2018年12月14日

『日本語教育のミカタ』

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

荒川洋平先生からご著書『日本語教育のミカタ ―対話で具体的に学ぶ新しい教科書』をご献本いただきましたので、簡単にご紹介してみたいと思います。

本の全体的な特徴としては、ロン先生というサンディエゴから来た先生が日本人の学生に対して、日本語教育について説明する形になっています。対話形式になっていて非常に読みやすいです。

第1章から第13章までは、何年か経験のある日本語教師にとっては、すでにおなじみの内容が多いかもしれません。しかし、最後の第14章のキャリアデザインに関する部分はかなり突っ込んだ意見が見られ、僕にとっては「よく言ってくれた!」と膝を打ちたい部分がいくつもありました。

「海外で経験を積む」
「じゃあ日本語教師になるとして、先生のおすすめルートと言うか、キャリアデザインは、どういうものですか?」
「やはり一つは、海外経験を積むことだと思います。」「コースデザインなども自分で責任を持つ場合が多いので、外国で教えると、教師としての力は伸びますね」


僕もよく思うのですが、どこで教えるにせよ、シラバスやカリキュラムのことを考えないで、「教科書のこのページを教えてください」というような指示を受けて、その通りに効率的に教えることができるようになったとしても、そこから先にキャリアは繋がっていない場合が多いのです。なぜなら、やはりコース全体のことを考えるためには、その授業で教える内容が全体のカリキュラムの中でどのような位置づけなのかとか、あるいは「文型シラバス」や「行動中心アプローチ」や、「コンテンツ重視のCBLT」や、「教師や学校がコンテンツを用意しない自律学習」などのような多くの学び方のうち、なぜその現場ではその特定のカリキュラムやアプローチが選ばれているのか、こうしたことを考える機会が必要だからです。国内でももちろんこうしたことを考える機会が皆無であるとは思いませんが、一般的には自分で教科書などを選べる立場に若い人がつくことはほとんどないでしょう。従って、上に述べたようなことを考える機会もほとんどありません。

一方、海外では大きな教育機関でも、日本語はその機関の中のごく一つの科目にすぎないこともありますし、 自分自身でシラバスやカリキュラムなどを考えなければいけないことが本当に多くあります。僕自身も、最初に日本の国内の日本語学校で1年間日本語を教えてから海外に行きましたが、日本の国内では教務主任の方が綿密なカリキュラムを立ててくださっていたのでそれに従うだけでしたが、翌年モンゴルの小中学校で日本語を教えるようになると、そこではカリキュラムなどは一切決まっていなかったので、何もかもゼロから自分で考える必要がありました。 実際それはとても大変な作業だったとは思いますが、その経験を通じて多くのことを学ぶことができたのも事実だと思います。特に、アニメや日本のトレンディドラマなどを通じて日本語を学ぶCBLT(Content-Based Language Teaching)を実践することができたのは、早い時点で文型シラバスだけが唯一のカリキュラムではないということに気がつくことができた点で、その後の僕のキャリア形成に非常に大きな影響を与えてくれたと思っています。

しかし残念なことに、こうした疑問を持つ経験を得ることができないまま、10年も20年も一つの教え方を続けてしまうと、それ以外の考え方が必要な時に柔軟に取り入れることができなくなってしまうのです。それは僕の職場で取り組んでいる行動中心アプローチに関しても同じでしょう。行動中心アプローチしか知らないまま10年も20年も日本語を教えてしまうと、それ以外の、例えば上記のCBLTなどが必要な場面で、そこから脱却するのは難しくなってしまうのではないかと思います。

「一種の専門日本語」
「もし国内で教えるなら、日本語を目的にするよりも、日本語を手段にする教育が、これからのキーワードになると思います。具体的にはビジネスとか医療とか、あるいはデザインなどを日本で学びたい留学生が、そのための手段として日本語を学ぶ場合があります。一種の専門日本語ですね」

14章のキャリアデザインの部分でもう一点ご紹介したいのは上記の部分です。これも行動中心アプローチのオンラインコースなどで僕がいつも言っていることなのですが、一般的な日本語を教えるだけなら、ネット上の無料のリソースやアプリなどとの競合になってしまうので、どうしても無料に近い時給で働かざるを得ず、そうした事態を避けたいのなら、やはり日本語教育に何らかの専門性を生かさなければいけないだろうということです。

それは必ずしも職業に限定しなければいけないものではなく、例えば日本の道場で合気道を身につけたい人のための日本語とか、日本のアイドルグループのファンクラブなどで他のファンと交流したりそのアイドルの情報を集めたりするための日本語とか、色々なものがあると思います。ここにあげた二つの例は、いずれも今僕が開催している行動中心アプローチの日本語教師研修で、参加者の皆さんから出てきているアイデアです。(そして実際にそのコンテンツの一部も開発されています) 

一般的な日本の国内の日本語教師養成講座などでは、何十年も前のオーディオリンガルアプローチに基づいた教科書の使い方だけ教えていたりするところもあると頻繁に耳にしますが、はっきり言ってこうした講座の出身者の皆さんには、あまり明るい未来は待っていないのではないかと思っています。僕自身の関わっているほとんどの現場でも採用することはできません。こうしたこと(「海外」と「一種の専門日本語」というキャリアの選択肢)も僕もこのブログで何度か書いていますが、著名な荒川洋平さんが著書の形ではっきり書いてくれたことを喜ばしく思っています。

それなりに日本語教師のキャリアを積んでいる人も、第14章はいろいろなことを考えるきっかけになりますので、ぜひ一読をおすすめしたいと思います。しかし、13章までも「日本語入力の練習は学習の初期から行ったほうがいい」とか、「21世紀の前半から中盤にかけては教材もソフトウェアというよりはアプリになっていく」とか新し目の視点も盛り込まれていますので、これから日本語教師になりたい人だけでなく、多くの人にとって新しい発見があるのではないかと思います。

そして冒険は続く。

【参考資料】
日本語教育のミカタ ―対話で具体的に学ぶ新しい教科書― 大型本 – 2018/11/30
荒川洋平 (著)
https://amzn.to/2Ge7q1a

むらログ: 多様性に対応しよう! 日本語教師の収入を上げるための一提案 :
http://mongolia.seesaa.net/article/449002533.html

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posted by 村上吉文 at 20:49 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加