2018年03月22日

教師研修はもう「オンラインでの学び方」だけにしません?

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日も熱気球でアルプス山脈を横断していますか?

さて、先週末はスイスで教師研修を行ってきました。スイス日本語教師会の皆さんが招待してくださったのです。スイスの皆様、ありがとうございました。

会場のベルンに着いたのは前夜のもうかなり遅い時間だったのですが、カナダの時刻ではまだ真っ昼間だったので、役員の皆様からいろいろ話を聞く時間を作っていただきました。

そこで出てきた話が、財政などの問題から今の形式の研修をするのは難しくなっているということでした。そこで、講師を海外から呼んだり、会場を確保したりする必要がないZoomでのオンライン研修会の提案をしてみたところ、好意的に受け止めていただくことができました。そこで、翌日の研修でも実際にzoomでの話し合いの体験を取り入れてみたのです。

僕は今までに何度もZoomのオンラインイベントを体験していますし、企画もしていますが、この時はそれまでのどれとも違っていました。なぜなら、通常のオンラインイベントでは、普段は顔を合わせていない人たちが会うことになるのに対し、この時はお互いがすべて顔見知りで、しかも同じ会場にいたからです。皆さんとても楽しそうで、知らない人と話すときの緊張感が全くないのが、僕には印象的でした。

そしてもう一つ、かなりアナログな人もいたはずなのに、ほとんど支障なく皆さんがすぐに参加されたことも印象的でした。

そこで思ったのですが、やはり現地に入ってから現地の皆さんに直接ニーズを聞いて研修の内容を変更するのに躊躇してはいけないということです。前夜に新しいコンテンツを入れることになったら、当然その分準備していたコンテンツを捨てることになりますが、そこを惜しんでは良い研修にならないのでしょう。

それともう一つ大事な事は、Zoomのようなオンラインツールを普及するには、オフラインでの接触が重要であるということです。オフラインでこうした研修をすれば、普段から知ってる人同士で同じ会場でオンラインツールでコミニケーションをしてみることができます。これは、Zoomなどのオンラインツールに1人で初めて挑戦することに比べたら、はるかに敷居が低いのではないかと思います。

それで更に思ったのですが、ありとあらゆる内容を学ぶためのリソースがオンライン上に存在する今、オフラインで行う教師研修はもう「オンラインでの学び方」という内容の一択でいいんじゃないかと思います。

というのも、オンラインにはほぼありとあらゆるコンテンツが揃っているわけです。そして、わざわざオフラインで同じような研修をするのには恐ろしくお金がかかります。仮にオンラインのコンテンツがないような分野だったとしても、そうした内容の研修を実施してくれる講師が同じ街にいてくれるとは限りません。別の街や別の国にいる講師にそうしたオリジナルな内容の研修をお願いするにしても、わざわざ来てもらうよりはオンラインで話してもらった方が時間も経費もかかりません。

以下は僕がスイスでの研修で最初にご紹介した例なのですが、カナダからスイスに移動したたった数日の間にも、これほど多くのオンラインで勉強する機会があるのです。

出発の朝(15日朝6時)
 Zoom「日本語教育オンライン実践報告会」近藤裕美子さん
移動中(16日)
 Zoom「やさしい日本語おしゃべり会」 佐久間司郎さん
今朝(17日5:30)
 YouTubeLive「海外日本語教育学会」
今日の昼休み(12:30) 
 Twitterで「#satchat」


もしかしたら僕のこのブログを読んでいる人の中には、この全部に参加した人もいるかもしれませんし、参加はしなかったとしても、「そんなの当たり前じゃん」と言う人もいるでしょう。しかし、 オフラインの研修会に参加する人たちには、このどれひとつも知らないという人も少なくないのです。

オンラインでの学びの機会というのはこのように毎日毎日どこかであります。しかし、これだけの大量のイベントに毎日オフラインで参加することなど絶対に無理ですよね。だとすれば、教師研修で行う内容はオフラインの人たちをオンラインの世界へ誘うということだけでいいのではないのでしょうか。というより、オンラインでこれほど豊かな学びの機会があるというのに、それ以上に重要な教師研修の内容があるのでしょうか。

もちろん、スポーツなどは 実際の体の動かし方などを見せたり、自分でやってみたりする必要があるでしょうから、 オンラインではまだまだ限界があると思います。また初等教育などでは対象が子供になるので、こうしたオンラインでの学びは集中力などが続かないという懸念もあるでしょう。

しかし、 語学教師のための教師研修でしたら、そのような心配はありません。Zoomでしたら何度かクリックするだけでグループワークやペアワークなどの活動も簡単に始められますし、Zoomに内蔵されているホワイトボード機能で共同作業も簡単にできます。もちろん、 Googleドキュメントなどの外部のツールを使って、文書やプレゼンテーションなどを共同編集することもできます。模造紙に付箋などをベタベタと貼り付ける形式の共同編集よりも、はるかに効率的です。

こうした研修を行うことにより、その2次的な効果として、参加した語学教師が自分の学習者に対してもこうした新たな学びの機会を紹介することができるようになるということもあります。直接的にはむしろこうした効果の方が社会的なインパクトとしては大きいかもしれません。つまり、語学教師がZoomやGoogleドキュメントなどの新しいツールをオンライン研修で知ることによって、その教師から学ぶ学習者が母語話者とZoomで話したりすることができるようになるわけです。

オフラインでこうした教師研修を行わなければならないもう一つの理由は、それだけはオンラインではできないからです。オンラインには確かに様々なコンテンツがあります。僕自身もそうしたコンテンツを職場で常に発信していますし、世界中で 多くの教師が自分自身の実践を共有したり、基本的な概念を説明したりするコンテンツをオンラインで共有しています。もちろん、 それらにアクセスする方法も大量にシェアされています。しかし、 これらのコンテンツがオンライン側にある限り、オフラインの人々に見てもらうことはできないのです。

逆にオンライン側から見ると、どれだけコンテンツを作ったりシェアしたりしても、それを必要としている人に届けることができないということが最大のネックになっています。でも、どれだけアナログな先生方でも、最近では家にパソコンがないとか、家にインターネットが通じていないというようなことはほとんどないはずです。 半径5 m 以内にインターネットに繋がったパソコンがある場合がほとんどでしょう。総務省の平成28年度版情報通信白書によると日本のインターネットの人口普及率は83%だそうですから、教育に関わる人材に限定すれば100%と言ってもいいのではないかと思っています。 つまり、僕のようにオンライン側から教師の支援をしている人間にとって、この最後の5mだけが最大の障壁になっているのです。この壁を越えることができれば、 僕に限らず、様々な教師支援をしている人たちからのアクセスが可能になります。

現場で毎日苦労している先生方にとっても、例えば「ソーシャルメディアを日本語教育で活用したい」というような話題であれば、申し訳ないのですが同じ職員室にいらっしゃる先生に聞くよりも、僕に聞いた方が良い答えが得られる可能性がずっと高いと思います。文法とか音声とかだったら別の先生の方がいいとは思いますが、それでも同じ職員室の中にいる先生よりも、オンラインでアクセスできる専門家に話を聞いてもらった方がはるかに確実で質の高いアドバイスを受けることができるはずです。

こうして考えてみると、オフラインで実施する語学教師の研修において、やはり「オンラインでの学び方」よりも重要な内容があるとはちょっと考えられなくなってきています。そして、こうした研修を実施できる現場の先生方はたくさんいます。日本語教師チャットにも毎月何十人という人が参加してくれていますし、 Facebook の日本語グループには300人近い有資格者の日本語教師が職員室に登録されています。そして僕のこのブログにも毎日毎日何百人という人がアクセスしてきてくれています。 僕のブログなんて読んだことがないという人には、まだ僕は手を差し伸べることができません。しかしこのブログを読んでいるあなたなら、ご自分の周りにいらっしゃるオンラインでの学びを知らない同僚に対して、「こんな方法もあるよ」ということを提案することができるのではないでしょうか。

大事なのは手の届かないところにいるアナログな偉い先生ではなく、手の届くところにいるアナログではないあなたなのです。

僕はスイスの研修会で、1日目の最初のプレゼンと二日目の最後のプレゼンで象徴的な画像をお見せしました。砂漠のような荒れ野に一枚のドアがあって、そのドアの向こう側には 青い海が広がっています。現実にはありえない、ドラえもんの「どこでもドア」のようなイメージですね。でも、インターネットを使って常に前を向いて進んでいる皆さんにとっても、世界はこのように見えるのではないでしょうか。ドアを一枚開ければ、その向こうには全く別の世界が広がっています。そして、 残念なことにこの社会はその風景が見える人と見えない人に分断されています。僕たちに今できることの中で最も大切なことは、 この風景を知らない人を、このドアの前まで連れてきて、ドアを開いて見せることなのではないでしょうか。もちろん、そこから先に一歩を踏み出すかどうかは、その本人次第です。しかし、大切なことは成長の機会がないという殺伐とした世界に住んでいるように見えていても、実はそれとは全く違う世界があるということを知ってもらうことです。 ドアを開ければ、支援したいと思っている人も、また無料で支援を提供することを職業としている人もたくさんいるのです。

このブログを読んでいる皆さん、 僕たちの手の届かないオフラインの現場で是非、オンラインでの学びについて皆さんの身の回りにいる人たちに話してみませんか?

そして冒険は続く。

【参考資料】
総務省|平成28年版 情報通信白書|PDF版
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/pdf/index.html


https://twitter.com/Midogonpapa/status/976100037506711552

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posted by 村上吉文 at 22:22 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加