2018年04月05日

教育機関が ICT を使うメリットを考えてみた

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて、食べたナツメヤシの種を口から飛ばしていますか?

さて、スイスの日本語教師会の皆さんにご招待いただき、ベルンで研修を行ったことを前に書きましたが、そのおかげで、日本語に限らず教育機関で ICT を利用するとどのようなメリットがあるのかを考えてみることができました。当たり前すぎてあまり普段は考えませんが、今日は教育機関でICTを利用するとどのようなメリットがあるのかを「学習者」「教師」「社会」の三つの視点から考えてみましょう。

【学習者にとってのメリット 】
まず学習者にとってですが、テクノロジーを利用すると成績が上がるという結果がいくつもの研究者から報告されています。 例えばElham Akbariらによる"Student engagement and foreign language learning through online social networks" では、 ペルシア語の母語話者を対象にした英語の授業で、教室内だけでの共有と、 Facebookを通して成果物を共有したクラスを比較しました。コースの前はむしろ教室内で共有したクラスの方が成績が高かったのにも関わらず、コースの後では Facebook を使ったクラスの方がはるかに成績が良かったという結果が報告されています。全く同じコンテンツを学び、同じ活動をしたにも関わらず、ICTを使って教室の外部の人とつながることによりこのような成績の向上が見られるのです。(一方で、同じ内容を鉛筆で書くか、パソコンで書くかと言った ICT の効果を引き出さない比較では、それほどの違いが出ないという研究もあります。)

次に、 ICTを使えばいつでもどこでも勉強できるというメリットがあります。特にスマートフォンを利用した語学学習の発展は顕著で、例えばduolingoというアプリでは英語話者向けの日本語学習コンテンツのダウンロード数が563万となっています。国際交流基金の日本語教育機関調査による調査では、海外の教育機関で日本語を学んでいる人の数は360万人ほどですから、それよりはるかに多い数の日本語学習者がこのひとつのアプリを使って学んでいることになります。一般的に学校の先生とは教室内でしかコミュニケーションができませんが、こうしたアプリを使えばベッドの中でも風呂の中でも通勤中でもいつでも語学の勉強ができるわけです。これはどれだけ優秀であっても学校の先生には真似のできない能力です。

スマートフォンにインストールするタイプのアプリとは別に、 MOOCという学習の機会もあります。これは大規模公開オンライン講座(Massive Open Online Course) のことで、日本ではJMOOCという機関が複数のMOOCのコンテンツをまとめて紹介しています。日本語学習のMOOCのコンテンツとしては、国際交流基金による「みなと」が開発されています。

こうした流れは公教育にも波及しており、例えば高校では「N高等学校」などが大きな人気を博しています。 勉強の全てがオンラインで可能で、クラブ活動などもオンラインです。講師も一流の人が勤めていて、 例えばアニメ化や映画化もされた「ソードアートオンライン」という小説の作者、川原礫さんがライトノベルについての授業を担当していたり、サッカー部の特別顧問が元サッカー日本代表の秋田豊さんだったりします。 今年2月の時点ではまだ一年生と2年生しかいないのにも関わらず、すでに4790人の生徒数を集めています。技術を使うことによって、一流の先生から多くの生徒たちが学ぶことができるようになっている結果ですね。

学習者にとってのメリットの三つ目ですが、自分の好きなコンテンツで勉強できるという点も見逃すことができません。例えば Google+(グーグルプラス)というソーシャルメディア上にはアニメや漫画やゲームを通して日本語を勉強しようというグループもあります。
Learn Japanese through Manga, Anime, and Games - Google+
https://plus.google.com/communities/100379889147661298516

また、このブログではよくご紹介していますが、Facebook の「日本語」というグループでは自分の好きな歌手の歌う歌の歌詞をひたすら翻訳していくことによって日本語を勉強している学習者も見受けられます。自分のわからないところをこのグループで確認しているのです。

YouTube でも同じように日本の漫画やゲームを通して日本語を教えるチャンネルが人気です。 例えば以下のチャンネルでは現時点で5000人近い登録者がいます。
TRUNKS Manga - YouTube - YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCH_jKWThXrTg6Kjg1Sbw-HQ

こうして自分の好きなコンテンツを通して日本語を学んでいる人達は世界中の色々なところにいて、例えば研修を行ったスイスにもアマンダさんという人がやはりアニメなどを通して日本語を勉強したということを僕のインタビューで話してくれています。


https://www.youtube.com/watch?v=iyTSMivnGFA

ちなみに僕自身もカナダに来る前はハンガリーにいたのですが、ハンガリー語を勉強する時はハンガリー語の映画をよく使っていました。中でも、今回の研修の会場になったベルンで1958年に起きたハンガリー大使館占拠事件を題材にした映画は内容としても非常に印象的でハンガリー語の勉強にもなりました。

以下の映像は、僕が初めてハンガリー語で話してみた時のものです。まだハンガリーに来る前でエジプトの首都カイロで撮影しました。ハンガリー語のわかる人は僕のブログの読者の中にはあまりいらっしゃらないと思いますが、少なくともある程度の長さのまとまったことを話しているということはお分かりいただけるのではないかと思います。


https://www.youtube.com/watch?v=9WrGlMZ_9gk

テクノロジーを使うことの学習者にとってのメリットの四つ目ですが、自分が一番必要としている教師から教えてもらえるという点もあります。 学習者のニーズというのは非常に多様で、日本語教師の能力も 非常に多様です。例えば僕が自分の強みを活かしたコースを開発するオンライン研修を実施したときには、日本に滞在しているクリスチャンに特化したコースなど非常に多様な内容が提出されました。例えば「天にまします我らが父よ」で始まる「主の祈り」などが日本語でできるようになることを目的とする課もありますが、こうしたニッチな分野に特化したコースはテクノロジーを利用して色々な場所にいる学習者と日本語教師がつながることによって初めて可能になります。

最後に、学習者にとってのICTのメリットの五つ目ですが、「他の日本語話者と友達になれる」ということを挙げておきたいと思います。従来の技術では文通などで海外の日本語話者とコミュニケーションするには、返事が戻ってくるまで何週間もかかるのが普通でした。しかし、インターネットが発展してメールでやり取りできるようになると、 時間的な問題はなくなりました。そしてブロードバンドの発展により、文字だけでなく映像と音声でコミュニケーションすることができ、 しかもそれが録画ではなくリアルタイムに話し合うことができるテレビ電話のシステムが普及しています。海外にいる日本語話者は もはや遠い海の向こうにいる存在ではなく、同じ教室ですぐ隣で一緒に勉強しているような距離感なのです。

【教師にとってのメリット 】
では教師にとってはどんなメリットがあるでしょうか。教師にとっても色々なメリットがありますが、やはり一番大きい変化は「仕事が楽になる」ということではないかと思います。

例えば簡単な小テストならもはや教師が採点する必要はありません。誰でも無料で使える Google クラスルームやGoogle フォームに自動採点機能が付いているので、4択問題や漢字の書き取りのようなテストなら、もはや人間の教師が採点する必要はないのです。

作文の添削はまだコンピューターに任せることは難しいですが、Lang-8やHelloTalk などのお互いに添削することができるソーシャルメディアやスマホのアプリなどを使って、目標言語の母語話者によって学習者の作文を添削してもらうことができるようになっています。こうした添削を受けた上で教員が添削すれば、教員の負担はだいぶ減らすことができますし、学習者に対して自律的な学習方法を教えることにもつながります。

成績管理なども、 Google クラスルームをはじめとする無料のLMS(学習管理システム)によって、自分で計算したりする必要は全くなくなっています。

僕が日本語教師になったばかりの頃は、使った絵パネルを元の順番通りに並べ直す作業があったりして非常に非効率でしたが、今ではこうした教材をデジタル化やクラウド化することによってこうした非生産的な作業にかかる時間はかなり軽減させることができるようになりました。

【社会にとってのメリット】

最後に、社会にとってはどのようなメリットがあるでしょうか。

その一番大きな恩恵は、落ちこぼれがいなくなるということではないかと思っています。 なぜなら落ちこぼれというのは一斉授業を前提にした現象で、一人ひとりが自分のペースにあったスピードで勉強すれば、その定義から落ちこぼれと言われる生徒は存在しなくなります。そしてそうした個別学習には ICT の利用が欠かせません。

また、いじめや発達障害などによる社会性の問題から学校に行けなくなるとか、もしくは積極的に学校に行かないことを選択している子供たち(ホームスクーラー)にとっても、学校のシラバスに沿った動画をYouTubeで一つ一つ見ていくだけで、学校に行かずに家で勉強を進めることができます。

今までは落ちこぼれや不登校などにより社会参加の機会が奪われていた子供達も、こうして学習の機会を与えられることにより、積極的に社会に参加し、納税者として社会を支えていくことができるようになります。一方で、こうした技術を取り入れずに社会参加ができないままであれば、税金を払うどころか生活保護などによって社会の負担になってしまう可能性が高くなります。つまり結果的には教育機関がテクノロジーを積極的に取り入れることは社会の安定につながっているのです。

今回はスイスで話したことをもとに、学校などの教育機関が ICT を取り入れることによってどのようなメリットを享受できるのかということについて考えてみました。もし他にもこんなメリットがあるという意見がありましたら、ぜひ以下のコメント欄にご投稿ください。

そして冒険は続く。

【参考資料】
Student engagement and foreign language learning through online social networks | SpringerLink
https://link.springer.com/article/10.1186/s40862-016-0006-7

Learn Japanese through Manga, Anime, and Games - Google+
https://plus.google.com/communities/100379889147661298516

TRUNKS Manga - YouTube - YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCH_jKWThXrTg6Kjg1Sbw-HQ

スイスの冒険家、アマンダさんインタビュー! - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=iyTSMivnGFA

冒険家メソッド ハンガリー語で話してみた - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=9WrGlMZ_9gk

Multi-lingual language learning and language exchange | Lang-8: For learning foreign languages
http://lang-8.com/

HelloTalk - Talk to the World
https://www.hellotalk.com/

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posted by 村上吉文 at 10:41 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加