2008年04月21日

高速道路を疾走する師弟たち

自分には師匠がいなかった
私の知人がブログで「師匠が死んだ」と書いていたことがあります。このとき私が思ったのは、「俺には師匠がいなかったなあ」ということでした。よく、偉い人の立志伝とかに「師匠との衝撃的な出会い」とか「私はこうして弟子にしてもらった」とか書いてあるじゃないですか。ああいう経験が、私の場合、ほとんどなかったのです。で、そういうロールモデルに出会えなかったことが自分の人生の大きな欠点なのではないか、とちょっと暗くなりました。知人は師匠を失ったことを嘆いていましたが、私はその嘆きがむしろ羨ましかった

あ、ここで慌てて補足しておきますが「恩師」という言葉にぴったりする人はいます。恩のある先生、お世話になった先生、足を向けて寝られない先生は、そりゃ、人並みにいます。自分一人で大きくなったなんて、思っていませんって。

ただ、「恩師」と「師匠」はちょっと違うんと思うんですよね。私の中で「師匠」というと、もっと近いイメージ。といっても、「近くに背中がある」感じです。「いちいち教えてはやらんが、盗みたかったらワザを盗んでいけ。そしていつかわしを越えてみせろ」というような感じです。

そういう意味で、日常的に仕事ぶりを参考にできる先生は、私にはいませんでした。その成果物とか授業で非常に刺激を受けた「恩師」はたくさんいらっしゃるのですが、「師匠」と呼べる距離で背中を見せて走っていた先生を追いかけていった経験は、はっきり言うと、ないのです。

お弟子さんを連れてやってきた!
ここで話はまた「スティーブ・ジョブズのスピーチをインタラクティブな英語教材にしてみた。」になるのですが、先日、そのエントリーへのネットからの反応について「はてブで得た確信。それはコンテンツとフレームワークだ!」を書いたところ、こちらも多くの人にブックマークしていただくことができました。そして、最初にブックマークしたのは私自身ですが、その次にブックマークしてくださったのが、またしても梅田望夫さんだったのです。

この後のアクセスの増え方を見てみると、明らかに梅田望夫さんのブックマークが影響しているのが分かりました。この理由は、私自身がよく知っています。なぜなら、私も梅田望夫さんのブックマークをRSSリーダーで読んでいるからです。念のため繰り返して書いておくと、梅田望夫さんの「ブログ」ではなく、「ブックマーク」を読んでいるのです。そして、梅田さんがブックマークした私のエントリーへのアクセスを見る限り、他にもたくさんの人が、同じように梅田さんのブックマークを追跡しているのが分かりました。

私の使っているライブドアのRSSリーダーで見るだけでも、梅田さんのブックマークを登録している人が276人もいることが分かります(http://reader.livedoor.com/about/http://b.hatena.ne.jp/umedamochio/rss)。その他にも「はてなブックマーク」の梅田さんのページからリンクをたどってやってくる人もいれば、ブラウザに登録しているらしい人からのアクセスもありました。

これを、ブックマークしてもらった側の視点で表現してみると「うわっ、梅田さんがお弟子さんをたくさん連れてやってきた!」という感じですね。私自身、今まで梅田さんのブックマーク先を回っていたのですが、くっついて見て回るときはそれほど他の人を意識しなくても、ブクマされると、同じように巡回している他の人たちの姿がはっきりと見えてくるのです。

これに似た経験は、今までにもありました。スティーブ・ジョブズの英語教材のエントリーは、こんな何気ないページ(http://secure.ddo.jp/~kaku/tdiary/20080411.html)からも大量のアクセスがあったのです。見てみると、ただのウェブの記録ですよね。いくつかのタイトルとそのURLが書いてあるだけです。

このアクセスには「ん?」と思ってみていただけだったのですが、梅田さんについて回る人たち(私の含めて)のイメージを思い出して、改めてこのサイトの下にあるブログ主の名前を検索してみたのです。そうすると、このページを作っているのが角田直行さんという有名なエンジニアらしいことが分かりました。要するに、この人をウォッチしている若いエンジニアたちが私のブログに流れ込んできたわけですね。

ネット時代の新たな師弟関係
さて、ここでまた冒頭の「師匠」の話に戻るのですが、このときふと、「この距離感は何だろう」と思ったのです。梅田さんはシリコンバレーにお住まいだと思いますから、物理的な距離は太平洋を超えていますし、今まで実際にお会いしたことは一度もありません。しかし、ブックマークを追いかけていると、梅田さんがブックマークしたのが同じ日だったりすることがよくあるのです。つまり、梅田さんが読んで何らかの意味を感じ取り、ブックマークに入れた、その日に、私が同じ記事を読んでいるのです。

この近さは何だろう。

これはまさに、すぐ前を走っていく背中を見ながら追いかけている感覚です。「いちいち教えてはやらんが、盗みたかったらワザを盗んでいけ。そしていつかわしを越えてみせろ」に似ていませんか? これはもう、「師匠」といってもいいのではないか。一度も会ったことがないにもかかわらず、読んでいる最新の資料を次々に教えてくれる。そして、それが日常的に毎日続くのです。

いや、それだけではありません。

梅田さんが私の「はてブで得た確信。それはコンテンツとフレームワークだ!」をブックマークしたとき、そこには「Learning 2.0」というタグがついていました。「なんじゃ、こりゃ?」ですよね。それで、慌てて梅田さんのタグで「Learning 2.0」を見てみました(http://b.hatena.ne.jp/umedamochio/Learning%202.0/)。こりゃ、すごいですわ。まさに私のために揃えてくれたような資料が並んでいます(現時点で最新のものはMITの教授のもの。http://henryjenkins.org/2008/04/the_making_of_tiktok_part_one.html)。しかも、梅田さんが「learning 2.0」というカテゴリーを作ったのが、そのわずか五日前だったりします。普通に大学なんかで研究している指導教官でも、こんな風に最新の自分の考えを何百人という単位の院生たちに直接示し、その後も関連する資料を提供し続けることなんて、なかなかないのではないでしょうか。

ま、そりゃ確かに梅田さんは私のために他の資料をブックマークしているわけではありません。しかし、結果的に「君の書いたことはLearning2.0という枠で捉えることができるね。だったら他にこんな記事があるよ」と教えてくれることになるわけです。

そして、そういう関係を可能にしているのが、ソーシャルブックマークと、RSSリーダー(フィードリーダー)という二つのツールです。どちらも2006年頃に大流行した「web2.0」というバズワードのうちの、重要な概念でした。

私には目に浮かぶようです。これらのツールを使って、インターネットという学習の高速道路を縦横無尽に疾走しているいくつもの集団が。その先頭には梅田望夫さんや角田直行さんが走っていて、そのすぐ後ろから何百人もの弟子たちが遅れまいと必死に追走していくのです。

インターネットが結ぶ、リーダーとその追走者たちの集団。これこそ、「ネット時代の新たな師弟関係」と呼んでもいいのではないでしょうか。
posted by 村上吉文 at 13:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
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