2017年09月29日

独習者の3つのタイプ 「アニメ型」

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日も海図のない大海原を航海していますか?

この「海図のない」とか「地図のない」「未踏の」という言葉は冒険家のイメージに重なるところがかなり大きいと思うんですが、日本語学習で言えば、「海図」は教科書ですよね。今は「情報はたくさんあるけど、どう進めばいいか分からない」という人がたくさんいて、その人たちには、教科書は情報源というよりも学ぶ順番や方向を教えてくれるという意味で、「海図」に近いと思います。

実は、今日はこのブログに「さらば、教科書の時代」という記事を書いてからちょうど10年になります。この10年で、思ったよりも変わっていないところもありますが、想像以上に変わったこともあります。思ったよりも変わっていないのは教育現場のITの利用で、想像以上に変わったのは独習者のITの利用です。

正直に言うと、この「さらば教科書の時代。」を書いたときは、かなり煽っているつもりでした。教科書を使わないとは言っても、ニンテンドーのDSを紙の教科書の代わりに使っているだけですし、「海図」としての教科書を使わずに日本語をマスターする人がこんなにも大量に現れてくるとは想定していなかったのです。

今回は、3つ前の記事に続いて「独習者の3つのタイプ」の2つ目、「アニメ型」についてご紹介したいと思います。この「アニメ型」も、次の「ソーシャル型」も僕が10年前には想定していなかった文字通りの「海図のない航海者」です。

では、僕がインタビューして、このブログでもご紹介してきた冒険家の中で、アニメ型の特徴の強い4人をご紹介したいと思います。

【4人のプロフィール】
カリナさん
カザフの大学3年生(2016年3月インタビュー時)。2013年のカザフの弁論大会で優勝した。
ジョルジアナさん
ルーマニアの大学院1年生。学部の専攻はイタリア語と韓国語。大学院は日本語。(授業開始前)
ラドカさん
スロバキアの高校一年。2015年スロバキア日本語弁論大会中級の部で優勝。
アマンダさん
スイス在住の社会人。スペイン語母語。

【アニメの視聴を通して日本語を習得】
この人たちを「アニメ型」と僕が呼んでいるのは、文字どおり、アニメの視聴を通して日本語を習得したからです。以下に、本人の発言をご紹介します。
カリナさん
「きっかけは2つ。J-Rockとアニメ。テレビではなくてインターネットで見た。一人の声優があんなたくさんの種類の声が出せることに驚いていろいろ調べた。」
ジョルジアナさん
「日本語に興味を持ったのはテレビで放送されてたアニメがあって、面白いと思って、ちょいちょい見てました。その時は一番初めに見たのは「犬夜叉」、あと「スレイヤーズ」も。」
ラドカさん
「勉強をしようと思った時はナルトだった」「日本語の音が好きになった。」
アマンダさん
「17歳からマンガをもらいました。ナルトでした。あとでアニメを見つけました。そこからいつも日本語のアニメとサブタイトルで日本語を見ていました。」

【聴覚優位者】
アニメの視聴の他に、この4人に共通していることは、認知スタイルが聴覚優位であることを強くうかがわせる発言があることです。
カリナさん
「文字がなくても気にならない。日本語の字幕もなかった。声だけ。」「勉強は声でするのが中心でそっちが得意。」
ジョルジアナさん
「耳で聞くのはたくさんしたが、目で日本語を見るのはあまりしていない。」「私、紙で教科書を使って勉強するとすごく大変です」「歌は一番簡単な方法だと思います。」
ラドカさん
「自分は聞くことで勉強するタイプなので、教科書よりもアニメなどで勉強している。文法なども聞くことだけで勉強できる。」「アニメでもニュースでも、耳で聞いて勝手に勉強しちゃう。「勉強しよう」という覚悟もいらない。」「私は本ではあまり勉強しない。」
アマンダさん
「私は赤ちゃんみたい。赤ちゃんはよく聞ける。そして後から話せるようになる。その同じ方法で学んでいる」

そのせいか、非常に発音の自然な人が多く、中には関西弁まで自然に話せる人もいます。カリナさんの以下のビデオは最初は共通語アクセントですが、途中から(僕のような関東出身者には)きれいな関西弁に劇的にスイッチするのが分かります。
カリナさんの共通語と関西弁の使い分け

【教科書を使わずに習得】
そして、10年前には想定していなかった本日の本題が、こちらです。4人とも、教科書を使わずに自然な日本語を習得しているんですよね。
カリナさん
「教科書は使わなかったけど辞書は使った。」
ジョルジアナさん
「教科書とかも全然使ってないです。今は教科書を使いたいですが、まだ使っていません。」
ラドカさん
「日本人の方は「みんなの日本語」という本を一緒に見たことはあるが、教科書的には使っていない。」
アマンダさん
「日本語を勉強するための教科書はない。本屋に行ったけど買わなかった。APPも全然使っていない。」「日本語学習のためのウェブページも使っていない。」「文法は全然勉強しなかった。たとえば自動詞と他動詞も分からない。」

【10代前半からアニメ視聴】
この4人のうち、3人に共通するのが、10代前半から日本語のアニメを視聴しているということです。最後のアマンダさんだけ17歳ということなので、この辺は臨界期仮説の関係を考えても面白いかもしれませんね。
カリナさん
不明(大学入学前にカザフ日本語弁論大会に優勝)
ジョルジアナさん
「アニメを見始めたのは11歳とか12歳ぐらいの時だと思います。」
ラドカさん
「13歳ぐらいのとき」
アマンダさん(例外的)
「17歳のとき」

【内向的】
「冒険家」というイメージにそぐわないかもしれませんが、実は、4人中の3人はかなり内向的な側面があります。
カリナさん
「ネットで教えてくれる人は恥ずかしくて探さなかった。」「ソーシャルメディアで日本人と連絡したりはしなかった。自信がなかったから。」
ジョルジアナさん
「最初に日本人と話したのは一年か二年ぐらい前。生まれて初めて日本語で話した相手が千々岩先生だった。」「ソーシャルメディアで日本人の友達はいませんでした。考えてなかった。」「文字でコミュニケーションする日本人もいませんでした。アニメなどのメディアと自分だけの関係だった。」
ラドカさん
「別の町に日本語学校があるのは知っていたが、怖かった。」
(アマンダさんだけは「ストーカーみたいに」日本人を見つけて声をかけるそうです(^^))

【学習認識の欠如】
まったく羨ましいと思いつつ、しかしこれこそが学びの本質だよなあ、と思ったのが、実は4人中3人が「勉強した」という認識がないことです。好きなことをたくさんやっていたら、いつの間にか身についていることってありますよね。彼女たちの場合は、それが日本語だったわけです。
カリナさん
「知らないうちに言葉の意味がわかるようになっていて、もっと勉強したいと思った。」
ジョルジアナさん
「日本語を勉強したという意識がないんです。小さい頃からアニメを見て、少しずつアニメから広げてマンガとかイベントとかラジオを聞いて、少しずつ言葉を覚えて、そんなに聞き取れなくて間違いもしましたが、ある日、少し理解できると気づきました。」
アマンダさん
「アニメを見始めてから4年、5年してから日本語が分かるようになってきた。」「勉強してないんですよ。勉強だと思ってないから。」「私は勉強しないけどよく学ぶこと。」

【過程重視(目標指向ではない)】
上の「学習認識の欠如」とも重なることですが、日本語の習得は楽しみであって、仕事のような目標を持ってやることではないという認識も観られます。アマンダさんの「カタカナはきれいな形じゃないから興味がない」なんて、学校の先生に聞かれたら間違いなく説教をくらうような発言ですが、まさに独習者の真髄ですよね(^^)
ジョルジアナさん
「ちゃんと自覚をして、これを覚えられるようになりたいと(アドバイスしたい)。私は目標もなかったので。この人生で日本語に関係するとは思いませんでしたので。」
アマンダさん
「日本語は仕事みたいにはしない。大学生はたくさん勉強するけど、仕事みたいですね。私は趣味だから。」「カタカナはきれいな形じゃないから興味がない。」


ということで、今回は独習者のタイプのうちの「アニメ型」の皆さんについてまとめてみました。この人たちは「教科書を使わない」とは言ってもそもそも学習しているという認識がないんだから当たり前だろう、というご指摘もあるかもしれません。しかし、次回に(できれば)紹介したいと思っている「ソーシャル型」の冒険家はそうではありません。意図的に学習していながら、教科書という選択肢を排除し、自然な習得に成功しているのです。10年前に「さらば教科書の時代。」と煽り気味に書いた記事は、当時の僕の認識を遥かに超えて現実になりつつあります。

いま、まさに冒険が必要とされているのは、学習者ではなく僕たち教育に関わる人間の方なのではないでしょうか。

そして冒険は続く。

【参考資料】
むらログ: さらば、教科書の時代。日本語学習者向けDSソフト一覧
http://mongolia.seesaa.net/article/57795613.html

むらログ: すべてはここから始まった。カザフの冒険家、カリナさんインタビュー!
http://mongolia.seesaa.net/article/435166266.html

むらログ: アウトプットなしでここまで上達できる! ルーマニアの冒険家、ジョルジアナさんインタビュー!
http://mongolia.seesaa.net/article/442461526.html

むらログ: スロバキアの冒険家、ラドカさんインタビュー!
http://mongolia.seesaa.net/article/434614516.html

むらログ: スイスの冒険家、アマンダさんインタビュー!
http://mongolia.seesaa.net/article/444812275.html

むらログ: 独習者の3つのタイプ 言語オタク型
http://mongolia.seesaa.net/article/453302821.html

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posted by 村上吉文 at 22:36 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加