2007年12月06日

情報化に淘汰される日本語教師

『フラット化する世界』などでもさんざん言われていることでもありますが、この高度情報化の時代で、多くの人が機械との競争に敗れて淘汰されていくのは自明なことですよね。そしてそれは、日本語教育の世界も例外ではないだろうな、と思うのです。

最近のニュースでは、こんなものがありました。「アドバンスト・メディア、音声認識技「AmiVoice」をベネッセの次世代型通信講座に提供」
実践的な英語力を身につけることを目的としたコンテンツにおいて、学習者が対象の単語・文章を読み上げると、音声認識技術を用いて発音の間違いを判定し、客観的な指摘を画面に表示します。これにより、発音評価がリアルタイムに可視化され確認でき、個人の学力や進度にあった、密度の高い発音指導が可能となります。

今まで、文字情報での正誤判定などは既にありましたが(ワードの自動補正とか)、音声の分野でも言葉の間違いを指摘して修正させることが、自動的にできるようになっているんですね。ここでは、学習者へのフィードバックは画面に表示されるということですが、今の人工音声技術では、教師の音声として出力することも問題なくできるはずです。

そうすると、少なくとも音声指導のほとんどは、人間でなくてもできる時代になってきていると言っていいでしょう。

もちろん、「こんな機械に負けるはずがない」という人もいるでしょう。この点については、駒沢大学の山口先生が『「初音ミク」をめぐるプロとアマの「差」』で、こんなことを書いています。
しかし、多くのアマからみれば、プロのそうしたこだわりにはあまり価値を感じられないのではないだろうか。特に娯楽の場合は「プロ」と「アマ」の技量差が重大な問題を引き起こすおそれは小さいから、プロのサービスを選ばなければならない理由はあまりない(たとえば医療の分野では、一見差がないように見えても、プロとアマの技量の差は重大な結果を引き起こすだろう)。
http://mediasabor.jp/2007/11/post_272.html
現在の「初音ミク」の水準は、プロ歌手には及びもつかないだろうが、音痴の素人を使うよりは明らかにましといえる。今後技術が向上すれば、半端なアマ歌手、さらには半端なプロ歌手をも上回る「実力」を持つようになる可能性だってあるかもしれない。そのときには、楽曲自体の優劣が「最後の砦」になるかもしれないし、少なからぬプロが高度なアマとの競争に負けて「失業」することもあるかもしれない。
http://mediasabor.jp/2007/11/post_272.html

ここで言われているのは娯楽の世界の話ですが、日本語教育もたった420時間の受講で有資格者になってしまう世界ですから、たとえば脳外科の手術などに比べてもはるかに専門性が低いと言えるでしょう。実際に独学でも日本語がペラペラしゃべれるようになってしまう人がいるのですからね。さらに、一日24時間、一年365日、いつでも対応してくれるネット上のサービスに負けないと自負できる教師は、そうはいないのではないでしょうか。自分もベトナム語をオンラインで勉強している身なのですが、これだけ無料サービスがあふれていると、なかなかお金を払って時間も守って、面倒くさい授業に出ようとは思えないのが本音です。

つまり、山口先生のおっしゃる「多くのアマからみれば、プロのそうしたこだわりにはあまり価値を感じられないのではないだろうか。」の「プロ」を「教師」に、「アマ」を「学習者」に代入してみても、同じことが言えるのではないかと思うのですよ。多くの学習者は、きっと無料のオンラインサービスに流れるでしょう。私が現にそうなんですから。

で、学習者としては、それは非常にうれしいことなんですが、同時に語学教師でもある私としては、そうも言ってられません。すぐそこまで迫っている大淘汰の時代に、誰が生き乗れるかを決めるポイントは何かを考えなくてはなりません。

一つはニーズ分析を含めたコースデザイン力。力のある教員がコースをデザインし、あとはそのコースをe-learningで学ぶ、というスタイルの方が、はるかに安価にできるからです。そしてさまざまなコースのプラットフォームから、学習者は自分にあった最適なコースを選ぶことができるようになります。これは先日述べたように、既に英語教育のiKnow!で実用化されていますし、年内には日本語教育でも始まるとのことですから、要するに今月中には現実化する事実です。英語のコースが無料ですから、日本語も無料だと考えてほぼ問題ないでしょう。(コストは広告料で回収するビジネスモデルなのでしょう。)

この場合のニーズ分析というのは、個人のニーズをどう分析するかという視点はほとんど必要なく、学習者をマスで捉えて、どちらかというと市場分析に近い仕事になるのではないかと思います。

それから、もうひとつは教室でのパフォーマンスが非常に優れている人。学習者の大半は安価なe-learningに奪われるわけですが、それでも高価な授業料を払ってでも人間に学びたいという人は何パーセントかはいると思います。しかし、こちらは完全な買い手市場になるので、今以上に待遇がよくなるとはちょっと考えにくいですよね。というか、ボランティアだけでその需要は埋まってしまうかもしれません。

ということで、私も含め、生き残りたければ勉強あるのみです。ただ、機械に取って代われる分野を勉強するよりも、機械を使う側の勉強に専念したほうがよさそうなことだけは確かですね。

posted by 村上吉文 at 06:21 | Comment(5) | TrackBack(1) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
さびしい話ですなあ。
とまれ、僕は学校に友達がいるから通っていたようなものですが
Posted by samandabadra at 2007年12月06日 12:43

Samandabadraさん、お久しぶりです!
私もSamandabadraさんと同じように「さびしい話」だなあと感じました。確かに私も友達に会いに学校に通いに行っていたようなものかも?!

モンゴルで二胡を習っていましたが、それは二胡を習うためというより先生に会いたいがために通っていたような気もします。DVDで二胡を勉強することもできますけど、もちろん目で見てやってみて勉強にはなりますが、なんというか、味わいがないんですよね。やっぱり先生の演奏を生で聞いたり、自分の弾き方にチェックを入れてもらったり、雰囲気を楽しんだり、仲間とわいわい楽しく学んだり…。語学を習うのって、楽器を習うのとちょっと似てると思いませんか?

日本語教師も職人技を持っている人が生き残ることのできる社会になっていく時代到来ですね。それだけ日本語教育環境が充実してきたということなのでしょう。あじのある実力のある教師になるためには日々精進が必要ですね。機械と人間とうまく「役割分担」をして、仲良くやっていくほうが得策です。

「微調節がきく」という点では人間は機械よりずっとすぐれていると思います!私も新しいものを取り入れつつ、絶妙な「微調節のきく」日本語教師を目指して日々努力していこうと思います…。
Posted by shibarie at 2007年12月08日 01:59
samandabadraさん、こんにちは。
こちらにコメントいただくのは初めてかと思いますが、そういえばmixi日記をこのブログに変更したので目にとまるようになったんですね。

shibarieさん、こんにちは。この前、PCルームでずいぶん疲れているみたいでしたけど、大丈夫ですか? 研修もそろそろクライマックスですので、何とか乗り切ってください。

さて、今回のエントリーが「寂しい話」なのは事実なんですが、でも、samandabadraさんとshibarieさんがネット上で再会できたのも、その情報化のおかげなんですよね。そういう「さびしくない」恩恵を日本語学習に持ち込むようにするのも、生き残れる日本語教師になるために考えておきたいですね。

そういう意味で、梅田望夫の「ウェブ時代を行く」って本、shibarieさんなら、けっこう刺激的かもしれませんよ。
Posted by 管理人 at 2007年12月08日 07:00

PCルームで疲れていたのはその前日寝不足だったからかもしれません。モンゴルでとってきたアンケートがなかなかまとまらなかったんですよ。つい先日終わったところです。

研修の授業は昨日が最後でした。来週は課題発表なのですが発表用の資料がまだまとまっていません。頭の中もごちゃごちゃなので、整理しないと!

おとといは日本に国費で留学しているモンゴル人の同僚がわざわざセンターに会いにきてくれました。久々にモンゴル語でたくさん話して、自分がここに研修しに来た目的を再確認することができました。研修修了まであと数日。有意義に過ごしたいと思います。

ほかの国の先生方はe-learningのこと結構詳しくて、私も刺激を受けることができました!私も「ウェブ時代を行く」を読んでみたいと思います!研修を受けたのでpower upしてモンゴルに戻りたいと思います。
Posted by shibarie at 2007年12月08日 15:14
「日本人学習者向け英語発音矯正ソフトAmiVoice CALL -pronunciation-の発売開始!」という記事もあったのでメモ。
http://www.advanced-media.co.jp/newsrelease/newsrelease.cgi?detail=20050610185858
Posted by 管理人 at 2007年12月11日 10:17
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

これはすごい!まるでプロ並みの読み方。
Excerpt: まあ、まずは聞いてくださいよ。三十秒ぐらいだから。 http://jp.fujitsu.com/group/labs/downloads/techinfo/techguide/voice-proces..
Weblog: むらログ
Tracked: 2009-07-28 06:12