2023年10月04日
知識を創発するためのソクラティック・メソッド
冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?
今日話したいのは、知識の導入ではなく、構築の一つの方法です。この話題を選んだきっかけは、昨日か一昨日、Twitterで友さんという方の投稿を見かけたからです。友さんは昔はジョークのような投稿が多かったのですが、最近は真面目な投稿が増えています。そして、昨夜は友さんが第二言語習得に関する本を読んで、「第二言語習得の本とか読んでると、ほんと教師ができることなんて大してないんだなと思う。」と投稿されていました。この投稿は、15分前にはインプレッションが9026と、教育関連のツイートとしてはかなり注目を集めています。僕も多くの本を読んで、知識の導入なんてできないと思っています。それが今日この話題を選んだ一つの理由です。
もう一つの理由は、やはりこの大規模言語モデル、人工知能やChatGPTによって、知識の導入ではなく構築する方法が、無料で簡単に、そして個別に一人一人対応できる環境が整っていることです。以前は情報伝達型の教え方が中心で、それが重要だったのは、他の方法がなく、情報のリソースも少なかったからです。しかし、今は対話型で知識を導入するのではなく、学習者が自分自身で知識を構築できるような教え方が可能になっています。そのため、教育の主流もその方向に変わるべきだと思います。それが、今日この話題を取り上げるきっかけとなりました。
今、リスナーの皆さんに「ソクラティックメソッド」についてご存じかお尋ねしたいんですが、いかがでしょうか。ソクラティックメソッド、もしくは対話問答法とも呼ばれることがありますが、もし知っていたらハートマークをいただけますか。知らなかったら、涙マークはいかがでしょう。
涙マークがいただけていますね。実際、これはあまり有名ではないと思います。特に日本語教育の現場でこの方法が取り入れられているという話は、ほとんど聞かないですね。つまり、今も多くの授業が情報を伝達する形式で行われていると感じます。
ただ、実は「情報を伝達すること」は可能ですが、それが「知識」としては定着しないことがあります。この点については、教育学や認知心理学の研究者たちの間でも一定の合意があると思います。このテーマを理解するための参考文献として、僕がおすすめしたいのは専門書ではなく新書です。その中でも特に役立ったと感じる一冊が、鈴木宏昭さんの「私たちはどう学んでいるのか?」という本です。この本には「創発から見る認知の変化」というサブタイトルも付いています。
この本では、特に印象的な箇所が一つあるので、それを短くご紹介します。その部分では、「知識は伝わらない。それは主体が自らの持つ認知的リソースや、環境が提供するリソースの中で創発するものだからだ」と書かれています。この部分では「構築」という言葉は使われていませんが、知識は頭の中で生まれるもの、生み出されるものと言えます。他の箇所でも、教えたり情報を伝えたりしても、それが知識になるわけではないと述べられています。以下にもう少し詳しく書いているところがありますので、それも引用します。
「私は幼稚園児から大学生まで、いろいろな年齢層の人たちに、さまざまな分野(算数・数学、物理、経済) の問題を用いて、知識・学習の転移を研究してきた。相当に努力したし、時間もかけた。しかし転移は滅多に生じない。これは私の能力のせいではない。国内外の多くの研究者が行った研究もほとんど同じである。」
要するに、情報は伝えられるかもしれませんが、学習者の中でそれが知識として生まれるわけではないということです。
ここまでがこの本に記載されていることであり、さまざまな研究者間でも合意が見られる客観的な事実と言えるでしょう。これ以降は僕の個人的な意見になりますが、それでも教師に何もすることがないわけではありません。これについては先ほど最初にご紹介した友さんも述べていましたが、一つの方法は環境を整えることです。知識が創発されるような環境を作るということです。
もう一つの教師らしい手法として、「ソクラティックメソッド」があります。これはソクラテスの対話問答法などとも言われるものです。情報の伝達は本やYouTube、TikTokでも可能ですが、この対話問答法はより高度なスキルが必要なので、少なくともこれまでの時代では人でなければ困難でした。しかし、今、ChatGPTが出現したことで、このような対話問答法もChatGPTで可能になりつつあります。それでも価値ある、人間である教師としての有意義な仕事は、単に本やYouTube、TikTokでできる情報の伝達ではなく、このような対話問答法やソクラティックメソッドを用いて、学習者に知識の創発を行ってもらうことだと思います。
それでは、ソクラティックメソッドとは何かというと、質問と対話によって学習者の思考を刺激し、自分自身の理解や洞察に導く教育方法と言われていますね。その名前の通り、古代ギリシャの哲学者ソクラテスが有名な方です。約2400年前の人物でした。この教え方はそれだけ昔から存在しているので、特に新しい方法というわけではありません。先生が一方的に教えるのではなく、学習者に質問を投げかけ、その回答に基づきさらに質問を重ねていく形です。このようにして、学習者は自分で考え、答えを見つけるように導かれます。この方法は、教科書を配るだけ、宿題プリントを配るだけ、採点するだけと比べて、先生にはるかに高度なスキルが求められます。学校教育の現場であまり普及していないのはそのためだと思います。
それから、この方法は一人ひとりに対する授業に向いている部分があると思います。一斉授業でも不可能ではありませんが、やはり受動的に聞いてさえいればいい授業ではないし、学習者が自ら考えないと意味がない方法なので、その意味で1対1や個別の指導が向いていると僕は考えます。そのため、これまでの学校教育でソクラティックメソッドが主流になったことは、おそらくありません。ソクラテスの時代にはこのような方法が確かに存在していましたが、現代の工場型、大量生産型の教育制度とはあまり相性が良くないと思います。しかし、大規模言語モデルという形の人工知能が普及し、しかも無料で利用できる今、この方法が十分に可能になってきているのです。
ですので、僕が実際に試してみたところをご紹介します。英語の質問で、ChatGPTに質問を投げかけ、ソクラティックメソッドで対話を受けながら知識を構築しています。
「★ ソクラテス先生(英語)」
https://chat.openai.com/share/b6cde7b5-9986-4f2f-ba0d-a5814fb1e814
ChatGPTをこのように使うためには、毎回言っている通り、ChatGPTに対するカスタム指示が必要です。今回、僕が書いたカスタム指示をご紹介しますね。ただし、僕が書いた内容と言っても、それはChatGPTに「ソクラティックメソッドで対話するためのカスタム指示を書いてください」とお願いして作ったカスタム指示です。それをコピペしただけなのですが、その内容をChatGPTのカスタム指示に入れ、英語学習に利用しています。それについては以下でご紹介してみたいと思います。
あなたは英語の先生です。
あなたはソクラティック・メソッドで英語の意味を教えます。
初めの質問: 学習者が英語の単語や文の意味について質問した場合、まずはその単語や文がどのような文脈で使われているかを尋ねる。
例: 「この単語はどのような状況で使われていますか?」
関連する情報: 学習者が文脈を提供したら、それに関連する情報や単語を尋ねる。
例: 「この単語と一緒によく使われる他の単語は何ですか?」
類義語と対義語: 学習者がある程度の理解を示したら、その単語の類義語や対義語について尋ねる。
例: 「この単語に近い意味の単語は何かありますか?」
実用例: 最後に、学習者にその単語や文を実際の文脈で使う例を考えてもらう。
例: 「この単語を使って一つ文を作ってみてください。」
確認とフィードバック: 学習者が自分で答えを見つけたら、その答えが正確かどうかを確認し、必要ならば軽いフィードバックを与える。
このようなカスタム指示は、チャットGPTのカスタム指示欄の下部に入力するものです。カスタム指示欄には上と下、2つの入力スペースがあります。上部はユーザーに関する情報を入力する場所で、下部はチャットGPTにどのように動作してほしいかを指示する場所です。この下部の入力欄にこのようなカスタム指示を入れれば、英語の単語などについて質問すると、上記のリンクでご紹介したような対話が可能になります。
それでは今日はこの辺で終わりますが、現在お聞きいただいている皆さん、このようなカスタム指示を使ってチャットGPTでソクラティックメソッドを活用して語学を学びたいと思う方はいますか。
もしいらっしゃる方がいたら、ハートマークでリアクションをお願いします。いかがでしょうか。
それでは今日もむらスペに参加していただき、ありがとうございます。
ハートマークをいただいた方、ありがとうございます。
今日は知識の導入ではなく、その構築方法についてのコンテンツをお届けしましたので、
感想やコメントがあれば、ぜひお知らせください。
さらにハートマークをいただきました、ありがとうございます。
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それでは、今日も素晴らしい一日をお過ごしください。
そして冒険は続く。
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【参考資料】
この記事の音声版
https://listen.style/p/muracas/hgnx5hq0
私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書) Kindle版
鈴木宏昭 (著)
https://amzn.to/3tnqx1u
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