2018年06月24日

野口悠紀雄「超」独学法

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス




冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

さて、野口悠紀雄さんの『「超」独学法』という本を読みました。
まず最初にこの本の立場と目的ですが、最初に野口さんは以下のように書いています。

「本書では、これに対して、学齢期後の勉強については、1人で勉強を進める「独学」のほうが有効であることを指摘し、その重要性を強調したい。」


ですので、すでに独学の有効性や重要性をよく知っていて、ご自分で勉強しているような人は、この本で想定されている読者の中の中心的な位置づけではないようです。つまり、まだ独学で何らかのスキルや知識が身につくということを知らない人や、その有効性に疑いを持っている人が主な対象なようです。

そのため、 Amazon の書評などを見てみると、 「独学で成功した人たちの例をたくさんあげるよりも、その具体的な方法をもっと詳しく紹介して欲しかった」という声もあります。

実際、僕にとっても、読み終わった瞬間に、「え、ここで終わり?」という呆気なさを感じなかったこともなかったのですが、いくつかとても面白く思ったところがありました。

中でも非常に勉強になったのは以下の部分です。

「ブロックチェーンを用いて、個人の生涯にわたる学習履歴を記録するプログラムがいくつか開発されている。その1つであるLearning is Earningは、学校教育のみならず、コミュニティカレッジや個人から教えられたことも対象にする。そして、ブロックチェーンに記録したデータを、就職などのさまざまな機会に活用できるようにする。」


これは本日シカゴで開催されているバッジサミットで話し合われている、オープンバッジとか、マイクロクレデンシャルといった動きにかなり近いものだと思います。この件については、このブログでも以前「むらログ: デジタルバッジと学校の解体」というタイトルで記事を書いたことがありますが、要するに色々な教育機関で多様な内容を別々に学んでも、科目ごとにバッジという小さな修了証のようなものがもらえるので、一つの教育機関に縛られることなく、自由に様々な内容を学習者が勉強できるようになるというシステムのことです。

少なくとも僕がこのブログ記事を書いた時は、 オープンバッジのプラットフォームは高校や大学などの正式な教育機関の発行したバッジしか受け付けないようでした。しかし、このブロックチェーンを使った試みでは、個人でも60分ごとに学習記録をつけることができ、そしてそれが修了証や卒業証と同じように扱われるのです。open badge よりもさらに自由度が高く、かつ人間の手が介在しないということによって既存の権力基盤からも独立した形になるわけですね。

ただし残念なことに、2016年ぐらいに「Learning is Earning 2026」という実験的なイベントがあった後は、どれほど事態が進んでいるのかは僕はよく分かりません。僕も登録してみようと思ったのですが、30分ほど検索してみた結果、実際の登録画面にたどり着くことができませんでした。 広報用のビデオではLedgerというサービスのアカウントを作ればいいことになっていて、確かにここはブロックチェーン関係のサービスを提供しているようではありますが、学習記録をつけるようなサービスは今のところまだ始めてないようです。

上に引用したように野口悠紀雄さんは「できるようにする」と書いているので、もちろん間違いではないのですが、少なくとも現時点ではまだ実用化されている段階ではないようです。

この本を読んで最大の収穫は上記のブロックチェーンを使った学習記録を利用できるようになるというアイデアでした。

僕のように自律学習に関心を持っている人間にとっては、後はそれほど新規な情報はなかったのですが、色々同感できるところもありますし、それを僕が言うよりも野口悠紀雄さんのような人が言っている方が説得力もあると思いますので、中でも一番強調して皆さんにお伝えしたい部分を以下に引用させていただきます。

「繰り返すが、「教えるために勉強する」のでなく、「勉強するために教える」のである。(中略)「そう言われても、教える機会などない」「本を書けるのは一部の人だ」との意見があるかもしれない。  しかし、そんなことはない。いまでは、ブログで誰でも同じことができる。  例えば、あなたが金融機関に勤めているとして、最近の金融情勢を勉強したいのであれば、勉強の成果をブログの解説記事として連載するのがよい。」


僕のブログをご覧の皆さんには、既によくご存じだと思いますが、僕自身もまさにこういうアプローチでブログを利用しています。例えば今回ご紹介している野口悠紀雄さんの本にしても、 このブログがなければよみっぱなしで終わってしまっていただろうと思いますし、上に書いたブロックチェーンを使った学習記録をつける試みなどについても、実際に Web サイトを見て確認しようなどとは思わなかったでしょう。

そしてこれは何度もこのブログで書いていて今さら隠すことではないのでもう一度言いますが、僕自身もやはりこのブログを通して皆さんの役に立つためにこうした本を読んでいるというよりも、むしろ自分で読んだ本を皆さんにシェアすることによって自分がより深くその本に書いてあることを理解し、検証のために検索をしたりして学びの幅を広げることになることを意識して書いています。端的に言うと自分のために書いているのです。そして実際それはとても役に立っていると自分では思っています。そしておそらく日本語教師でブログを書いている人なら、はっきりと口には出さなくてもこうしたことは実感しているのではないでしょうか。

もう一つだけ日本語教師というよりも語学教育に関わる皆さんにとって非常に面白いのではないかと思うところがありましたので、いくつか部分を引用します。

この本の第8章は、 「英語は独学でしかマスターできない」というタイトルになっています。これは英語に限らず、日本語に関しても全くそうだと思います。野口悠紀雄さんの主張を簡単にまとめてみると、初級のうちは誰にでも共通して必要な語彙や文化を学ぶので語学学校に行く意味もあるが、次第に学習者にとって必要な表現は異なってくるので、少なくともマスターできたと言える段階まで上達するには、どうしても自分の専門性などに沿って勉強しなければならず、語学学校ではそうした多様なコンテンツには対応できないので、自分でマスターするしかないということです。

「英会話学校やテレビ・ラジオの英会話の英語教育では、「専門用語こそ重要」という認識がきわめて希薄だ。極端に言えば、「ご機嫌いかが」とか、「今日は天気がいいですね」というような挨拶や会話が英会話であるとしている場合が多い。(中略)
しかし、これだけでは、専門家同士がコミュニケーションを行い、仕事を進めていくことは到底できない。最初の挨拶はいいとしても、その後は、その分野での「税語」が必要になる。(村上註:ここは税金に係る専門用語の例なのでこのような表現になっています)
語学教室で、こうした英語教育を提供できないのは、専門分野の知識を有する教師を揃えることができないからだ。」


ここまでの認識は、英語教育を日本語教育に置き換えれば僕も全く同感なのですが、しかし「だから独学しかない」という結論に至るにはまだ少し検討しなければいけないことがあるように思います。

それはやはり、オフラインでの教室型の一斉授業を前提に考えるからこのような結論になるのであって、一対一の個人授業や、似たようなニッチなニーズを持っている人を世界中から集めたオンラインでのグループ授業なら、このようなことも可能なのではないかと思います。

つまり、ここで言えば税金に関する専門的な議論を英語で行うような授業は、街中の英会話学校では難しいと思いますが、フリーランスで税金に関する専門性を持った語学教師の人が一対一の授業を行ったり、あるいは価格を抑えるために税金に関する専門性を持った学習者を世界中から集めてオンラインでグループ授業を行うようなことも考えられます。

自分の強みを活かしてこうした専門的な日本語の構造を開発するには、以下のビデオを見るとわかりやすいのではないかと思います。

JFT Online Teachers Training 2017 - YouTube
https://www.youtube.com/playlist?list=PL8xNAgRaT_iSwotoPru0pShmH2LgXkGjq

その他にも色々ご紹介したいところがあるのですが、基本的にはいつも僕がこのブログで書いていることと同じなので、ここは野口悠紀雄さんの本を読んでいただくことをおすすめすることにしたいと思います。

繰り返しますが、もっともこの本を読んでいただきたいのは、こうした独学が簡単にできる時代になっているということに実感を抱けず、最初の一歩を踏み出せない人たちです。 この本でも繰り返し、「準備してからスタートするのではなく、スタートしてから準備する」ことの大切さが述べられています。それが独学の一歩だと思いますし、それが可能になっているのが21世紀なのだと思います。

そして冒険は続く。

【参考資料】
「超」独学法 AI時代の新しい働き方へ (角川新書) Kindle版
https://amzn.to/2MS6AWU

むらログ: デジタルバッジと学校の解体
http://mongolia.seesaa.net/article/459102809.html

IFTF: Learning is Earning
http://www.iftf.org/learningisearning/

Ledger Website
https://www.ledger.fr/

むらログ: 多様性に対応しよう! 日本語教師の収入を上げるための一提案
http://mongolia.seesaa.net/article/449002533.html

JFT Online Teachers Training 2017 - YouTube
https://www.youtube.com/playlist?list=PL8xNAgRaT_iSwotoPru0pShmH2LgXkGjq

【コメントはソーシャル・メディア上の記事別ページヘどうぞ!】
https://www.facebook.com/MurakamiTheAdventurer/posts/2089153511372456
https://twitter.com/Midogonpapa/status/1010669656074436608
https://plus.google.com/+YoshifumiMURAKAMI/posts/E8v2Cza7rKV

【電子書籍「むらログ」シリーズを購入して外国にルーツを持つ子どもたちを支援しよう!】
2014年以降のこのブログの内容はKindle本にもまとめられています。2018年中にこちらの本をご購入になると、その収益は全額が「外国にルーツを持つ子どもと若者のための日本語教育・学習支援事業」を実施しているNPO法人青少年自律援助センターに寄贈されます。電子書籍はスマートフォンのアプリでも読むことができます。
http://amzn.to/2mfh46q
posted by 村上吉文 at 08:31 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加