2019年09月08日

ソーシャルVRによる言語習得の現在と未来

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス




冒険家の皆さん、今日も警察署に入るのを断られて「I’ll be back.」と言い残してからトラックを探していますか?

日本では文化庁の日本語教育大会の二日目が台風のせいで中止になってしまったようで、お金を払って東京まで来た人たちの怨嗟の声がソーシャルメディアにあふれていますが、 主催者には届いているでしょうか。このようなリスクを防ぐには、オンラインで中継するということを最初から予定していれば良かったのではないかと思います。特に国家機密を扱うようなイベントでもありませんし、僕でよかったら来年は協力しますよ。

さて、これまで2回にわたり、語学教育における VR の未来の姿をあくまでも僕の主観に基づいてご紹介してきました。教科書的に VR を使う場合と、コンテンツを楽しみながら語学習得をする場合です。今日はこのシリーズの3回目として、ソーシャルメディアを活用した言語習得を VR の面から考えてみたいと思います。

前にも書きましたが、 VR は色々なジャンルがあり、ユーザー同士が交流するソーシャル VR も現在非常に人気があります。詳しくは以下の記事をご覧ください。

むらログ: ソーシャルメディアとしてのVR
http://mongolia.seesaa.net/article/469207633.html

学習者にもいろいろなタイプがあって、外向的で人との交流を通してエネルギーを得ることができ、そこから新しいことを学ぶのが好きなような人たちには、前回ご紹介したようなコンテンツを通して日本語を習得するモデルよりも、こうしたソーシャル型の習得モデルの方が適しているのではないかと思います。

以下の記事では VR については触れていませんが、こうしたソーシャル型の学習者についてもインタビューをまとめたことがあるので、ご関心のある方はこちらもご覧ください。

むらログ: 独習者の3つのタイプ - ソーシャル型
http://mongolia.seesaa.net/article/454076600.html

この独習者インタビューから見えてくることは、教科書などを使って体系的に語学を習得する方法とは別に、最初からネイティブスピーカーと交流することを通して語学を習得することを好む学習者が存在し、そしてそれは実際に可能だということです。 VR ではないソーシャルメディアを通してそれが可能なのですから、もっと臨場感や没入感のある VR で不可能なはずがありません。

【1.今すぐにできること】
今すでに使える製品やゲームなどでできることとしては、上の「ソーシャルメディアとしての VR」 でご紹介した様々なスポーツやゲームなどをいろいろな国籍の学生たちで一緒に楽しむことです。Questsという4人でダンジョンを探検するゲームを二つの国の学生二人ずつでチームを作り、一緒にゴールを目指したりするのはどうでしょうか。

また、色々なトピックごとのチャットルームも開かれていますから、学習者の好きなトピックを選んで、そのチャットルームで学習言語を使って交流することもできます。

日本語のチャットイベントのカレンダーも、グーグルカレンダーで共有されていますし、適当な日時がなければ、もちろん自分で主催することもできます。

VRChat イベントカレンダー
https://sites.google.com/view/vrchat-event

【2.今の技術でできること】
僕はまだこのような VR のアプリを見たことがないのですが、音声認識をソーシャル VR に組み込んでみたら、第二言語習得には非常に有効なのではないかと思います。 音声では聞き取れなくても、音声認識で文字化されたものを読めば理解できるということは非常によくあります。相手の話している言葉が、字幕のように現れてもいいと思いますし、漫画の吹き出しのように相手のアバターの口のところから表示されたりしたらとても面白いと思いませんか?

なお、母語話者がその言語の学習者と話す時は、今のそれほど精度が高くない音声認識技術でもちゃんと文字化できるように、ある程度話し方に気をつける必要があります。あまり気をつけずに話してしまうと、間違って認識されてしまうことは今ではまだ珍しくありません。

それから、音声認識がさらに発展して、自動翻訳も同時に表示されると最高ですよね。今ではまだ、学習不安などを抱える学習者にとっては、ネイティブなどと交流するのに尻込みしてしまうのは不思議ではないと思いますが、 このような仕組みが実現すれば、 語学学習のかなり初期の段階から、ネイティブスピーカーと交流し、その交流を通して新しい語彙や文型を習得していくというモデルがもっと普遍的になっていくのではないかと思います。

こうして文字化されたデータは後で振り返ることができ、その会話の中で新しく知った言葉を単語帳に入れて後で復習したりすることも、今すでに存在する技術だけでも十分に実現可能です。

【3.技術が発展したらできること】
上でご紹介した音声認識や自動翻訳も、実はまだ精度はあまり高くないので、そうした技術に気を使わずに話すことを考えれば、「技術が発展したらできること」に入るかもしれませんが、ここではもうちょっと先の話も書いてみたいと思います。

まずはやはり、今のアバターを中心としたソーシャル VR の交流を受け入れられる人たちがどのぐらいいるのかわからないので、「ソーシャルメディアとしての VR」 でもご紹介したような、フェイシャルトラッキングという技術が早いうちに実装されることを期待したいですね。そうすれば、実際の僕と見分けがつかないようなアバターを通して、他の人と交流できるようになります。もちろんトランスジェンダーなどのような人は、自分のアイデンティティに沿った外見や声を使うこともできるようになるでしょう。

こうした自然な交流が可能になった未来において、 ソーシャル VR を利用した語学習得とはどんな形になるのでしょうか。

すぐに思いつくのは、会話を補助してくれるようなツールです。すでにいろいろな談話分析のデータが蓄積されていると思いますが、 そのデータを元に、現在の会話の流れから、次に言いそうなフレーズなどを予測して、学習者に提示するようなシステムが実現したらいいですよね。

イメージとしては、もう35年も前の映画になってしまいますが、アーノルド・シュワルツネッガー主演の「ターミネーター」に出てくるシステムが近いでしょう。ここでは、2029年の未来から1984年に来た殺人サイボーグが安宿の部屋の中にいて、その部屋の外にいる掃除人に声をかけられると、そのサイボーグのシステム画面上に「Possible Response」(ありがちな反応)というリストが表示され、その中の一つが選ばれて、サイボーグがそれを音声化して掃除人に話すのです。

The Terminator - Fuck You Asshole - YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=zlJtohZSsfY

こうしたシステムはもちろん殺人サイボーグだけのものではなく、語学の学習者にも有効なはずです。つまり、これらの候補を参照することができれば、学習者はゼロから文を作るのではなく、いくつかの選択肢の中から選ぶだけでいいのです。レベルが低い頃はもちろん自動翻訳もつけて、媒介語で意味を確認しながら会話を続けていくことができます。表示される選択肢にも「初級前半用」 などといったレベルを設定することができれば、難しすぎてわけのわからない言葉を棒読みするような事態は避けることができるでしょう。

そして「今の技術でできること」にも書いた通り、会話の後で自分の発言した内容を振り返り、そこに出てきた語彙や文法などを単語帳などに登録し、後で何度も復習することができるようになるのです。

映画「ターミネーター」が封切られた1984年、僕はまだ田舎の高校生で、2029年なんてとても想像の及ばない遠い未来でした。しかし、いつのまにか「バックトゥザフューチャー2」で描かれた未来の2015年を通り過ぎ、ターミネーターがやってきた2029年も手の届きそうな未来になってきました。そうしてふと気がつくと、その映画の中で描かれていたシステムが、自分の専門領域で近い将来利用できるのではないかと思っていたりします。僕たちはそういう時代に生きているんです。昔は諦めるしかなかった色々な可能性が、今は真剣に考えればできるようになってきています。諦めるしかなかった昔の人たちも無念さを無駄にしないためにも、僕たちはこうした現代だからこそできるかもしれない可能性にかけて、一歩ずつ前に進んでいくべき責任があるのではないでしょうか。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: ソーシャルメディアとしてのVR
http://mongolia.seesaa.net/article/469207633.html

むらログ: 独習者の3つのタイプ - ソーシャル型
http://mongolia.seesaa.net/article/454076600.html

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posted by 村上吉文 at 22:36 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加