2017年10月10日

独習者の3つのタイプ - ソーシャル型

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日も地元の富豪のパーティーに呼ばれて現地の強い酒を飲まされていますか?

さて、前回に続いて今日は独習者の3つのタイプについて書いてみたいと思います。これまで「言語オタク型」と「アニメ型」について書いてきましたが、最後は「ソーシャル型」です。これが一番面白い。

というのも、「言語オタク型」はもう何十年も前からいたわけです。基本的に教科書を使って伝統的な学び方をする人たちですから。そして、「アニメ型」はインターネット以前はおそらく存在しなかっただろうという面で新しいですが、その習得過程は第二言語習得の理論通り、自然に「大量のインプット」を実現していて、かなり一般的なものだと思います。学校にも通わず、先生はおろか日本人すらいないところでそういう習得が起きるというのは面白いんですけどね。

ところが、「ソーシャル型」は明らかに「意図的な学習」なんです。「アニメ型」は「気がついたら日本語話せるようになっていた」というように「意図していない自然な習得」だったわけですが、ソーシャル型は違う。最初の「言語オタク型」と同じように目標を持った学習でありながら、その方法は伝統的な学び方とは全く違うのです。

つまり、「ソーシャル型」は自然な習得とも、伝統的な言語学習とも違う、第3の学習形態なのです。

その主な特徴は以下の2つです。
1.他の日本語話者との交流を通じて日本語を身につける。
2.教科書を使わずに、「オンデマンド」で必要なときに必要な日本語を学ぶ。

伝統的な語学教育の現場では、それが文型であれ、語彙や漢字であれ、その目標は教科書順に提示され、「では使ってみましょう」となるわけです。

しかしソーシャル型のみなさんは、まず第一に「行動」があるのです。たとえばソーシャル型の独習者の一人は以下のように話しています。

「何かの表現をどのように言えばいいか分からない時に、そのための文法をネットで勉強した。(つまり、まず文法を勉強してから書くのではなく、書くことが先にあって、そのために必要な文法を勉強した。)」

これは言い換えて見ると、「後行シラバスの行動中心アプローチ」ということで、理想的ではあるものの、たとえ教員のサポートがあったとしても簡単には実現できないかなり高度な語学学習方法だと僕は思っていました。というのも、特定の行動を行うための表現を引き出すには、すぐに参照できる目標言語の体系がないと難しいからです。教科書を参照するにしても、一旦は体系的に初級ぐらいの教科書には目を通しておいて、そのあとその目標言語の話者と実際にコミュニケーションする際に、使いたい表現が教科書のどのあたりにあったかを思い出しながら、それを参照して使ってみるようなイメージです。少なくとも、ハンガリー語を独習していた2013年ごろ、僕はそのような教科書の使い方をしていました。

ところが、語学教育の長い伝統を知らない若者たちは、そんな呪縛を軽々と超越していくんですね。彼らは教科書なんか開きもせず、最初からたとえば「日本語話者の探し方」「日本語での自己紹介の方法」などと英語やその他の言語で検索し、その都度、問題を解決していくのです。

つまり、体系的に勉強してから実際にその言語を使うのではなく、目標言語の話者とのコミュニケーションの開始が、その言語の学習の開始になるのです。学んでから使い始めるのではなく、使い始めるのと同時に学び始めるのです。

こうした「オンデマンド型の学習」とか「Learning On Demand」というコンセプト自体はビジネスの世界を中心に何年も前からあり、5年前にはまさに「Learning On Demand」というタイトルの本も出版されています。また、受験予備校などでも、講義のビデオを見たいときに見るようなタイプのオンデマンド学習もあります。

そして同じ頃に日本語を学び始めた学習者が、こうしてその能力を開花させて社会に出てくる時代になったわけですね。僕は今ごろになってオンデマンド型の学習の成果に驚いているのですが、学習のパラダイムはもうずっと前から変わっていたのです。

【ソーシャル型の典型例】
さて、それではそうした新しいパラダイムで日本語を身につけた「ソーシャル型」の独習者をご紹介したいと思います。

まずはアンナ(Anna Melnikova)さん。
ロシア・サンクトペテルブルグ在住の大学4年生(インタビュー時)で、独学でJLPTのN1に合格しました。

2人目はミシさんで、彼はハンガリー在住の高校3年生17歳(2016年5月のインタビュー時)です。16歳でN1も受けたが数点の差で合格できなかったそうですが、今はもう合格しています。

【日本語話者との交流を通じて日本語を習得】
前述のように、ソーシャル型の特徴は、日本語話者との交流を通じて日本語を習得しているという点にあります。

この点についてアンナさんは以下のように話しています。
「JLPTのN1に受かったのはたくさんチャットをしたから。」
「探すのに使ったのはFacebookやVK(村上註:ロシアの大手SNS)。日本語を勉強する人のコミュニティがたくさんあって、そこで日本人とたくさん知り合った。ameba.jpでも友だちを作った。そこでブログも書いたりしていた。」
「アメーバピグというキャラが作れるサービスもあって、そこで会ったり話したりチャットをしたりもできた。ブログにコメントをくれる人はいろんな人。自分からも積極的に多くの人を友達に追加したりした。アメーバでお互いに友だちになったりした。」
「チャットする時間は、即レスするので、朝から夜まで1時間おきに話してる。日本語でツイッターも使っている。」

ハンガリーのミシさんは以下のように話しています。
「(ハンガリー人の日本語学習者の友人はいないが)ソーシャルネットワークで見つけた日本人とかはいる。」
「日本人を見つけたのは文通サイトや他のソーシャルメディア。そこで見つけた日本人とLINEで連絡している。」
「LINEに登録している日本人は100人はいる。最近は減ったが昔は一日50回とか日本語で日本人とLINEでメッセージを送っていた。」

【教科書を使わない】
次に、教科書についてです。これも上に書いたように、「アニメ型」と同じくソーシャル型の皆さんも教科書を使いません。
アンナさん
「教科書はほとんど使わなかった。日本では「総まとめ」の教科書を買ったけど、ほとんど使わなかった。」
「そのあと「みんなの日本語」という教科書を少し使ったがあまり面白くなかったからすぐにやめた。」
「勉強が好きじゃないから教科書を見ないでネット上の情報を見た。」

ミシさん
「教科書というものは中級になってから使い始めた。中級になってから初級の文法を復習したくなった。それでハンガリー語で書いてある日本語の教科書を使った。」

【目標重視】
同じ教科書を使わない日本語学習と言っても、自然に習得してしまったアニメ型の人と違って、ソーシャル型の人は明らかに日本語を身につけようという意思があり、その目標のために努力をしています。

アンナさん
「最初から日本人と話した方がいいと思ったので、日本人の友達を探したり、日本語でブログを書いたりした。」
「日本に行きたいし、日本語が分からないと生活できないからモチベーションをあげた。」

ミシさん
「(アドバイスを求められて)モチベーションを失わないこと。何のために勉強しているかを忘れないこと。自分は友だちと話したりするとか、日本に触れること。」
「今までずっと日本語を勉強してきたので、もう日課になっている。日本語を勉強しないと気持ちが悪くなってしまう。」

【社交性】
ここもアニメ型の人とはとても違うところなのですが、ソーシャル型の人はあまり内向的ではなく、社交性が高いです。

アンナさん
「友だちができて、その友達と色々なことを話したいから、だから勉強しなければいけないと思った。好きなのは日本の人自体。国民性が好き。」

ミシさん
「LINEに登録している日本人は100人はいる。」
「去年、福井県に2ヶ月半ぐらい行った。日本の文部省の奨学金で。ホームステイもした。高校で授業も受けていた。そこの高校生とは今でもLINEでつながっている。」

【視覚優位】
認知スタイルもソーシャル型とアニメ型はずいぶん違います。
明らかに聴覚優位者ばかりだったアニメ型と違って、文字を通した学習への偏りが見られるのです。

アンナさん
「スカイプもたまにするがLINEでチャットがするのが多い。」
「朝日新聞やNHKの記事は毎日読んでいる。難しい文章でも興味がある記事なら読む。政治とか最近の大地震についての記事も読んでいる。」

ミシさん
「LINEでは読み書きはするが、会話は苦手。会話はまだ向上の余地がある。」

【アニメに否定的】
これはあまり本質的なことではないのですが、少なくともアニメの視聴はあまり大きな役割を果たしていていないというところも2人に共通しています。

アンナさん
「よくみんなに日本語勉強のきっかけはアニメだと決めつけられるが、私の場合は違う。日本に興味を持ったきっかけは地理だ。日本地図を見たときに形が面白くて興味を持った。日本は名前しか聞いたことがない国だったけど、形がこんなにきれいだったのかと思った。」

ミシさん
「アニメで好きになったというような簡単な話ではない。小さい頃からアジアが好きだった。その中でも日本がいちばんよかった。」


繰り返しますが、ソーシャル型の冒険家の姿から見えてくることは、「必ずしも体系的に語学を身につけてからでなければその言語を使うことはできないわけでは決してなく、むしろその言語を使うことでその言語を身につけることができる」ということです。

かつてデューイは「Learning by doing」を提唱しましたが、これは語学の世界では簡単なことではありませんでした。しかし、情報がありあまる「abundance」の時代には、自分が語学の体系を身につける以前に、その言語を使うことができるのです。まさに「Learning by doing」が語学の世界でも輝く時代が来ているんですね。

そして冒険は続く。

【参考資料】
むらログ: ロシアの冒険家、アンナさんインタビュー!
http://mongolia.seesaa.net/article/437142079.html

むらログ: ハンガリーの若き冒険家、ミシさんインタビュー!
http://mongolia.seesaa.net/article/438400475.html

Interview with Reuben Tozman author of 'Learning on Demand' - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=J4nO1GbOO2M


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posted by 村上吉文 at 21:23 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加