2019年09月16日

ICT化は国民の生死に関わる

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス




冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

僕は政治には口出ししたくないんですが、これはいくつもの、もしかしたら年間何千もの命がかかっていて、 でもそれに対する危機感があまりにもないような状況なので、例外的に口を出します。

今月12日の記者会見で、竹本直一IT担当相は行政手続きのデジタル化と書面に押印する「はんこ文化」の両立を目指す考えを示したそうです。
「印鑑との両立目指す=竹本IT相:時事ドットコム」
竹本氏は「日本の印章制度・文化を守る議員連盟(はんこ議連)」の会長を務めている。閣僚としてデジタル化を進める立場との整合性を問われ、「対立軸に見るのではなくて、共に栄えるためにはどうしたらいいか」と述べた。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019091201108&g=soc


ハンコが一つの文化であるということは僕も分かります。 同じように、書道も素晴らしいし、剣道も素晴らしいし、絵画も素晴らしいですよね。僕にはハンコ文化の価値はそれほど分かりませんけど、その価値を認める人にとっては文字通りその価値があるのでしょう。

しかし書道も剣道も絵画も、昔は伝統文化ではなく、実用的な技術だったわけです。 しかし硬筆や銃や写真などの新しい実用的な技術が生まれたことによって、 その立場を変えました。ハンコも同じように、もう社会が引導を渡さなければいけない時代です。実用的な仕事の現場ではなく、芸術文化として生きてもらえばいいのではないかと思います。

【これは生きるか死ぬかの話】

これは単純に新しいか古いかとか、僕が好きか嫌いかという話ではなく、何百人もの人が生きるか死ぬかという話だと僕は理解しています。というのも、生産性が低いと仕事をする時間がどうしても長くなってしまい、結果的に過労死などにつながってしまうからです。

それでは現在、一年でどのぐらいの人は過労死でなくなっているのでしょうか。

例えば、NPO法人POSSE代表で、雇用・労働政策研究者の今野晴貴さんの「電通事件から3年、過労死対策の現状は? −最新のデータから考える−」によると、過労死(突然死)の典型である、脳血管疾患又は虚血性心疾患等による死亡者で、60歳以下だった人が2015年のたった一年で7220人もいて、また、職場の問題を理由に挙げて自殺した人は2000人 にものぼるそうです。 こうした突然死が全て過労死とは限りませんが、過労による交通事故の犠牲者などもここには入っていませんから、 ここでは9220人もの人が一年間に過労死していると考えましょう。これは毎日25人以上、つまり1時間に一人誰かが過労死しているという規模です。 交通事故で死んでる人ですら3532人(2018年)でしたから、過労死は交通事故よりもずっと恐ろしい状況なわけです。

【アナログとデジタルの生産性の違い】
もうかなり前になりますが、 語学教育関係の書籍をたくさん出している出版社「アルク」さんと仕事をしていたことがあります。 そこでは原稿料をもらうときに、 「納品書兼請求書」というメールが送られてきて、 「ご確認の上、問題なければ本メールをそのままご返信ください。」という手続きになっていました。明細や金額などもメールの本文にあるので、メールを開けばそれ以上の手間はかかりません。すごく楽でいいですよね。僕の記憶が正しければこれはアルクが上場した後の話なので、普通の会社の会計の方法としてこれで問題ないのだろうと思っています。

一方で、僕の知っている別の組織では、今でもこうした書類をメールに添付しています。押印も必要なので、メールを開いた後でそれに添付されているファイルを開き、それをプリントし、そこに押印し、それをスキャナーでスキャンして、その画像ファイルを仕事用のパソコンに送り、それを返信用のメールに添付し、 送信ボタンを押します。原本も必要なので、封筒に宛名を書き、差出人の住所と名前も書き、書類を入れて、封をして、切手も貼って、ポストに投函します。DHL で受け取る書類もあり、その場合は往復1時間をかけて市内のDHL代理店に取りに行かなければいけません。(単身赴任で昼間は受け取れないので)

以前、「むらログ: 原本主義とハンコが日本を滅ぼす」という記事にも書きましたが、こうした伝統的な事務手続きの生産性は原本もハンコも必要としないデジタルなワークフローに比べて、生産性は1割もないのではないかと思います。

【ICT化で何人救えるのか】
このように ICT 化すれば、業務の負担は大量に軽減することができます。 それでは年間9220人の過労死のうち、何人を救えるのかと言うと、実は僕にもわかりません。

というのも、過労死している人たちの職業がわからないので、 ICT化の恩恵を受けられるようになったのかどうかを確かめることができないからです。例えば、日本の産業構造はすでにホワイトカラーの方がブルーカラーの人よりも多くなっていると聞いていますが、その割合がそのまま過労死の場合にも当てはまるかどうかはわかりません。ブルーカラーの方が長時間労働は体への負担は多いように想像はしていますが。また、 ホワイトカラーの人の中にも、すでにICT化された職場で働いていたのに過労死してしまった人もいるかもしれませんし(とはいっても個人的に ICT 化されている職場では過労死するようなブラックな環境はほとんどないのではないかと思っています)、業務そのものが ICT 化しにくいところもあるでしょう。

僕の感覚としては、かなり少なく見積もっても、 ICT化をすると今の過労死の1割ぐらいは死なずに済むのではないかと思っています。あくまでも感覚なので、客観的な根拠はありません。もし仮に1割だとすると、年間922人の人が死なずに済むわけですよね。百歩譲って ICT 化によって1%しか過労死が減らなかったとしても、一年間に92人が死なずに済むということになります。そしてこの92人の周りには、死んでしまったら多くの影響を与えてしまうに違いない家族や友達や同僚、親戚などもいるわけです。過労死の数が仮に1%しか減らなかったとしても、これだけ多くの人の命が救われ、何百人もの人の人生にネガティブな衝撃を与えないで済むのです。

それで救われる命の数がいくつになるのかは僕も分かりませんが、非常に生産性の低いワークフローのままの現場があり、かつ、年間9000人以上の人が過労死している可能性があることを考えると、業務の ICT 化が多くの人命を救うのは間違いありません。端的に言えば、アナログのままでは死んでしまう命が、 ICT 化で救われるのです。その命はもしかしたらあなたかもしれませんし、あなたの家族や、友達や同僚なのかもしれません。

そして冒険は続く。

【ブログ更新情報のメールでのお知らせ】
「むらログ」更新情報のメール通知を希望される方は、こちらでご入力ください。
https://forms.gle/4pjSC8DmmW8BEbUv8

【参考資料】
印鑑との両立目指す=竹本IT相:時事ドットコム https://www.jiji.com/jc/article?k=2019091201108&g=soc

電通事件から3年、過労死対策の現状は? −最新のデータから考える−
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20190104-00110077/

「電話」や「ハンコ」にこだわる中高年が会社を潰す理由 | 社会貢献でメシを食う。NEXT 竹井善昭 | ダイヤモンド・オンライン https://diamond.jp/articles/-/152592

印鑑廃止、業界団体の反発で見送り これは「異常な光景」なのか? (1/3) - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1903/22/news024.html

日本のハンコ文化(笑)が、生産性を著しく低下させている。 : 障害者から見た社会 http://www.mourousya.com/archives/14829235.html

「デジタルファースト」で岐路に立つ日本の「はんこ文化」 | 日本再発見 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト https://www.newsweekjapan.jp/nippon/season2/2019/02/230935.php


【コメントはソーシャル・メディア上の記事別ページヘどうぞ!】
https://www.facebook.com/murakami.yoshifumi/posts/10219422883504785
https://twitter.com/Midogonpapa/status/1173567791003078656
https://note.mu/adventurer/n/nb9c1994445d6
https://b.hatena.ne.jp/entry/mongolia.seesaa.net/article/470126198.html
https://murakamiyoshifumi.tumblr.com/post/187754224838/
https://adventurers-hideout.slack.com/archives/CB6K25MCY/p1568637318000300


【『冒険家メソッド』と電子書籍「むらログ」シリーズを購入して海外にルーツを持つ子どもたちを支援しよう!】
2014年以降のこのブログの内容はKindle本にもまとめられています。2019年中にこちらの本をご購入になると、その収益は全額が「海外にルーツを持つ子どもと若者のための日本語教育・学習支援事業」を実施しているNPO法人YSCグローバル・スクールに寄贈されます。ココ出版の『冒険家メソッド』は初版の本体価格の5%が同センターに寄贈されます。
https://amzn.to/2RiNThw

posted by 村上吉文 at 11:27 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加