2018年08月24日

日本語教師になるには会社員の経験があったほうがいい?

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日も砂漠のオアシスの酒屋の片隅で、剣を磨きながらサラリーマン時代のことを回想していますか?

さて、日本語教師に日本語教育以外の業界で働いた経験があった方が良いかという件について、ツイッターでまた議論になっていたようですね。




短く返信しようと思ったら長くなってしまったので、ブログの記事として僕の考えを書いておきます。

主な論点は三つあって、「それによって失うこともある」ということと、日本語教育以外にも多様な仕事があるので、一般的な日本語教育の現場では「どんな仕事をしていたかによって役に立つかどうかが変わる」ということ、そして3点目は「オンラインでオリジナルのコースを開設するならどんな仕事でも役に立つのではないか」ということです。

まず一点目ですが、一人しか採用できないところに、以下の二人が応募してきたと仮定しましょう。

Aさん:日本語教育以外の分野で働いた経験がない。日本語教育の経験は三年。 25歳。
Bさん:3年間のサラリーマン生活の後、日本語教育の仕事に初めて応募した。日本語教育の経験はない。25歳。

これ以外の条件が同じだったとして、 Aさんを採用しないで、Bさんを取る学校はないでしょう。つまり同じ年齢の場合、日本語教育の経験は死活的に重要になり、それ以外の経験はマイナスに働いてしまいます。

では次の二人の場合はどうでしょうか。

Cさん:15年間の日本語教育の経験があるが、それ以外の業務経験はない。37歳。
Dさん:3年間のサラリーマン生活の後、12年の日本語教育の経験がある。37歳。

12年間と15年間の日本語教育の経験は、それだけではそれほど大きな違いにはなりません。従って質的にどのように違っていたかということが重要になります。またその学校がどのような授業を期待しているかにもよります。10年以上も同じ教科書を使っていてこれからも変化できないような学校でしたら、その教科書だけを長く使ってきた教師の方が重宝されるかもしれません。その場合は日本語教育の経験が長いCさんでも、教科書が違っていれば、Dさんの方が採用されることがあるかもしれません(Dさんにその教科書の経験があれば)。 しかしその場合は、その教科書の経験が評価されているのであって、サラリーマン生活が評価されているわけではないと思います。

一方で、変化が必要な学校や、停滞を避けたいと思っている経営者がいる場合は、日本語教育以外の視点を持っていることが重要視されるでしょう。 その場合はサラリーマンに限らず、どんな業種でもいいでしょうし、日本語教育でも日本以外の国で教えた経験のある人が採用されるでしょう。

次に二点目ですが、会社勤めならどんな仕事でも評価されるわけではないということが挙げられます。例えば僕の世代の場合は、新卒で採用された頃はまだ紙で仕事するのが中心だったので、山のような伝票をひたすらパソコンに入力するだけのような人もいたのです。僕の友人の日本語教師の中にも、そういう仕事を15年も続けてきて、ある日、会社の組織の再構築によって(文字通りリストラですね)、業務自体が電子化されて自分の仕事がなくなってしまったという人がいます。その友人の場合は、仕事以外に非常にレベルの高い趣味を持っていて、それを活かした分野では僕よりずっと優秀な日本語教師になっていますが、ご自分でも業務経験は全く役に立ってないとおっしゃっています。 そして恐ろしいことに、2018年の今もそういう ICT に取って代わられるのを待っているだけの仕事をしている人もまだいるそうです。

そして残念なことに、企業で社会経験を積む場合は、自分がどのような業務を担当するか選べないことがほとんどです。日本語教師としては評価されないような業務にまわされてしまった場合、日本語教師になるために会社員の経験を積むという目的を達成することはできません。

ではどのような業務なら日本語教師として役に立つかと言うと、基本的にはやはり外国人従業員の多いところだと思います。また、営業職のように組織の外の多くの人と接するような業務も歓迎されるでしょう。変化の激しい 時代を生き抜くには、創造性が必要な企画などの仕事も重要だと思います。

しかし個人的には、自分で起業した経験のある人がいちばん視野が広く、創造性もあり、社会の色々なことを知っているように思っています。ですので、日本語教師になりたいが社会経験も必要だと思っている人は、「会社に入る」のではなくて、「会社を作る」ということを考えてみてはいかがでしょうか。少なくとも僕はそういう人と一緒に働きたいと思っています。

最後に三つ目の視点ですが、上に挙げた「多くの人と接するような仕事」でも、「 創造性が必要とされる仕事」でもないような仕事の場合でも、それに特化したオンラインコースにすれば、それを専門とする人の日本語能力を伸ばすには、 その業務経験は役に立つでしょう。

前述の知人は経理の職務経験もあまり日本語教育の現場ではあまり役に立たないということを言っていました。しかし、経理という仕事自体は非常に重要で、 ICT によって簡略化は進むにせよ、なくなることはないでしょうし、日本の企業の海外進出によって日本語の母語話者ではない人がその仕事に着くこともあるでしょう。少子高齢化によって日本に来た海外出身の人が日本の国内でそういう業務に就くこともあるでしょう。それを考えると、「経理の日本語」を教えるというニーズももちろんあるはずです。

ただ、こうしたニーズは広く薄く広がっているので、一般の日本語学校でコースを開いても採算が取れるとは思えません。しかし、オンラインコースにすれば世界中から学習者を集めることができるので、成功する可能性もあるでしょう。そしてその場合は、言うまでもなく、やはりコースデザインをする日本語教師自身が経理という仕事を経験したということが成功するための大きな条件になるはずです。

ということで、乱暴にまとめてしまうと、「日本語教師になるためにそれ以外の仕事の経験が必要なのか」という問いに対する僕の考えは、以下の通りです。

1.若い人で同じ年齢なら、日本語教育の経験が長いほうが有利。
2.日本語教育の現場で評価される職務経験と、そうでない職務経験がある。どんな仕事にまわされるか分からない場合は、そんな企業に入るよりは自分で起業することの方がおすすめ。
3.日本語教育の現場で評価されない分野の仕事しか経験したことがない人でも、オンラインコースにすれば その経験をメリットにすることができる。

参考資料にリンクを貼っていますが、昨年の「#日本語教師のキャリアデザイン」という Twitter のハッシュタグも、色々な人がご自分の経歴を共有しているので勉強になると思います。

そして冒険は続く。

【参考資料】
CHAINNER(チェーンナー/クサリみたいにつなぐひと)with日本語業界さんのツイート:
https://twitter.com/chainnerwithJP/status/1031550403320504320

ハッシュタグ #日本語教師のキャリアデザイン :
https://twitter.com/hashtag/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E6%95%99%E5%B8%AB%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3?f=tweets&vertical=default&src=hash
(投稿後12時間に追記:リンクが間違っていたので修正しました)

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posted by 村上吉文 at 10:23 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加