2023年10月24日

コスプレ日本語



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冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

今日取り上げたいテーマは「コスプレ日本語」です。この話題を選んだ理由は、僕が2週間に1回参加している「人生道場」というイベントで、そのニーズを強く感じたからです。このイベントはインドのバンガロールで開催されていて、日本語を学んでいる人たちが自発的に、参加費を支払わずに集まっています。主催者のKaushikさんが会場費を自費で出している可能性もありますが、参加者は参加費を払わずに集まっています。そのイベントで、毎回参加している人たちの中に、「俺」と自称する人がいます。この人はアニメが非常に好きで、いつもアニメ関連のTシャツを着て参加しています。

先日も、エヴァンゲリオンの「NERV」というロゴが入ったTシャツを着ていましたし、話題もよくアニメに関するものです。この「人生道場」というイベントには、「準備スピーチ」というカテゴリーがあります。このセクションでは、事前に準備してきたスピーチを発表するわけです。そこで彼は、アニメのセリフからの影響を感じさせるような言い回しを使っています。彼が「俺」という一人称を使うのは、おそらく単なる癖ではなく、意図的であり意識的に行っています。これはコスプレに限らず、彼自身がコスプレをするかどうかは分かりませんが、アニメについて語る際にも、一人称を「俺」としています。

でも、それを見ていても僕は特に不愉快に思いません。それが彼のキャラクターだと理解しているからです。また、この人生道場という場では、日本語が間違っている部分を指摘する人もいるんです。このまちがいを指摘したりするスタイルは、おそらくトーストマスターズからかなり影響を受けていると思います。時間を計る人や、文法を特にチェックする人もいます。しかし、彼が自分を「俺」と呼んでいても、それを指摘する人はいません。少なくとも現在は誰も指摘しません。本人も当然、そのことは理解しています。他の人は自分のことを「僕」や「私」と呼んでいます。その程度の認識は本人もちゃんと持っています。つまり、それが彼のキャラクターとしてみんなに理解されていて、一種のアイデンティティになっているわけです。それを必ずしもネガティブにとらえるべきではありません。事実として、それが彼のアイデンティティとして認知されているのですから。

今日は、この話を始める前に「コスプレ日本語」について調べてみました。または「コスプレ用の日本語」や「コスプレ用の日本語教育」といったキーワードで検索してみたのですが、一生懸命に探してもなかなか見つかるわけではありませんでした。少なくとも、数分間検索した限りでは見つかりませんでした。ですから、このようなコスプレ用の日本語教育の実践例はあまり共有されていないようです。

それでは、今日僕が話す「コスプレ日本語」とは何か、簡単に説明してみたいと思います。これは主に、アニメのセリフが対象です。みなさん、コスプレをしたことはありますか?コスプレは、単にアニメのキャラクター風の服を着るだけでなく、何らかのパフォーマンスがあって、そこで決め台詞を言ったりすることもあります。ほとんどの場合、僕が参加するイベントでは日本語が使われています。僕はよく日本のサブカルチャー関連のイベントに招かれるので、それが多いのです。

これは、一般の日本語とは大きな違いがあります。先ほども言ったように、通常の日本語教科書では「私」や「僕」で自分のことを教えることはあっても、「俺」という言葉が出てくる教科書は少ないと思います。しかし、例えばワンピースのルフィが「海賊王に俺はなる」と言う場面がありますよね。そのような時に「私は海賊王になります」と言い換えても、その言葉にはほとんど意味がありません。それがワンピースのセリフであるから意味があるわけで、そこで「私は海賊王になります」や「私は海賊王になりたいです」と言ってしまうと、その言葉の力が大きく減少してしまいます。ですから、学習者の皆さんが「海賊王に俺はなる」と言った時に、それがダメだと言う必要は、僕はあまりないと思います。

それ以外にも、例えば最近は難しい言葉が出てきますよね。「生殺与奪の権」などといった難しい言葉をよく知っていると感じる場合、それは鬼滅の刃の第1回目、最初のエピソードで富岡義勇が「生殺与奪の権を他人に握らせるな」というセリフが出てくる場面があります。それを踏まえた上で、そのセリフがかっこいいシーンで引用されることもあります。最近では、「判断が遅い」などといったセリフも普通に出てくる事が多いのですが、これもおそらくは「鬼滅の刃」の鱗滝さんのセリフを基にしているのではないかと思うことも多いです。そういったことを考慮すると、例えば「海賊王に俺はなる」と学習した人が、「クリケットのインド代表に俺はなる」と言い換えて、実際にクリケットを練習している人がそのように言い換えた場合、それが間違いであるとか、またはそのように言うべきではないと教師が指摘するようなことが起きてしまいます。

多分、これは、こういうセリフがコスプレだということを理解していないので、そのようになってしまうのではないかと思います。言い換えれば、このような「コスプレ日本語」とは、学習者の自己表現の一つとして理解するといいと思います。コミュニケーションのための日本語やビジネス日本語とは別に、学習者の自己表現の一形態として「コスプレ日本語」が存在しているのです。それは衣装でコスプレをするのと同様に、言語で自己表現をしているわけです。もちろん、詩を書くなども言語による自己表現の一つですが、それがアニメのセリフを用いて行う点が、これまでの言語による自己表現とは異なると考えます。もちろん、コスプレをする人は、それがかっこいいと感じてやるわけです。たとえば、ダサいキャラクターのコスプレをする人もいるかもしれませんが、その人たちは何らかの形で自分との共通点を見つけていると思います。

つまり、アニメのセリフを使って自己表現をするという日本語を、「コスプレ日本語」と呼ぼうというのが今回の音声配信の主旨です。これには確かに一定の学習ニーズがあると感じています。僕自身、日本語に関しては特に体験はありませんが、インドのヒンディー語の映画を観て、これはかっこいいと思う瞬間に、最近この音声配信でも話していますが、セリフを音読みのようにリピートして練習しています。そのセリフを聞いて、俳優がセリフを言った後で僕もそれを繰り返し、少しシャドーイングのようにしてみたり、音声を消してカラオケのように、役者の口の動きに合わせて言ってみたりします。そのようにすることは本当に楽しいです。とても楽しいです、学習方法として。ですから、少なくとも一定の学習ニーズはあると感じています。

ただ、もちろんそう言うと、さまざまな反論がくると思います。誰にでもそれが学習ニーズに適しているのかという問題もあり、考慮するべき点だと思います。特にビジネス日本語や、日本に住む外国籍の子供たちといった場合です。もし僕に「オレさー」と言ってきたら、多分、僕は少なくとも一度は、「僕に話す時は『オレさー』ではなく『僕は』と言った方がいいですよ」とアドバイスすると思います。特に社会に出る時期が近いと、そのアドバイスを何度も繰り返すことになるかもしれません。

しかし、今話している「コスプレ日本語」と、そのようなケースは別に考える必要があると思います。なぜなら、この「コスプレ日本語」で自己表現を望む人たちは、主にアニメファンだからです。漫画を愛する人たちも、もちろん、この方法で自己表現をするかもしれません。

しかし、こういうアニメのセリフでコスプレ日本語を学んでいる人たちは、ビジネス日本語の学習者とは、海外ではあまり重なっていないんですよね。そして、言語の習得は本当に時間がかかるものなのです。アニメ好きな日本語教師の市場があるわけで、アニメファンは日本語学習の入り口として、コスプレ日本語のような表現で、「どんどん海賊王になる」とか「真実はいつも一つ」といった言葉をたくさん覚えていくんですよね。そうやって日本語学習に足をふみいえれた人が、数年後にビジネス日本語が必要になる場合もあるでしょうが、第二言語習得は長い過程ですから、その時になってからフォーマルな表現も練習すればいいと僕は思います。つまり、日本語習得の入り口でビジネス日本語とコスプレ日本語が分かれているなら、教師が「その言い方はダメですよ」と言う必要はないと僕は考えています。

さっきもお話ししましたが、この分野には確かに需要があります。
特定の学習需要が存在すると考えていますので、日本語教育の一領域として確立しても良いと思います。
特に、「アニメ日本語」、つまりアニメを用いて日本語を学ぶという方法は、すでに多くの人々に認知されています。
そのような背景から、コスプレ日本語という領域も確立しても良い、さらにはより多くの人々に認知されても良いと感じています。
特に、アニメが好きな日本語教師にとっては、まさに新しい市場です。
さらに、最近ではAmazonプライムやNetflixなどを通じて、合法的に多くの人々が日本のコンテンツを視聴できるようになってきました。それを活用した学習も可能になってきています。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
この記事の音声版
https://listen.style/p/muracas/sgq9esde
posted by 村上吉文 at 01:42 | TrackBack(0) | 日本語教育 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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