2019年01月13日

原本主義とハンコが日本を滅ぼす

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


冒険家の皆さん、今日も蜜柑の汁で書かれた宝箱の隠し場所を蝋燭の炎で炙り出していますか?

さて、このブログにも何度か書いてきましたように、昨年11月下旬から今年の元旦まで日本に1ヶ月ちょっと滞在しておりました。その間、父の死去に伴う様々な行政手続等を体験してきたのですが、そのあまりの非効率さに心の底から驚愕と落胆を感じておりますので、今日はそのことについて書いておきたいと思います。

まず、手続きが煩雑で、色々な書類が必要になるというのは、日本でもカナダでも同じです。「こんな一見関係ないように見える書類まで本当に必要なのか」というものまで要求されて、それを役所に提出しなければいけないのは、僕もカナダの労働ビザを取るときに痛感しました。

ただ1つだけ違うのは、カナダの行政手続きは原本を必要とせず、スキャンされた電子データだけで全て手続きが進むということです。僕は1度もカナダ大使館に行く必要はありませんでした。というよりむしろ日本にあるカナダ大使館は労働ビザを発行する手続きにおいて全く僕とは関係せず、カナダ国内にあると思われる移民局とのやりとりか全てでした。やりとりといっても、すべてウェブ上での操作で手続きが済むので、人間の担当者とのやりとりは1度もありませんでした。「ビザが発行されました」というようなメールも、その判断自体は人間がするのでしょうが、メールはおそらくシステム的に自動に生成されて同じ文面が送信されるのだと思います。

一方で、日本では全て原本が必要になります。例えば父の遺産を引き継ぐには、相続人が僕と母と兄の他にいないことを証明するために、父が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本が必要になるのですが、原本が必要なので父の故郷である尾道市役所まで戸籍謄本の発行をお願いしなければなりませんでした。せめてお願いするところぐらいは電子化できるのではないかと思うのですが、返信用の封筒に切手を貼って同封して送らなければいけないので、お願いする段階からアナログの郵便です。このお願いも一度だけでは足りず、印刷してみたら枚数が多かったので書類発行料金が余計にかかることになったということで、ここもせめて書類発行料金の支払いぐらい電子化できるんじゃないかと思うのですが、郵便小為替というもので支払わなければいけないので、わざわざ郵便局まで何度も行かなければなりません。カナダではこの辺はすべてクレジットカードなどの電子的な方法で支払いができます。

相続人が特定されて他に相続人がいないことが分かると、それに基づいて遺産分割協議書というの作るのですが、(正確には作らなくても良いのですが、法律の規定通りに遺産を分けてしまうと母が生活できないので、すべて母が相続するという形にしました)、今度は僕が印鑑登録されている印鑑を持っていないということで、ばかばかしいほど時間がかかりました。僕のように海外在住の人間は日本に住民票がないので、もともと印鑑登録ができないのです。そして登録された印鑑による捺印なしに遺産分割協議書を有効なものにするには、公証役場というところに行って公証人という人の前で僕が署名をしなければいけないのです。同じ市内に公証役場がないので隣の市までわざわざ行かなければならないのですが、ここも新たに足りない書類が見つかったりして、結局3回も往復することになりました。

とにかく一事が万事、このようなペースで進むのです。まるでマトリックスのBullet Dodgeのシーン(https://youtu.be/xZ0OUq_kDh8)のようにスローモーションにしか見えません。

日本のホワイトカラーの生産性は、ドイツやフランスなどの先進国に比べて7割程度と言われていますが、僕から見るとこんなに高い数字をたたき出しているのは驚異的です。体感的には、こうしたアナログな事務手続きに関しては、日本は先進国の1割ぐらいの生産性しかないように思っています。7割ぐらいまで持っていくことができているのは、じっくり考えたりする部分でアナログもデジタルもあまり生産性が変わらないという理由と、極限まで無理をしてアナログなまま生産性を上げようとしているからではないでしょうか。つまりこうした作業を電子化すれば、簡単に先進国並みの生産性を上げることができるようになる上に、働き方革命などで問題視されているような無理な働き方はしないで済むようになるのではないかと思います。簡単なことです。電子化すれば良いだけですから。そしてそれはすでにいろいろな先例があり、ただ真似すればいいのです。戦後に日本がアメリカの自動車の大量生産を真似して追いついたように、今度もただ真似するだけで楽になることができるのです。 やらない理由など全くありません。みんな定時に帰れるようになります。

現在日本で中心とされている原本主義とハンコの文化については、 アナログの時代にはそれなりに機能していたので、歴史的には価値のあるものだったと思います。例えば僕の名前で印鑑の押されている書類があったとして、それを本物かどうか見極めるには偽造されにくいことがとても重要だったのは理解できます。しかし今はインターネット時代で、もし僕が承認したことになっている書類で本物かどうか怪しいと思ったら、地球の裏側からでもすぐに僕に連絡して、「この書類は本物か」と直接確認することができるのです。このような連絡手段のない時代には、目の前にある書類の印鑑が本物かどうかを判断する以外に方法はなかったので、どれだけ煩雑でも厳密な手続きが必要だったのは非常によく分かります。

また、以前は通信技術だけではなく印刷技術なども発展していなかったので、市役所の戸籍謄本等でコピーを防止するための紙を使うことにも一定の意味はあったと思います。しかし、参考資料のところでリンクを貼っているように、今では簡単に誰でも複写防止用紙を作ってしまうことができます。市販すらされています。スキャンや複写をすると浮かび上がってくる「複写」という文字も画像の明るさを調整したら消せますし、その上で複写防止用紙に印刷してしまえば、中学生ですら偽造することは可能でしょう。

つまり、膨大な手間と時間をかけてアナログの事務手続きの制度を整えていても、そのための時間や経費に見合うだけのリターンは今やないのです。というより、それだけの時間や経費をかけなくても、同じだけのリターンを得ることができます。つまり、無駄でしかないのです。実際に、書類をスキャンして電子的にやり取りするだけでも、先進国では問題なく事務手続きは処理できているのですから。

日本語教育の現場でも、紙のノートに手書きで引き継ぎをしていたり、ZOOMやSkypeやGoogleハングアウトでできる会議をわざわざ学校まで行ってやったりとか、教材をプリントしてそれをコピーしてそれを教室で学生に一人ひとり配ったりとか、アンケートも同じようにアナログで配布して回収して人間が手作業で集計したりとか、とにかく無駄なことが多すぎます。時間が無駄なだけではなく、交通費とかコピー代とか残業代とか、お金の面でも必要のない経費が大量に発生しています。前にも単純に比較したことがありますが、コピー用紙を買ってきて電気とカーボンを消費しながらアナログな方法で印刷した情報を配布するよりも、モバイルルーターでWi-Fiを飛ばして情報共有したほうが結果的には安いのです。オンラインでの会議や資料の共有も今では完全に無料でできます。

真面目な先生方は、「技術で楽をするなんてけしからん」と思う人もいるかもしれません。でもそれなら、このような無駄な手続きや作業に時間をかけるのではなく、もっと本質的に大切なところに教師としての力を注いでほしいと思います。無駄なコピーや通勤に時間をかけるのではなく、一人ひとりの学習者に一対一で向き合って、彼らの状況を共有してもらったり、一人ひとりのためのアドバイスなどしてあげてください。何十年も前の教授法ではなく、最新の教授法を身に付けるための勉強をすることだってできますよ。そうしたことをする時間がないのに、アナログな引き継ぎや、機械にやってもらえる集計等で時間を無駄にしているのは、教育者としての学習者への裏切りに他なりません。(もちろん、消耗しきっている先生方が定時で帰るために電子化するだけでも十分に価値のあることです)

この件については以前、「デジタルは暖かく、アナログは冷たい」http://mongolia.seesaa.net/article/463328816.html というエントリーで、学習管理システムを使えば学習者の成果物や課題の提出率などのデータが一瞬で取りまとめて表示されるので、一人一人と向き合って話し合うことができるという事例を紹介しました。真面目な話、紙が中心のアナログな仕事スタイルをとっている教育機関で、学習者一人一人と毎週定期的に面談する制度になっていて、しかもその時間が勤務時間として認識されて給料が払われるようになっているところって、いくつぐらいあるのでしょう。あまりないのではないかと思います。

もし皆さんの現場で、教室以外で学習者とコミニケーションする手段がなく、仕事が多すぎて大変だと思っていらっしゃるのなら、その理由の1つは間違いなく紙が中心のアナログな仕事スタイルにあると思います。

ただ、こうした社会を変えるには、仕事の現場を改善することだけではなく、消費者としてサービス提供者に要求する事でも少しずつ前に進むことができます。例えばお店で支払いをするときは、現金でなくカードを使ってみましょう。飛行機に乗るときは搭乗券を印刷しないでスマホで見せてから搭乗するようにしましょう。 セミナーや学会や研究会に行ったら、印刷された資料は拒否して電子媒体でもらうようにしましょう。そもそも行かないで済むようにライブ配信するように要求しましょう。出版社には電子書籍を出すように要求しましょう。子供の学校の学級通信も通信簿も電子版を要求しましょう。電話番号を聞かれたらメールアドレスを教えましょう。 そもそも電話なんて使うのやめましょう(リアルタイムの遠隔音声コミュニケーションなら、電話以外にいくらでも選択肢があります)。

こうして地道に一歩ずつ進んでいくことが、日本に住む人たちの生活水準を向上させ、人一人の幸せにつながるのではないかと思います。

そして冒険は続く。

【参考資料】
むらログ: アナログは冷たく、デジタルはあたたかい
http://mongolia.seesaa.net/article/463328816.html

むらログ: コピー機、そろそろやめません? :
http://mongolia.seesaa.net/article/460861058.html

田端信太郎 @田端大学塾長である!さんのツイート: "ハンコなくなてハンコ屋以外に誰が困るの?
https://twitter.com/tabbata/status/1079884360428412928

カイゼン お役所仕事(1)そのハンコ、必要ですか 残る慣習、変革の芽摘む :日本経済新聞 : https://www.nikkei.com/article/DGKKZO39460290X21C18A2NN1000/

国会のペーパーレス化に批判 小泉進次郎氏「意味がわからない」 - ライブドアニュース : http://news.livedoor.com/lite/article_detail_amp/15819504


複写防止用紙を作ってみたメモ – やもめも : https://iwashi.org/archives/1491

コピー防止用紙の作り方 | ちほちゅう : https://chihochu.jp/51901380/

最近驚愕した日本の教育界のアナログぶり。(主に保護者の問題ですが)
https://twitter.com/ciel_ak/status/1082935743167717376
https://twitter.com/changtaroh/status/1082595842035310593


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posted by 村上吉文 at 06:18 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加