2023年07月12日

人工知能と冒険家メソッド


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冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

今日は、人工知能と冒険家メソッドの関係について書いてみたいと思います。冒険家メソッドは、2018年に僕が出版した本でも取り上げられましたので、読んでくださった方もいるかもしれません(https://amzn.to/3PQaHWD)。それでも、ここでもう一度冒険家メソッドについて紹介しておきたいと思います。簡単に言ってしまうと、冒険家メソッドとは、「ソーシャルメディアを活用した自律的な第二言語習得」のことです。

では、なぜそれを「冒険家メソッド」と呼ぶのかというと、その考え方の基本が冒険の定義と非常に類似しているからです。では、冒険とは何でしょう。これについては様々な定義があると思いますが、僕が2018年の本で紹介した定義は、九里徳泰さんという方のものです。彼はかつて特に自転車での冒険で非常に有名でしたが、最近は冒険家としての活動を引退し、研究者に転身されています。現在は相模女子大学の大学院MBA社会企業研究科の教授をされています。

九里徳泰さんは「冒険家になるには」という本を書かれていますが、その本については僕の冒険家メソッドの本でも詳しく紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください。九里さんの定義によると、冒険というのは3つの要素が必要で、その3つのどれか1つが欠けてもそれは冒険とは言えないとされています。

冒険の定義に必要な要素の1つは、もちろんリスクを取ることです。何のリスクもないものは当然冒険ではないですし、それが冒険の一番特徴的な要素であると思います。

しかし、危険なら何でも冒険なのかというと、そうではありません。例えば、街中で200キロのスピードで車を運転することは非常に危険ですが、それは絶対に冒険とは言えません。なぜなら、そのような行為をする人々は、たくさんいるからです。毎年交通事故でスピード違反により亡くなる人々となんら変わりません。

つまり、それは全くオリジナリティがないということです。冒険とは他の人とは違う、世界でただ1つだけのこと、つまりオリジナリティを必要とします。例えば、屋上で手すりを乗り越えて、わざと落ちそうなことをやる行為も、全くオリジナリティがないので、それは冒険ではないと言えます。

それでは、オリジナリティがあって、リスクのあること、例えばNASAの宇宙飛行士が月に行くといったことが冒険かというと、それもまた少し違うと思います。もちろん、NASAの宇宙飛行士の方々は、非常に尊敬に値する人たちです。リスクも取っており、月に着陸するとか他の人とは全く違うオリジナリティもあります。しかし、それは自分で計画して行うものではなく、NASAという巨大な組織の中で、上位の人々が計画を立て、それに応募して宇宙飛行士になり、選ばれたら月や宇宙に行く、という形になります。そのため、自分で計画するという主体性はありません。

そして、これが第三の要素である、自分で計画する主体性、つまりオーナーシップにつながります。もともとは九里徳泰さんの定義ですが、僕も「リスクを取ること」、「オリジナリティ」、そして「オーナーシップ」、この三つがなければ、それは冒険とは言えないと考えています。

さて、ここからようやく本題に入りますが、このブログは人工知能を活用した第二言語習得が一つのテーマとなっています。その中で以上の三つの要素を取り入れることが可能でしょうか。結論から言うと、当然可能です。

まずはリスクについて考えます。言うまでもなく、人工知能を使って第二言語を習得する際のリスクといっても、命に関わるようなものではありません。ただし、これまでの学校教育の枠組み、つまり教科書を使用してある程度成果が見えるような勉強方法とは異なるアプローチをとることになります。ここで言う異なるアプローチとは、例えばChatGPTを使用するといったものです。そのため、計画がうまくいかない、無駄になってしまうといったリスクは必ず存在します。

特に、ChatGPTは完璧なシステムではありません。間違いをすることもあります。そのため、リスクを評価する能力や習慣が必要になってきます。これまでの一斉授業で全員が同じ教科書を使って同じスピードで学習していた人々とは異なるマインドが求められるでしょう。つまり、自分自身の学習に対するリスクを評価することです。これはまさに冒険家に必要なスキルでしょうし、今後もこのような態度が必要になると考えます。

次にオリジナリティについてです。他の人と異なること、これも大切な要素です。もちろん、現在では多読用の教材も多く出版されており、ある程度自分で選択することが可能です。従って、他の人とは異なる、一斉授業ではないカリキュラムを進めることも可能です。しかし、ChatGPTを使うとさらに可能性が広がります。例えば、冒険映画のようなJLPTのN3レベルの物語を作成するといった細かい指定も可能になります。主人公の名前を特定のものにするといったことも可能です。その結果、他の人とは異なるオリジナリティ溢れる自分だけの教材で学習することが可能になるのです。

3つ目の要素は主体性です。つまり自分自身で計画を作成することですが。これこそがChatGPTの強みです。もちろん、ChatGPTを使わなくても自分自身で計画を作成することは可能ですが、ChatGPTに自分の環境や条件を教えることで、例えば「自分はこのような言語を理解するが、このような方法で学習したい」といった具体的な学習計画を作成してもらうことができます。

ただし、一度ChatGPTに計画を作成してもらったからといって、それをそのまま信じて任せきりにすると主体性は生まれません。実際には、作成された計画を試し、それがうまくいかないと感じた時に、自分自身で見直すことが必要となります。これは特に語学の学習においては、最初の計画通りに進まないことが多いからです。もし最初の計画を100%守っていたとしたら、もっと良い方法を見つけているにも関わらず、その可能性を無視している可能性があります。

従って、これまで「冒険家メソッド」として説明してきたもの、つまりソーシャルメディアを活用した自律的な第二言語習得は、これからは人工知能を活用した自律的な第二言語習得として理解しても良いと思います。

ただし、それが「改善版」というわけではありません。ソーシャルメディアよりも人工知能が優れていると主張したいわけではなく、これらはただ異なるバージョンと考えるべきだと思います。ソーシャルメディアを活用した自律的な第二言語習得も有効で、特に社交的な人、友達が多い人、インターネット上で多くの友達を持つ人、あるいはソーシャルメディアが好きな人などにとっては、これまで通り、ソーシャルメディアを活用した自律的な第二言語習得が必要となるでしょう。同時に、別の人々、とくに内向的な人たちが人工知能を活用した自律的な第二言語習得に向かう選択肢も存在すると考えるべきだと思います。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
この記事の音声版
https://listen.style/p/muracas/jes4sacp

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posted by 村上吉文 at 00:54 | TrackBack(0) | 人工知能と日本語教師 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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