2019年04月29日

「成績上位層」を再定義しよう

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス




冒険家の皆さん、今日も海辺に放置された巨大な木馬に忍び込んでトロイアの人々に見つけられるのを待っていますか?

以前、Twitterで、仮想現実を教育に使うと成績の良くない人には従来の授業よりも高い効果があったが、成績の良い人にはあまり違いがなかったという研究を紹介しました。
長いので大雑把にしか読んでいないのですが、語学の勉強が苦手な学習者にとってバーチャルリアリティは大きな効果があるとのこと。(上位層にはそれほど効果はない)
”Immersive Virtual Reality as an Effective Tool for Second Language Vocabulary Learning”
https://www.mdpi.com/2226-471X/4/1/13/pdf 


graph.jpg
MDPI(クリックすると大きくなります)

また、先月デンバーで全米日本語教育学会(AATJ)に参加しましたところ、これと似たような発表を拝見しました。反転授業が成績の下のほうの層に効果があったと言うことです。その部分は予稿集には載っていないのですが、口頭ではそのように発表されていました。
「カリキュラム構築の視点から反転授業を再考する」(Reevaluating flipped classroom instruction from the perspective of curricular design)
Kasumi Yamamoto, Williams College
https://www.aatj.org/resources/conferences/2019/spring/AATJ2019SpringConferenceProgram_Abstracts.pdf

このときは「この間の仮想現実の論文と同じだなあ」と思って聞いていただけだったのですが、その後で、多読に関しても同じように「成績下位群に効果がある」という研究結果をみたのです。
#多読 は成績下位群に効果があるとのこと。最近よく見るんですが、要するに今まで僕たちが成績上位としてきたのは、単に従来の教え方に適性があっただけなのでは?
「教室内英語多読を通して英語作文力が向上した学習者の特徴 − Mixed Methods を用いた分析から−」http://repository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/17796/1/kyoikujissen2008.pdf
#論文 
 https://twitter.com/Midogonpapa/status/1118176187618971649

これらに共通していることは、仮想現実、多読、反転授業のように従来一般的だった教育方法ではないということです。 ということは、もしかしたら僕たちは文字を中心とした教育方法に適合しているごく一部の学習者にしか、きちんとした教育を与えてくることができなかったのではないでしょうか。

つまり、これまで「成績が良い」と言われていた学習者たちは、実際にはもともと高い資質を持っていたわけでも、他の人に比べて多くの努力をしてきたわけでもなく、たまたま学校の「文字を中心とした一斉授業」という学習スタイルに合った特性を持っていただけなのかもしれないと思うのです。

また、こうした最近の教え方によって成績の低い人たちを救うことができるのが明らかなわけですから、従来の教育環境は、本来なら成長することができる可能性を持っている人たちを初めから見捨てようとしている態度に他ならないということも僕たちは自覚しておかなければなりませんね。

発達障害などの関係者の間では、「視覚優位」という、耳で聞いても分からないことを文字で見せればすぐにわかるような子供がいることや、逆に音声でのコミュニケーションにはあまり問題ないものの、文字を読むのには非常な困難を生じる「ディスレクシア」という症状を持つ人たちがいることもよく知られています。 そしてこうした学習者と、平均的な学習者の間には明確な線が引けるものではなく、緩やかなグラデーションで少しだけ耳で聞く方が得意な人とか、少しだけ目で見た方が得意な人とかがいるわけですよね。

教科書を中心にして一斉授業で勉強する従来の方法が合わない人達にとって、今回ご紹介したような多様な授業の方法が選択肢として存在することは非常に重要だと思います。そのためにも僕たち教育に関わる人間は、こうした多様な選択肢を学習者に提案できるようになっておかなければなりませんよね。というよりそれこそが今の多様化した時代の教育のプロではないかと思っています。情報はあふれているので、自分で教えるよりも、そうした多様な学習者向けの多様なリソースを紹介できるということが求められているのではないでしょうか。

また、教育に関わっていない人も含めて、学校をいい成績で卒業してその後も真っ当な人生を歩めている人は、 もちろん本人の努力もあったとは思いますが、幸運によるところも多いわけですから、 特に自分が偉いわけでもないということは自覚しておかなければいけませんよね。自戒を込めて。

仮想現実などの技術が、従来の成績上位層以外の学習者にとってもよりよい未来を開くツールになってくれることを祈っています。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: 仮想現実が語学教育を変える!  2017年7月23日
http://mongolia.seesaa.net/article/452046082.html

むらログ: 反転授業をやってみた。 2014年4月16日
http://mongolia.seesaa.net/article/394799613.html

多読とは? | NPO多言語多読
https://tadoku.org/learners/l-about

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posted by 村上吉文 at 00:36 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加