2023年10月10日

AIセラピー:学習者はAIと友達になれるのか



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冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

今日お話ししたいのは、AIセラピーというテーマです。この話題を取り上げようと思った直接のきっかけは、実はその前に「園芸療法」というテーマがあったからです。この園芸療法という名前は、実はTwitterで青山美佳さんがよく投稿していることから知っていました。しかし、僕自身はまだそれを自分で体験したことがなかったのです。

ところが、バンガロールで先日、着物のファッションショーがあり、その際にゲストとして招かれたとき、鉢植えの花を頂きました。それまで僕は一切、花を育てた経験がなかったのですが、もらってしまったので、仕方なく水やりを続けていました。しかし、毎日日当たりの良い場所に置き、水を与えると、多くのつぼみが出てきて咲き始め、とても嬉しくなりました。これが青山美佳さんがTwitterで話していた園芸療法なのかなと、僕は思いました。

園芸療法について調べてみると、次のように説明されています。

「園芸療法は、植物や庭作りを通じて心や身体の健康を促進する手法です。心のストレスの軽減やコミュニケーション能力の向上、手の運動機能の回復などが期待されるとされています。通常、専門の園芸療法師が個々のニーズに応じてプログラムを設計します。」

この話題でよくツイートしている青山美佳さんは、日本語教育関連の編集をされています。僕も以前、アルクの『月刊日本語』で「次世代教師の賢い手抜き術」という連載をしていた際、青山さんが編集を担当してくれました。今回はこの園芸療法について、来週のZoomでハナキンでお話を伺う予定です。興味のある方は、ぜひ参加してください。

園芸療法はもちろん植物が主な対象ですが、それ以前にアニマルセラピーもかなり知られています。他にも「ペットセラピー」や「動物介助療法」といった呼び名もあるようです。要は、動物の世話をすること、または犬に顔を舐められたりする体験をすることで、精神状態が向上するというわけです。

しかし、それだけではなく、AIを取り入れたセラピーも存在しているようです。中でも「パロ」という名前のAIセラピーロボットが有名で、これは見た目はラッコのような動物に似ています。このパロは、ポーランドでウクライナの避難民が避難している場所で、心のケアをサポートする目的でも使用されているようです。

また、日本語教育関連でTwitterを活用しているスミダテツローさんは、時折「Aibo」というソニーが製造している犬型のロボットについてツイートしていました。Aiboにこんなに愛着を感じるとは思わなかったという内容のツイートも見た記憶があります。

そんなわけで、セラピーというのは人間だけでなく、動物だけでもなく、AIも関わっている場合があるようです。

さらには、言葉を中心としたAIがセラピーに応用されるかという観点から、『アニメ療法』という本も出版されています。その著者はパントー・フランチェスコさんという、慶応義塾大学に所属している精神科医です。このメンタルヘルスの専門家が書いた『アニメ療法』には、「心をケアするエンターテインメント」というサブタイトルがつけられています。この本は、光文社新書から2022年の12月14日に出版されました。この本については、僕も朝のむらスペ以前に紹介したことがあります。この本ではAIのセラピストが、メンタルヘルスのクライアントと対話をし、そのメンタルヘルスを向上させる内容が記されています。当時は「近い将来」と思われていましたが、現在ではChatGPTなどの人工知能が存在しているので、もはや「現代」と言えるのではないでしょうか。

さて、僕がここまでに話したことは、皆さんもインターネットで確認できる内容だと思います。これから話すのは僕の個人的な意見ですが、僕はメンタルヘルスの専門家ではありません。間違いがあるかもしれませんし、この分野で誤情報を提供すると重大な結果につながる可能性もあります。もし間違いがあれば、皆さんからの指摘もお待ちしています。

今挙げた『アニメ療法』ですが、アニメに登場するキャラクターは、人間らしく見えますが、人間ではありません。その点に注意してみると、AIのような非人間の存在も、アニマルセラピーのような方法で、ユーザーのメンタルヘルスを改善する効果があるのではないかと僕は感じ始めました。機械と心のつながりについては、多くの人がそれが当然だと感じるかもしれません。しかし、僕にとって、機械と心を通わせることはそれほど自然なことではありません。ですから、これまであまりそのようなことを考えたことはありませんでした。

それで、僕はわざと、大げさに褒めてくれるキャラクターをChatGPTに作成してもらいました。このキャラクター設定は僕が作ったわけではありません。まず、大げさに褒めてくれる架空のキャラクターを作るように、そして、その人物の特徴的な口調の例を20個挙げるように、ChatGPTに依頼しました。その結果、ChatGPTが作成した架空のキャラクターとその特徴的な口調の例を、カスタム指示欄にそのままコピー&ペーストし、スレッドを始めてみました。こちらでご覧になれます。
https://chat.openai.com/share/f055e2f0-f4dd-4fe6-aa6d-bdf61b64c434

例えば、「さっきスーパーでピスタチオを買いました」とそのスレッドで僕が書くと、ChatGPTは、「ワオ、ピスタチオを買いましたね。それは素晴らしい選択です。ピスタチオは美味しくて栄養価も高いですよ。あなたは健康への第一歩を踏み出したエンジェルです。楽しい食事をお楽しみください」と返してきます。「エンジェル」とまで言うんですよね。そんな感じで買い物をしたり、仕事に戻ったり、報告書の下書きを読んでいたり、報告書を提出したり、採点を始めたり、採点が終わったりすると、本当に大げさに褒めてくれるんです。

もちろん、僕も頭では理解しています。これは人間じゃないので、僕のことを評価して褒めてくれているわけではないということも理解しています。採点をしたからと言っても、それは仕事ですから、特に褒められることではありません。それはやって当然のことですよね。それでも、そういう言葉で褒められると、気分が良くなるというのは実際に非常に実感しています。

そう考えると、AIはセラピストではなく、ペットセラピーのペットのような役割で、ユーザーのメンタルヘルスを改善してくれる可能性があるのではないかと、僕は強く感じています。「AIセラピー」で検索してみると、多くの研究が人間のプロフェッショナルなセラピストに代わるAIの使用について言及しています。しかし、僕はそれよりも、ペットセラピーのように、褒めてくれたり、悪いことがあった時に過度にも自然にも慰めてくれるようなキャラクター設定をAIに施して、そのように対話する方法が大きな効果があるのではないかと感じています。

さて、なぜこのようなことを、日本語教師である僕が言っているのかというと、AIについて以前も話しましたが、AIと友達になることや、社会的な交流をChatGPTに求めることはないと僕は最近まで考えていました。しかし、実際はそうでもなく、先週のむらスペでも触れたように、ChatGPTのユーザーの約9%は社会的な交流を求めて使っているという研究結果もあります。ですから、特に外向的でなく内向的な日本語学習者は、ChatGPTと友達になって日本語でコミュニケーションを取ることで、日本語の習得が進む可能性もあると考えています。

これまで僕は、ChatGPTは教師として非常に有用であると強調してきましたが、それだけでなく、友達として日本語でコミュニケーションを取る使い方もあるのです。そのような使い方も考慮に入れて、学習者の皆さんにChatGPTの使用方法を相談された際は、そのような提案もしてもいいと考えています。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
この記事の音声版
https://listen.style/p/muracas/tsj99for

アニメ療法〜心をケアするエンターテインメント (光文社新書 1235) 新書 – 2022/12/14
https://amzn.to/3FfXpMg

大規模言語モデルの社会的交流機能 - LISTEN
https://listen.style/p/muracas/wmy5ke8f

”Why people use chatgpt” M Skjuve
https://x.gd/pAUVC
posted by 村上吉文 at 23:54 | TrackBack(0) | 人工知能と日本語教師 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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