2007年09月05日

朝青龍は規則に違反したのか。

朝青龍のサッカーの件は、何度も何度も書いているように、巡業への休場届も正式に受理されており、その診断書も雇用主が「正当なもの」と認められているのですから、仮病でもサボリでも、すっぽかしでもないわけです。

では「無断帰国は規則違反だ!」というバッシングについてはどうなのでしょうか。

これについては、もちろん法律的には朝青龍にも移動の自由が保障されているので、問題がありません。しかし、バッシングしている人たちは、以下のように「相撲協会内部のルールを破った」と主張しているようです。

たとえば、横綱審議委員会の現役委員で弁護士の松家里明氏さえも以下のように言っています。
指導力のなさを露呈した理事会については、「会社でいうなら就業規則違反で懲戒したということ。処分自体は正しかった。病気のせいにして懲戒が悪かったというのでは困る」と擁護。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/80462/
今回の朝青龍の事件は、法を犯した行為ではなく、あくまで相撲協会の組織内の規則違反問題である。当然、組織の内規に抵触すれば、当事者は処分の対象になる。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20070815/14092


その結果のブログ記事。次から次へと何の根拠もなく朝青龍を「ルール違反」と断定する記事がこれでもかと出てきます。このリンク先は新しい検索結果が順番に出てきますので、明日また見てください。

二場所の出場停止は妥当。
これはスポーツの世界でも違反者への罰として行われているため。
http://amane9.blog52.fc2.com/blog-entry-226.html
またか、って感じだね。
いつも処分が甘いんだよ。
いくら横綱だって、ルール違反は罰しなければ。
http://ojima3.com/modules/weblog/details.php?blog_id=593
朝青龍2場所謹慎処分は文化の違いではなくルール違反であることをキッチリ理解させる必要がある
http://oguribunngo.iza.ne.jp/blog/entry/283070

しかし、具体的にどんな規則を破ったのかに触れている記事は、残念なことに一つもありません。

私は以下のいくつかのブログでこの件について質問してみましたが、やはりソースを得ることはできませんでした。
http://tofuboy.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_b392.html#comment-20501781
http://blog.livedoor.jp/hontino/archives/50824969.html
http://drk.blog.bai.ne.jp/?eid=103862
http://ameblo.jp/dadadaa/entry-10043566518.html
http://akatombo5.blog.ocn.ne.jp/blog/2007/09/post_ba46.html

そして、私以外にも、この件について疑問に思っていらっしゃる方がずいぶんいらっしゃるようです。たとえばここ↓とか。
この問題に関して「ルール」を云々する人が、朝青龍がどのようなルールをいかにして破ったか、具体的に言及しないのは、実に特徴的ですね。
明白でもない「ルール違反」を元に罰を受けても仕方がない、という考え方は、国際社会では受け入れられないでしょう。
http://blogs.itmedia.co.jp/daitaian/2007/08/post_2fb3.html(コメント欄)


で、検索してみると、「MMTS週刊相撲雑学 メーリングフォーラム」が日本相撲協会の内規らしい文書を乗せていました。最終更新が三年ほど前だし、給与なども現状より少し低いので、この規則自体が最新版ではない可能性がありますが、ご紹介しておきます。

まず、全体の構成はこんなふうになっています。
第一章  総則
第二章  事業の実施
第三章  資産及び会計
第四章  維  持  員
第五章  役員およびその他
第六章  年奇・カ士・行司およびその他
第七章  運営審議会
第八章  給与
第九章  賞罰
http://www.geocities.jp/mmts_sumo/saisoku.htm

上記の第九章が罰則に関して記述しているので、94条と95条を引用します。
第九十四条
年寄・力士・行可およびその他協会所属員として、相撲の本質をわきまえず、協会の信用もしく は名誉を毀損するがごとき行動をなしたる者、あるいは品行不良で協会の秩序を乱し、勤務に不誠実のためしぱしば注意するも改めざる者あるときは、役員・評議員・横綱・大関の現在数の四分の三以 上の特別決議により、これを除名することができる。
第九十五条
年寄・力士・行司・職員およびその他協会所属員に対する懲罰は、解雇・番附降下・給料手当減額・けん責の四種とし、理事会の議決により行うものとする。
第九十六条
協会所属員にして、引退・解雇・除名または脱走した者は、再び協会に帰属することができない。

もちろん、いかなる行為であれ「品行不良で協会の秩序を乱し」に該当すると判断される可能性はあるのですが、これは主観的な判断の結果であり、違反とする行動を定義したものではありません。

たとえば外国人に関しては、五十五条に以下のような記述があり、ここでは「保証人を二人たてろ」とか「外国人登録証を提出しろ」というような細かいことまで規定されていますが、「無断で帰国するな」などという規定はありません。
第五十五条
外国人にして力士を志望するものは、確実な保証人二人と連署にて、師匠である年寄を経て、力士検査届を協会に提出しなければならない。(昭和三十三年一月)
協会検査に合格し、協会所属力士として登録される場合は、外国人登録済証明書を協会に提出しなければならない。
http://www.geocities.jp/mmts_sumo/saisoku.htm


朝青龍と協会が独自に契約を結んでいるのなら、そこに「無断帰国しない」などと書いてある可能性はありますが、少なくとも「横綱々代は、師匠である年寄に対し、製作実費を支払うものとする。」というようなことさえ細かく規定している規則にも、無断で帰国することを禁じる条項がなかったのは確かめられました。


処分の妥当性についても
さて、ここまでは「規則違反という報道の真偽」について検証するために資料を挙げてきたのですが、上記の罰則規則から、今回の「処分の妥当性」についても一言。

普通の会社なら、この規則の第九章のように、罰則は前もって規定されてあるものです。そして、普通の会社なら、その規定されてある罰則以外の罰則が与えられることはありません。なぜなら、前もって規定されていない罰則を与えることは労働基準法で禁じられているからです。以下に労働基準法の第89条をご紹介します。
第八十九条  常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
文中の「次に掲げる事項」のうちの一つが以下のようになっています。
九  表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項

今回の処分のうち「減俸」は規則に明記されてはいますが、出場停止や移動制限などは規則に書かれていません。あらかじめ規定されていない罰則を課すことに関して、沖縄労働局ははっきり「同条違反」と書いています。
懲戒処分については、労働基準法第89条第9号により、「制裁の定めをする場合においては、その種類および程度に関する事項」を定めていない場合には、同条違反となります。
http://renjyu.net/okirodo/02kantoku/0215.html

もっとも、朝青龍と協会の関係に労働基準法を適用できるのかは微妙なところなので、私は協会の処分を違法行為であるとまでは断定しません。

しかし、朝青龍に一般常識を望むのなら、協会がまず「規定もされていない罰で処分する」という自身の行為に対して、組織としての常識を考えてほしいものだと思います。

まとめ
「朝青龍の行為が日本相撲協会の内部規則に違反している」との報道が大量になされている。
それを信じてバッシングに走っている個人も多い。
しかし、朝青龍が違反したという規則は今のところ発見されていない。
今回の朝青龍への処分は、あらかじめ規定されてある罰則ではなかった。
posted by 村上吉文 at 05:30 | Comment(8) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
1、midogonpapa個人に感服しています。ちゃんとした話をする人がいるものだ。

2、インターネットがなかったら、こういう分析を発表する場所があったろうか。思いつくのは新聞の投書欄程度。

3、協会や大手マスコミは読んでいるのだろうか。
Posted by tuanDariOsaka at 2007年09月05日 06:34
tuanDariOsakaさん、おはようございます。
それから、読んでくださってありがとうございます。

ネットが普及する前の時代に、どれだけこうやって犠牲になった人がいたのか考えるだけで暗澹たる思いですね。

日本相撲協会からのアクセスは、残念ながらまだないようですが、NHK、日経新聞、朝日新聞からはかなりのアクセスがあります。(どの記事を読んでいるかまでは把握できていませんが)
Posted by 管理人 at 2007年09月05日 08:42
横審の内舘牧子が、インタビューで、引退勧告進言の根拠とした『職場放棄』についても、しかりです。
協会が、今現在も診断書は正当とみなし療養を認めているわけですから、何をもって「職場放棄」なのでしょうか。
しかも朝青龍関がたった10分間のサッカーをしたのは、本場所後1週間の全力士の公休期間中で(7/25)、巡業はまだ始まっていません(8/3〜)。(巡業休んでサッカーしていたわけではない)
責められるとしたら、「一刻も早く治療に専念しなかった」くらいのことでしょう。(サッカーの後「これから治療を始めると言っていた」との中田ヒデの証言もあり)
この『職場放棄』はワイドショーで二宮清純氏も朝青龍批判の主な根拠として力説していますが、横審は、ワイドショーネタを根拠に意見を言わないで欲しい。事実と憶測の区別くらいちゃんとして欲しいです。
「ここまで世間を騒がせた責任」を言うなら、彼はずっとケガと病気で伏せっていただけで、責められるべきは協会と高砂親方(既に文書で謝罪済)のまずい対応。(朝青龍関は既に協会の処分を受けている)
「処分直後に会見開いて謝罪しなかったのが悪い」のなら、会見の場をセッティングしなかった協会の責任でしょう。
Posted by 職場放棄も誤解です at 2007年09月05日 09:04
「"仮病"であることが立証されなければ、『職場放棄』にはあたらない」に加えて、『無断帰国』について。
「本場所後1週間の、全力士に認められた公休期間中」ですから、届けさえ出せば、里帰りは当然認められる期間です。ですから「届け」を出すのを怠っただけで、「申請しないと認められない種類の行為」ではないわけです。
責められるとしたら、「親方に一声かけなかったこと」。
会社でも「夏休み中旅行するときは、どこにいるかわかるように届け出せよ。」と言われますが、それをはしょったからって、上司から注意されるくらいで、会社から処分されたりはしないですよね。そんな重大な過失ではないです。
(しかも以前から「届けを出す習慣はすでになかった」わけで、形骸化していたわけですが。)
Posted by 職場放棄も誤解です at 2007年09月05日 10:34
どういう、規則に触れて「処分」されたのか?
いずれ取り上げていただける物と期待していました。
予想通りでしたね。敬服いたします。

しかし、相撲協会にも顧問弁護士がいて、講談社と係争中なはずですが?

朝青龍問題について、これほど「はっきりと、しなければならない事」について全マスコミ各社、全く触れていないのではと思います。

日本という国は本当に不思議な国です。
別な欄にも投稿させていただきましたが、過去には「刑事事件」を起こして「書類送検」された横綱が複数いましたが、協会の方で厳しい処分が下されたという記憶がありません。(このときも何も規則に触れなかったのかも知れませんが)

私は考えました。
「品格」さえあれば、「反社会的」な行為をしても許されるのが相撲界であると。

ですから、朝青龍が何らの規定に触れる事をしていなくても。
品格がないため?「誤解を招く軽率な行動」に対して厳罰処分が下されたものと思われます。

おそらく力士が、麻薬や違法ドラッグに手をそめても品格さえあれば、「処分」はなし。
(大麻疑惑があった力士は処分もされず、やめてゆきました}

刑務所に入っても、品格さえあれば出場停止ではなく、休場扱いで、出所後堂々と出場できるのでは?

しかし、私にはこの品格というものがどういうものかわかりません。
Posted by かっちゃん at 2007年09月05日 15:56
どういう、規則に触れて「処分」されたのか?
いずれ取り上げていただける物と期待していました。
予想通りでしたね。敬服いたします。

しかし、横審だけでなく、相撲協会にも顧問弁護士がいて、講談社と係争中なはずですが?

朝青龍問題について、これほど「はっきりとしなければならない事」について全マスコミ各社、全く触れていないのではと思います。ネットの中の少数のブロガーさんたちのみとは?

日本という国は本当に不思議な国です。
別な欄にも投稿させていただきましたが、過去には「刑事事件」を起こして「書類送検」された横綱が複数いましたが、協会の方で厳しい処分が下されたという記憶がありません。(このときも何も規則に触れなかったのかも知れませんが、つまり94条には抵触しなかった)

私は考えました。
最近良く言われる「品格」さえあれば、協会規則94条はクリア、「反社会的」な行為をしても許されるのが相撲協会規則適用の「前提」であると。

ですから、朝青龍が何らの明文の規則に触れる事をしていなくても、彼はもともと品格がないと言われていました。
品格がないため?「誤解を招く軽率な行動」に対して厳罰処分が下されたものと思われます。

おそらく力士が、麻薬や違法ドラッグに手をそめても品格さえあれば、「処分」はなし。
(大麻疑惑があった力士は処分もされず、やめてゆきました}

刑務所に入っても、品格さえあれば出場停止ではなく、休場扱いで、出所後堂々と出場できるのでは?

しかし、私にはこの品格というものがどういうものかわかりません。
Posted by かっちゃん at 2007年09月05日 16:14
相撲協会の処罰規定?の適用というのは、社会通念からはかけ離れて大甘だと思っていましたが、いつからこんなに「異常」に厳しくなったんでしょう。

以前は、清濁併せ呑む豪快さ、というものが一般社会よりもはるかに許されたはず。

横綱が「品行方正」である事など、全く評価されなかったと思っています。

とにかく、刑事事件で送検されても、お咎めなし、というより相撲協会自ら警察に報告して、かばうくらい、横綱を大事にしてきたはず。

マスコミも記者会見をせよなどとは言いませんでしたよ。

25,6歳の若者が記者会見をして上手く説明は出来ないだろうと。

隔世の感がありますね。

40年以上たつとこうも変わるんです。
Posted by かっちゃん at 2007年09月06日 18:01
貴重なコメント拝見致しました。大筋で同感です。
実は騒動の初期の頃(朝青龍の精神疾患非難がひどかったころ)、労働基準監督署に問い合わせてみました。結局、朝青龍という立場は「代替性がない(他の労働者に適用できない)」ということで、法律の対象にならないのだそうです。但し、一般労働者だったとすると、帰国を認めなかったときの対応は、労働安全衛生法の産業医の勧告を尊重しなければならない、というのに反していますし、また最初の処分の減俸は労働基準法に反するということでした。
最近は、協会よりも、マスコミのバッシングの罰の方が大きい感じがします。報道する側に、自分の聞きたい声しか耳に入らない(例えば、初日、騒動前に購入してしまった券で行きましたが、高砂親方の賜杯返還のときに、怒号が飛び交った、という一部報道がありましたが、とてもそうは思えませんでした)問題があると思います。協会も少しそんなことに気づいた感もある昨今です。
横綱を勤められる力士は、そんなに出てくるはずもなく、今まで予期せぬことで横綱を失った場合には、大混戦になるか、独走時代になってしまうか、2〜3年は大きな影響が残ったと思います(玉の海の死去のあととか、双羽黒廃業のときとか)。特に朝青龍のように土俵上では完全に横綱の責任を果たし続けた力士をここで失うような、理不尽なことはあってはならないと思います。
Posted by 一日本人 at 2007年09月11日 23:13
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