
冒険家の皆さん、今日も洞窟の奥で魔導石の採掘をさせられている奴隷たちを解放していますか?
さて、かねてより「ブラック企業と戦うための日本語」とか「自由のための日本語」と言ったキーワードで発信してきた訪日労働者のための日本語の教材、「No More Silence」がようやく Amazon で出版されました。現在Kindle 版だけが購入できますが、同じ内容のペーパーバック板も数日のうちに審査を通るものと思います。
“No More Silence: Essential Japanese for a Fairer WorkPlace”
https://amzn.to/40lBIEQ
今日のブログでは、この教材について、僕が当初から思っていたことを書いてみたいと思います。
こういう教材が必要だと思う第1の理由はもちろん、実際に訪日労働者の中に悲惨な扱われ方をしている人が多くいらっしゃるということです。例えば2023年の最新のデータでは1年間に9700人以上の技能実習生が失踪しているということになっています。1年間は365日ですから、昨日も今日も明日も、毎日26人以上の海外から希望を持ってやってきた若者たちが日本の闇の世界に消えていっているという計算になります。失踪者とは別に、これまで累計で数百人の死亡者がいることも確認されています。(現時点での死亡者の総数は途中から公表されなくなったので明確ではありません。)
こうした深刻な問題を座視したまま看過することはできないというのがこの教材を作った第1の理由です。
そして第2の理由は第二次世界大戦の戦前、戦中において日本語教育が植民地支配に対して何も声をあげなかったように見えることです。そして、それに対して今から僕たちが何かすることはタイムマシンでも開発されない限り不可能なことです。しかし、現時点で進行中の同じような外国人に対する搾取に関してはできることがたくさんあるはずです。
もちろん僕たちは政治家ではありませんし、活動家でもありません。僕たちにできることはただ日本語を教えることだけです。それが僕たちの仕事です。しかし、僕たちは日本語教育を通して、この深刻な問題の防止や解決に貢献することができるはずです。それは彼らが深刻な状況に陥ってしまった時に問題を解決できる日本語を教えるということです。こうした発想は行動中心アプローチに馴染みのない方には理解が難しいかもしれません。ですから、文型を教えることに集中していた時代の日本語教育が何もしてこなかった(ように見える)のにも合理的な理由はあると思います。しかし、今は違います。日本語教育を通して、外国人労働者が社会的なキャンドゥを達成するということは、今ではごく当たり前に受け入れられている考えです。
そして、今ここにこの教材が公開されたことによって、「技能実習制度に対して日本語教育は何もしてこなかった」という批判は免れるのではないかと思います。そういう批判に対してはぜひ「No More Silence があるではないか」と反論してください。
さて、ここまで書いてきたように、僕は現代を生きる日本語教師の1人として今起きている事態に対して、それに加担することはもちろん座視して何もしないという立場も取りたくありませんでした。
しかし、実際にはこうした訪日労働者に対する日本語教育に直接関わっていたわけではないので、仕事としてこの教材の開発にかかわってきたわけではありません。
こうした教材は、本来は送り出し機関の現場で日本語教育に関わっている人たちから出てくるのが望ましかったのではないかと思います。しかし、言うまでもありませんが、すべての送り出し機関でこの教材を使うべきだとは思いません。たとえば、受け入れ機関を厳選して、訪日労働者だけでなく、受け入れ機関に対しても丁寧な研修をしている南インドのNAVISさんのようなところがこのような教材を開発したりする必要はもちろんなかったと思います。
逆にブラックな送り出し機関で働いている人は、このような教材を開発することで自分の職を失ってしまうというリスクを取れなかったという人もいるでしょう。その是非はともかく。
そういう意味では第三者的な立場にいる僕のような人間だからこそ、こうした教材の開発に関わることができたのかもしれません。
さて、この教材を開発した3つ目の理由として、こうした教材がAIで簡単に開発できるようになったということもあります。この教材も、各課の構成と各課の目標CanDoを与えただけで、第一稿が自動生成できました。第一稿に関してはこちらのブログには書きませんでしたが、SNSで共有もしています。
第一稿を公開したときのツイート
https://x.com/Midogonpapa/status/1863604536407208103
今回新たに共有したのも、テキストの95%ぐらいはこのときの自動生成された第一稿のままです。ただし今回はテキストだけでなく、それに音声と表紙を追加しています。
このようにこの教材は、
1.行動中心アプローチの考え
2.AI利用の経験値
3.外国人労働者との関わり
の3つがそろって、初めて実現できたものだと思っています。
それで、本業ではないものの、たまたまこの3つの条件を持っていた僕が、この教材を作ってみることにしたという次第です。
さて、この教材を作るにあたっては本当に多くの人のお世話になりました。特に『外国人労働相談最前線』の著者の岩橋誠さんには、この教材の元となったキャンドゥリストを見ていただいたり、岩橋さんが属する NPO 法人が高校生用に作成した労働法の教科書『知ろう!使おう!労働法』もご紹介いただき、参考にさせていただきました。そしてプロの声優でもあり、ナレーターでもあるYukiさんと、表紙のデザインを担当してくださったU_designさんにも感謝いたします。
また、ハナキンで色々ご指摘くださったみなさんにも感謝します。(^^)
しかしながら、この教材に何らかの間違いや不適切な部分があるとすれば、それはすべて村上の責任です。
というより、AI に作ってもらってから本当はもっと時間をかけて手を入れなければいけなかったのですが、やはり本業ではないので限界もあり、僕から見ても完璧な教材というにはほど遠い状況です。
しかし、この教材のライセンスはクリエイティブコモンズにしてありますので、外国人労働者の問題に関心のある方は是非この教材を改善して公開していただければと思います。
なお、こうした考え方は「オープンイノベーション」と言われていて、有名なところでは、リナックスというオペレーションソフトの開発やウィキペディアなどで応用されています。
ですから、この教材もAmazon のプラットフォームに乗せてはいますが、いくらでもコピペしてくださって構いません。そして、コピペに経費がかかるようでしたら、有料で販売してくださっても全く構いません。Amazon からだけではなく、ここからもダウンロードできるようにリンクを貼っておきたいと思います。
Google ドキュメント版(スマホではこちらがおすすめ)
https://docs.google.com/document/d/1vxr69Jy42nyemL8jDTm3gkKYB8VTMg66CerZjC67fes/edit?usp=sharing
PDF板
https://drive.google.com/file/d/1QGgGmNLBmw8-h7yleCPivEHqEmgRJs4U/view?usp=sharing
一応それなりにナレーターさんやデザイナーさんへの発注コストをかけている教材なので、無料で使う方は広報などに協力していただけると大変ありがたいです。
そして、冒険は続く。
【参考】
No More Silence: Essential Japanese for a Fairer WorkPlace
https://amzn.to/40lBIEQ
技能実習生の失踪者数が過去最高に到達|2023年に職場から失踪した技能実習生は9753名 – 海外人材タイムス https://kjtimes.jp/headline/2024/0347/
「知ろう!使おう!労働法」ついに完成!! - 仙台POSSE(NPO法人POSSE仙台支部)活動報告 https://blog.goo.ne.jp/sendai-posse/e/f4cb56c598375853a0f050e19e5b277d
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