2020年06月03日

カナダで学んだ4つのこと

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日も砂丘のてっぺんで自分の乗っているラクダの足跡を振り返っていますか?

さて、明日からインドに再就職(リモートですが)なので、カナダの振り返りの最後に、カナダで僕が学んだことを4つ書いておきたいと思います。

【多様性】
サウジアラビアに行く前、1997年ごろ、僕は「イスラム教と言っても本当に神様なんか信じている人がいるんだろうか。建前で言っているだけなんじゃないの?」と思っていたところがあるのですが、実際、サウジアラビアのほとんどの人は心から神様を信じていました。

それと同じように、カナダに行く前は「カナダは多様性を尊重すると言っても、建前と現実は違うのではないか」と思っていた部分もありました。おそらく、その当時の僕だけではなく、ほとんどの日本人は今でも多様性のメリットに気づいていないでしょう。しかし、カナダに行ってみると、やはりほぼ国是として「多様性は国力の源泉である」という考えが浸透していますし、一部の差別主義者を除くと、その考えは国民に共有されていると言っていいと思います。そして実際に、カナダはそれで非常にうまく行っているように見受けられます。

ツイッターなどでいわゆるネトウヨと呼ばれる人たちと話してみると、こういう事を言っても信じてもらえない人は、「そんなキレイゴトがうまくいくわけない」、つまり、「差別主義者のような存在も多様性として受け入れられるはずがない」と考えているようです。でも、ここには明確な線引きがあるんですよね。一言で言ってしまうと、多様性を受け入れられる人しか受け入れないのです。ですので、一線を越えてしまった人はあっという間に解雇などの措置を取られてしまいます。この辺は日本よりずっと厳しいです。

この点については、かなり長い記事なのですが、以下の2本にまとめてありますので、ご関心のある方はご覧ください。

むらログ: 多様性を尊重する社会はすべての価値観を尊重するわけではない
http://mongolia.seesaa.net/article/466624322.html

むらログ: 主張する権利と、それに同意しない権利
http://mongolia.seesaa.net/article/465881791.html


【先住民の権利】
僕がカナダで学んだことのうち、多様性の次に大きかったのは先住民の権利を尊重することです。

例えば僕自身も教育省の義務的な研修として先住民の文化を学ぶワークショップに参加したことがあります。

また、カナダのうちのすべての州ではないかもしれませんが、ブリティッシュ・コロンビア州などではすべての科目のカリキュラムの中に先住民文化を扱うことが求められています。繰り返しますがこれは「すべての科目」で、例えば日本語を教えるときにもアイヌなどの日本の先住民について扱わなくてはならないのです。僕のニュースレターを見る人からときどき、「どうしてアイヌのニュースが毎回載っているんですか」と聞かれることがあるのですが、これにはそうした背景があります。

そういえば、オンラインイベントだと最初にいつも何か忘れているような気がするのですが、それはオンラインではないカナダ国内のイベントだと、必ず最初に「このイベントは先住民と移民との間の契約の第6条に基づきお互いの合意の上に先住民への敬意を持って行われる」などといった宣言が行われるからです。それによって後からやってきた白人やアジア人が先住民の土地でイベントを行うことに正当性が与えられるわけですね。

【ホームスクーリング】
3つ目はホームスクーリングです。うちの場合は娘は普通に地元の公立中学に通っていたのですが、息子のほうが現地校の登校初日から「もう二度と来ない」と固い決意を示したので、ホームスクーリングの可能性を探り始めました。

当時は僕自身も「学校に行かないことは悪いことだ」という日本の刷り込みに強く影響されていたので葛藤もありましたが、調べてみるとカナダではホームスクーリングが正式な教育として認識されていて、教育省が手厚くサポートしていたりもします。このあたりのことは以下に書いていますのでご覧ください。

むらログ: 多様な学びを社会として認めよう
http://mongolia.seesaa.net/article/453716706.html

そして、その後さらに勉強してみると、世界の各地で一般的な学校よりもホームスクーリングの方が成績がいいという研究結果があることに気が付きました。

例えばアメリカについては、以下の論文が引用されることが多いようです。

”Scholastic achievement and demographic characteristics of home school students in 1998.”
LM Rudner  https://eric.ed.gov/?id=ED424309
アメリカの二万を超える大規模なホームスクーリング児童の試験結果の比較では、一般的な公立学校よりも点数が高かったという1998年の調査です

オーストラリアについてはこちら。
”Academic Outcomes of Home Schooling
Review of Research and Analysis of Statewide Tests ”
http://educationstandards.nsw.edu.au/wps/wcm/connect/8b9170fe-c90e-49d0-b62b-7cc18fe222cc/home-schooling-outcomes-review.pdf?MOD=AJPERES&CVID=

僕のいたカナダでも、ホームスクーリングの方が成績が良いという研究があります。
The Impact of Schooling on Academic Achievement:
Evidence From Homeschooled and Traditionally Schooled Students
Sandra Martin-Chang
Concordia University and Mount Allison University
Odette N. Gould and Reanne E. Meuse
Mount Allison University
この論文はインターネットでは公開されていないのですが、印刷版を読むことができました。要旨の部分だけ以下に翻訳してご紹介します。
ホームスクーリングの普及率は増加しているが、その教育的成果は不明のままである。本研究では、ホームスクーラーと伝統的な公立学校に通う児童の学業における成績を比較した。ホームスクーラー群を、組織化された授業計画から教えられた群(構造化されたホームスクーリング児童)とそうでない群(構造化されていないホームスクーリング児童)に分けた場合、データは、構造化されたホームスクーリング児童が公立学校に通う子供と比較してより高い標準化スコアを達成することを示した。探索的分析はまた、構造化されていないホームスクーリング児童が3群間で最も低い標準化スコアしか達成していないことを示唆している。


このようにホームスクーリングの方が学業として高い成果を上げているということも驚きの一つだったのですが、それ以外にホームスクーリング大会が各地で行われていて、しかもその規模が非常に大きいことにも大きな衝撃を受けました。

各地で行われている大会のリストはこちらでご覧になることができます。
むらログ: カナダのホームスクーリング大会
http://mongolia.seesaa.net/article/464601528.html

この中のアルバータ州の大会に僕が参加した時の記録はこちらです。
むらログ: アルバータ州のホームスクーリングの大会
http://mongolia.seesaa.net/article/465100200.html

むらログ: アルバータ州のホームスクーリング大会、二日目
http://mongolia.seesaa.net/article/465205551.html

2020年は一般参加者ではなくボランティアとして運営する側に協力する予定だったのですが、新型コロナウイルスの影響で大会自体が中止になってしまって非常に残念です。

【英語】
最後に英語についても書いておきたいと思います。実は前任地のハンガリーにいた時に、ある時急に英語の本が楽に読めるようになったことがありました。それで、会話に関してはそれほど流暢に喋れるわけでもなかったのですが、同じように急に伸びる日が来るのではないかと期待していました。しかし結論から言うとそのような実感は全くありませんでした。

ただ一つだけ言えることは、自分で自分の英語レベルを受け入れることが出来るまでに長く時間がかかってしまったということです。今ではTEDトークに出てくる人のようにかっこいいプレゼンができない自分についてはすっかり受け入れているので、「ああいう風にかっこよく喋れないからみんなの前で話したくない」というようなネガティブな気持ちは全くありません。普通に自分のできる範囲で喋るだけです。例えば国際交流基金の専門家の中には僕よりよほど流暢に英語を喋れる人もたくさんいらっしゃいますが、まあそれはそれでいいんじゃないかと思います。問題はプレゼンの中身ですし、アンケートを見ても英語でやったプレゼンの評価が極端に低いというわけではないので。

そういう意味では自分の英語力をいつのまにかを受け入れることができていたんだなあと実感した瞬間はあります。実は上に書いたカナダの先住民に関する研修に出た時の事なのですが、最初のうちはやっぱりこういうところに出ると英語が心配だったんですよね。ところがこの研修の時にはカナダの先住民についての知識が僕に全くないということについてはかなり不安を覚えていたのですが、研修が終わってからあることに気がついたのです。それは僕が英語について全く心配していなかったということでした。そもそも先住民についての知識が全くなかったので、この研修の時も、ネイティブスピーカーが何を言っているのか分からない事が何度もありました。しかしその都度、厚かましく「今のところがよくわからないからもう一度説明してください」と要求したり、YouTube の動画を流す時には「クローズドキャプションをオンにしてくれると楽なのでお願いします」とお願いしたりして、実質的には英語に関して問題を感じながらも、それで困ることはなかったのです。

さて、上に「会話力が伸びたという実感がない」ということを書きましたが、今振り返ってみると実際に伸びていなかったのかどうかはよくわかりません。というのも実はこれを書いていて急に思い出したのですが、前任地のハンガリーではみんなの前でお別れの挨拶をする時に非常に恥ずかしいことしか言えなかったのです。普段は日本語教育のチームで働いていたのでハンガリー人の皆さんも含めていつも日本語だけだったのですが、事務所全体の最後のお別れの時には文化交流などの他の部署の人たちもいるので、共通語は英語になっていました。その時の挨拶は「Facebook でアンフレンドしないでね」というような、本当にレベルの低いものだったのです。いま思い出すだけでも恥ずかしい。

あの時に比べれば、カナダでの仕事が終わって教育省の皆さんに挨拶をする時は、しょうもない冗談を入れたり、特に思い出に残っているイベントなどについても触れながら、皆さんにお礼を込めてごく普通のお別れの挨拶をすることができたのではないかと思っています。実はそれと前後してネイティブスピーカーの人が教育省の同じ部署をやめることになって、その人の挨拶は一人一人の思い出などを交えた僕なんかよりはずっとレベルの高い挨拶でした。ですから実際に僕の英語は今でもネイティブとはものすごく大きな差のある日本人英語なのですが、それでも3年間かけて、前任地を去る時に比べればそれなりに上達していたのかもしれません。

ちなみにここで言いたいことは僕が英語が上手になったということではなく、3年前の事を振り返ってみるとそれなりに上手になったと考えるだけの十分な根拠があるのに、上手になったという実感が全くないということです。今でもTEDトークみたいなかっこいいプレゼンはできないし。たまたま「任期が終わって日本に帰国する時の挨拶」というほぼ同じような状況を比較することができたので、「あれに比べればかなりマシになった」と気がつくことができましたが、あの時の恥ずかしい思い出を都合よく完全に忘れてしまっていたら、そのような比較もできず、「3年も英語圏にいたのに全然上手にならなかった」とここに書いていたのではないかと思います。

最後になりますが、カナダにいる間に僕が行った仕事の中には、ネット上で皆さんに協力していただけなければ実現しなかったものがたくさんあります。特にいろいろな研修のプロトタイプ(「〜の冒険」シリーズなど)にオンラインで参加してくださった皆さんには、改めてお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: オンラインEdCampを振り返る
http://mongolia.seesaa.net/article/474982218.html

むらログ: よりどりみどりプロジェクトを振り返る
http://mongolia.seesaa.net/article/475049254.html

むらログ: オンライン講演会のマニュアルを公開しました
http://mongolia.seesaa.net/article/475188878.html

むらログ: ニュースレターを振り返る
http://mongolia.seesaa.net/article/475209558.html


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posted by 村上吉文 at 18:05 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加