2018年09月08日

手書きの大学入試では漢字の減点をやめよう!

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

日本語教育現場でICTの利用が進まない理由の一つとしてよくあげられることの一つに、「大学の入試がアナログだから」というのがあります。せっかくキーボードなどで効率的に日本語が書けるようになっても、大学入試でアナログな手書きしかできないので、どれだけ非効率と分かっていても、授業もアナログでしなければならないというわけです。そしてそれは日本語学校に来ている留学生の目的が大学進学であることを考えれば、それほど不自然なことではありません。

そうした理由で(あるいは単に言い訳にしているだけかもしれませんが)、今でもほとんどの日本語学校で手書きで漢字が書けるようになるための指導が行われています。つまり、大学入試が変わらない限り、日本語学校の授業も手書きを重視しないわけにはいかないのです。

ということは、大学の入試が変われば日本語学校の授業も変わることができますよね。

とはいっても、大学の入試で今すぐタブレットやパソコンのキーボードを使った入学試験が実施できるかと言うと、少なくとも今年や来年の入学試験には一部の大学を除いて、残念ながらあまり現実的ではありません。まだ紙での受験は数年は続くことでしょう。

それでは、採点基準を変えてみてはどうでしょうか?

つまり、 記述式の設問の回答には、漢字の間違いは減点しないようにし、また、本来は漢字で表記される語彙などがひらがなで書かれていても、同じように減点しないこととするのです。 それだけで、日本語学校の授業から、大学生活で必要かどうかもよく分からない漢字の手書きを止めることができます。

そもそも、 日本の大学で留学生が勉強したり、様々な手続きをする時に、漢字を手書きしなければ達成できないタスクがあるのでしょうか。学期ごとのレポートや卒業論文を書いたり、授業のノートをとったりするときはパソコンだけで十分でしょうし、学生課に提出するような書類も漢字の代わりにひらがなで書いたところで、大きな問題があるとは思えません。もしかしたら、漢字を手書きしなければならない特殊なケースもあるかもしれませんが、そうした場合はテストと違って辞書やスマートフォンを使うこともできるのです。

レポートなどをパソコンで書く場合は、音声入力でなくキーボードを使うなら、「漢字を正しくひらがな表記できる能力」と、「同音異義語の中から正しい漢字を選ぶ能力」があれば十分なはずです。ですからそうした形式の日本語のテストが大学の入学試験にあることはまだ理解できるのですが、漢字を手書きで書く能力がなければ大学生活が送れないという状況でもない限り、大学入試の記述問題で漢字の代わりにひらがなで書いたことを減点の対象にする必要性は感じられません。

もし日本語学校に来ている留学生が大学入試のために漢字の手書きを勉強するために時間を使わなくて済むようになれば、そのぶんもっと専門的な語彙などを勉強することができます。大学に留学生が入学してから本当に必要になるのは、そうした語彙力などであって漢字を手書きする能力ではないのではないでしょうか。そして繰り返しますが、入学試験で測るべき能力は大学に入学した後に使わなければならない能力であって、それに関係ない能力を測定しても、質の高い大学生活を送ることができる受験者を選び出すことには何の効果もありません。

入学試験の解答で「タブレットやキーボードが使えるように今すぐしろ」とは、僕も申し上げません。しかし、大学の関係者に向けて提案したいのですが、採点基準を変えるだけなら今すぐできるのではないでしょうか。それだけで日本語学校の授業を変えることができるのです。そしてそれはそのまま本当に必要な能力を測ることができるという変化によって、皆さんの大学に入ってくる留学生の質を高めることができるのではないかと思います。

この提案の妥当性をツイッターで聞いてみたところ、以下のように2/3を超える人たちが「減点するべきではない」という回答になりました。 サンプル数は145人とそれほど多くはありませんが、少なくとも Twitter ユーザーの中の日本語教師の総意としては、漢字で書くべき言葉をひらがなで書いても減点するべきではないというのが総意であると言ってもいいのではないでしょうか。

https://twitter.com/Midogonpapa/status/1036437650180202497

減点すべきであるという考え方の人の中には、手書きをしないと漢字を覚えることができないので、結果的に漢字を読んだり、変換候補の中から正しい漢字を選ぶ能力も落ちてしまうという意見もありました。しかし、それは試験としては漢字を読む形式の試験や、同音異義語の中から正しい漢字を選ぶ形式の試験でテストすることができます。学習方法は非常に多様なので、特定の学習方法を取った人だけが得点できるような試験は良い試験ということはできません。どうやって勉強したかということではなく、勉強した結果どのような能力が身についたかわかるのが良い試験です。極端な話、立って勉強しても、座って勉強しても、ちゃんと話せるようになれればどちらでもよいのです。どちらかでなければ良い点が取れないのは良い試験ではありません。

また、このアンケートをした後で日本留学試験の採点基準を確認してみたところ、記述問題の採点基準には漢字については触れられていないことがわかりました。

上記のアンケートをしたときも、それを裏付けるような証言がありました。実際に全部ひらがなで書いた受験生が、具体的な点数はわかりませんが、良い点をもらっていたということでした。この方に聞いてみたところ、この留学試験は、いわゆる日本留学試験(EJU)のことだそうです。




ということで、大学で教えていらっしゃる皆さんに、改めてご提案します。どのような科目であれ、本来は漢字で書くべき語彙をひらがなで書いてあったとしても、 それは減点しないと明言するのはいかがでしょうか。それは受験生に無駄な努力をさせないことにより、本来必要な能力の育成にリソースを賄うことができるようになり、結果的には、大学入学後に、より高いレベルの学生生活が送れるようになることに結びつくのではないかと思います。

そして冒険は続く。

【参考資料】
村上の手書きの漢字に関する Twitter 上のアンケート
https://twitter.com/Midogonpapa/status/1036437650180202497

日本留学試験記述採点基準 : https://www.jasso.go.jp/ryugaku/study_j/eju/about/score/__icsFiles/afieldfile/2017/03/31/saitenkijun_2013_1.pdf

むらログ: キーボード敵視をやめさせるための一提案(2017)
http://mongolia.seesaa.net/article/451305728.html

むらログ: 気持ちを伝えるのは手書き文字ではなく笑顔 (2015)
http://mongolia.seesaa.net/article/417985984.html

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posted by 村上吉文 at 21:32 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加