人がいるのです。この点については、多くの研究者も指摘しています。例えば、音読に特化した本で有名な「音読で外国語が話せるようになる科学、科学的に正しい音読トレーニングの理論と実践」という本があります。この本は門田修平さんが執筆しています。この本でも「ただ読むだけでは効果なし」と明言されています。第6章のタイトルも、そのようになっています。ですから、実際に話せるようになるには、自分の言いたいことを言う練習が必要だと、この本でも具体的な例がいくつか紹介されています。言い換えれば、「ただ読むだけでは効果なし」というのは、僕も賛同していますし、研究者の間でも一定の合意が見られると思います。

もちろん、音読はインプットとしてはいいんですよ。しかし、話せるようになるためのアウトプットには、音読だけでは足りないと僕は思います。僕は研究者ではないですが、多くの研究者も同じ考えになっていると僕認識してます。

その理由をスピーチプロダクションモデルから考えてみましょう。話すスキルには三つの段階があります。まず、自分が何を言いたいかを概念化する必要があります。例えば、「お腹が減った」と感じたら、その次に「何か食べたい」と思いますよね。その感覚を口に出す前に、まずは自分で認識する必要があります。

その後、言いたいことを言語の形にする段階が来ます。もし英語やヒンディー語で表現する場合、どの単語や文法を使うのかを考え、自分が持っている第二言語の知識で文を組み立てます。最後に、それを音声にするわけです。つまり、口や舌、唇を使って言葉を発します。

つまり、話す過程には、最初の概念化、次に形式化、そして最後に音声化という三つの段階があります。概念化では、何を言いたいか明確にします。形式化では、それを文法や語彙を使って言語に変換します。音声化は、実際に口を使って言葉を発する部分です。

しかし、音読というのは、実は最後の音声化の部分しか手がけていないのです。その理由は、単にテキストに書かれている内容を読んでいるだけだからです。これは、先程ご紹介したスピーチプロダクションモデルという三段階の過程に関連しています。音読は、このモデルの中で最初の概念化と次の形式化の段階を飛ばして、最後の音声化の部分だけしかやっていないのです。

もちろん、音声化の部分の練習には役立っていると思いますし、自分で形式化していない場合でも、形に気づくというインプットの効果は確かにあります。しかし、自分でその概念を形にしているわけではないので、その部分の練習にはなっていない点には注意が必要です。

音読には確かにメリットとデメリットがありますが、それを理解した上で行うのであれば問題ないと僕も考えています。特に第二言語習得においては、インプットが重要とされていますよね。音読だけで話せるようになるわけではないと僕も思いますが、インプットの練習としては非常に効果的だと感じています。

「ただ目で読むだけ」と比べて、音読をすることで言語の形式に対しても意識が向きやすいです。例えば、文中で過去形が使われている場合や、特定の動詞がどのように活用されているかなどに、音声化することで改めて気づくことができます。そういった意味で、少なくともインプットにおいてはある程度の効果があると僕は考えています。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
この記事の音声版
https://listen.style/p/muracas/jyqtbfoa



posted by 村上吉文 at 21:58 | TrackBack(0) | 第二言語習得 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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