2019年09月07日

コンテンツを楽しみながらVRで言語を習得できるか

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス




冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

前回は教科書的なVRの使い方をご紹介しました。しかし、このブログではいつも申し上げていますが、もはや語学学習に教科書は必要不可欠というわけではありません。そこで今回は教科書を使わずにエンターテイメント用のコンテンツを中心に語学を習得するCBLL, Content-Based Language Learning においてVRにどのような可能性があるかを考えてみたいと思います。(なお、CBLLの論文などでは、算数や歴史などの学校の科目を通して語学を身に付けるものが多いですが、ここではそういった勉強用のコンテンツではなくエンターテイメントのものを中心に考えてみたいと思います)

まず、VR について考える前に、こうしたコンテンツを利用して言語を習得する方法について、これまで何人かの独習者にインタビューしてきた内容をまとめた記事があるので、まずそちらを紹介したいと思います。

むらログ: 独習者の3つのタイプ 「アニメ型」
http://mongolia.seesaa.net/article/453831491.html

詳しくはこの記事を見てもらうとして、要するに現代では留学などしなくても、その言語が話されているコンテンツを大量に消費しているうちに、勉強しているという自覚などもないまま、いつのまにかその言語を習得してしまっているということがあるのです。意図的にそのような習得をする場合もあります。日本人が英語を勉強する方法としては、僕の『冒険家メソッド』でも簡単に紹介していますが、以下の本はまるまる一冊がその方法について詳しく触れられています。電子書籍版もあるので海外に住んでいる人でも読むことができるでしょう。

「日本で、自宅で、一人で、ここまでできる! 海外ドラマDVD英語学習法」
https://amzn.to/2MZCvYU

【なぜVRでCBLL?】

コンテンツとVRの関係において、まず特筆しておきたいのはその圧倒的な共感させる力です。例えば、『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』によると、「国連の内部データによれば、VRドキュメンタリーを体験した人は、そうでない人の二倍の率で寄付をする」そうです。VR を体験したことがない人は「そんなバカな」と思うかもしれません。そう思う人の中で、もしお近くに VR ゴーグルを貸してくれる人などがいらっしゃいましたら、例えば「Clouds Over Sidra」というヨルダンの難民キャンプに暮らすシリア人少女の動画をぜひ見てください。 YouTube で公開されているので無料で視聴することができます。二次元のものではなく360°の 動画を選んでください。 シリア人の少女シドラの住むテントの中で、目の前にいるシドラが語りかけてきます。寄付をするかどうかはともかく、平和な国に住む全ての人がこの動画を見て考えてほしいと僕も思います。

以下にリンクを張っておきますが、これはVRをつけていなくても、普通のパソコンやタブレットの画面でご覧になることもできます。ただ画面の中をドラッグすると、初めは見えてこなかった角度の部分も見ることができますよね。これはこの動画が360度動画だからです。できればパソコンやスマホではなく、 VR ゴーグルを利用してこの動画を視聴していただければと思います。

Clouds Over Sidra
https://www.youtube.com/watch?v=mUosdCQsMkM

ご覧になればわかると思いますが、これは既に録画されているコンテンツなので、ここまでこのブログでご紹介してきたようなゲームとはかなり違います。この世界の中でできるのはあたりを見回すことだけで、移動することはできませんし、その世界のものに触ったり動かしたりすることもできません。しかし、360度の動画なのでその世界の中にいるという臨場感がこれまでの映画などとは全く違うところなのです。

このようにその世界の中に入って1人称視点で体験できる映画は「VR映画」と呼ばれています。


【1.今すぐにできること】

VR映画ではこのような臨場感を生かして、すでにいろいろなコンテンツが制作されています。例えば、以下の「The Limits」という映画の予告編をご覧ください。

THE LIMIT Official Trailer (2018) Norman Reedus, Michelle Rodriguez, VR Movie HD -
https://www.youtube.com/watch?v=32rkl0qm1uQ

おそらくこの映画の中で一番多く映るのはこの予告編の中に出てくる女性だろうとは思うのですが、この映画の主人公は誰かと言われたら、もしかしたら視聴者なのではないかという気もします。007シリーズで「ボンドガール」と呼ばれるパートナーが毎回必ず出てきますが、主人公はジェームス・ボンドですよね。そしてこの映画は、あたかもジェームス・ボンドの視点でボンドガールと話しながら物語を進めていくような形式で撮影されているのです。

といっても、もちろん全て録画なので、1人称視点で見えるだけで、ゲームのように能動的にこの世界の中で行動することはできません。しかし、3DのVRで撮影されていることによる極めて高い臨場感により、 今までとは全く違った体験になるわけですね。実はVRといってもこれは、世界の半分しか写っていない180VRという種類のものなのですが、 VR としてどのように見えるかということは、以下の体験動画の方がわかるのではないかと思います。

THE LIMIT - A COOL VR MOVIE EXPERIENCE // Oculus Rift + Touch // GTX 1060 (6GB) - YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=yBeNZ-bn0Vs

実は僕自身は、このように動きの激しいアクション系のVR映画は酔ってしまいそうでまだもう一つ楽しもうと言う段階ではありません。ただし、今後は大手も少しずつ参入してくるのではないかと思っています。例えばディズニーはもう「Disney Movies VR」https://www.disneymoviesvr.com/ というアプリを作っていて、3 D で作られた最近のディズニー映画の名場面ばかりを楽しむことができるようになっています。詳しくは以下の YouTube 動画で確認することができます。アベンジャーズやスターウォーズの世界も体験できるようですね。

Let's Experience Disney Movies VR on Oculus Rift! - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=q5xkkExddmM

同じようなVR映画はもちろん日本でも製作されていて、 この夏は「Evangeline:AnotherImpact(VR)」、「おそ松さん」、「夏をやりなおす」などが公開されました。

映画やテレビドラマを使った語学の学習が可能であるのですから、当然このように VR を使ったCBLLもすでに可能な段階に入ってきています。 やはり現状ではVR ではない映画やテレビドラマなどに比べるとコンテンツが少ないのですが、 それは今後、 VR ゴーグルの価格が安くなり、性能が良くなっていくことによって、解決されるのではないかと思います。そして何よりも、没入感や臨場感がこれまでとは全く違い、傍観者として作品を楽しむのではなく、登場人物の一人としてその世界の中に入るという理由で、そこで触れた言語はより印象的に記憶に刻まれることになるのではないかと思います。

【2.今の技術でできること】
それでは今すでに存在している技術で、これからどのようなCBLLが可能になるでしょうか。まず一番簡単なのは、字幕です。 VR 映画の中には字幕がすでに実装されているのもありますが、例えば上で紹介した「The Limits」はスペイン語や日本語などの字幕はあるのですが、英語の字幕がありません。これではせっかく英語の世界に浸っていても、学習者のレベルやタイプによって効果的ではありませんよね。

そして、これは前回の記事にも書いたのですが、電子書籍の専用端末である Kindle にインストールされている、辞書と連動した単語帳の機能が、この VR 映画でも利用できると学習効果は非常に高くなるでしょう。

それからもう一つ、『レディー・プレイヤー1』 にも大きなヒントがあります。前回の記事では、 VR の世界なのに学校を再現したような教育制度になっていて、「そのイマジネーションの貧困さにがっかりした」という批判を書きましたが、実は語学学習に関しては非常に革新的なアイデアが、この小説には書かれているのです。

これも映画版では省略されているのですが、物語の終盤に、こんなゲームが出てきます。

そのゲームをスタートすると、プレーヤーは『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』や、『ウォー・ゲーム』 のような70年代や80年代を代表する有名な映画の中にいます。ただし、傍観者として見ているのではなく、VR映画「The Limits」のように主人公の視点になっています。 VR 映画と違うところは、主人公にもセリフがあるというところです。脇役に話しかけられて、映画の通りに返事をしないと、ゲームを進めることができません。要するに歌を楽しむためのカラオケを、歌ではなく映画を楽しむためのゲームにしたようなイメージです。 『レディー・プレイヤー1』 の中ではこれは教材ではなく、あくまでもゲームとして出てくるのですが、これは当然、第二言語でやったとしたら非常に学習効果がありますよね。しかもこれに必要な技術はポリゴンなどでその世界を再現することと、音声認識だけですから、技術的にはルーマニアの小さな会社Mondlyが既に実現しているレベルでいいのです。

想像してみてください。あなた自身が宇宙戦艦ヤマトの管制室で「エネルギー充填120%!」というところを。あ、古くて分かりませんか、すみません。 最近だったら「青空よりも、俺は陽菜がいい!」くらいでしょうか。そういう台詞を、その世界の中に入って、その世界の登場人物に対して言うことができるのです。 ヤマトを知らない人に「エネルギー充填120%」が分からないのと同じように、そのコンテンツを知らない人にとっては、あまり意味がない活動だろうとは思いますが、思い入れのある作品で その登場人物としてロールプレイができるとしたら、 それは二度と忘れられない体験になることは間違いないと思います。

【3.技術が発展したらできそうなこと】
CBLLというのはもうすでに存在しているコンテンツを利用して語学を身に着けるということですから、前回の記事で書いたような人工知能などはあまり出番はなさそうな気がします。しかしあえて考えてみると、先ほど申し上げた映画の登場人物になってそのセリフを言う学習方法で、学習者が話したセリフがどれだけオリジナルに近いかを判定して点数を出したり、 その違いを言語化して「プロミネンスの位置が違います」「もう少しゆっくり話してください」などと指摘してくれるとありがたいですよね。 あるいは間違えた部分のオリジナルの音声と学習者が話した音声の録音を再生して、学習者に気づいてもらったりするのも良いでしょう。

さて、今回はコンテンツを楽しみながら第二言語を習得するCBLLの面から、VRについて書いてみました。「すでにやっている」という人や、「他にこんな可能性もある」というアイデアをお持ちの方は、ぜひ各種ソーシャルメディアでコメントをお寄せください。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: 独習者の3つのタイプ 「アニメ型」
http://mongolia.seesaa.net/article/453831491.html

Clouds Over Sidra
https://www.youtube.com/watch?v=mUosdCQsMkM

【VR映画】VRで映画って!?最新VR映画をご紹介! | Spacely Tips https://tips.spacely.co.jp/vr-movie/

Disney Movies VR
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posted by 村上吉文 at 23:11 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加