2018年02月20日

国内の日本語学校は日本語教育界の中心なのか

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日もサルガッソー海でスクリューに絡みつく藻をナタで切り払っていますか?

さて、国内の日本語学校で働いている皆さんのソーシャルメディア上の書き込みを見ていて、時々違和感を感じることがあります。なぜなら、国内の日本語学校が日本語教育業界の大部分を占めているような前提に立った書き込みが多いからです。

確かに、今日本の国内の学習者の数は急激に伸びているのに、教師の数はほとんど伸びておらず、非常にブラックな環境にあることが統計的にも見て取れます。また実際に Twitter などでも仕事が多くて大変だと言う書き込みが非常に多くなっています。そして、そうした状態から日本語教育という業界全体に対して絶望するような声も聞こえてきます。

これは非常に残念なことです。なぜかと言うと、日本の国内の日本語学校で働く日本語教師は、世界の日本語教育の全体の中の8%ぐらいしかないからです。日本語教育の世界は非常に広いのです。そうした広い世界の中で、全体の1割にも満たない部分しか知らないまま、優秀な人材が日本語教師を辞めてしまうのは、業界全体にとっても大きな損失です。そこで今日は簡単な算数をしてみましょう。

【個人教授を除いた日本語教師の総数】
まず、国際交流基金の2015年度の海外日本語教育機関調査によると、日本の国外で日本語を教えている先生の数は64,108人です。一方、日本の国内の日本語教育の 日本語教育の状況については、文化庁が調査をしています。文化庁は平成28年度も調査を行っていますが、 国際交流基金の海外の調査は2015年度のものが最新なので、ここでは同じ年の文化庁の調査の数字を使ってみたいと思います(それにしても、海外は西暦で国内は平成というのは非常に面倒くさいですね)。この調査では、日本の国内の日本語教師の数は36,168人となっています。

この二つの数字、つまり海外の日本語教師の数と、国内の日本語教師の数を足すと、100,276人になります。なお、これらの調査では、あくまでも教育機関で教えている人しか対象になっていないので、後述する個人教授の先生方が含まれておらず、実際の数よりはかなり少ない数字になっていることにご留意ください。

【日本語学校の日本語教師の占める割合】
先ほどご紹介した文化庁の同じ調査によると、この中で大学や地方自治体の国際交流協会などではなく、日本語学校(いわゆる法務省告示機関)で教えている人の数は、7,496人です。

この日本語学校で働いている日本語教師の数を先ほどの国際交流基金と文化庁の調査による国内外の日本語教師の合計で割ると、7, 496÷100,276ですから、0.0747、つまりおよそ7.5%ほどということになります。 どう見ても業界全体を代表できる数ではありませんね。 例えば韓国には14855人の日本語の先生がいて、このうち8割ほどは中等教育の先生だということですから少なくとも1万人以上の日本語の先生がいることになります。この層だけでも法務省告示機関の日本語学校で教えている先生よりも多いわけですね。

【ボランティアを除外して計算】
さて、先ほどご紹介した日本語教師の全体の数の中にはボランティアも含まれています。文化庁の調査ではボランティアは21,718名だそうなので、分母の10,0276からこの21,718を引くと78,558になります。これがボランティアを除いた日本語教師の総数です。 先ほどの法務省告示機関の日本語教師の数である7,496をこのボランティアを除いた日本語教師の数78,558で割ると0.0954になります。つまり9.5%で、これでも1割に満たないのです。前にも書いた通り、国際交流基金の調査も文化庁の調査も個人で日本語を教えている人は算入されていませんから、実際は分母がもっと大きくなり、その結果、日本語学校で教えている先生の割合はずっと低くなるはずです。

【個人教授の日本語教師も参入すると】
では個人で日本語を教えている人はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。どこかにきちんとした統計があるかもしれないのですが、僕はまだ見つけていないので、 現在ツイッターでアンケートを行っています。まだアンケートは終了していないのであくまでも途中経過ですが、現状では70%ちょうどが教育機関で教えていて、16%が個人で教えていて、 残りの14%が機関でも個人でも教えているということになっています。ということは教育機関が教えている人が70+14で84、 これまでの調査で把握されていなかった個人で教えている人が16という比になるはずです。先ほどの国際交流基金と文化庁の調査による日本語教師数からボランティアの数を引いた78,558に機関で教える教師と個人で教える教師の比をかけると、14,963人になります。つまり、現在100名弱の Twitter で取ったサンプル数から考えると、世界には14,963人の個人教授がいるということになります。この数字を教育機関で日本語を教えるボランティア除く日本語教師の数、78,558に加えると、 93,521人になります。 日本国内の日本語学校で日本語を教えている人の数は7,496ですから、この数字を個人教授も入れた日本語教師の数93,521で割ると、0.08015 になります。つまり、全世界の個人教授も入れた日本語教師からボランティアを除いた人数のうち、国内の日本語学校で教えている日本語教師の割合は8.0%ということになります。今のところ、この数字が僕の知りうる数字の中で一番現実に近いと思われるものです。もちろん他にももっと 多くの資料から推定した数字があるかもしれませんが、僕に想定できるのはここまでです。

つまり、日本の国内の日本語学校で教えている先生は、日本語教師全体の中でどれだけ多く見積もっても1割にも達することはなく、 それが日本語教師の代表的なイメージだと理解している人がいるとすれば、かなり現実から離れているのではないかと思います。

【海外で教えている人は外国人ばかり?】
国内の日本語学校で教えていらっしゃる日本人の先生方の中には「海外で日本語を教えている人は外国人ばかりだから関係ない」と思っている人もいるでしょう。確かに日本の国内より海外の方が、日本語の母語話者ではない日本語教師の割合は多いと思います。しかし、例えば僕がフランスの日本語教師会に呼ばれて研修会を行った時は、50名ほどいた参加者の全てが日本人でした。 中等教育などでは現地の教員免許が必要な国が多いので、日本人の割合は少なくなりますが、例えばカナダではそれでも中等教育の日本語教師の3割が日本語の母語話者でした。カナダでは州によって違うところもあるかもしれませんが、大学院だけでカナダの教員免許が取れるところもありますし、学部からカナダに留学して学部生の時に教員免許を取った日本語の先生もいらっしゃいます。ましてや、教員免許のいらない大学や民間の語学学校の日本語教師は圧倒的に日本語の母語話者が多いのです。 先日訪問したオタワのカールトン大学というところでは7人の日本語の先生のうち6人が日本語の母語話者でした。(ただし、国際結婚などされている方も多いので国籍上も日本人かどうかはわかりません。)

【国内の日本語学校の日本語教師によるセルフイメージ】
さて、このように日本国内の日本語学校で日本語を教えている人の数というのは全体の8%ぐらいしかないわけですが、それではそこで働いている皆さんは自分たちがどの程度の割合を占めているとイメージしているのでしょうか。あくまでも簡単なアンケートにすぎませんが、 Twitter の投票機能を利用してアンケートを行ってみたところ、やはりかなり現実とは違うイメージが持たれていることがわかりました。 一番現実に近い数字を選んだ人は5人に一人しかおらず、中には「6割以上」というイメージをお持ちだった人さえ20人中5人もいたのです。



【世界は広い】
確かに、もし日本国内の日本語学校が業界の6割を占めるような状況だったら、 勉強する気もない出稼ぎ目的の労働者に留学生という名前をつけて教室に閉じ込めておくような仕事をしていると、絶望的になってしまって、この業界自体に可能性がないように思ってしまうのもごく自然なことです。

しかし、実際には、その思い込みの10倍ぐらい世界は広いのです。例えば、中央アジアの秘境、トルクメニスタンをご存知ですか? この国では今、日本語学習者の数が爆発的に増えています。国際交流基金の調査では、以下のような一節があります。
「それ以前、教育機関数は1、学習者数は50人程度、教師数は3〜4人程度だったが、それぞれ19(約20倍)、1,903(約40倍)、35(約10倍)と急増した。」

【国内の日本語学校の特殊性】
このように、数字の上で非常にマイナーであるということ以外にも、国内の日本語学校の特殊性というのはいくつかあります。そのうちのひとつが、政府による研修などの支援がほとんどない(もしくは全くない)ということです。 海外なら、国際交流基金の定期的な研修があったり、中等教育機関なら現地の教育委員会などが予算を出してやはり定期的に教師研修を行っています。例えば、僕の住んでいるエドモントン市の中等教育では、一年間に5回、それも平日に教師研修の日があります。その日は教員は研修を受けるので、子供達は授業がなく休日になります。こうした教員研修の日に研修を行うのも僕の仕事の一つです。

(ところで「国際交流基金が国内の日本語教師の研修もやればいいじゃないか」という声もよく聞かれるのですが、実は「国際交流基金法」という法律の第12条の規定により、国内の日本語教師の支援はできないことになっているのです。)

国内の日本語教育限定ではありませんが、今度の土曜日に行われる日本語教師チャットの事前のアンケートでも、「私の受けたい研修」というトピックが第2位に2倍以上の差をつけて一位になっています。これも研修の機会に飢えている先生方のニーズを示したものではないかと言えます。

そして、大変残念なことではありますが、常に最新の情報にアップデートできる環境にいる教師と、そうした機会が全くないことが普通である環境で何年も暮らしている人たちの間には考え方に大きなギャップが生まれてしまうことも否定できないのではないかと思います。もちろん、そこにいる人のせいではなく、問題はその環境にあるのですが。




もちろん、育児や親の介護などがあって、世界が広いことを知りつつも、環境を変えられない人もいるでしょう。しかし、先ほどご紹介したアンケートにも見られるように、日本の国内で働いている日本語教師の80%は、世界の広さを正しく認識できていない可能性があります。そうした皆さんに、私は強く申し上げたいです。世界は広いのだと。置かれた場所で咲く必要などないのです。花を咲かせる場所を選んでください。咲けない場所にとどまる必要などありません。そして何より、世界はあなたを必要としています。

そして冒険は続く。

【参考資料】



国際交流基金日本語教育機関調査2015年
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/result/dl/survey_2015/spreadsheet.pdf

平成 27 年度日本語教育実態調査
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/__icsFiles/afieldfile/2017/08/17/2016072801.pdf

国際交流基金 - トルクメニスタン(2017年度)
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2017/turkmenistan.html


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アップロードして 1時間後に追記。単純な計算間違いで 7%としていたところ8%に変更しました。
posted by 村上吉文 at 10:13 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加