2024年12月31日

2024年に読んでお勧めしたい本

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冒険家の皆さん、今年もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断しましたか?

さて、2024年も大みそかになりました。今年はあまりブログでの情報発信ができなかったのですが、今年もたくさん本を読みましたので、最後に1年のしめくくりとして、僕が今年読んだ本の中からおすすめの本をご紹介したいと思います。

なお、あくまでも「2024年に僕が読んだ本」の中からご紹介するだけですので、どんなに素晴らしい本でも僕が読んでいないものは出てきませんし、刊行年が2023年以前の本も含まれています。

一応順番として、
【日本語教師におすすめしたい本】
【日本語教育とは関係ないけど、おすすめの本】
【おもしろかったフィクション4冊】
【視野を広げてくれた本】
の四つに分けてご紹介してみたいと思います。

まずは、【日本語教師におすすめしたい本】からです。

「Can-doで教える 課題遂行型の日本語教育」
来嶋 洋美、八田 直美、二瓶 知子
日本語教師向けの本を一冊だけ選べと言われたら間違いなくこの本になると思います。言わずと知れた行動中心アプローチの本です。
国内か海外かを問わず、現代のスタンダードな第二言語の教え方を知るにはとてもいい本だと思います。

「外国人労働相談最前線」 (岩波ブックレット)
今野 晴貴、岩橋 誠
この本は海外の日本語教育の方にはあまり関係ないかもしれませんが、日本の国内で教えていらっしゃる方や、あるいは海外の送り出し機関で教えている方にはとても重要な本になるでしょう。
こうした問題は何十年も前から指摘されているのに、日本語教育の側から積極的に解決しようという動きが見られないのが本当に残念です。

「独学で英語を話せるようになった人がやっていること」
中林くみこ
この本はクリスマスに出版されたばかりのできたてほやほやの本です。クラッシェンのインプット仮説や情意フィルター仮説からの必然的な結果だと思うのですが、そうした堅苦しいことは一切触れられていません。とにかく実践的な方法が書いてあります。
具体的には英語を勉強するには大量のテレビドラマを視聴して洋書を読むべしということで、著者ご自身も語学学校の経営者だったにもかかわらず、それに気がついて語学学校を手放し、独学の指導を舵を切っているとのことです。日本語教育の世界でもこのような方向転換が望まれているのは言うまでもありません。
後半には AI の使い方などにも触れられていてとてもおすすめです。

「なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか」
山本 崇雄
こちらも同じように自律性を重視して一斉授業への疑問を呈する本です。著者の山本さんは、ハナキンの乾杯の音頭でもお話ししてくださったことがあります。また、ご自身は英語の先生ですから、日本語教育の面から見てもかなり参考になるところがあります。

「移民の子どもの隣に座る 大阪・ミナミの「教室」から」
玉置 太郎
この本は前述の「外国人労働相談最前線」の外国人よりはずっと若い世代の人たちについて書かれている本ですが、同じように日本の国内で日本語に苦労しながら生活している人たちの姿が描かれています。こちらはもっとライフヒストリー的な書き方になりますのでとても感動的な部分もあります。
著者の玉置さんもハナキンでお話をしてくださいました。

「参考書が最強! 日本初!「授業をしない塾」が、偏差値37からの早慶逆転合格を可能にできる理由」 (幻冬舎単行本)
林尚弘
この本も独学や自律的な学習を取り上げている本ですが、特徴的なのはそれが受験指導に限定されていることです。この少子化にもかかわらず、武田塾は塾の数などもどんどん増やしていて、やはりこうした方向が今後の教育の中心になっていくというトレンドはもはや変わりようがないのではないかと思います。

「単語帳」
グレゴリー・ケズナジャット
著者については、京都文学賞を受賞した「鴨川ランナー」が日本語教師の皆さんの間には有名なのではないかと思います。
この本も、日本語教師にとって、もちろん学習者側からの視点の物語を読むことにはとても意味があると思うのですが、それ以前に僕自身がやっぱりもうちょっと頑張って、ラオス語や英語の勉強をしなければいけないなぁと思わせてくれました。
ネタバレは避けますが、そういうラストシーンがとても印象的でした。

有田佳代子「#移民時代の日本語教育のために」
この本は大学生向けに書かれているので、とても分かりやすいです。とは言っても経験のある日本語教師の方にとって学ぶべきことがないかというとそうでもなく、例えば僕にとっては韓国の移民政策が日本よりずっと進んでいることを知りませんでしたので、とても勉強になりました。「第二のパラダイムシフト」あたりからは経験の長い日本語教師の方こそ、なじみがない話だったりするかもしれないので、特におすすめしたいと思います。


次は、【日本語教育とは関係ないけど、おすすめの本】です。

「グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない」
人間が幸せであるためには、人間関係がとても重要であるという本です。もちろん、それだけではなくて、身近な人との人間関係を良くするにはどうすれば良いかということもかなり詳しく書いてあります。僕を含め、 Twitter 廃人の皆さんにはソーシャルメディアで気を散らすのをやめて、目の前の人とちゃんと向き合って話をしようという部分が耳が痛いです(^^)


「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」
労働人口の4割近くが、自分の仕事は何の意味もないと感じているという調査とその考察が、この本の主なテーマです。

この本を読んで思うことは色々あるのですが、そのうちの1つはいくらなんでも4割近くというのは多すぎるんじゃないかということです。
だって資本主義の時代にそんなことありえませんよね。という疑問ももちろんこの本には紹介されていますが。
僕の個人的な考えとしては、社会があまりにも複雑化してしまったために、働く人がその意味がわからなくなっているのではないかということです。
例えばケネディ大統領がNASA を訪問した時に、掃除人に対して仕事を聞いたところ、「私は人類を月面に送る手伝いをしているのだ」と答えたという話は有名ですよね。またどの本だか忘れてしまいましたが、病院での清掃業者に対して医師たちが「あなたたちの仕事は感染症を防ぐための非常に重要な仕事なのだ」と説明すると感染率が減ったというような話もあります。
この感染率の話からわかることは、病院での清掃業者は普段はあまりその仕事が実際に社会に役立っているということを認識できていないのではないかということです。その場合はもちろんこの本の最初に取り上げられているような、「あなたの仕事は意味があるか」という問いに「意味はない」と答えてしまう割合は高くなってしまうのではないかと思います。
病院での清掃という、とても分かりやすい仕事ですら、そのような状態にあるわけです。誰も全体像を把握しきれていないような巨大な組織の中では、そのように感じてしまう人が出てくるのは不思議ではありません。しかし、そこにその仕事は存在する以上はやはりその予算を獲得する時に何らかの説得や議論などがあったはずで、説明できないものはどんどん削られてしまうのではないかというのが僕の個人的な認識です。

ですので、職場の指導的な立場にある人は、末端の人たちに対して、その仕事の意義を説明できるという能力が、今後はとても重要になってくるのではないかと思います。

とは言いつつ、「それ AI でやればよくね?」という仕事が現在どんどん発生してきているのも事実なので、もちろん意味のない仕事はどんどん削っていくという効率性はこれまで以上に重視されていくべきでしょう。

とても長い本なので、皆さんにおすすめできるかと言うとちょっと微妙かもしれません。そういう方にはもっと短い解説書なども出版されているので、そちらがおすすめかもしれません。でも書いてあること自体はとても重要なので、ぜひ知ってほしいと思います。


「ヒューマノクラシー――「人」が中心の組織をつくる」
ゲイリー・ハメル、ミケーレ・ザニーニ
上記の「ブルシットジョブ」に対するアンサーとしてとても素晴らしいのが、このヒューマノクラシーです。
実はこの本の中にもアメリカの中で2000万人ぐらいの人が意味のない仕事をしているという官僚主義の非効率さを紹介している部分があります。その意味で全く同じ問題点から出発していますが、この本はその問題を批判するだけではなく、むしろその解決方法を中心にしています。
その方法は「ティール組織」について読んだことがある人なら、ある程度なじみのある考えかもしれません。何層もある組織構造をシンプルにして、現場の人に自律的な権限を与えるといったことです。
そういえば、かつて青島俊作が「事件は会議室で起きてんじゃない!」と言いましたが、あの映画に共感した人にはまさにこの本をおすすめしたいと思います。


「その幸運は偶然ではないんです!――夢の仕事をつかむ心の練習問題」
J・D・クランボルツ、A・S・レヴィン
「計画的偶発性理論」の提唱者があまり難しい言葉を使わずに一般向けに書いた本です。この本ではカタカナの「プランドハブンスタンス」という言葉が使われています。
端的に言ってしまうと、人生の8割は偶然で決まってしまうのだから、遠大な目的のために一直線に進むような人生観ではなく、その場でできることをどんどんやっていきましょうというような感じの本です。
しかし、ただ偶然に任せるというのではなく、偶然から良い結果を引き出すには偶然良いことが起きる状況を積極的に計画的に作っていかなければいけないというのがこの本の主張です。
つまり宝くじと違ってコストのかからない挑戦が今はいくらでもたくさんできるので、そうした小さな試みをどんどん続けていって、偶然それが大きな成功につながるチャンスを待ちましょうということですね。
僕もこうした考えには心の底から共感します。人生、冒険ですから。
似たような本に「仕事は楽しいかね」というのがあって、こちらはさらに読みやすくておすすめです。

「従順さのどこがいけないのか」 (ちくまプリマー新書)
将基面貴巳
芸能人叩きに熱心な割に、政治家や自分の職場の上司に対しては声を上げない人ってどこの国にもいますよね。そういう従順さがいかに社会を蝕んでいるかをこの本は詳しく説明しています。中でも日本の従順さはかなり特異だと言うことも「葉隠」などの歴史的な資料を参照しながら説明されていきます。
今の日本の停滞の理由はもちろん指導者たちのレベルの低さにもありますが、それを看過して従順に従ってきた僕達自身にもあるのではないかと思っています。
この本には僕がもともと思っていて納得することもすごく多かったのですが、知らなかったことも結構書かれていて、例えばヨーロッパ政治思想において暴君殺害論(tyrannicide)という概念が、古代ローマの時代から議論されてきているというのにはかなり驚きました。民主社会においては、もちろん暴力で指導者などを殺害することは許されません。しかし、それはあくまでも有権者が投票などによって指導者を変えることができる時だけの話であって、そういう政治的な権利を奪われてしまった人たちが暴力的な行動に出てしまうことにも一定の正当性はあるわけですね。

「〈叱る依存〉がとまらない」
村中直人
最後にご紹介したいのはこの本です。
学習者や自分の子供を叱っても効果がないだけではなく、副作用としての弊害が多いということは教育関係者の間ではすでによく知られていると思います。
が、この本を読んで僕が驚いたというか、すごく納得がいったのは、叱るという行為には薬物中毒と同じような依存性があるということです。ヤクをキメると気持ちがいいのと同じ理由で、他者を叱ってしまうわけですね。つまり、誰かが問題行動を起こしてしまったから叱るのではなく、自分が他者を叱ることによって快感を得たいから叱るのです。
なお、誤解を防ぐために書いておきますが、別にこの本は子供や学習者を甘やかそうという主張ではありません。厳しい指導の必要性についても触れながら、それは叱るという行為なしでも十分に可能であるというのが村中さんのご主張です。


そして【おもしろかったフィクション4冊】です。

「この夏の星を見る」
辻村 深月
これホント、ハナキンの参加者には刺さると思います。
コロナで先が見えない中、オンラインで少しずつ関係を作っていった過程には、みなさん共感してくれるでしょう。
映画化の企画が進行中とのことで、スクリーンで見られるのもすごく楽しみにしています。

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」
宇宙的な大災害をエイリアンと一緒に解決するSFです。陽気なエンジニアっぽい感じが前作『火星の人』と共通していて、僕は好きです。

「成瀬は天下を取りにいく」
宮島未奈
前作「成瀬は信じた道を行く」から引き続き、主人公のキャラクターがとにかく愉快です。
こんなヤツ、いねーよ!と笑いながらも、どなたも自分との共通点も少し感じてしまったりするのではないでしょうか。

「松岡まどか、起業します AIスタートアップ戦記」
安野 貴博
東京都知事選にも立候補した安野さんの作品。とにかく熱いです。安野さんご自身が2つのスタートアップを起業していて話もリアルです。


最後に【2024年の視野を広げてくれた本】です。

ここでは、今年読んだ本のうち、僕自身があまり知らなかった分野のこととか、僕の視野を広げてくれた本をご紹介します。10冊あります。

「Awe Effect」
大木などの畏怖すべきすごいものを見たり経験したりすると人は幸せになれるという本です。

「NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる 最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方」
上記の本と似ている内容ですが、もう少し詳しく資料なども紹介しながら紹介しています。

「ヒルビリー・エレジー〜アメリカの繁栄から取り残された白人たち〜」 (光文社未来ライブラリー)
次の米国副大統領のJ・D・ヴァンスの出世作です。トランプ氏を支持するような人の背景を知るにはとてもいいです。なお、ヴァンス氏のマイノリティーを蔑視するような発言を僕は支持しませんが、この本の中にはあまりそういう側面は出てきません。

「トランプ再熱狂の正体」(新潮新書)
辻浩平
上記「ヒルビリーエレジー」は一人称で書かれた物語ですが、こちらはそういう人たちに寄り添って書かれた解説書です。ただし、彼らの信じている言説が陰謀論であって事実でないことは、この本にも明記されています。

「「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由」
ロレン・ノードグレン、デイヴィッド・ションタル
日本語教育の世界を見ても、1980年代に支持されていた教え方を今も続けている人がまだまだ多いですよね。そういう人たちを理解するために読みました。現代的な教え方をもっとよくするよりも、「抵抗」を減らすほうが社会を変えるためには効果的だというのがこの本の主張です。四つの理由というのは「惰性」「労力」「感情」「心理的反発」の四つです。

「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」
花田菜々子
タイトル通りの経緯の他、本の最後には「本書で進めた本一覧」「この本を読んだ人にすすめたい本一覧」も載っていて、また読みたい本が増えてしまいました。それと、「出会い系サイトで本を進めまくる」という同じことを女性がやると、僕のような人間がするのとはどのように違うのかということを追体験する機会にもなりました。

「誰も教えてくれなかった子どものいない女性の生き方」
くどう みやこ
これは読み放題の中に出てきたので、あまり深く考えずに無料で読みました。女性にとってすら「誰も教えてくれなかった」のですから、男性である僕にとっては知らなかったことばかりでした。選択的に子どもを産まなかった女性も多いと思いますが、この本では親になることを望みながらもそういう機会に恵まれなかった人たちが中心的に取り上げられています。

「弱者男性1500万人時代」
トイアンナ
一番驚いたのは、SNSなどで弱者男性の代表として女性をたたいているインフルエンサーたちが、実は弱者男性ではなかったということです。一般的な弱者男性はもっと自責的で女性差別のようなエネルギーも持っていない。もちろん、彼らの多くが女性たたきをしないことだけ見ればよいことなのですが、そのようなエネルギーもないというのは実はもっと深い病根の症状なのではないかとも思えます。この本自体も、読む前は弱者男性の代表が自己正当化のために書いている本じゃないかと思っていたのですが、著者はご自身を「第三波のフェミニスト」と表現していらっしゃる女性です。


【最後に】
さて、最後まで読んでいる人、まだいらっしゃいますかね(^^)
今年はたくさんの本を読むことのチャレンジだったので日本語の本ばかりになってしまったのですが、やはり洋書も読まないと英語がさび付いてしまうので、2025年はペースダウンすることを前提の上で、半分ぐらいは洋書を読んでみたいと思っています。今年は大みそかの今日の時点で、Kindleの記録では368冊なので、来年は半分の180冊ぐらいを目標にしてみたいと思います。

あと、今年は時間がなくてAIも使ってブログを更新したりもしたんですが、正直言って、あんまり面白くないんですよねー(^^) 内容が面白くないんじゃなくて、そうやって人の言葉でブログを書くという行為が面白くないんです。それで、来年は一週間に一度ぐらい、自分の言葉で書いてみたいと思います。

そして、冒険は続く。

posted by 村上吉文 at 12:29 | TrackBack(0) | 書評 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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