2020年05月08日

オンラインEdCampを振り返る

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

さて、世の中はコロナウイルスの影響で大きな時代の節目を感じさせる状況になっておりますが、実は僕自身も4月28日に3年間の仕事を終えてカナダから日本に帰国し、コロナとは全く別の意味で一つの時代の節目を迎えているところです。

それで今日からカナダでの仕事を振り返るために、何回かに分けて僕のやってきたことを書いてみたいと思います。最初はオンラインEdCampについてです。

【EdCampとは何か】
まず最初にEdCampとは何かという基本的なところから書いてみたいと思います。

一言で言ってしまうと、EdCamp は参加者が主体で教育に関する単発のイベントです。自律学習を教師研修に応用したと言ってもいいでしょう。「アンカンファレンス」というイベントに非常に近いですが、それの教育に限定したバージョンと考えてもいいかもしれません。

内容は主催者が準備するのではなく、参加者が提案します。ですから基調講演のようなものもありません。提案されたトピックが多い時は、参加者がみんなで投票してトピックを選びます。

トピックが選ばれたら、 そのトピックを提案した人が普通はセッションリーダーとなり、話し合いの司会も務めます。セッションリーダーがプレゼンをすることもありますが、多くの EdCamp では「プレゼンは最初の10分間のみ」というような制限があります。つまりセッションの中でも参加者が主体で、セッションリーダーの話を他の参加者が一方的に拝聴するというような形は望まれていません。

また、「二本足の法則」と呼ばれていますが、Edcampではセッション時間中に他の部屋に移動することは全くの自由です。途中で出ていっても、途中から参加してもいいのです。参加者が中心なので、自分の権限で移動してもいいわけです。

こうした形式ですし、もともと学術発表でもないので、トピックは特定の問題に対する解決方法を発表するというよりも、そうした解決方法を模索している人たちが集まって情報共有をすることが多いです。つまりトピックを提案する人は何らかの解決方法を知っている人ではなく、ただの困っている人でもいいのです。

主に週末に行われることが多く、一つのセッションが1時間ぐらいで、1日の間に第1セッションから第4セッションぐらいまであることが多いようです。同じ時間に三つか四つぐらいのセッションが同時に行われていますから、合計で10数個のセッションがその日に行われることになるわけです。

教師研修を実施する立場の人間からこのイベントを見ると、内容にハズレがないということはまずとても大きいです。どれだけ偉い先生が最新の理論を語るにしろ、参加者にとって興味のないトピックだったら、その研修には全く意味がありません。しかしこのように参加者自身が提案する形式であれば、 そうした問題は起きないのです。

また、運営側がコンテンツを準備する必要がないというのも非常に大きな魅力ですね。

【僕とEdCampとの関わり】
僕がいつ頃から EdCamp に関心を持っていたのかはもはや覚えていないのですが、 Twitter を検索してみると、2013年の1月にこのような投稿をしているのが記録に残っています。



2013年はまさに「ヒエラルキーの重い社会」であるエジプトで仕事をしていて、このような形式の研修が現地の先生に受け入れられるという確信が持てず、実施を提案するほどの勇気もなかったのですが、その後ハンガリーに派遣された時に、中東欧の先生方のあつまる研修会の一部として、 EdCamp を実施してみたことがあります。

グループディスカッション - 中東欧日本語教育研修会2017 https://sites.google.com/site/chinikike2017/groupdiscussion

この研修会では三つのタイプのグループディスカッションを用意しており、 最初がワールドカフェ形式で、2番目が QFT 形式で、そして3番目が EdCamp 形式でした。上記の公式サイトでは以下のように説明しました。

3回めはEdCamp形式です。
今回のグループディスカッションの中ではもっとも参加者が中心になる形式です。
たとえば以下のようなことは当日(19日)の朝に決めます。
いくつのセッションに分かれるか
それぞれのセッションのテーマは何か
それぞれのセッションのリーダーは誰か
また、それぞれのセッションは講義形式ではなく、話し合いを中心にします。
セッションリーダーは自分の困っていることなどを最初に提示するプレゼンを行うこともありますが、長くても10分以内にしてください。
相談したい悩みがある人は、ぜひ、このEdCamp形式のディスカッションをご活用ください。
たとえば私なら
・日本語を独習している人をどうやったら見つけることができるか
・日本語の先生になったばかりの人をどうやって見つけて、先生同士のネットワークに参加してもらうか
・中東欧の広い地域の先生がたの強いネットワークを作るにはどうすればいいか
など、皆さんからアイデアをいただきたいことがたくさんあります。
まだ経験のあまり長くない先生がたも、積極的にセッション・リーダーとしてご参加ください。
(もちろん、経験の長い先生がたのセッションも大歓迎です)
相談や話しあいをしたいテーマがある人は、あらかじめ考えておいてください。

EdCampについて詳しいことはこちらをご参照ください。
http://www.edcamptokyo.com/#edcamp

セッションリーダーとして話題を提供してくださる方は、こちらにタイトルとお名前をご記入ください。


ハンガリーでこの研修を行った一か月後に僕は任期を終えて帰国しましたが、その頃にはもう日本でも EdCamp のムーブメントが盛り上がり始めていて、僕はついに初めてのフルスケールの EdCamp に参加することができました。2017年7月9日の EdCampTokyo です。実は現時点でも、フルスケールのオンラインではない EdCamp に参加した経験はこの時の一回だけです。というのも、ハンガリーで実施したのは研修会の中のごく一部分でしたし、カナダでも同じように研修会の複数あるプログラムの中の一部としてしか EdCamp を扱ったことがなく、その他はずっとオンラインのものを中心にしていたからです。

この EdCampTokyo では、主催者ではない一般の参加者として気軽に参加し、セッションリーダーも体験することができました。また、経験の豊かな主催者が実施する EdCamp を体験することができたのも大きな収穫になりました。

そしてこの体験のわずか3週間後に僕はカナダに旅立つことになります。

カナダでもハンガリーと同じように、複数の日に渡って実施する宿泊型の教師研修の一部にEdCampを取り入れていましたが、EdCampのみのイベントを実施するにはまだ少し勇気が必要でした。たとえば以下の資料は2017年の夏期日本語教師研修の日程ですが、4日間の日程のうち午後6時半から8時までの間にEdCampの予定が2回入っています。
https://jftor.org/wp-content/uploads/2017_JFT_Summer_Language_Brush-up.pdf

【EdCampのオンライン化】
最初にご紹介した2013年のツイートに見られるように、僕はかなり早い段階からEdCampをオンラインイベントとして実施する可能性については考えていました。Zoomが普及する以前の時点でも、たとえばGoogleハングアウトを複数用意し、それぞれに自由に参加者がアクセスするような形式を取れば、技術的には可能だったはずです。しかし、希望する参加者全員がGoogleのアカウントを持っていなければならないことや、当時は Google ハングアウトの定員が10名しかなかったために、実施するには至っていませんでした。

当時はもうZoomによるオンライン講演会などは実施していて、日本語教師の皆さんがオンラインのイベントに参加する事に関してはかなり敷居は低くなっていたと思うのですが、Zoomの Breakout の間を移動する権限が一般の参加者にはなかったことから、簡単に実施することは難しいと思っていました。

その状況を変えてくれたのが、国際交流基金からフィリピンのセブ島に派遣されていた新谷さんからオンライン飲み会で聞いた一言でした。Zoomでも共同ホストの権限があれば、ブレイクアウトの間を自由に移動できるというのです。なお、ブレイクアウトというのは Zoom ミーティングの参加者がさらに小部屋に分かれて少人数で議論する機能のことです。

部屋の間を自由に移動することができるのでしたら、 EdCamp に必要な「二本足の法則」が実現できます。そこで当時運営していたオンラインワークショップのコースで、 Zoom セッションの最後にボランティアの皆さんにお願いし、実際に breakout room の間を移動できるかを検証してみたのです。その結果、 Chromebook や iPad などでは移動できないものの、 Windows や Mac などのパソコンではブレイクアウトの間を移動することができるということが分かりました。

これで一挙に技術的な問題はなくなり、 後は失敗するリスクを取ってやるかどうかという判断になりました。

なお、この段階では、僕が Twitter でアンケートをしたところ、 EdCamp という言葉を聞いたことがない人が半数以上となっていました。 EdCamp が普及していないのにそれをオンライン化しても本当に人が来てくれるのだろうかという不安がなかったわけではありません。



しかし、実際には予算を取ってやるわけではなく、完全に無料で実施できるので、失敗しても僕が恥ずかしいだけですから、とりあえずやってみようということになりました。

【第1回オンラインEdCamp】
当初の懸念の一つは、開始前に参加者全員を共同ホストに指定しなければいけないので、その作業に時間がかかってしまうのではないかということでした。ただしこれは行ってみたら実は杞憂に過ぎず、全員が同時に一斉に参加してくるわけではなく、早めに来る人もいれば遅れてくる人もいるので、その都度一人一人を共同ホストに指定していては全く問題はありませんでした。

参加者のうち Chromebook で参加していた2名は、こちらが共同ホストに指定することができなかったので、移動する時には希望する部屋へホストである僕が手動で送っていました。

もう一つ想定外だったのは、トピックの提案が少なかったことです。というのも、申し込みの時に「トピックを提案したいか」という質問もあり、そこでは多くの人が「提案したい」と回答していたのですが、 蓋を開けてみるとそれよりずいぶん少なく、途中でもう一度トピックの提案を募らなければいけないほどでした。

この時の事後アンケートには、「その場になってみると言い出しにくいので予め受け付けてそれを当日投票するのはどうか」という提案がありました。

【第2回オンラインEdCamp以降】
そこで第2回目からは、申し込む時に提案したいトピックも書いてもらうことにしました。そしてそのトピックの中から、オンライン EdCamp が始まった時に参加者全員に投票で決めてもらうのです。

投票に使っているツールはPadletです。 これはそれぞれのトピックに「いいね」をおす機能があり、その数が多いものから正式なトピックとして並べて行きました。なお、並べる順番は、人気のあるトピックが同じ時間帯に重ならないように、一番人気があるものが第1セッション、次に人気があるものが第2セッションと配分しました。

また、第2回以降はそれぞれのトピックについて参加者にパトレッド上で話し合った内容をコメントとして記入してもらい、それを成果物として公開しました。一覧は以下の通りです。

2020年1月
https://drive.google.com/open?id=1GADkOhmTJJImxdYoKTo7wB8D9bO1b0q3

2019年10月
https://drive.google.com/open?id=1V_iiysuW7MAMM-n_eY6XrMW2EpCaQssL

2019年7月
https://drive.google.com/open?id=1M4Kh5d3gRlaiqtXAokU9dyBjRcr1Uv2e

2019年5月
https://drive.google.com/open?id=1xtq5gk9DS1AY7Ak2a74oI1A40-O96DHi

2019年1月
https://drive.google.com/open?id=1wQW-QgSnzushlGdXYS_KuZyJUzPdsUqf

2018年10月
https://drive.google.com/open?id=1jIb6HibAAZNW_YmLfvpr6XyRdFycvS7l

第3回目以降は特に大きな改善点もなく、ほとんど同じ形式で実施しています。

【マニュアル公開とその効果】
こうしたノウハウは組織の中に閉じ込めていてもあまりいいことはないので、 今年の2月3日にこの「むらログ」でマニュアルと司会者用の台本を公開しました。

「オンラインEdCampマニュアル(外部公開用)」
https://docs.google.com/document/d/108ocD_EXnwfg6P8ZuWceA3O8oOvT5quoImn1hLvcj9U/edit?usp=sharing

「【テンプレート】EdCamp司会スクリプト」
https://docs.google.com/document/d/1tTvhYUaUVivL-3x7Z9GsddC1K-kxn8ml6IxgvaNN7L4/edit?usp=sharing

その結果、国際交流基金の2020年度派遣前研修で、このマニュアルと台本をもとにした研修が行われた他、アルバータ大学の青木裕美先生が「#カナダの先生集まろう@Zoom」というオンラインイベントを実施されました。これは EdCamp という名前は使われていませんが、形式は EdCamp で、僕のマニュアルを参考にしたと青木先生ご本人が仰っていました。

自分が主催している EdCamp ではなかなか話し合いに参加できないので、このようにカジュアルで参加者主体のオンラインイベントが広がっていき、その場に一般人として僕が参加できることは非常にありがたいです。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: EdCampTokyoに参加してきました!
http://mongolia.seesaa.net/article/448875563.html

むらログ: オンラインでEdCampができる!
http://mongolia.seesaa.net/article/455466573.html

むらログ: オンラインEdCampをやってみた!
http://mongolia.seesaa.net/article/460492876.html

むらログ: オンラインEdCampマニュアルを公開します。 http://mongolia.seesaa.net/article/473412021.html

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posted by 村上吉文 at 15:10 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加