2017年11月20日

崎谷実穂『ネットの高校、はじめました。 新設校「N高」の教育革命』


クリエイティブ・コモンズ・ライセンス




冒険家の皆さん、今日も命からがら複葉機で脱出したら座席に操縦士のペットの大蛇がいて悲鳴を上げていますか。

さて、この『ネットの高校、はじめました』は出版されてすぐに読んだ本なんですが、僕もオンライン教師研修を始めたので読み返してみました。

読後感を端的に言うと、すごく感動しました。日本の教育制度にはいろいろな問題があり、それは制度上、どうしても変えられないのかと思っていたのですが、やればできるじゃないですか。こういうクリエイティブな人たちが教育界にどんどん参入してくることを願って、僕が読んで終わりにせず、皆さんにもご紹介したいと思いました。

知らない人のために最初に「N高等学校」について簡単に説明すると、要するに通信制の高校です。あ、ちなみに「N高」というのは伏せ字にしているんじゃなくて、正式名が「N高等学校」なんです。「N」にはネットとか、ニコニコとかNewとか、いろんな意味があるのかもしれませんね。

通信制の学校はアナログの時代からあったみたいですが、何が違うかというと、この学校を作ったのは「ニコニコ動画」などを運営しているドワンゴなのです。つまり、教育のプロがネットに参入したのではなく、逆にネットで若者を楽しませるプロが教育に参入したのです。

だから、先生がライブ配信で授業をするときは、まさにニコニコ動画のように生徒たちのコメントが画面上に流れていくし、遠足はドラクエ]の中だそうです。サッカー部は「ウィニングイレブン」というサッカーのゲームをプレイするらしいですが、顧問はサッカー全日本代表の秋田豊氏なのでかなり本格的そうですね。

実は僕も昨日、N高の授業を見てみました。無料で登録できる「N予備校」でN高の授業の録画がいくつか公開されているのです。僕が観たのは「ものがたり創作」という授業で、大人が観てもなかなか面白かったですよ。これは録画だし、無料会員はコメントとかできないんですが、観ながら僕が思っていたことがそのまま他の視聴者からのコメントとして出てきたりして、すごく楽しいです。まさにニコニコ動画のノリですね。

講師が複雑な長文を読み解いていくと、画面には「なるほど!」の文字がどんどん流れる。「読めるとおもしろいかも」「うげー、そんなこと言ってたの」「ぜんぜんわかってなかった」など、他の生徒がどう思っていたかもコメントで読めるため、シーンとしたクラスで授業を受けるよりも、「皆で一緒に解いている」空気が生まれる。(位置: 289)


ここにはまさに未来があります。最新のICT技術を使っているという意味でも未来ですが、多様な子どもたちに対応できていない画一的な学校ではないという意味でも未来です。実際、本書には「全人口に占める若者の割合が年々減っている日本において、通信制高校では10代の生徒が増えているのだ。」(位置:180)という記述もあります。N高校だけではなく通信制の高校全体でマーケットが増えているのです。N高の他にも1万人を超える生徒を受け入れている「クラーク記念国際高等学校」というマンモス通信高校の例が挙げられています。

ご存じの通り、この「多様性」というのは最近の教育をめぐる議論のキーワードの1つで、最近は頭髪の黒染めを強要されたとする訴訟もありましたし、都立高校の6割で地毛証明(頭髪が黒くてまっすぐでない生徒にパーマや染髪でないと証明させること)を行っているという報道もありました。

一方で、N高等学校のイベントなどの写真では、茶髪の子も普通にいます。そして、こうした多様性の尊重は以下のようにN高の行動規範に明記されているのです。

「人間の多様性を認め、他者を尊重します。さまざまな人がいる社会で活躍するためには、 自分とは異なる他者を受け容れ尊重し、共に歩む力が求められます。」
https://nnn.ed.jp/about/credo/

N高はネットを使った先進性というだけでなく、こうした教育理念に関しても、完全に時代遅れとなっている従来の教育機関とは一線を画していると思いますし、僕はここに深く共感します。というか、もともとネットなどの世界は多様な人たちが結びつく場所なので、ICT技術を使うと、こうした教育理念が普通に受け入れられるのかもしれません。

また、上記の理念などとは別に効率的な教育の技法としてもドワンゴの川上量生会長は、一般的な教育関係者よりもずっとよく分かっているように思います。

従来の教育は、教室に30〜40人が集まって一人の先生の話を聞く、というスタイルでした。一斉授業って、学習効率が悪すぎるんですよ。時間も場所も制約があるし、生徒一人ひとりの理解度にも合わせられない。いつでもどこでも、コンピュータとネットを使って双方向の個別授業をやったほうが、どう考えても質の高い勉強ができます。(位置: 1,334) 

僕ももう最近は一斉授業を久しぶりに見ると、まるでマトリックスのBullet Dodgeのシーンのように授業がスローモーションに見えてしまいます。もちろん、これは技術的な制限や、学校の方針などがありますから個人の先生の責任ではまったくありませんが、少なくともそれ以外の選択肢が存在するのだということは、教育に関わる全ての皆さんに知っていただきたいです。

また、さきほど「技術的な制限」と書きましたが、実は今はインターネットと安物の端末さえあれば、コストも技術力もゼロでオンラインコースを開くことができるのだということも知っておいていただきたいです。最近の状況に関しては以下の記事に書いていますので、もう少し効率のいい教育方法についてご関心のある方はぜひご覧ください。

むらログ: 無料で簡単にオンラインコースが開ける時代が来た!
http://mongolia.seesaa.net/article/454266753.html

上記の記事に書いたことのうち、もしかしたらN高では使われていないかもしれないことを書いておくと、生徒同士が顔の見えるオンライン交流も重要ではないかと思います。N高ではSlackというビジネス用のLineのような文字チャットツールはかなり大量に行われているようで、実際に趣味別のチャンネルなどが自主的に作られていて、すでに400近いチャンネルが開設されているようです。また、ニコニコ超会議などのイベントで実際に対面する機会もあるようですが、ZoomやGoogleハングアウトのようなビデオ会議システムを使った生徒同士の交流について触れられているのは読んだことがありません。もしかしたら、人見知りする人が多いことが予想されていて、そういう設計になっているのかもしれません。

さて、こういう技術は従来のばかばかしい社会構造を破壊してくれるでしょうか。N高には入試らしい入試はありませんし、暗記に偏った受験勉強で選抜された人たちだけが上部を独占するような社会は致命的に創造性に欠けてしまいます。この本にも以下のような記述があります。

ネットの高校は、偏差値の高い学校がトップに君臨する学歴社会も、もしかしたら壊してしまうかもしれない。N高は何人でも入学できる。定員人数は、物理的な箱がある場合の制限だからだ。入試の点数ではなく、入学したあと高校3年間でどれだけのことを学べるかが、その人の将来を決めていく。それが当たり前になったとき、高校入試の偏差値は意味をなさなくなる。(位置: 1,423) 


上記の引用中に物理的な箱がないことに触れられていますが、こうした制限がないことにより、学費もかなり安くすることができます。日本の国内の私立高校だと入学金は20万から30万ぐらいぐらい、年間の授業料は40万円ぐらいだと認識していますが、N高の場合は公式ページの学費に関わる部分を見ると入学金が1万円、授業料が18万円程度ということになっています。(履修する科目の数によって違います)

繰り返しますが、こうしたことはドワンゴやその親会社であるカドカワのような大企業だから可能なことなのではありません。こうしたことはLMSやビデオ会議システムや動画配信、オンラインプレゼンテーションツールなどを選べば、すべて無料で行うことができるのです。お金も技術力も必要ありません。

僕たちはこういうことが可能な時代に生きています。そして、僕がやっているニッチな教師研修などではなく、こうした新しい動きが一条校のようなメインストリームでも始まっているのだということに、新しい光を見たように思います。

そして冒険は続く。

【参考資料】
ネットの高校、はじめました。 新設校「N高」の教育革命 (角川書店単行本) | 崎谷 実穂
http://amzn.to/2AdE0w6

N高等学校
https://nnn.ed.jp/

朝日新聞:「地毛証明書」、都立高の6割で 幼児期の写真を要求も
土居新平、峯俊一平2017年4月30日21時39分
http://www.asahi.com/articles/ASK4P4TZ6K4PUTIL01Q.html

N STANDARDS | N高等学校(通信制高校 広域・単位制)
https://nnn.ed.jp/about/credo/
(多様性が言及されている行動規範)

むらログ: 無料で簡単にオンラインコースが開ける時代が来た!
http://mongolia.seesaa.net/article/454266753.html

学費 (ネットコース) | N高等学校(通信制高校 広域・単位制)
https://nnn.ed.jp/net_course/tuition/

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posted by 村上吉文 at 10:41 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加