2020年08月16日

オンライン化したから友達がゼロ?

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

以前、こんな記事を書きました。

「むらログ: オンラインでは学生の理解度が分からない? 」
http://mongolia.seesaa.net/article/475260364.html

これは、「オンラインでは学生の理解度が分からない」という非常によくある誤解について、簡単に書いています。表情から理解度を把握しようとすると限界がありますが、オンラインではもっと現代的なツールがいくらでも使えるので、むしろ学習者の理解度を把握するのはオフラインよりもオンラインの方が簡単だということを書いています。

今回の記事でも同じように、オンライン化に対応している先生方の中の非常に多く共通して見られる誤解について書いてみたいと思います。今回の誤解は「新型コロナウイルスのせいで授業がオンライン化されたので学習者に友達ができない」というようなものです。

【誤解の例】

例えば以下の文は、先月の日本語教師ブッククラブの本だった『ポスト・コロナショックの学校で教師が考えておきたいこと』の中の中原淳さんによる一節です。

(オンライン授業は)学習効果としては「高い、ないしは同値」ということは言えても、それは学生たちが経験する「学習経験」とは同値ではない。例えば、学生たちがキャンパスや教室に集い、人々と交歓する経験。廊下で会った異文化の友人と立ち話をする経験。サークル部屋で時間を忘れ友人たちと過ごす経験。オンライン授業は、どこまでいっても「合目的的に設計された学びの場」であり、そこには、即興的なコミュニケーションや、学生たちが日々感じていた「居場所の感覚」が失われる傾向がある。


ここにある一番大きな誤解は、「オンライン授業は、どこまでいっても「合目的的に設計された学びの場」」という部分です。というのもこれはオンライン授業だけではなくて、授業そのものが「合目的的に設計された学びの場」に過ぎないからです。

つまり、コロナウィルスで「教室」だけはオンライン化したものの、それ以外の「キャンパス」や「廊下」や「サークル部屋」に該当する機能をオンライン化していないから問題が起きているのです。オンライン授業に問題があるのではありません。オンライン化が充分ではないことに問題があるのです。

それからこちらは数日前に Twitter で見かけた大学1年生の漫画です。

この漫画には「相談できる友達も先輩もいない」というセリフが出てきます。どこをどう間違ってしまったら教育機関でこのようなことが起きてしまうのかよく分からないのですが、もしかしたらこの大学も、授業だけをオンライン化してしまったのかもしれません。

それにしても腑に落ちないのは、オンラインだろうとオフラインだろうと、授業をしていたら普通に友だちができますよね。授業中に学生同士のインタラクションがないのでしょうか。もしかして令和にもなって一対多の一方向的な講義とかしているんでしょうか。これも何度も言っていますが、Zoomはもちろん普通の対面式の授業でも、いまどき講義なんかしてはいけません。せっかく同じ場と時間を共有しているのでしたら、一対一の個人面談か、多対多のディスカッションにしなければなりません。詳しくはこちらに書いてあります。

「むらログ: Zoomで講義をしてはいけません」
http://mongolia.seesaa.net/article/474591708.html

次の誤解の例はこちらです。

「オンライン化で失われたもの ≪ SOUL for SALE」 https://blog.szk.cc/2020/08/09/whats-really-lost-in-university-online/?fbclid=IwAR2fwGcu8AOm7YUCvdL_7lrpc6IDUH_E8MN_lPLC6tp5DJZPrh9xLWiOzuE

ここでもオンライン化で失われたものとして以下のように書かれています。
まず失われたものとして大きいのは「学生どうしの横の相互扶助」だ。よく「オンライン授業だと隣の人にわからないことを聞けない」という話があるが、これは殊の外深刻な問題だということがわかってきた。


そしてその結果、「学生はすべての質問を教員に投げかけることになる。」 そうです。また、以下のような記述もあります。
次に、「学生どうしの協働の経験」が失われている。(中略)最悪の場合、卒業まで一度も他の学生と一緒に何かを成した経験がないまま多数の学生が就活を迎えることになる。


真面目な話、プロの教員が一体何をやっているのでしょう。「オンライン授業だと隣の人にわからないことを聞けない」などというのはかなり初歩的な授業設計の失敗であり、オンライン化の問題ではありません。隣の人に分からないことを聞けるようなオンライン授業にすればいいだけの話なのですから。

そして、学生側からも こんな嘆きが聞こえてきています。

「オンライン授業で消えた大学の「余白」 日常の何気ない会話が大切だった」 – 早稲田ウィークリー https://www.waseda.jp/inst/weekly/news/2020/06/11/75525/

そして、この記事についてはこんな投稿もあります。


ここで触れられている「ハナキン」というのは僕が毎週やっている日本語教師向けの「#Zoomでハナキン」というオンラインイベントなのですが、2時間のイベントが終わった後も、毎週3、4時間も残ってこういう「くだらないけど重大な議論」を続けている人たちが何十人もいます。一昨日は150人の参加者のうち、49人が二次会に残っていました。

プライベートなことも話してもらうために録画は一切していないのですが、以下で参加者の投稿を見てみると雰囲気はつかめるのではないかと思います。

「#Zoomでハナキン0814 - Togetter」
https://togetter.com/li/1576442

これはこういう団体があるのではなく、一回ごとに募集して実施しているイベントです。行きずりの関係の人たちですらこのように話し合えるのですから、同じ大学に属していて、同じ科目を履修していて、「友達が一人もいない」とか「先輩に相談できない」とか、「隣の人にわからないことを聞けない」とか、そんなことは一切ありえません。繰り返しますが、それは初歩的な授業設計の失敗であり、オンライン化に問題があるわけではありません。

このような発言が繰り返される現状に、非常に僕は危機感を覚えています。

【先人たちの言葉と、それを実現している事例】

そもそも教育の目的は教員が持っている知識をコピーして学習者に渡すことではありません。こんなことは、コロナに関係なく、100年以上前から多くの先人たちが指摘し続けてきたことです。よく知られているものをいくつか挙げてみましょう。

「直接に事物を教えんとするもでき難きことなれども・・・能力を発育することは、ずいぶんでき得べきことにて、学校は人に物を教うる所にあらず,ただその天資の発達を妨げずしてよくこれを発育するための具なり。」
福沢諭吉『文明教育論』「時事新報」時事新報社 1889(明治22)年8月5日発行

“I never teach my pupils. I only attempt to provide the conditions in which they can learn.” 
Albert Einstein

「厳密にいえば、科学的観点に立てば、他人を教育することはできません」
「教育は、生徒自身の経験をとおして実現されます。その経験は完全に環境によって決定されるものであり、そこでの教師の役割は、環境を組織すること、規制することにあります。」
ヴィゴツキー(Лев Семенович Выготский) 『教育心理学講義』1926年


そして優秀な教育者たちは、実際に学生同士が共同して学びあえるような環境も作っています。





【よくあるプラットフォーム】

では、どうすればこのような環境を作ることができるのでしょうか。

まず、すぐにでもできることは授業中にグループディスカッションなどを導入することです。Zoomでいえば、ブレイクアウトセッションですね。少人数のグループに分かれてお互いに顔を見ながらリアルタイムで話をすることができます。

もしビデオ会議はインターネット接続料の問題で使えないということでしたら文字ベースのチャットでも十分に友達などを作ることができます。登録も何も必要なく、すぐその場で始められるチャットスペースもあります。詳しくは以下の記事を見てください。

「むらログ: クラス専用のチャットルームを作ろう!」
http://mongolia.seesaa.net/article/468137907.html

これはあくまでも一番簡単な例で、もっと時間をかけて準備したりすることができれば、大学のキャンパスに近いような環境を作ることもできます。例えばこちらの記事は大学のオンラインコミュニティをSlackで作っている例です。
教育機関にとって「Slack」とは? 導入の「成否の分かれ目」とは?【週刊Slack情報局】 - INTERNET Watch https://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/slack_info/1253428.html

ここで何度も「デジタルキャンパス」という表現が出てきますが、教室だけではなくその隙間を埋めるキャンパスという環境がこのようなオンラインプラットフォームを使って構築することができるのです。

中でもN高校の例はとてもわかりやすいので、こうしたオンラインコミュニティを真剣に作ろうと思っている方にはご一読をお勧めしたいと思います。
「N高」で育まれた「Slackチャンネル文化」、ホームルームから部活・趣味まで5000のパブリックチャンネルでつながる生徒たち&教職員【週刊Slack情報局】 - INTERNET Watch https://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/slack_info/1256412.html


これからSlackでオンラインコミュニティを作ろうとしている先生方のためには、もう半年以上も前になりますが、このブログでも以下のような記事を書いたことがあります。

むらログ: 教員のためのSlack超入門【学級閉鎖対策】 http://mongolia.seesaa.net/article/473491767.html


「自分はこんなツールを管理できない」と心配な教員の皆さんもいるかも知れませんが、それは杞憂です。なぜなら、学習者の中にそういうのが好きな人が一人か二人はいるからです。現代の教育観では、学習者コミュニティーに貢献することは正当に評価されなければならないので、こうしたオンラインコミュニティの管理を担当した学習者にはポイントを与えるなどの措置をとってもいいでしょう。

もしそういう学習者がいないとか、教育機関の方針で学生さんにそういう管理をさせてはいけないという事情がありましたら、メール以外の管理しやすいコミュニケーションツールをひとつだけ用意すると良いと思います。(メールは若い人には重すぎるので)

よくある例としては以下のようなものがあります。

1.LINE
2.Facebookメッセンジャー
3.Instagram
4.Twitter

この中で僕がひとつだけお勧めするとしたら Twitter ですね。
50人までならグループチャットを作ってLINEなどと同じように使う事もできますし、それ以上の場合は公式ハッシュタグを作って投稿してもらえれば、グループチャットと同じようなことができます。もともと50人という数はグループチャットにしては巨大すぎるので、例えば60人が履修しているようなクラスの場合は、10人ずつのグループチャットを六つ作るぐらいでも十分でしょう。

前回の記事でご紹介したように Twitter には公式に「クソリプ防止機能」が実装されたので、これの使い方さえ教えておけば、他の教員や学習者の保護者などからケチをつけられることもありません。クソリプ防止機能についても「クソリプ防止機能って知ってる?誰か説明して」というだけで、教師が自分で調べなくてもクラスの共有知識とすることができるでしょう。あるいは僕のこの記事を読むようにと一言言うだけでもいいでしょう。
むらログ: ツイッターにクソリプ防止機能が!
http://mongolia.seesaa.net/article/476810773.html


【授業中の活動例】
こういうプラットフォームを作ることとは別に、ライブのオンライン授業中にできることもたくさんあります。

効果的なものとしては以下のような方法があります。僕自身もよくやります。

1.Zoomに学習者を集める。
2.学習者の全員を共同ホストにする。
3.ブレイクアウトルームを上限の50室まで開く。
4.学習者はすきな部屋に自分で移動していい。ただしすでに3人以上いる部屋に移動してはいけない。
5.他の学習者から連絡先を聞いて、できるだけたくさん集める。

これが「アカデミックでない」とかいうくだらない理由でできない場合は、最後の連絡先の代わりに特定の命題についての賛成か反対かなどの意見を集めるということでもいいでしょう。

ちなみになぜそれが「くだらない理由」なのかと言うと、福沢諭吉とアインシュタインとヴィゴツキーの例をご紹介した通り、こうしたコミュニティを作ることは教員の大事な仕事の一つだからです。

また、以下は僕が毎週行っている「#Zoomでハナキン」というイベントの応用例ですが、その科目に関連したトピックを50個用意しておき1から50までの順番を振り、学習者には好きな部屋に入って議論していいという活動もコミュニティを作るには効果的でしょう。

1.科目に関連したトピックを50個用意しておき1から50までの順番を振っておく。
2.Zoomに学習者を集める。
3.学習者の全員を共同ホストにする。
4.ブレイクアウトルームを上限の50室まで開く。それぞれの部屋には決められたトピックがあり、その部屋ではそのトピックについて意見交換するものとする。
5.学習者はすきな部屋に自分で移動していい。ただしすでに3人以上いる部屋に移動してはいけない。

他に専用のツールを使ったものとしては、チームに分かれて出題される質問に答える「Quizlet Live」「Quiziz」などがあります。音楽などもあってクイズ番組のように盛り上がり、チームビルディングにも役に立つと思います。学習者がビデオで投稿してそれを他の学習者と共有できる「FlipGrid」も同級生の友達を作るのにはとても効果的でしょう。

最後にもう一度繰り返しますが、素人ならともかく、プロの教員が「友達が一人もできない」ような授業をしてはいけません。それは初歩的な授業設計の失敗であり、オンライン化したからではありません。

そして冒険は続く。

2020年8月17日 21時16分 追記
学習者同士が友達になる場を作るには、LINEなどのツールに登録してもらうだけではだめで、種を埋め、水をやり続ける必要があります。
具体的な方法については「ネットワーク化の7つのステップ」として僕が話している動画がありますので、ご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=kyErI6uxX70&feature=youtu.be&t=35m28s
(35分28秒から)

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【参考資料】
オンライン化で失われたもの ≪ SOUL for SALE
https://blog.szk.cc/2020/08/09/whats-really-lost-in-university-online/

むらログ: オンラインでは学生の理解度が分からない?
http://mongolia.seesaa.net/article/475260364.html


むらログ: Zoomで講義をしてはいけません
http://mongolia.seesaa.net/article/474591708.html


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posted by 村上吉文 at 14:19 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加