2019年08月05日

運動感覚的言語学習とTPR(VR で教育効果が高まる理由2)

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス




冒険家の皆さん、今日も無限の剣製でエクスカリバーを投影していますか?

さて、昨日の記事ではどうして VR に教育効果があるかという理由の一つとして、「没入感」をあげました。今日はもう一つの理由として、「体の動きと直接つながっている」ということはあげたいと思います。専門用語でいうと「運動感覚的言語学習」というものです。

【運動感覚的言語学習とは】

この運動感覚的言語学習というのは、どのような VR 空間でも使えるわけではありません。例えば360度の動画を撮影して、 VR ゴーグルでその世界の中に入ったとしても、それはすでに録画されている世界ですから、その世界に対して何もすることができません。見渡すことはできますがその世界の中で移動することもできません。

しかし VR ゲームなどの世界では、部屋の中の位置やコントローラーとの位置関係から、ゲームはプレイヤーの位置や動作などを判断してそれをゲーム内の行動に反映させることができます。つまりプレイヤーはその世界の中で色々な行動をとることができます。 そこに学習を結びつけると深い効果があるのです。

例えば8月3日の記事でもご紹介したMITの相川さんは、プロジェクトメンバーとして「Words in Motion」 というシステムを開発されました。この時の論文の要旨は以下で読むことができます。(ログインすると全文を読むことができるようですが僕はまだ読めていません)
Words in Motion: Kinesthetic Language Learning in Virtual Reality
(動きの中の言葉:仮想現実の中の運動感覚的言語学習)
https://ieeexplore.ieee.org/document/8433514
この論文の要旨によると、 57名が参加した実験では、短期記憶では文字を中心にした学習よりも成績が悪く、 運動感覚的ではない仮想現実の体験と同じ程度の成績だったそうですが、 1週間後のテストでは他の被験者よりも有意に高い保持率を示したそうです。つまり頭だけではなくまさに「身」につくわけです。体を使って覚えると、それだけ深い層で習得されているということなのでしょう。

実際のシステムの一部を体験しているところの動画を以下でご覧になることができます。
Words in Motion on Vimeo
https://vimeo.com/268467504

Words in Motion from Fluid Interfaces on Vimeo.



肉の上に塩をふりかける時に「Sprinkle」などの英単語が表示されたりするところをご確認できるのではないかと思います。

この分野でも中国語教育はいろいろな事例が共有されていて、例えば以下の動画では中国語の指示通りに手足を動かすと点数がもらえるシステムが紹介されています。動画から学習者の動きを分析して、採点しているところが分かります。
SpatialEase - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=2tzRAkGgOLQ



【第二言語習得との関連】
この運動感覚的言語学習を具体的な教授法に落とし込んだものの一つにTPRがあります。しかも、2年前のブログにも書いたのですが、 VR は TPR と非常に相性が良いのです。 TPR というのは日本語教師の方なら皆さんご存じだとは思いますが、Total Physical Responseの略で、指示通りに体を動かすことにより、言語を教えるという教授法です。これは第二言語習得で言う「理解できる大量のインプット」を実現するために、学習者は言語によるアウトプットを行わずに、耳で聞いたことに対して身体で反応することによって言語を習得するのです。単に紙で答えたりするのではなく、全身でアウトプットをすることが重視されているので、 TPR も運動感覚的言語学習の理論に基づいていると考えて良いでしょう。

そして VR のゲームでは、プレイヤーの言語によるアウトプット、つまり音声認識によってストーリーを進めるものはまだ非常に少なく、そのほとんどはコントローラーを使ったプレイヤーの行動が中心になるものです。ビートセイバーのように音楽に合わせてオブジェクトを叩いたり、 ボクシングアプリでは対戦相手と殴り合うことによってゲームをプレイします。

つまりプレイヤーのアウトプットは言語よりも行動が中心になるわけですが、ゲームの中には音声で指示をされて、その通りに行動することによってゲームを進めるものがいくつもあるのです。これはまさにカジュアルな形ではありますが、TPRそのものです。以下にいくつかゲームを紹介しましょう。

【市販アプリでも応用できるか】
僕が実際にプレイしたことがあるのは「ジョブ・シミュレーター」というものです。 このゲームでは、進行役のロボットがプレイヤーに指示をしてくることもありますし、選んだ仕事によっては同僚や顧客が何らかの依頼や指示をしてくることもあります。そしてプレイヤーは言語でそれに対応するのではなく、実際にゲームの中の行動でプレーをします。そして正しく行動すれば、ゲームをクリアできるわけです。これも実際の画面で見たほうが早いと思いますので、こちらの実況録画をご覧ください。(これは僕が撮影したものではありません。)

【VR実況】弟者,兄者,おついちの「Job Simulator」【2BRO.】 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=F7T3oioKngw


ゲーム内では英語が使われていますが、実況者は日本語で説明しているので分かりやすいのではないかと思います。

英語の非母語話者としてプレイしてみた印象としては、「巻き戻しボタンが欲しい」と言う気持ちはやはりどうしてもありますね。指示を聞き落としてしまったりすると、何をすればいいのかよく分かりません。しかしその一点だけ改善すれば、 TPRの語学教材として、現段階でも教室で使うことができるのではないかと思います。

もう一つ僕がプレイしてみた事があるこの手のゲームとしては、「アカウンティング」というのがあります。これは会計士が電話などで指示を受けながら行動するのですが、実際には会計の仕事とはほとんど関係ない行動ばかりです。それから英語はかなり品がない言葉もたくさん使われていますので、すぐには英語の教材として使うことはお勧めできませんが、 その場面でやらなければいけない行動をとらないと、何度も繰り返して同じ指示を受けるという面が、非常に TPR 的です。僕がプレイしたのとは別のバージョンですが、ほとんど同じ内容の動画がありますのでこちらにご紹介しておきます。

Accounting+ | PSVR Review - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=-9mlUeoJbAA


もう一つだけご紹介します。
僕自身はプレイしたことはないのですが、先日 Twitter であひるさん(@ahiru5963)に教えてもらった『CIRCLE of SAVIORS』というゲームです。「異世界」とか「召喚」とかいうのが非常に日本のファンタジーゲームらしくて、異文化体験としても役に立つかもしれませんね。

『CIRCLE of SAVIORS』最新版公開😎 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=J3eNlOdcqcc


このプレイ動画の中でも、プレイヤーが「右に避けてください」「左に避けてください」と指示されるところがあります。その通りに動かないと巨大なラスボスに踏み潰されてしまうのです。また、どのくらい精度がいいのかは不明ですが、プレイヤーが呪文を唱えるところもあります。ここも音声認識できちんと呪文が確認できたらその魔法が発動するという仕組みになっているようです。ここは TPR とは違いますが、言語を使ってゲームをプレイすることができるようになっているという点で非常に興味深いですね。

今日のこの記事でご紹介した運動感覚的言語学習と TPR という概念は、教育の中でも語学にしか関係しませんし、 VR の中でもゲームなどのようにその空間の中で学習者が自由に行動できる時にしか使うことはできません。しかし「学習内容が言語である」ということと、 「VR 空間の中で行動できる」という二つの条件が揃っていれば、色々な論文が示す通り、高い学習効果が見込まれるものと思います。

まだまだ書きたいことはたくさんあるのですが、今日も時間ですのでここまでとさせていただきます。次回は、なぜ最近になって急に教育の世界で VR が注目され始めたのかということについて書いてみたいと思いますが、これからBC州のビクトリアに出張ですので、続きはちょっと遅くなってしまうかもしれません。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: 仮想現実が語学教育を変える! (2017)
http://mongolia.seesaa.net/article/452046082.html

むらログ: VRゴーグルの教育的効果
http://mongolia.seesaa.net/article/468489344.html

むらログ: 外国語教育における VR 技術の応用の実践例
http://mongolia.seesaa.net/article/468521705.html

むらログ: 没入感(VRで教育効果が高まる理由1) http://mongolia.seesaa.net/article/468548043.html

Learn Languages in VR with Mondly for Daydream VR! Hands-On Review with Japanese and Spanish! - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=_m5h8iWLto8

『CIRCLE of SAVIORS』最新版公開😎 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=J3eNlOdcqcc

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posted by 村上吉文 at 22:45 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加