2021年02月17日

みんなの日本語はオーディオリンガル

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


むらログ画像 (13).jpg

冒険家の皆さん、今日も光学迷彩で敵の目を欺いていますか?

さて、僕が「『みんなの日本語』はオーディオリンガルだ」というと、「『みんなの日本語』はオーディオリンガルの良いところを反映していないから違う」という批判がときどき聞かれます。僕はそれほどオーディオリンガルに思い入れはないので、特にそれに対して反論したいとは思いません。

実際に以下のアンケートでも、「『みんなの日本語』はオーディオリンガルだ」と回答している人は回答者の三分の二にすぎません。
https://twitter.com/Midogonpapa/status/1337553817588514817

しかし、その一方で、『みんなの日本語』ではオーディオリンガルの「悪い点」は非常に特徴的です。

まず、オーディオリンガルに対するコミュニカティブ・アプローチの優位点としてよく言われることをご紹介しましょう。コミュニカティブ・アプローチでいちばん特徴的なことは、「情報差のあるロールプレイ」です。これも僕一人の意見ではなく、以下のようにネットでアクセスできるいろいろな資料で確認することができます。

「このような背景のもと,本稿では特に,学習者が中心となり学習言語を用いたロールプレイやインフォメーションギャップなどのタスクを通じて,コミュニケーション能力を養うことを目的としている,コミュニカティブ・ランゲージ・ティーチング(Communicative Language Teaching [CLT])と呼ばれる言語教授法のこれまでの研究・教育蓄積を検討することで,その有用性を示すこととする。」
『コミュニカティブ・ランゲージ・ティーチングによる学習者中心の授業と学習環境デザイン』
礒部太一(2019)

「教育方法の概念として、コミュニカティブアプローチは学習者が「何を」「どのように」言うかを重視し、言葉を自由に選ぶことをできるだけ阻害することがないように会話を教えることを目標としている 」
「「ロールプレイ」とは、言葉を選ぶ自由を重視したコミュニカティブアプローチの表示方法の一つである 。これは、学習者がある役になりきって、望む通りの人物を演じ、その人物として行動し、発話に用いる言葉を自由に選択できる教授方法である」
『RPG によりコミュニケーション能力を高める英会話CAL』
佐合尚子(2000)
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_action_common_download&item_id=54464&item_no=1&attribute_id=1&file_no=1


また、コミュニカティブ・アプローチで重要視されているもう一つの概念は「選択権」です。上の引用文の中にも「言葉を選ぶ自由」として触れられていますが、コミュニカティブ・アプローチではモデル会話などを丸暗記してそのまま話すような練習は望ましくありません。逆にオーディオリンガルではモデルをそのまま練習するので、日本に行ったこともない人が「大阪城に行きましょう」とか練習するわけです。

そして、『みんなの日本語』はこれらの意味で、非常にオーディオリンガル的です。

情報差のある練習は一つもありませんし、すべての練習で正解は既に決められていて、学習者に選択の余地はありません。

『みんなの日本語』ではどうして現代的な教科書に比べて話せるようにならないのかというと、こうしたコミュニカティブな練習がないからです。つまり、情報差を利用したロールプレイや、何を言うか自分で選択しなければならない練習が皆無だからです。

そもそも、コミュニケーションでは「今は挨拶すべきか」ということから、すべてが選択の連続です。選択する練習がなければ、選択などできるようになるはずがないのです。

なお、こうした議論は1980年代に活発に行われ、1990年代にはすでに決着のついている話です。

また、コミュニカティブ・アプローチよりもさらに現代的な行動中心アプローチでは、自分以外の役を演じても自分の問題は解決できないので、こうしたロールプレイの練習は、標準化の必要なテストなどを除いてあまり重要視されていません。『まるごと』でも自分のことを話す練習が多いですよね。コミュニカティブ・アプローチが「畳の上で水泳の練習をするようなもの」と批判され始めたのもすでに10年ほど前になると思います。

「情報差のあるロールプレイがない」という意味では行動中心アプローチもオーディオリンガルも同じですが、それは一周回ってたまたま同じところを走っているように見えるだけで、まったく意味は違いますからご注意ください。

そして冒険は続く。

【ブログ更新情報のメールでのお知らせ】
「むらログ」更新情報のメール通知を希望される方は、こちらでご登録ください。
https://groups.google.com/g/muralog/about

【参考資料】
むらログ: オーディオリンガルの歴史的位置づけ
http://mongolia.seesaa.net/article/479034636.html

【コメントはソーシャル・メディア上の記事別ページヘどうぞ!】
https://twitter.com/Midogonpapa/status/1361805651828072449
https://www.facebook.com/murakami.yoshifumi/posts/10224319597559576
https://note.com/adventurer/n/n9b48acae1e67

【『冒険家メソッド』と電子書籍「むらログ」シリーズを購入して海外にルーツを持つ子どもたちを支援しよう!】
2014年以降のこのブログの内容はKindle本にもまとめられています。2021年中にこちらの本をご購入になると、その収益は全額が「海外にルーツを持つ子どもと若者のための日本語教育・学習支援事業」を実施しているNPO法人YSCグローバル・スクールに寄贈されます。ココ出版の『冒険家メソッド』は初版の本体価格の5%が同センターに寄贈されます。
https://amzn.to/2RiNThw
posted by 村上吉文 at 07:20 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加