2019年07月29日

ホームスクーラーのための漢字学習法

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス



(写真は「書まま帳」学習ノート)

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

今日はマニトバ州のウィニペグで行われたai-konというイベントでアニメファンのための日本語学習法について話してきました。ただいまウィニペグの空港についたところで、まだ搭乗時間まで少し時間があるので、さきほど見かけたツイートについて書いてみたいと思います。https://twitter.com/chance_aco/status/1155366700658786304
(追記:現在は非公開になっているようですが、「漢字を繰り返して書いて覚える練習が苦手」とのことでした。)

僕も身近にそういう子どもがいるので、こういう状況は非常によく分かります。

ADHDに限らず、漢字練習帳とかに同じ漢字を繰り返し書くのを嫌う子どもは少なくないと思います。こういうのが好きな子どもはどんどんやればいいと思うのですが、いくつかの条件が当てはまれば、僕はこういう練習はまったく必要ないと思います。むしろ、やめさせたほうがいい場合もあります。

その条件というのは、以下の4つです。
・両親ともに日本人で、家庭内の言語が日本語である
・日本に住んでいて、雑誌やテレビなどの日本語のメディアに触れる機会が豊富にある
・すでにひらがなは読める
・同じ漢字を繰り返し書く練習が苦手(あるいはやる意味が見いだせない)

こういう場合に無理に漢字を書く練習をさせると「他に漢字を身につける方法がいくらでもある環境にいる」というメリットが活かせない一方で「漢字が嫌いになる」というデメリットがあります。はっきり言ってやめたほうがいいです。

ではどうすればいいかというと、理解可能なレベルの日本語をひたすら読ませるのです。内容は何でもかまいません。年齢や好みによって『かいけつゾロリ』シリーズがいいときもあるでしょうし、子どもによっては『ハリーポッター』シリーズが人生で初めてハマった本になることもあります。

これらの本では漢字にはルビが振ってありますから、少なくとも義務教育で習うぐらいの漢字はすぐに読めるようになります。(ハリーポッターにはいろいろなバージョンがありますがペガサス文庫のものは総ルビだそうです。)

本が嫌いな子どもには、好きなことに関する情報収集をウェブでさせましょう。僕の知っている別の子どもは、就学前から料理やクッキーなどを作るのが好きで、クックパッドをよく見ていました。もちろん読めない漢字もたくさんありましたが、その子の場合は「rikaikun」という拡張機能を使っていました。これは日本語を母語としない人が使うものですが、僕の経験からは日本語を母語とする未就学児にも非常に有効だと思います。当時は使っていませんでしたが、最近は自動読み上げの拡張機能もありますから、その使い方を教えるだけでもいいでしょう。僕がおすすめするのは「Read Aloud」というChrome用の拡張機能です。iPadなどのタブレットの場合は、その漢字を長押しするだけで「調べる」というメニューが出てくるので、すぐに読み方を知ることもできるでしょう。ゲームが好きな子どもの場合は、そのゲーム名と「攻略」という言葉で検索すると、いろいろな攻略サイトが見つかるので、そこから先は子どもに読ませるといいと思います。Discordというゲーマーの好きなSNSもあるので、そこで子どもの好きなゲームを扱っているサーバーを探すのもいいでしょう。

以上の「理解可能なレベルのものを大量に読む」というのは第二言語習得の基本で、多くの研究に基づいていますが、漢字練習帳などに同じ漢字を何の文脈もなく繰り返して書き続けることが有効だという研究は僕は見たことがないし、日本語を母語としない日本語学習者への日本語教育の現場でもほとんど採用されていないので、本人が喜んでする場合を除いて、やめたほうがいいでしょう。ただし、体を動かしたほうが覚えやすいという認知特性を持った子どももいるので、本人が喜んでやる場合はもちろん邪魔しないほうがいいです。

ただし、本人が喜んで書く場合でも、やはり「文脈がない」というのは言語習得においてはかなり重大な欠陥なので、同じ漢字を繰り返し書かせるよりも、自分の好きなことを書かせる方がずっと効率的ではないかと思います。と言っても、別にクリエイティブである必要はないのです。今日やったことを羅列するだけでもいいですし、好きなアニメのストーリーをそのまま文字化するだけでもいいでしょう。頭のなかに浮かんでくることをそのまま文字化するだけでもいいです。その場合は「書くことがないなあ。こまったなあ」などでもいいでしょう。

習った漢字だけは漢字だけで書かせるのでもいいでしょうし、子どもが自分で調べて書きたい漢字があればどんどん使わせましょう。(学校の先生が「習ってない漢字は書くな」とか言ったら、そんな学校には行かないほうがいいのでホームスクーリングにしましょう)

もしお父さん(あるいはお母さん)が一緒に見てあげることができなかったら、最近の音声入力(STTとかボイスタイピングとか言われるもの)を使って文章化してもらって、それをあとで見てあげるのもいいと思います。キーボードの配列を覚える必要もなく、どんどんデジタル機器で書けるようになります。やりかたはたくさんありますが、Googleのアカウントを持っていれば、Chromeのアドレスバーに doc.new (https://doc.new) と打ち込んで、次の画面で「ツール」から「音声入力」を選ぶだけです。マイクのボタンがありますから、子どもでもすぐに分かるでしょう。 doc.new へのショートカットをパソコンのデスクトップに作っておくと、これもすぐにできるようになるでしょう。

念のため音声入力を始めるための操作を動画で撮っておきました。本当に驚くほど簡単なので、ぜひ漢字の嫌いなお子さんにも使わせてみてください。
むらログ 「音声入力を始める方法」 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=VXi5ewi6Zt8


さて、『かいけつゾロリ』や『ハリー・ポッター』を読んだり、音声入力するだけで手書きできるようになるのかというと、そこは別の練習が必要かもしれませんね。しかし、それは受験の直前に対策としてやるだけでいいので、実質的な問題はないのではないかと思います。大事なことは、たくさんの日本語を読ませて語感を磨くことで、それには漢字嫌いにさせる要素はできるだけ排除しておく必要があります。

ただ、繰り返しますが、これは家庭内言語も身の回りのメディアも日本語のものが多い環境の話です。海外に住んでいたり、日本在住でも国際結婚などの場合は、こうした方法で万全といえるかは微妙なところだと思いますので、ご注意ください。

また、繰り返し同じ漢字を書く練習が好きな場合も、まあ、文脈がないのでかなり非効率だとは思いますが、やらないよりはずっといいので、特にやめさせる必要もないと思います。

搭乗時間までもう少し時間があるので、最後にもう一点だけ補足しておきます。同じ漢字を何回も繰り返して書くという練習は、田畑や工場などでの肉体労働が中心で、かつ自分で大量に日本語を書く必要もなく、書いたとしても手書きが中心で、文字の美しさで人格が評価されてしまうような時代には、時間をかけて毎日行う価値もあったかもしれません。

しかし、大量の情報を処理する必要があるオフィスワークが中心で、業務でも手書きはほとんど使われず、したがって字が下手でも不利益を被ることがほとんどない現代においては、単なる時間の無駄であると僕は思っています。もちろん、やりたい人が好きでやるのはかまいませんし、芸術としての書道もすばらしいとは思いますが、意味を感じられない人にとっては実際に意味がありませんので、今日ご紹介したような方法で漢字を身につけていただければと思います。

そして冒険は続く。

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ハリーポッターシリーズ(総ルビのペガサス文庫)
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posted by 村上吉文 at 21:01 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加