2023年10月13日

「コンテンツありき」の語学習得方法



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冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

今日お話ししたい内容は、行動中心アプローチのコースで難しく感じる行動についてです。このテーマを取り上げようと思った背景には、僕が現在、行動中心アプローチのコースを開いているからです。特に、ChatGPTを活用することで、コースの運営が格段に楽になります。このコースは、ChatGPTを介して第二外国語を学ぶという形になっています。コース名も、参加者から後で決めてもらいました。結局、正式なタイトルは「ChatGPTを通して学ぶ第二外国語」となりました。

このコースの第2週では、参加者から第二言語で達成したい行動について意見を聞きました。コースは基本的に行動中心アプローチを採っています。そのため、参加者には必要な行動のリストを作成してもらっています。そして、それぞれの行動に必要な語彙や文法が何か、具体的に指導します。さらに、文章や会話モデルを作成し、それを基に勉強を進めるというのがこのコースの進め方です。

例えば『いろどり』という教材の場合、働きながら日本に住む、といったシナリオがメインの行動として設定されていますよね。そのため、電車に乗る、自己紹介をする、などの具体的な行動がスキルとして習得できるようになっています。

先日も参加者に第二言語で達成したい行動や目標を聞いていました。それで思ったのですが、それに対するアイデアを皆さんにブレインストーミングで出してもらい、そのリストを見ていると、行動中心アプローチが適用しやすいものと、そうでないものが明確に分かるんです。

参加者がほとんどインドから来ているため、JLPTのN3に合格するといった目標が予想されましたので、今回は始めから対象外にしています。それでも、行動中心アプローチに適している行動だけでなく、そうでない行動もかなり含まれることが明らかになってきました。これは今の段階では全く問題ありません。行動中心アプローチ自体についてはまだ詳しく説明していないので、その点は問題ないと考えています。

まず適しているものとは、『まるごと』や『いろどり』などを見ればわかると思いますが、そこに示されているような行動は、行動中心アプローチで扱いやすいものです。皆さんも容易にイメージできると思います。しかし、行動中心アプローチに適していないものにも二つのタイプがあります。これは僕の冒険家メソッドで語った内容とも密接に関連しているのですが、一つ目は、言語自体が目標となる行動です。たとえば、日本語を流暢に話したい、丁寧な言葉で話したい、敬語で話したい、または逆に敬語を使わずに話したいなど。これはおそらく友達などに対してのことでしょう。その他にも、翻訳をしたい、漢字を学びたい、語彙を増やしたいといったケースです。これらは言語自体が目標となる行動なので、行動中心アプローチでの取り組みには向かない可能性が高いです。このような学習は、言語学にちかいアプローチが向いていると思います。

でも実は、これらはほんの一部で、行動中心アプローチにはあまり適していない行動のほとんどは、実はコンテンツに関連しています。コンテンツというのは、例えば今非常に人気があるのは『呪術回戦』や村上春樹、最近の翻訳もかなり売れている川上美恵子さんなど、その他にも文豪ストレイドッグスで取り上げられる太宰治など、過去の著名な作家たちです。参加者からの希望では、こういったコンテンツを理解したいという希望が出てくることもありますし、あるいは映画を字幕なしで楽しみたいとか、歌詞を研究してカラオケで歌いたいといった夢もあります。さらに、スポーツに興味がある人はスポーツニュースを理解したい、ファッションに興味がある人はファッション関連のニュースを読めるようになりたい、料理が得意な人はグルメな本やブログ記事を読めるようになりたいといった目的もあります。これらは、今回の皆さんの課題で出てきたわけではなく、一般的によく出てくる目的ですが、実はこれらは行動中心アプローチよりも、CBIやCBLLという教育方法で学ぶ方が関心が非常に高いです。

もし先生がいる場合に教える手法は、CBIと呼ぶことが多いです。これはコンテンツベースインストラクションという意味です。一方で、先生がいない場合や独習するときは、CBLLと呼ぶことが一般的です。これはContent Based Language Learningという意味です。これらはなぜか、研究者の論文や一般的な話題では、エンタメや文学よりも教科書を使ったケースが多いようです。つまり、教科書を読むことで言語も同時に学ぶ、という形が多いです。このようなケースでよく聞かれるのはCLILという手法です。Content and Language Integrated Learningという意味で、教科内容と言語学習が統合されています。CLILには「教科」が定義に含まれていますが、CBIやCBLLにはそういった制限はありません。だから、こちらの用語ならエンターテインメントや文学のコンテンツでも使えると考えています。僕自身もこのような場合には、CBIやCBLLという用語を用いています。

CBIやCBLLでは、シラバスはコンテンツそのものです。文型でもキャンドゥでもなく、そのコンテンツを楽しむことが目的で、時には最初から順番に、そして時にはクライマックスの部分だけを勉強したりします。「コンテンツありき」の第二言語習得の方法と言っていいでしょう。

さて、こういう学習方法、授業活動は最近流行り始めたわけではありません。実際には、文学やエンターテインメントの作品を第二言語の教材とするアプローチは、かなり長い歴史があります。ただ、21世紀に入ると、著作権の問題が多く取り上げられるようになり、その結果、実用性が少し難しくなってきました。でも、20世紀には、このような教育方法が非常に活発に行われていたのです。しかし、21世紀になってからは、著作権料を支払わずにコピーを作成する違法な海賊版が増えてきたため、日本語教育の教室でこのような方法を用いることは、著作権法違反と海賊行為を助長するとして、教室での使用は控えるべきという雰囲気になり、そのため、宿題として自宅で視聴してもらうのも推奨できないという意見も多く聞かれるようになりました。

しかし、今ではNetflixやAmazonプライムなどで、合法的に料金を支払い、著作権者の利益を守る形で視聴が可能になってきました。コロナ禍の影響もあるでしょう。そのため、僕はCBIやCBLLに再び焦点を当てるべき時が来たのではないかと考えています。ただし、教室でコンテンツを上映するのは今でも国によっては違法になることもあるかもしれないので、お勧めはしません。でも、「家でしっかり視聴してきてください」と指示することも、一種の反転授業ですよね。家で動画を視聴した後、教室でその応用練習を行うわけです。例えば、好きなセリフを選び、それを演じてもらうことや、自分の言葉でストーリーをまとめて話してもらうことなどが考えられます。また、特定の言語形式に焦点を当てたい場合は、「この場面でこのキャラクターは何と言いましたか?」といった質問を投げかけ、その点に注目してもらうこともできます。それを宿題として、授業で取り上げるのも一案です。

このような授業を実施するには、動画を視聴するだけでは効率が悪いと思います。ですから、セリフをテキストデータとしてダウンロードする手段が重要になってきます。Amazonプライムについては詳しくないのですが、NetflixにはGoogle Chromeの拡張機能「Language Reactor」があります。この拡張機能を使用すると、セリフを簡単にダウンロードし、GoogleシートやExcelで開くことができます。この方法を用いると、授業の準備も格段に楽になります。この手法については、以下のビデオを撮影したので、興味のある方は、ぜひ参加してください。

「ネトフリの字幕をまとめてダウンロード」
https://www.youtube.com/watch?v=LokFLxzI_uY

そして冒険は続く。

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【参考資料】
この記事の音声版
https://podcasters.spotify.com/pod/show/murasupe/episodes/ep-e2a6ade/a-aaeif89


posted by 村上吉文 at 10:46 | TrackBack(0) | 第二言語習得 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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