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2017年07月31日

クレジットカード紛失から学んだこと

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日も宝島の地図を海賊船に残したまま脱出してしまって、取りに戻れず困っていますか?

さて、一週間前のことなんですが、ちょっとうれしいことがあったんです。

その日は、僕の勤務先のアルバータ州教育省の部署で一緒に朝ご飯を食べる会がありました。朝ごはんと言っても、ホテルでよくやるビジネスマンのパワーブレックファーストとかじゃなくて、川の近くの公園のバーベキュー用の施設をお借りして、ホットケーキとか一緒に食べただけなんですが、まだ朝露とか残っていましたし、すごく新鮮な一日の始まりになりましたね。

ところが、せっかく爽やかなスタートを切ったはずなのに、職場に行ってみると、いつも使っているクレジットカードがないことに気づいたんです。

ちょっと事情があって、その日はクレジットカードだけポケットに入れていたんですが、それがないんですよね。その時は、家に忘れてきたのかな?と思いましたが、家に帰ってみると、部屋着のポケットにも入っていません。僕は普段カバンを持ち歩かない人間なので、一旦入れたポケットになければ、それ以外に探す場所はありません。

この時点で、外部で紛失したらしいということがほぼ確定しました。

実は、前にも一度クレジットカードをなくしたことがあって、その時はすぐにカード会社に電話して無効にしてもらいました。でも、今回は、ネットでカード会社の担当部署の電話番号までは調べたんですが、何となく、どこかから出てくるんじゃないかと思って、ぐずぐずしていたんです。

そしたら、驚いたことが起きたんですよ!

Facebookのメッセージで、サラさんという見知らぬ人から「あなたクレジットカードを落としてません?」という連絡が入ったんです。プロフィールを見ると、共通の知り合いはいないのですが、エドモントン在住の人らしいということが分かりました。もちろん、さっそく連絡して、翌日には無事に回収させていただきましたとも。やっぱり、朝ごはんの会場になった、川の近くの公園で拾ったのだそうです。ありがたいことですよね。

サラさんから連絡を受けてしばらく、僕はしばらく考えてしまいました。

まず考えたことは、こういうことはICTの発展がなければまず考えられなかったことだということです。エドモントンの落とし物の事情はまだよく分かりませんが、日本だったら落とし物は交番に届けますよね。ものを紛失した人は、交番にも行きますが、駅の遺失物の担当部署などにも連絡しなければなりません。そんなの面倒くさくて、忙しい人にはできませんよね。しかし、Facebookで検索することによって、落とした本人と連絡ができるようになったのです。

もう一つは、個人情報を公開することのメリットです。

僕の場合、Facebookには実名で登録していますし、かつ勤務先も公開しています。住所は公開していませんが、勤務先を見れば僕がエドモントン在住であることはすぐに分かります。英語で検索したら僕と同姓同名の人なんて少なくともFacebookでは30人ぐらいはいますから、こうした個人情報がなければ、今回のサラさんも僕も見つけることはできなかったでしょう。

日本などのいくつかの文化圏では、こうした個人情報の共有を非常に嫌がる傾向がありますよね。ドイツもそうかな。しかし、そういう文化圏の人は、こうして個人情報を公開することのメリットについてはきちんと考えていないように見受けられることがあります。

何度も書いていますが、僕はこのブログのお陰で業界誌から連載のお話をいただいたこともありますし、ありがたいことに、いろいろなところから講演依頼などもいただいております。ブログやツイッターで最初に実名を公開したときはビクビクものでしたが、やってみればデメリットなんてまったくありません。少なくとも僕の記憶にありません。しかしメリットは山ほどあります。

こいういうことを言うと、すぐに「講演依頼が来るような人だから実名で書けるんだ」とかいう人が多いのですが、それは因果関係が違うんじゃないかと思います。だって、僕より頭のいい人なんて、世の中にはたくさんいるんですよ。匿名ブログだって面白いものはたくさんあります。たとえば「ちきりん」さんとか、「分裂勘違い君劇場」のfromdusktildawnさんとか。まあ、「ちきりん」さんぐらいなら出版もしているし講演依頼したら来てくれるかもしれませんが、講演を主催する立場の人だったら、広報するときに所属も名前も紹介できないのってかなり引きますよね。

つまり、「講演依頼が来るような人だから実名で書ける」のではなく、「実名で書いていると講演依頼が来るようになる」のだと思います。その理由も何度も書いていますけど、人間の興味の範囲というのがすごく多様化、細分化している上に、自分の興味と合う人を探すのがインターネットのおかげで非常に簡単になっているからです。だから「日本語教育とソーシャルメディア」のような僕のやっているトピックだったら、会ったことのない人でも僕を見つけ出して連絡してくれたりするんです。

これは大人だけの話ではなく、世の中の基本的なものごとを学ぶ過程にある子どもでも同じではないかと思います。たとえば、僕がいつも引用しているWill Richardsonはいろいろな講演で「自分の子供が見知らぬ人に見つけられることを望んでいる」と発言していますし、著書「Why School?」の中でも以下のように述べています。

“I’d go so far as to say that I want my own kids to be found by strangers on the Internet. (I’ll let that hang there for a moment.) Certainly, I want them to be found by the right strangers, the ones who share their passions and want to learn with them. And I want them to be able to discern between good and bad strangers.”
― Will Richardson, Why School?: How Education Must Change When Learning and Information Are Everywhere

Will Richardsonは講演ごとにいろいろな例を挙げますが、たとえばMark Lassenという10代の若者がYouTubeで動画を公開し、それについて世界中のいろいろな撮影のプロが助言して自分自身もプロになっていく過程などを紹介しています。

僕自身も、ツイッターなどで「#日本語教育」などのタグを付けて発信する際に、必ずそのタグの他の発言もいくつかは読んでいます。そして、何か問題に直面している人がいたら助言をしたりすることもありますし、RTして必要な人の目に届くようにすることもあります。

まあ、上のハッシュタグの例は実名でなくてもいいんですが、たとえば研修会などで初めてお会いした人に何かの資料を聞かれたときに「Facebookやってます? じゃあ、メッセージお送りしますよ」みたいなことをよく言うんですが、それでFacebookを検索しても、個人情報を何も出していない人は特定できないんですよね。同姓同名の人が3人ぐらいなら失礼を承知で「すみません、〜の研修会でお会いした〜さんでしょうか」とお伺いすることもありますが、人数が多いとそんな気も失せてしまいます。

しかし、せめて勤務先か顔写真、共通の友達リストなどを共有していただければ、そういったことはなくなります。

つまり、このインターネット時代には、Will Richardsonが言っているように「正しい見知らぬ人」に見つけてもらうことができれば、それが自分の成長に直結するのです。

個人情報を出さないことには、ストーカー被害を防ぐなどのメリットも「場合によっては」あるかもしれません。しかし、自分で個人情報をアップしなくても、世の中には名簿屋さんとかいろいろな個人情報を取引している違法な業者がたくさんあるので、ある程度時間のある人が本気で調べようと思ったら、いろいろなことが可能です。ですので、個人情報を共有しないことによって自分を守るというメリットは、普通に考えられているよりずっと少ないのではないかと思います。

その一方で、クレジットカードを拾った人や、僕に仕事をくれるような人たちは、お金や時間を使ってまで僕のことを調べようとは思わないでしょう。だったらむしろ、個人情報を共有することのメリットを生かすことをもっと検討してもいいのではないでしょうか。

そして冒険は続く。

【参考資料】

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posted by 村上吉文 at 06:36 | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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