

冒険家の皆さん、今日も虫を払い除けながら石碑を見て「読める、読めるぞ!」とつぶやいていますか?
さて、普通の人間よりも7倍早く時間が流れているという意味で「ICT の世界はドッグイヤー」と言いますが、ICT が浸透してくると語学教育の世界もまさにあっという間に最新の技術が古くなってしまいますね。
例えば僕は今年の4月6日に以下の記事を書きましたが、たった一か月半経ってからこれを振り返るとあまりにも古臭いことが書いてあって驚いてしまいます。
むらログ: 最近の僕のヒンディー語の勉強方法
http://mongolia.seesaa.net/article/474431200.html
なぜこれが古臭いかと言うと、Language Learning with Youtube (以降「LLY」とします)が出たからです。これはインターネットブラウザーの Chrome に入れる拡張機能で、これを使うと YouTube が第二言語を学習する教材にあっという間に変わってしまうのです。以下にこのツールの特徴を紹介してみたいと思います。
【1.字幕の複言語化】
一番特徴的なことは、字幕を複数の言語で表示することができるということです。つまり英語を勉強している日本人でしたら、音声で英語を聞きながら、それが文字化された英語の字幕と、その日本語訳を同時に見ることができるのです。もちろん DVD などでも複数の字幕が用意されていますが、これまでは設定画面に戻って字幕の切り替えなどをしなければいけませんでしたし、二つを同時に見ることはできなかったのではないかと思います。それだけでも第二言語学習環境としては非常に革新的です。ちなみに日本語を母語としない人が日本語を学習する場合は、漢字の上にルビも自動的に振られます。
【2.機械翻訳による直訳の字幕(有料)】
字幕はこの2種類だけではありません。実は機械翻訳による直訳の字幕を表示させることもできるのです。というのも、字幕の場合は文字数の限度があるためにかなり端折った翻訳になってしまうことがあるのです。字幕翻訳家として有名な戸田奈津子さんは、かつて元の英語を1/3の日本語に翻訳するとその著書でお書きになっていました。しかし機械翻訳による直訳の字幕を見れば、残りの2/3も見ることができるわけですね。このあたりは映画などのコンテンツを使って学習する人たちの立場をよく研究していると思います。ただし、この部分は有料バージョンでしか見ることができません。
【3.辞書機能】
そしてこの字幕の単語をクリックすると、それだけで辞書を引くことができます。多義語の場合は複数の意味が載っています。最初は普通の辞書のような例文は載っていませんが、同じ単語を2回目にも引くと、前回引いた時の台詞が例文として表示されます。 ちなみに一度辞書を引くとその単語は2回目に出てくる時は色が変わって表示されるので、既習語か未習語かが一目瞭然です。
【4.覚えたい語彙のリスト自動作成(有料)】
そして辞書をひいた単語はリストで表示することができます。動画を見た後で真面目な人が復習するのに最適です。ただし僕はあまり真面目ではないので、実はこの機能はあまり使っていません。文脈から切り離されてしまったリストを見てもあまり楽しくないからという理由もあります。なお、この機能は有料バージョンでしか使えません。
【5.覚えたいフレーズの記録】
リストを作れるのは単語だけではありません。ひとつひとつの字幕には星マークをつけることができ、後からその星マークのついた台詞だけをリストにして見ることができるのです。このリストにはオリジナルの台詞の他に、翻訳された台詞も対訳として表示されます。僕はヒンディー語の学習にこのツールを使っているのですが、僕の知っている単語だけで構成されている短い台詞をこのリストに載せています。自分の語彙量がだんだん増えていって、それにつれて理解できるセリフがたくさん見つかるようになるのはとても嬉しいものです。
【6.合成音声による読み上げ】
YouTube などではネイティブスピーカーが話している音声がほとんどですから、音声学などで言われる「リダクション」が多く、その単語の本当の発音が分からないことが多いです。その時に役に立つのが、この合成音声による読み上げ機能です。これは辞書を引いた時に自動的に聞くことができます。単語ひとつひとつをクリックしていけば、そのセリフを明瞭に切り分けられた音声で聴くことができるわけです。
【7.フレーズごとの自動一時停止】
中級や上級になってくると大量に映画などのコンテンツを視聴して聴解力や語彙力を育てていくことができるようになります。しかし俳優がその台詞を話すスピードよりも、学習者が字幕を読むスピードの方が遅い場合は、いちいち一時停止ボタンを押さなければいけないのがとても面倒です。しかも一つの台詞を聴き終わった瞬間を狙って一時停止ボタンを押しても、押した瞬間にその字幕が消えてしまうというようなことも頻繁にあります。そうした体験をしたことのある学習者にとっては、フレーズごとに自動的に動画の再生が一時停止される機能はとても嬉しいものです。この辺りもこうした動画を使って第二言語を学習する人の心理をよく研究していると感心します。 画面の「Auto-pause」というトグルをオンにしておくとこの機能が使えます。
【8.フレーズごとの反復再生】
「6」で合成音声による読み上げで明瞭に切り分けられた音声で台詞を聞くことができるというメリットをあげましたが、やはりネイティブの自然な発音を何度も繰り返して聞きたいと思うこともあるでしょう。その場合はキーボードの「S」を押すと、何度でもそのセリフを繰り返して聞くことができます。これは一つ上の「7」で説明した自動一時停止機能と一緒に使うと、より効果的でしょう。
【9.音声のない部分のスキップ(聴解教材作成にもいい)】
「S」をタイプすると何度でも同じセリフを繰り返して再生することができるということを上に書きましたが、キーボードでそのすぐ右側にある「D」のキーを押すと、次の台詞を聞くことができます。これは一見地味な機能ですが、アクション映画などにはセリフがないシーンが長く続く場面があったりします。そのような時にはこの機能を使ってセリフのない場面をスキップすることができるので、目標言語の音声だけを重点的に聞いて、効率的に勉強することができます。
【CBLLの光景が激変した】
僕自身も Netflix などでヒンディー語のコンテンツを大量に見ながら勉強しています。実は今日ご紹介したLLYの先輩のLLN(Learning Language with Netflix)というのがあって、今日ご紹介したのと全く同じ機能を使うことができるのです。ただしこれは Netflix という有料サービスに加入しないと使うことができなかったので、これまで皆さんにご紹介することはあまりありませんでした。 しかし今回LLYが出たことにより、無料で試聴することができる YouTube を同じように第二言語学習の教材とすることができるようになったわけです。
このような、コンテンツをベースに第二言語を学習することをCBLL(Content-Based Language Learning)と言いますが、まさにこのLLNとLLYの出現により、CBLLの光景は激変したといえます。
なお、LLNとLLYは機能的には全く違いはないのですが、 YouTube の方は音声を機械的に文字化した字幕も含まれていて、これはあまり正確ではないので、人間が文字起こしをしたコンテンツを選ぶ必要があります。
また、LLNとLLYはアカウントが共通しているので、片方で有料バージョンを購入すると、もう片方も有料バージョンを使うことができるようになります。
【7月1日に #LLYの冒険 を実施します】
ということで7月1日午後9時にこのLLYを実際にインストールして体験してみる会をオンラインで開いてみたいと思います。いつもと同じようにこれは僕が本業の南アジアの日本語教師の皆さんに対するサポートとして行うネタの一つとして使うことを前提に、多様な環境でどのような問題が起きるかを知るために行います。つまり皆さんの環境でエラーが起きた時の対処法を僕はまだ知りませんので、結果的に皆さんをケアできない可能性もあります。お互いにボランティアということでお願い致します。
参加資格は Mac でも Windows でも Chromebook でもいいのですが、インターネットブラウザの Chrome を使えることと、拡張機能を入れるのに Google のアカウントが必要ですから、ご自分の Google アカウントのパスワードなどを把握しているということの2点です。スマホやタブレットでの参加はご遠慮ください。
参加希望の方はこちらのフォームにご入力くださいませ。
https://forms.gle/6vEtXunv35jcC1qg8
ちなみに、次の「#Zoomでハナキン」はこちらでお申し込みになれます。
http://bit.ly/hanakin_register
そして冒険は続く。
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【参考資料】
むらログ: 最近の僕のヒンディー語の勉強方法
http://mongolia.seesaa.net/article/474431200.html
Hope invites | Tsutomu Uematsu | TEDxSapporo - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=gBumdOWWMhY
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