2018年04月16日

リスクを取れるようになるための7つのステップ

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日も短刀一本で巨大なトラと戦っていますか?

今日紹介することはスイス日本語教師会のセミナーでもお話ししたことで、同じようなデータはこのブログでも紹介したことがあるのですが、以前に紹介したことは若干データが古くなっていたりするので、今日はアップデートとして再掲します。

まず、僕は nifty-serve というインターネット以前のパソコン通信の時代から、グローバルな日本語教師のデジタルネットワークに関わってきたのですが、実際にはこうしたソーシャルメディアを通して何らかの犯罪の被害にあってしまうということはほとんどありません。もちろん全くないわけではありませんが、よくあるのはソーシャルメディアのアカウントを乗っ取られて、レイバンというサングラスのブランドの偽イベントの広告をばらまいてしまうとか、他害性の障害(双極性障害、反社会性パーソナリティ障害や行為障害、素行障害など)のあると思われる人から辛辣なコメントをもらうようなことぐらいです。もちろんこれらも無視するわけにはいきませんが、対応方法を知っておけば、それほど心配することはありません。しかしそれ以上に心配しなければいけないことは、これらのリスクを過大に評価してしまって、ソーシャルメディアを使わなくなってしまうことです。ソーシャルメディアがこれだけ発展し、そこから迅速にかつ大量に学ぶ機会がある以上、ソーシャルメディアを使わなくなってしまうということにも、実は大きなリスクがあるのです。

リスクを避けるリスク
これはソーシャルメディアの例ではないのですが、リスクを避けることが新たなリスクを生んでしまう有名な例として、911と呼ばれている米国の多発同時テロの後の交通事故による死亡者の増加の例をご紹介したいと思います。 これはドイツのGerd Gigerenzerという研究者が「Dread Risk, September 11, and Fatal Traffic Accidents」というタイトルで発表した論文です。中身も以下のリンクから読むことができます。
https://pdfs.semanticscholar.org/3ea1/ec429263efaf817e5ed972c192308214c6dc.pdf
この研究によると911のテロの後、人々が飛行機に乗ることを避けた結果、飛行機よりも死亡リスクの高い自動車の利用が増え、そのために増えてしまった自動車事故の死者数は911のテロの犠牲者の数すら超えてしまっているとのことです。

ここで考えなければならないことは、テロによる犠牲者はメディアを通して大きく報道されるので印象に残りやすい一方で、自動車事故による死亡者の増加はほとんど報道されることはないということです。これと同じことがインターネット上のリスクについても言えます。インターネットを介した犯罪はそうでない犯罪に比べてニュースなどで目につきやすいため、そうでない犯罪に比べて非常に多く発生しているように感じられてしまうのです。 しかし実際にはサイバー犯罪というのはそれほど多くありません。 平成29年版の警察白書によると、平成28年中のサイバー犯罪の検挙件数は8,324件に過ぎず全検挙件数337,066件に比べると全体の2.4%にしか過ぎないのです。

従来のリスクとの比較
また、ソーシャルメディアを使わなかったとしても、従来の教育機関にも実はそれなりにリスクはあります。例えば警察庁の「平成28年の犯罪」という調査によると職業別の検挙人員の中で「教員」に該当するものが578名もおり、その中には凶悪犯12名も含まれているのです。
現在ではなぜか犯罪として扱われていませんが、体罰による怪我も毎年報告されています。文部科学省の「体罰の実態把握について(平成27年度)」という調査によると、発生件数1,126件で、「傷害あり」は216件もあり、骨折・捻挫などの重傷の例も24件あります。
子供同士のトラブルももちろん大きなリスクのひとつです。文部科学省の平成28年度「児童生徒の問題行動不登校など生徒指導上の諸課題に関する調査」という資料によると、 小・中・高等学校における,暴力行為の発生件数は59,457 件であり,児童生徒1,000 人当たりの発生件数は4.4 件だそうです。また、小・中・高等学校及び特別支援学校における,いじめの認知件数は323,808 件であり,児童生徒1,000人当たりの認知件数は23.9 件であるという数字もあります。
こうした数字を見ている限り、ソーシャルメディアだけが取り立てて危険ということは全くありません。むしろ、具体的な数字で示すことはできませんが、ソーシャルメディアを恐れてしまうあまりに、他者とつながるツールを使わないようになってしまうと、その結果による学びの機会の損失こそが最も大きなリスクであると私は考えています。

リスクを取れるようになるための7つのステップ
とは申し上げてもソーシャルメディアに慣れていない先生や学習者にとって、いきなりインターネットで発信しましょうと言っても無理があるでしょう。 そのためには最初はゼロから始めて、少しずつインターネット上の露出を増やしていくというストラテジーを取る必要があります。具体的にはこのような七つのステップを考えてみると良いと思います。

1.見るだけ、読むだけ、聴くだけ
2.アカウントを作るだけ(発信しない、フォローしない)
3.発信を始めるがフォローしない(Twitter)
4.フォローを始める
5.安全なコミュニティーで活動する(FB)
6.ブロックやミュートを身に着ける
7.荒野に送り出す

ではこのステップのそれぞれについて考えてみましょう。
まず最初は何も発信しないで、受信だけするタイプのソーシャルメディアの利用です。アカウントを作らなくても閲覧や視聴のできるソーシャルメディアの代表的な例としては、 YouTube、 Twitter、 Instagram、 Wikipedia などがあります。 Wikipedia に関してはアカウントがなくても書き込むことすらできます。

次はアカウントは作るが、情報発信はしない段階です。これが便利なのは特に Twitter です。ツイッターでは有益な情報を発信している人だけを教師が選んでリストを作ることができます。例えば以下のリストは村上が教育関係者の皆様に共有しているリストです。今夜の晩ごはんなどの個人的な情報をあまり発信しないで専門的な情報を中心に発信している人たちをリストにしています。
https://twitter.com/Midogonpapa/lists/leadingeducators
慣れてきたら学習者たちに自分でもリストを作ることを勧めてみましょう。たとえ何も投稿しなくても、自分でリストを作るためにはアカウントが必要です。ただ、この段階で大切なのは、リストを作っても誰もフォローしないということです。リスクを避ける上でこうした方法が重要なのは、ツイッターで誰かをフォローしてしまうと、その相手からダイレクトメッセージを受け取ることができるようになるからです。まだソーシャルメディア上のリスクを取る準備ができていない学習者の場合は、こうした外部から見えないコミュニケーションは避けなければなりません。アカウントを作ると公開された場所でその人宛にコメントすることはできるようになりますが、幼児性愛者のような犯罪者はそうした公開された場所での活動を嫌いますから、こうして透明性を上げることにより、学習者たちを守ることができるようになります。

次にまだ誰もフォローしないままで、投稿を始める段階に進んでみましょう。一番リスクが少ないのは宛先のないツイートです。これはほとんど独り言のようなものですから、 誰もフォローしていない段階では他のユーザーに読まれる可能性はほとんどないと考えてもいいです。ただし検索結果には現れますので、 その投稿に含まれるキーワードで検索した人の目に触れる可能性はあります。

この段階に慣れたら、 次はハッシュタグを付けて投稿してみましょう。ハッシュタグは自動で検索結果へのリンクになる文字列のことで、必ず「#」から始まるようになっています。 例えば以下のリンクは「#スイス」というハッシュタグの検索結果で、色々な人がスイスについて投稿していることを見ることができます。
https://twitter.com/search?f=tweets&q=%23%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9
ハッシュタグにも色々な人が読むものと読まないものがあります。しかしハッシュタグをつけることで、人々に読まれるようになる可能性はかなり上がります。

誰もフォローしていない段階での最後のストラテジーとして、他のユーザーにコメントするということがあります。これはかなり積極的な働きかけなので、ほぼ読まれると思っていいです。ただし必ずコメントが返ってくるとは限りません。

ここではフォローをしない状態で発信を始めるという方法についてご紹介しましたが、実際にはその逆に「人々をフォローするが発信しない」というタイプのアカウントもあります。ただしこれはセキュリティの上から言えば、外部からは見えないダイレクトメッセージを送られる可能性があるので、よりリスクは高いということができると思います。

ではいよいよ他のユーザーをフォローするという段階に進んでみましょう。この段階では前にも申し上げましたように、他のユーザーから非公開のダイレクトメッセージを受け取ることができるようになります。学習者が受け取るダイレクトメッセージの内容は教師が確認することはできませんが、学習者が誰をフォローしているかは外部から観察することができます。もし学習者がフォローしているユーザーのリストの中に、不審なアカウントを見つけたら、そのアカウントのタイムラインを開いてどのような人物か確認してみましょう。そしてさらに不信感を持つことになったら、学習者に対してなぜこのようなアカウントをフォローしているのかを聞いてみるといいと思います。

語学学習のためのソーシャルメディアといえば、 Facebook などよりもツイッターの方が匿名やニックネームで利用できるし、複数のアカウントも作れるのでおすすめなのですが、 Facebook は実名制なので、問題のあるアカウントに遭遇する可能性はあまり高くありません。その意味でも Facebook を日本語学習に勧めることもあるでしょう。その場合はハッシュタグではなくグループを使って他の日本語ユーザーと交流を進めることが安全です。もし大規模なグループを紹介するとすると名実ともに世界一の規模である Facebook の「日本語」というグループおすすめです。ここは管理人が非常に厳しく悪意のあるアカウントを排除していますので、かなり安全なコミュニティと考えて良いでしょう。 リンクは以下の通りです。
 「日本語」
 https://www.facebook.com/groups/The.Nihongo.Learning.Community/

安全なコミュニティとしてもう一つご紹介しておきたいのは、 「海外旅行好きサークルwith国際交流」です。ここは日本語学習を目的としたグループではありませんが、海外に関心のあるユーザーが多く集まっていて、観光地として知られている地域の日本語学習者が投稿したら間違いなく多くのコメントなどをもらうことができるでしょう。また、このグループも管理人が手間暇をかけて悪意のあるアカウントを退会させているので、上記の日本語グループと同じように安全なコミュニティと考えて良いと思います。リンクは以下の通りです。
 「海外旅行好きサークルwith国際交流」
 https://www.facebook.com/groups/vamos.a.viajar/

ここまで、リスクの少ない場所に学習者を誘導するという方向でリスク対策を紹介してきましたが、中には政治的な発言を好む日本語学習者もいます。 最近はネトウヨ(ネットでしか発言できない右翼)と呼ばれていますが、排他的な投稿をするユーザーがいないこともありませんので、外国人の立場で日本語で政治的な投稿をする場合は、あらかじめこうしたネトウヨたちをブロックしておくという方法も有効です。こうした相手に絡まれたら躊躇なくブロックするべきであることはすでにソーシャルメディア上の常識ですが、絡まれる以前にブロックしておくとそうしたリスクをあらかじめ避けることができます。 そのためのツールも色々開発されていて、例えば 「Twitter Block Chain」という Chrome の拡張機能を使って、「日本第一党」などのような右翼的なアカウントのフォロワーをまとめてブロックしておくのも良いのではないかと思います。 具体的な方法は以下の記事にまとめてありますのでご関心がありましたらご覧ください。
 むらログ:「ネトウヨを大量に自動ブロックするには」
 http://mongolia.seesaa.net/article/455158773.html

ここまでやったら、あとは若い冒険家を荒野に送り出すだけです。もちろん大人から見ればまだ未熟で頼りないだろうとは思いますが、 不安な気持ちを抑えながらもその後姿を見送らなければなりません。大切なことは学習者を危険から守ることではなく、少しずつ危険にさらしていって、主に自分の力で、時には他の人の力も借りながら、危険に対応する能力を育てるということです。学校内でソーシャルメディアを通して社会への接点を増やすということは、伝統的な教育機関で実施されている、温室から卒業させていきなりジャングルに子供たちを送り出すような急激なリスクの上昇に晒すことに比べれば、コントロール可能な環境でリスクに慣らしていくことができるという意味で、むしろ優れた教育方法なのではないかと思っています。

そして冒険は続く。

【参考資料】
Dread Risk, September 11, and Fatal Traffic Accidents
https://pdfs.semanticscholar.org/3ea1/ec429263efaf817e5ed972c192308214c6dc.pdf

@Midogonpapa/LeadingEducators
https://twitter.com/Midogonpapa/lists/leadingeducators

Facebookグループ「日本語」
https://www.facebook.com/groups/The.Nihongo.Learning.Community/

Facebookグループ「海外旅行好きサークルwith国際交流」
https://www.facebook.com/groups/vamos.a.viajar/

むらログ:「ネトウヨを大量に自動ブロックするには」
http://mongolia.seesaa.net/article/455158773.html

【コメントはソーシャル・メディア上の記事別ページヘどうぞ!】
https://www.facebook.com/MurakamiTheAdventurer/posts/2050245878596553
https://twitter.com/Midogonpapa/status/985625998812004352
https://plus.google.com/+YoshifumiMURAKAMI/posts/1rKE36K9KwK

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posted by 村上吉文 at 06:00 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加