2018年05月30日

ライブ中継されない理由とその危険性について

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

さて先週末は東京外国語大学で日本語教育学会の春の大会が行われたようです。
主催者の皆様、お疲れ様でした。この二日間は関係者の Twitter などを拝見しておりました。大盛況だったようで、何よりです。運営担当だった東京外国語大学の日本語教育関係者の皆様の努力の賜物だと思います。



今までは現地で参加できない僕のような人間にとっては、全くのブラックボックスだったのですが、今回はハッシュタグを統一しようという動きが生まれ、そのおかげで僕も一部の発言を見ることができました。大変すばらしい変化だと思います。今回ハッシュタグを最も多く使われたのは神吉宇一さんではないかと思いますが、こうした開明派が日本語教育学会の中心に近いポストにいることは、一つの学会だけでなく日本語教育界全体の将来にとって非常に大きな可能性を感じさせてくれます。(なお、神吉さんは先日ブログも開設されました。 )

2週間ほど前に、「#日本語教育ウェビナー」というハッシュタグで、こうした学会や研究会のオンラインセミナーなどを共有しようという提案をこのブログでいたしました。日本語教育学会が、こうしたオンラインのイベントを実施するのもそれほど遠いことではないのだろうと思っています。実際に、ただいま Twitter で以下のようなアンケートを行っておりますが、対面式の代わりにテレビ会議で大会を実施する方が参加者の人数は増えるだろうという予想が、減るだろうという予想の3倍ほどにのぼっています。




このアンケートは Twitter のユーザーしか回答できないので、 もちろん「増えるだろう」という予想の側に偏っているという可能性はあります。 しかしこれは、「対面式ではなく」というかなりドラスティックな条件を前提にしています。例えば、もしパソコンもスマホもタブレットも持ってないような人がいたら、そういう人たちは参加できなくなってしまいますので、参加者が減ってしまうという可能性は全くのゼロではありません。そして実際にそれを懸念している人が回答者の1/4程度いるということが言えそうです。

しかし、先週末に行われたような対面式の大会にパソコンを持ち込んで中継するだけなら、そのようなリスクはありません。今まで通りアナログの人も参加できますし、それに加えて、僕のように遠くに住んでいて現地までいけない人間や、育児や介護の責任があったり健康の問題で自宅から出られないような人もオンラインで参加できますから、その場合は全体として参加者数が減ってしまう可能性はないと言っていいでしょう。(会場に行く数の人は減るかもしれませんが、それはそれでひとつの進歩と言えるでしょう)

ではどうして、海外日本語教育学会などの一部を除いて、まだ日本国内の日本語教育関係の研究会はライブ中継していないのでしょうか。その理由をいくつか考えてみました。

1.地方や海外在住などで参加できない人の存在が十分に認知されていない
2.自宅からでなければ参加できない人の存在が十分に認知されていない
3.経済的にも技術的にも障壁がほとんどなくなったということが認識されていない
4.やれる人がいないと誤解している

1番と2番に関しては2週間前のブログにも書きましたが、こういうことは参加できない立場の僕たちが声を上げていくしかないと思います。

3番の経済的な障壁と技術的な障壁がほとんどないということですが、 まず経済的な面から書いてみましょう。

たとえば海外日本語教育学会などが利用している YouTube ライブという配信サービスを使えば、配信にかかるコストは全くのゼロです。会場がインターネットに繋がっていない場合は、モバイルルーターなどを使う必要がありますので、そこに経費が発生する可能性はありますが、先週末の日本語教育学会のように、運営する大学が大会の会場である場合はそのようなコストはかからないでしょう。機材は普通のパソコンに内蔵されているマイクだけでも、発表者の声を中継するだけでしたら問題ありません。会場の質問者の声も拾うようにするなら、内蔵のマイクよりももう少し性能のいいものが必要になることが多いですが、発表の上手な人は会場からの質問を自分の言葉で言い換えてから回答しますよね。主催者が発表者に対してそのようにお願いすれば、内蔵マイクだけでも大丈夫でしょう。

4番目の「やれる人がいないと誤解している」の件ですが、これは本当によくある誤解です。なぜこういう誤解をしている人が多いかと言うと、「作業のほとんどはオンラインなので、 その場にいる人がする必要はない」ということが認知されていないのです。実際に海外日本語教育学会のライブ中継も、 YouTube の配信ページ作成をしたり、 Facebook イベントページを作ったりしているのは、海外の担当者です。現地の会場では、パソコンやマイクをセットしたりする必要はありますが、これらは日本語教育学会のような大きな会場で行われるイベントなら、 ライブ中継をしなくても必要なことですよね。プレゼンの画面をそのままライブ中継すれば、カメラすら必要ありません(発表者の顔などは撮影されませんが)。 当日の配信の開始などの作業も全てオンラインでできるので、会場側の担当者は配信の担当者から受け取ったURLを開くだけでいいのです。

つまり、会場のスタッフでYouTubeの配信ページ作成などに慣れている人が見つからなかったとしても、それは全く問題ありません。オンラインのイベントなら、世界中に味方してくれる人はいるのですから。 日本語教育関係のイベントなら、僕も協力します。

実際の画面があった方がイメージしやすいと思いますので、こうしたパターンのイベントの録画を以下に埋め込んでおきます。

海外日本語教育学会 平成29年度 第3回研究会 (タンザニア、セネガル、スーダンなど) - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=mYNgoFGnUEo

上記の海外日本語教育学会のライブ中継の後に YouTube の仕様が変わって、中継終了後もチャットボックスが残るようになっていますので、いわゆる学会や研究会ではなく教師セミナーですが、そちらの状況をご紹介するために国際交流基金ブダペスト日本文化センターのウェビナーの 動画もご紹介いたします。あ、これ埋め込み画面では見えませんね。画面の下のリンクをクリックして、YouTubeのページを開いてください。


JFBPオンライン日本語教師研修「体験交流活動を通した日本語学習」 - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=rYKf4PbY7eg

全部見る時間がない方も、早送りして最後の方まで動画を進めると、その時系列に沿って質問なども画面の右側のチャットボックスに表示されていくのがご覧になられるのではないかと思います。 YouTube Live では、このように視聴者から文字による質問を受けることができます。

さてもう一件、 YouTubeと最近流行しているZoomではどちらがいいのかという質問もよく受けますので、比較をしてみたいと思います。

まずは画面を見てみましょう。これはZoomで行なったオンライン講演会をダウンロードして YouTube にアップロードしたものです。つまり YouTube の中にありますが YouTube でライブ配信したものではありません。

「日本語教育と演劇」JFT日本語教師オンラインセミナー - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=2xB-MtsguWQ

参加者数の違い
YouTube でライブ中継する場合は、上限はありません。もちろん何千万人という人が同時にアクセスしたら YouTubeのサーバーがダウンしてしまう可能性は否定しませんが、日本語教育関係のイベントでそのようなことはないと言っていいと思います。Zoomは100人までです。

参加方法の違い
YouTube では、 hangout ON AIR というシステムを使っていますので、無料版なら10人までは配信する側に入ることができます。パネルディスカッションなどにはこれで十分でしょう。それ以外の人はチャットボックスにコメントすることができますので、文字で質問することができます。文字で質問できる人の人数に上限はありません。チャットボックスでの質問の例は、上で紹介した国際交流基金ブダペスト日本文化センターのようつべページでご確認できます。
Zoomの場合は、 テレビ会議システムなので、 文字だけではなく実際に顔を見ながら音声で質問をしたりすることができます。なお、Zoomの場合もチャットボックスがありますので、顔を見せたくない人が音声や文字だけで質問することも可能です。

敷居の高さの違い
YouTube でライブを主催するには、 Google のアカウントを取ってチャンネルを開設する必要があります。 チャットボックスで質問する人も、少なくとも現状では Google のアカウントが必要です。ただし、見るだけなら Chrome や Firefox のようなブラウザがあれば十分です。
Zoomでは主催者はアカウントが必要ですが、それ以外の参加者はアカウントを作る必要はありません。 最初に参加するときはリンクを開くと小さなプログラムがダウンロードされますが、 リンクを開く以外の操作は必要ないので、 難しいことはないでしょう。スマートフォンやタブレットなどではアプリをインストールし、アプリを立ち上げた後で、会議室を指定するための番号を入力する必要があります。

経費の違い
上にも書いていますが、 YouTube でライブ配信するのにはお金は全くかかりません。Zoomも40分ごとに一旦配信を切ってすぐに再開するという作業が煩わしくなければ、完全に無料で使うことができます。月15ドルの有料版にはそうした制限はありません。

長くなってきてしまったのでこの辺までにしておきたいのですが、最後にひとつだけ。こうしたライブ中継に関するイメージは、研究会や勉強会を主催する立場の世代の人と、それを必要としているもっと若い世代の人の間でとても大きな違いがあるように認識しています。主催する立場の世代の人からは「ライブ中継なんてそんな未来の話よりも大事なことがある」という認識を感じることがあるのですが、 インターネットに慣れている世代の人達にとっては、YouTube はテレビと同じです。そうした人たちにとっては、研究会など中継しないことは、一部の特権階級がわざわざカーテンを閉めて鍵をかけて、密室でその利益を享受しているように見えてしまうのです。 そしてこうした認識のギャップが広がることは非常に危険なことなのではないかと思っています。

今回のこの記事が、そうしたギャップが少しでもなくなることに貢献できることを祈っています。

そして冒険は続く。

【参考資料】
むらログ: ハッシュタグ #日本語教育ウェビナー のご提案
http://mongolia.seesaa.net/article/459343721.html

日本語教育学会に参加した人たちの発言 - Togetter
https://togetter.com/li/1231629

ブログを始めました|uichi(神吉宇一)|note
https://note.mu/uichi1113/n/n2a3cc64bbcfd

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posted by 村上吉文 at 21:35 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加