2018年08月29日

どんな経験でもないよりはいいのか

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日もお姫様の呪いを解くために魔女と戦っていますか?

さて、先日のブログの続きで、「日本語教師になるには会社員の経験があったほうがいいのか」という点ですが、かなり多くの方が「どんな経験でもないよりはあったほうがいい」というようなことを書いていたので、これについて僕の考えを書いておきます。

まず、前のブログに書いたとおり、日本語教師として評価されやすい仕事とそうでないものがあるというのは前提として、基本的には僕も「どんな経験もないよりはあったほうがいい」という意見には賛成なのです。ただ、この考えには一つだけ条件があると思うんですね。というのも、人が成長できないときの大きな理由の1つに、それまでの経験が邪魔をしてしまっているということが多々あるからです。

例えば、同じ日本語教師ですらも、オーディオリンガルからコミュニカティブ・アプローチにパラダイムが変わった時は(もう30年近くも前のことですが)、オーディオリンガルの考えに染まりきってしまった人が、過剰に言葉の正しさばかりを追求して、流暢さを身につけるための練習を邪魔してしまうというようなことがよくありました。

今ではそのコミュニカティブ・アプローチなどを含む文型シラバスから、行動中心アプローチへとまたパラダイムが変わっていくところですが、今でもやはり、文型シラバスでの文型の教え方を前提にした「行動中心アプローチの教科書は文型が多すぎて時間が足りない」という誤解に基づいた批判があったり、文型シラバスの中でタスク練習をすることをタスクシラバスだと勘違いしてしまって「タスクシラバスではその課で教えるべき文型を使わなくてもタスクが達成できてしまうからダメだ」と言っている人が多くいます。実のところ、行動中心アプローチの教え方を身に付けてもらうには、日本語教師の経歴がほとんどない若い人の方が早かったりして、僕の何人かの知人の中ではこれは共通の認識になっています。

また、失敗したら命に関わるような危険な仕事の経験のある日本語の先生で、生徒の間違いに非常に厳しい方と一緒に仕事をしたこともあります。前職では「間違えると棒で頭を叩かれるようなことも普通だった」とのことで、それは確かに危険な場所で自分や同僚や顧客などの身を守るには必要な練習方法だったのかもしれないとは思いますが、語学教育の現場では学習者を萎縮させてしまうというマイナスの効果が大きいですから、日本語の教育現場では「間違いを見逃すことも必ずしも悪いことではない」というのが一般的な認識でしょう。

さて、先ほど、「どんな経験でも役に立つのかという問いには一つだけ条件がある」と書きました。それは何かというと、「アンラーニング」(unlearning)できるかどうかです。アンラーニングというのは、新たに学び直すために、一度学んだことを解きほぐして、必要であればその考えを否定するという意味の言葉です。スター・ウォーズのエピソード5でヨーダが ”You must unlearn what you have learned” とルークにいうシーンがあるぐらいですから、英語圏では比較的よく知られた概念だと思うのですが、日本で聞かれるようになったのは、この10年ほどでしょうか。



しかしこれは言うほど簡単ではありません。例えば以下のビデオでは、ハンドルを右に曲げると前輪が左を向くという自転車が紹介されていますが、このビデオの作者はこの自転車に乗れるようになるまでに毎日練習して8ヶ月かかったと話しています。

The Backwards Brain Bicycle - Smarter Every Day 133 - YouTube :
https://www.youtube.com/watch?v=MFzDaBzBlL0

そういえば、同じ日本語教育の世界では、セブ島で日本語を教えているNunoさんが先日こんなブログを書いていました。(このブログは、上記の記事以外にも大変面白い記事ばかりですので、皆さんにも是非オススメしたいと思います。)

「世代交代」で日本語教育も大きく変わるかもしれない。 – Whoo-hoo! 自由に学び続けよう ∬ update : https://nunotruevibes.com/2018/07/21/%e3%80%8c%e4%b8%96%e4%bb%a3%e4%ba%a4%e4%bb%a3%e3%80%8d%e3%81%a7%e6%97%a5%e6%9c%ac%e8%aa%9e%e6%95%99%e8%82%b2%e3%82%82%e5%a4%a7%e3%81%8d%e3%81%8f%e5%a4%89%e3%82%8f%e3%82%8b%e3%81%8b%e3%82%82%e3%81%97/

僕自身も、たとえば ”How are you?” と聞かれたら ”Fine.” ではなくて ”Good.” と答えようと決めてから、実際にスムーズに言えるようになるまで一週間ぐらいかかったという記憶があります。女性の容姿を褒めるのはいいことだとも思っていたし、ゲイの男性に対してもずいぶん間違った偏見を持っていたこともあります。

では、どうすればアンラーニングをすることができるのでしょうか。カナダのマニトバ在住のブロガー、 Scott H Young はその一つの方法として、「旅」をあげています。旅は実際に 自分の知らなかった世界を知ることができ、自分の知っていることだけが全てではないということを常に実感させてくれますよね。

The Art of Unlearning : https://www.scotthyoung.com/blog/2018/04/12/the-art-of-unlearning/

そういえば、 Twitter でも日本語教師の「さめ」さんという方がこんなことを言っていました。



旅や海外滞在の他に、僕がいつもこのブログで紹介しているウィル・リチャードソンは、アンラーニングができるようになるための方法として以下の三つを上げています。

1.気づき(Awareness):これはこの文脈では、アンテナを高く張って自分がすでに学んだことについて、「これってもしかしたら間違っているんじゃないか」「本当はこちらの方が良いのではないか」と疑問に思うことができるようなことかもしれません。

2.実践: そして気づいたことを、実践し続けます。リチャードソンは上記のハンドルが反対に動くビデオをここで紹介しています。

3.対話:自分とは意見の違う人と常に対話を続けること。昔はこれは非常に難しかったのですが、今は Twitter などでそうしたことも簡単にできるようになりましたよね。実はウィル・リチャードソン自身もツイッターを非常に活用して、自分とは違う意見の人と常に対話を重ねています。

さて、最初の問題に戻るのですが、それでは日本語教師を目指す人は、他の職業を経験した方がいいのでしょうか。基本的には、多様な経験はその人の視野を広くすることができますから、役に立つ程度は違っても、どんな経験もないよりはあったほうがいいと思います。しかしそれには、 その経験の中から役に立つところだけを応用し、そうでないことは留保しておくということができるという条件が必要です。これは適応力と言ってもいいかもしれません。そして、適応力を身につけるには、まだ頭の柔らかい若いうちから海外での生活を経験してみるということもおすすめしたいと思います。お金があれば留学するのもいいでしょうし、僕のような貧乏な学生時代を送っている人には、ワーキングホリデーという素晴らしい制度もあります。青年海外協力隊も悪くないですよ。

そして冒険は続く。

【参考資料】
むらログ: 日本語教師になるには会社員の経験があったほうがいい?http://mongolia.seesaa.net/article/461253852.html

「世代交代」で日本語教育も大きく変わるかもしれない。 – Whoo-hoo! 自由に学び続けよう ∬ update : https://nunotruevibes.com/2018/07/21/%e3%80%8c%e4%b8%96%e4%bb%a3%e4%ba%a4%e4%bb%a3%e3%80%8d%e3%81%a7%e6%97%a5%e6%9c%ac%e8%aa%9e%e6%95%99%e8%82%b2%e3%82%82%e5%a4%a7%e3%81%8d%e3%81%8f%e5%a4%89%e3%82%8f%e3%82%8b%e3%81%8b%e3%82%82%e3%81%97/

むらログ: 行動中心アプローチでは文型が多すぎて大変?
http://mongolia.seesaa.net/article/457955833.html

Scott H, Young
The Art of Unlearning
https://www.scotthyoung.com/blog/2018/04/12/the-art-of-unlearning/

Will Richardson
The Art of Unlearning - Modern Learners
https://modernlearners.com/the-art-of-unlearning/

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posted by 村上吉文 at 09:23 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加