2018年11月04日

ドイツの公費による移民へのドイツ語教育を検索してみた

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日も名剣バルムンクで邪悪なドラゴンを倒していますか。

さて、おとといの11月2日に、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、いよいよ国会で議論されることになりました。 実は24時間経ってもこの法案の原文が Web 上で見つからず、非常に驚いています。日本語教育にとってこれほど大きな歴史の大転換はあまりなかったと思いますので、僕自身が法案を見なければと思ったことがないのですが、こんなものなのでしょうか。有料のウェブページや、印刷媒体や電波などでは報道されているのかもしれませんが、閣議決定された内容が無料のウェブページでは確認できないという昭和的な状況に多少なりともショックを受けました。

肝心の移民に対する日本語教育を誰が負担するかという点については、日本テレビの報道で以下のように書かれています。

「語学の習得など、外国人労働者が日本で働いていく上で必要な生活上の支援を行うよう、企業側に求める内容になっている。」

つまり、公費ではなく移民を受け入れる企業が負担するという形になっているようです。そして、日本語教育関係者をはじめとして多くの人がこの点については危機感を覚えているようです。
















さて、それではすでに移民を受け入れている他の国はどうなっているのでしょうか。中でも多くの難民や移民を受け入れていると言われているドイツについて資料を検索してみました。

目を通してみたのは以下の3つの資料です。

移民統合における言語教育の役割―ドイツの事例を中心に―金箱秀俊 (レファレンス 2010. 12)
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/pdf/071903.pdf

移民のためのドイツ語教育―統合コースとドイツ語試験 木戸芳子 (2014)
https://goo.gl/U6BySi

海外における移民に対する言語教育 学習院大学教授 金田智子
http://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2011_08/special/special_04.html

以下、パクリで有名なDeNAのWELQみたいな内容で恐縮ですが、簡単にまとめてみました。

プログラムの名前はなんというのか。
「国民統合計画(Der Nationaler Integrationsplan)」(金箱)
「統合コース(lntegrationskurs)」(木戸)
「社会統合プログラム」(金田)


ドイツ語教育の目的は何か。
移民の統合促進のため(金箱)

その狙いとしては、少子高齢化社会にあって、将来的に税金を納め、ドイツの社会保障制度を支える「担い手」にもなってもらおうという考え方もある (木戸)

「ドイツに居住する外国人の経済的、文化的および社会的生活への統合を促進する」ことが目指されている (木戸)


今の体制はいつできたのか。
この具体的な表れが 2005 年の移民法制定とそれに基づくドイツ社会への移民の統合方策の推進であった。この法律で、移民の統合促進のため、部分的に受講を義務化した語学・オリエンテーション講習の実施が定められたのである(金箱)

こうした政策のベースになっているのが 2005 年の「移民法」の施行である。(木戸)

ドイツでは,2005年より,移民対象の社会統合プログラムとして600時間(進度等により,400時間から900時間までの幅がある)のドイツ語授業と45時間のドイツ社会に関するオリエンテーションが設けられており,(金田)


誰が勉強するのか
統合講習受講者は、簡単なドイツ語による意思疎通ができない長期滞在者を含む外国人、1年以上の滞在許可を申請した外国人、後期帰還移住者、ドイツ語の知識がないドイツ国籍保有者など移民や移民の背景を持つ人々である。(金箱)


何時間勉強するのか。
語学講習は、基本的には 600 時間である。基礎コース 300 時間と発展コース(Aufbaukurs)300 時間からなっており、(金箱)

統合コースは、ドイツ語を学習する「言語コース」と、ドイツの法制度、文化、歴史などを扱う「オリエンテーションコース」から構成されている(図 1 を参照)。言語コースは、基礎言語コースBasissprachkurs)と上構言語コース(Aufbausprachkurs)という段階を踏んで構築され、それぞれ 300 時間があてがわれる。オリエンテーションコースでは、60 時間の学習が行われる。合計して 660 時間に及ぶ(木戸)


内容は?
移民は「統合コース」(lntegrationskurs)を受講しなければならないとされている。統合コースは、ドイツ語を学習する「言語コース」と、ドイツの法制度、文化、歴史などを扱う「オリエンテーションコース」から構成されている(木戸)


どのぐらいのレベルまで勉強するのか。
終了時には試験があり、内容は、欧州評議会(Council of Europe)が作成した「外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠(Common European Framework for Reference of Languages)」の言語レベル B1に相当する。(金箱)

言語コースの試験は、「移民のためのドイツ語テスト」(Deutsch-Test für Zuwanderer, DTZ)と呼ばれ、言語テストの基準を定めた「言語に関する共通欧州参照枠組み(GER)」9の「B1 レベル」までドイツ語を習得することが目指されている。これにより受講者は日常生活をスムーズに、意思の疎通をはかることができるようになるとされている。(木戸)

終了時にはCEFR(Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ言語教育共通参照枠)のB1レベルに達することが目標となっています。このB1レベルとは,A1(低)からC2(高)までの6段階中,「自立した言語使用者」のレベルとされるもので,ドイツで仲介役の助けなしで社会的な生活を営むことができるドイツ語能力と捉えることができます。(金田)


どこで勉強するのか。
連邦移民・難民庁から認可された市民大学や語学学校などで実施される。(金箱)

学校などの教育機関だけでなく、カトリック、プロテスタントなどキリスト教の団体が設置者となっている事例も多く見られる。一番多いのは、地域の生涯学習、継続教育機関である市民大学(Volkshochschule,VHS)である。VHS では、さまざまな成人向けプログラムのひとつとして、こうした移民のための統合コースも実施している。(木戸)


学費は?
1時間あたり1ユーロの自己負担で受講できます。(金田)

(オランダは)このプログラムの受講料(3,500〜4,000ユーロ)については,各種の補助金が得られるシステムが整っており,実質的には18か月の間,無料で受けることができます。(金田)

ただし、こういう発言もありました。


誰が教えるのか?
ドイツもオランダも公的なプログラムであるため,そこで指導にあたる人々は第二言語教育の訓練を受けた専門家であり,当然,有償です。(金田)


日本が学ぶべきことは?
外国人労働者の受け入れは、少子高齢化社会を迎えるわが国にあって避けて通ることができない状況になっている。わが国に外国人労働者を積極的に受け入れる場合に、必須の課題は、システマティックなきめ細かい日本語指導の場の提供である。こうした配慮なくして、外国人労働者との間の摩擦は解消できない。あわせて、その取り組みは、政府だけでなく民間のさまざまな団体のイニシアティブのもとで行われる必要がある。政府は民間の行うこうした活動に対し積極的に援助を惜しまない。またカリキュラム面においては、各界の専門家によりもっとも実効ある編制が行われなければならない。(木戸)

公的プログラムができ,指導者がきちんと報酬を受ける体制を作らない限り,地域の成人対象の言語教育を担う人に専門性を期待することは難しいでしょう。(金田)


ということで、ドイツでは専門家が作ったきちんとしたコースを、専門性の高い教員が有償で教えているようです。現場の受け入れ企業に任せるという方針では、今日は引用しませんでしたが、これらの論文の前半に描かれている社会の分断を招いてしまう方向に進んでしまっているようで、大きな懸念を覚えています。

ドイツでも目的が 「少子高齢化社会にあって、将来的に税金を納め、ドイツの社会保障制度を支える「担い手」にもなってもらおう」という狙いもあるように、日本でも移民に対する日本語教育を公費で行うことは、利他的な博愛主義というよりもむしろ、日本自体にとっても利益のあることだと認識する必要があります。もちろんそれが移民とアイデンティティを否定するような方向の日本語教育に走ることは警戒しなければいけませんが、ここに公費を投入することは無駄ではなく長期的に見れば社会の負担を減らす効果があるのではないでしょうか。ツイッターでは実際にそのように考えている人が多いことが以下のアンケートでもわかります。200名以上が回答したアンケートで94%の人が、「公費で日本語教育を行うことは将来的に社会の負担を減らす」 と回答しているのです。現場の移民に対する日本語教育は受入企業が負担すべきだという考えは、社会の分断を招き、治安の悪化の対策などのコストを引き上げ、結果的に社会の負担を増やしてしまうのではないでしょうか。




追記:コスト
Twitter でコストについて情報を頂きましたので簡単な計算もしてみたいと思います。まず2010年の移民へのドイツ語教育の予算は2億3300万 EURO だったそうです。

一人当たりいくらぐらいかかるのかを計算するために、2010年のドイツの移民の受け入れ数を検索してみました。 ヤマト総研のこちらの資料では、グラフなので正確な数字はわかりませんが2010年の流入数は80万人ぐらいのようです。(図表1)
ドイツ:移民政策転換から15 年 : https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20141118_009142.pdf

ドイツ語教育の予算をこの流入数で割ると、一人当たり291.25ユーロです。これは円に直すと37,580円です。これは日本に来る留学生の学費が何十万円もすることを考えると、非常に安いと言えるのではないでしょうか。

次に、 一人37580円だとして、全体でいくら用意すればいいのでしょうか。 こちらが共同通信の記事によると、初年度の受け入れは4万人を予想しているそうです。

外国人労働者、初年度4万人想定 新在留資格、来週にも業種公表 | 共同通信 - This kiji is : https://this.kiji.is/431137384843920481?c=39546741839462401

一人37580円の予算で4万人に受けてもらうと15億320万円になります。さてこの15億円という金額は高いのでしょうか、安いのでしょうか。社会の分断や治安の悪化で必要になるコストというのは例えば警察の負担などが考えられます。 全国の警察のコストは地方交付税交付金などで消防などと一緒に扱われていたので財務省などの資料をちょっとググっただけでは分からなかったのですが、 例えば週刊ダイヤモンドが以下の記事では2016年には3兆7000億円程度だったことがわかります。

刑事訴訟法の改正によって 転換期を迎える日本の警察 | 週刊ダイヤモンドの見どころ | 週刊ダイヤモンド :
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/17569

仮に移民に対してドイツのような統合政策をとらないことにより、警察費のコストが1パーセント上がったと仮定するだけでも、370億円のコストがかかってしまうことになります。一方で、先ほど計算しましたように、来年新たに受け入れる外国人労働者全員に、ドイツと同じだけのコストをかけて日本語教育などを行うとしてもたった15億円しかかからないのです。これだけ考えても、移民に対して公費で日本語教育を行うことは 日本の未来への投資として非常に投資効果の高い使い道だと考えることができるのではないでしょうか。


そして冒険は続く。

【参考資料】
入管法改正案閣議決定 今国会で成立の方針 - ライブドアニュース :
http://news.livedoor.com/article/detail/15537215/

移民統合における言語教育の役割―ドイツの事例を中心に―金箱秀俊 (レファレンス 2010. 12)
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/pdf/071903.pdf

移民のためのドイツ語教育―統合コースとドイツ語試験 木戸芳子 (2014)
https://goo.gl/U6BySi

海外における移民に対する言語教育 学習院大学教授 金田智子 (2011)
http://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2011_08/special/special_04.html

070828_Br_NIP_A4_final_hw.indd : https://www.bundesregierung.de/resource/blob/975226/441038/acdb01cb90b28205d452c83d2fde84a2/2007-08-30-nationaler-integrationsplan-data.pdf?download=1

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posted by 村上吉文 at 12:09 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加