2017年09月25日

多様な学びを社会として認めよう

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日も大海原で難破してイルカに救われていますか?

さて、9月1日はもっとも子供の自殺が多い日ということで、今年も9月1日を中心とする1週間で8人の子供が自ら命を絶ったのだそうです。(参考資料:石井)

こうした統計を受けて、特に昨年から八月末に「死にたいぐらいだったら学校に行かないでいい」という発言が多く見られるようになって来ました。今年は文部科学省の次官だった前川喜平さんも同じ主旨の発言をされて注目されました。前川氏は後述する教育機会確保法が成立したときの行政のトップで、死にたいぐらいだったら学校に行かなくていいということを国が法律で認めたということには大きな意義があると思います。

ただ、今年はそれらに対する違和感を表明される方も目立ちました。その多くは、「親はそれを受け入れる覚悟があるのか」という主旨のものが多いようです。たとえば田中宝紀さんの「逃げてもいい」と子ども達に言う私たちが、考えなくてはならないことなど。僕はどちらかといえば、働いているシングルマザーの子どもでも、自殺してしまうよりは引きこもりになった方がまだ良いだろうと思うのですが、実際に自分の子どもに「学校に行かなくていい」と安易には言えない親の気持ちもよくわかります。うちの子供がそう言い出したときに、僕自身もかなりビビりましたし。(普段から自律学習とか言っている、この僕がですよ!)

問題は、日本では学校に行くのをやめたときのリスクがあまりにも大きく、そう簡単に学校以外の学びのスタイルを選択する訳にはいかないというところにあります。そして、その原因の一つが日本の学校制度にあります。というのも、日本では自律的に自宅で学ぶことが学びの1つの形態として認められていないため、学校に行かないことは学びから「逃げる」ことでしかないからです。実際には学校に行かなくても色々な学びが可能なのに。

昨年末に成立した教育機会確保法も「嫌だった休んでいい」と認めたことは評価されていますが、この点では残念な結果になってしまいました。NHKの報道によると、当初の法案では多様な学びのスタイルが認められていたそうです。
当初法案には、こうした子どもたちの居場所となるフリースクールや自宅での学習といった学校以外の学習も義務教育として認めることが盛り込まれていました。ただ、この規定は、国会での審議の中で削られました。「学校に行かないことを安易に認めるべきではない」とか「学校に行かないことを助長する」という根強い意見があるからです。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/263477.html

しかし、こうした考えは先進国の間で普遍的だということはできません。たとえばイギリスではもう20年以上前(1996年)に教育法で親に対し、
彼らの義務教育の年齢の子供がそれにふさわしい教育を学校に出席することか、あるいは他の方法により受けられるようにすることを確保する("to ensure that their child of compulsory school age receives a suitable education either by regular attendance at school or otherwise." )

ことを義務付けているのです。ここに「他の方法」が明記されたことで、学校以外の学びの方法が正式に認められたわけですね。別にイギリスが紳士ばかりの理想の国だとは思いませんが、少なくともこの点では日本は20年以上遅れていますね。

日本の文部科学省の資料によると、イギリスの他にも、アメリカでもフランスでも自宅で学ぶことは正式に認めらていますし、カナダでは他の州のことはわかりませんが、少なくとも僕の勤務するアルバータ州教育省ではホームスクーリングが認められています。(カナダには国家の文部省はなく、州ごとに教育を担当する省庁があります)

ホームスクーリングの実際

アメリカや英仏のホームスクーリング制度は詳しくないのですが、カナダのアルバータ州では、以下のように手続きが進みます。

1.親がホームスクーリングをすることを自治体の教育委員会(Public School Board)か私立学校の理事会に届け出ます。この届出自体は許可を願うものではないので、必ず受理されます。(つまり、誰でもホームスクーリングをする権利があります)

2.親は子供の学習計画を作り、それを同じく公立学校の教育委員会か私立学校の理事会に提出します。選択肢は2つあって、一つは学校の決めたスケジュールで学校と同じ進度で勉強すること。もう一つは自分でカリキュラムを作ることです。後者はどのような書類になるのか僕自身も見たことがないのですが、アルバータ州でホームスクーリングを実践するジュディ・アーナル氏はホームスクーリングの多くは「Interest-led」(その時の関心に導かれて行う、後行シラバス型)というタイプであると講演で話しています。

3.この学習計画表は、最初のホームスクーリングの届け出と違って、拒否されることもあります。あまり反社会的な内容を学ぶようなものが明記されてあったら、たしかに認めるわけにはいきませんよね。しかし、実際には上述の「関心に導かれて」学ぶタイプも認められているので、それほど厳しい審査ではないようです。

4.この学習計画が認められると、少なくとも1年に2回は教育委員会や私立学校の理事会の査察を受け入れなくてはなりません。(そこで問題が指摘されると正規の教育課程として認められないのかもしれませんが、公的な書類では明記されていません)

ホームスクーリングが普及しているアルバータ州

さて、では現在どのぐらいの数の子どもたちがホームスクーリングという学びの方法を取っているのでしょうか。カナダのアルバータ州では、正式にホームスクーリングの届け出を提出しているのは約一万人ということで、この数字は公立学校の生徒たちの1.4%にあたるとのことです。(実際にはもっと多くのホームスクーラーが存在すると言われていますが、具体的な数字は不明です)

平成28年の文部科学省の資料では日本の小中学校の在籍者は1000万人程度ですから、その1.4%というと、日本の不登校の子どもたちの数の12万人とほぼ同じになります。しかし、カナダでも日本でも学校で勉強することを選ばない子どもたちは一定数いるのに、その扱われ方は公的に認められているかどうかで、天と地ほども違うということに、僕たちは留意しないければなりません。

アルバータでは、たとえばYouTubeだけでもさまざまな支援の動画を見ることができ、上記のアルバータ州のホームスクーリングの届け出の書式の書き方を解説するビデオなどもあります。これも探してみると、いろいろな地域の似たようなビデオが見つかります。


このように学校以外の場で学ぶことがアルバータの市民の日常に普及しているのは、学びの多様性が州政府によって公式に認められているからです。社会は子どもたちに学ぶ環境を提供する義務がありますが、学びの多様性を認めれば、必ずしも「同じ内容」を「同じ進度」で「同じ場所」で学ばせる義務があるというわけではないことに気づくはずです。画一的な教育で窒息しそうになっている、そして実際に自殺までしてしまう日本の子どもたちの受け皿になるのはまず家庭だろうとは思いますが、親に負担を押し付けるのではなく、政府が公式に家庭で学ぶ権利を認めれば、自殺してしまいそうな子どもたちにとっても救いになってくれるはずです。

日本でも多様な学びが学びとして公式に認められるようになることを祈っています。それは必ず子どもたちの命を救います。

そして冒険は続く。

【参考資料】
数多くの著名人も注意喚起した「9月1日自殺」 それでも防げない現状にいま大人がすべきこと(石井志昂) - 個人 - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishiishiko/20170906-00075443/

Homeschooling in Canada continues to grow | Fraser Institute
https://www.fraserinstitute.org/blogs/homeschooling-in-canada-continues-to-grow

「学校は行かなくていいよ」「逃げたらいいよ」のメッセージに感じる微妙な違和感の理由に様々な意見が集まる - Togetterまとめ
https://togetter.com/li/1146523

「夏休み明け、死にたいくらい辛いなら、学校に行くな!」前川喜平・前文科省事務次官が子供たちに呼びかけ | ハーバービジネスオンライン
https://hbol.jp/150175

「逃げてもいい」と子ども達に言う私たちが、考えなくてはならないこと | 田中宝紀-IKI TANAKA | note
https://note.mu/ikitanaka/n/n123b0c693386

義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律の公布について(通知):文部科学省
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1380952.htm

「教育機会確保法 不登校対策は」(くらし☆解説) | くらし☆解説 | NHK 解説委員室 | 解説アーカイブス
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/263477.html

アルバータ州教育省による「Home Education Handbook」
https://education.alberta.ca/media/3069723/home-education-handbook-v2010.pdf

How to Fill in the Home Education Notification Form (Alberta) - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=DmGZCIz2NoE

中央教育審議会 初等中等教育分科会(第38回)議事録・配付資料 [資料1−8]−文部科学省(ホームスクーリングの各国比較)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/06042105/009.htm

Home Schooling in Canada
https://www.fraserinstitute.org/sites/default/files/home-schooling-in-canada-2015-rev2.pdf


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posted by 村上吉文 at 04:02 | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加