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2017年07月21日

新潟県が他県からの転入を禁止したら?

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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CC BY Lincun

冒険家の皆さん、今日も氷河を渡る途中でクレバスに落下しそうになって犬ぞりの犬たちに命を助けてもらっていますか?

【新潟県が他県からの転入を禁止したら?】
さて、いきなりですが、もし新潟県が他県からの転入を禁止する条例を制定したら、どうなるでしょうか。東京や大阪から悪い人たち(暴力団とか)は入ってきにくくなるでしょうが、企業は優秀な新入社員の確保に苦しむことになるでしょうね。新潟大学も新入生の数は激減するでしょう。だって、日本人の中で新潟県は人口比で2%にも満たない小さな自治体なのですから。日本全国から社員や学生を募集することができる他県に比べたら、圧倒的に不利な立場に立たされるのではないかと思います。また、他県が新潟からの転入を禁止しているわけではないので、県民人口は流出が止まらず、過疎がさらに進むことになるでしょう。優秀な若者は新潟に未来を見いだせず、大都市で就職し、そこで結婚し、新潟には戻ってこなくなることが予見されます。そして高齢者だけが残るものの、介護のための人材は他県からは雇うこともできませんから、一部の裕福な高齢者以外は介護サービスを受けることができなくなるでしょう。

【世界の中の日本の人口は1.7%】
実は、日本における新潟県民の人口の割合は、世界における日本の人口の割合とほぼ同じです。(正確には新潟の方が少し多い)
つまり、日本が移民の受け入れを拒否し続けるというのは、新潟が他県からの転入を禁止するというと同じだけ無理な話なのです。昔は長岡藩だけでも何とかやっていけたのでしょうが、時代が違います。日本中で移動ができるようになった今、新潟だけが日本全国から優秀な人材を入れないと、他県との競争に敗れて人材も富も流出してしまうのは目に見えています。そしてグローバル時代の今、それが世界規模で起きていて、実際に今の日本は「他県からの転入を禁止した新潟県」のような不利な状況になっているのです。

【誰が日本の労働力を支えるのか?】
もう一ヶ月以上前になると思うのですが、FacebookかTwitterで同業者の友人がシェアしていた『誰が日本の労働力を支えるのか?』という本を読んでみました(匿名の方のメディアだったか記憶が明らかではないのでお名前は挙げませんが、大変参考になりました)。この本によるとどの分野でも日本では労働力が減りつつあり、建築などは有効求人倍率が800%を超えているそうです。人工知能と外国人労働者がその減った分の労働力の一部は埋めてくれるが、すべては無理なので生活レベルの切り下げが避けられないというようなことが書いてあり、非常に冷徹な現実を突きつけられます。

ところで、この本の図17というところに「外国人労働者の各在留資格の割合」というグラフが出てくるのですが、それによると外国人労働者の在留資格別の第1位は在日朝鮮人や国際結婚などの「身分に基づく在留資格」で、2位が何と「資格外活動」なんです。これって要するに勉強時間以外に働いている留学生なんですが、これが「技能実習」(第3位)や「高度外国人材」(第4位)よりも多くなっているのです。

それどころか、週28時間の就労時間の上限を週35時間まで拡大するとか、九州で36時間まで働ける特区を作ろうという動きまであります。週35時間なんて土日を除いて毎日7時間働く計算ですから、それはもう労働者であって留学生ではありません。

【日本語教師に外国人労働力の管理をさせていいのか】
これは言い換えれば、日本語教師が外国人労働力の管理者として安く使われているということでもあります。でも、日本語教師の仕事って、労働者の管理ではなく、日本語教育ですよね。また、留学生の本分は学習であって、労働ではありません。(こんな当たり前のことをわざわざ言わなければならないことが残念ですが) 私たちは日本語を学びたい人に日本語を教えるのが本来の仕事で、勉強する気のない外国人労働者を教室に閉じ込めて、留学制度であるかのように見せかけるのに協力するのは、本来の仕事ではありません。働きたい人に思い切り働いてもらったほうが、教室に一人か二人いるかもしれない本当の留学生にもよいことでしょう。また、タテマエとしては留学生なので、これらの労働人材は本来は必要のない高い学費を払わなければなりません。学ぶ気がないのに高い学費を払わなければならない労働人材を、日本語を教える訓練しか受けていない日本語教師が管理しているのって、おかしくないですか? 

【原因は単純労働者の受け入れの否定】
こうした歪みが起きている原因は、「単純労働者を受け入れない」という現実から乖離したタテマエです。現実には上記の資料でも分かるように、技能実習や高度人材よりも多くの留学生が働いているのですから。

これは、私たちが議論を避けてきた結果でもあります。本来は、「単純労働者を受け入れて経済やサービスのレベルの低下を少しでも遅らせる(もしくは、維持、向上する)」か「単純労働者は受け入れずに、生活水準を一気に下げるか」かという2択しかないはずです。だって、外国から単純労働者を受け入れずに生活水準を維持するなんていうことは不可能なんですから。

ですから、根本的な問題の解決としては、もはや「単純労働者を受け入れない」というタテマエが崩れていて、そのしわ寄せがネパールやベトナムの将来ある若者に及んでいることを社会全体で認知し、現状を変えるには日本人の生活水準を一気に下げるか、公式に単純労働者を受けいれるようにするかを選択しなくてはなりません。僕たちにはどちらかしかないのです。

これは、「外国人労働者がいなくなると倒産するリスクのある企業の経営者、社員、そのサービスの受益者」(これって要するに日本人のほぼ全員だと思うのですが)と、「攘夷派」のどちらかが、相手に譲らなければならないということでもあります。

これは一種の対決です。どちらの道を僕たちが選ぶにせよ、僕たちはきちんと議論をして、答えを出さなくてはなりません。

しかし、きちんと議論すれば、答えはすぐに出るはずです。攘夷派の多くも、実は外国人労働者が工場で作るお弁当を、外国人労働者の働くコンビニで買って食べているからです。それを知らないふりをしているだけです。彼らも外国人労働者が必要なのだという事実を教えてあげればすぐに問題は決着するでしょう。もちろん、どれだけ生活が不便になっても外国人は嫌だという外国人恐怖症の人もいるでしょうが、外国人の介護サービスが必要な人たちの切実さと比べれば妥協していただくしかないのではないのではないでしょうか。(あるいは、割高だけど日本人しかいないサービスというのもできるかもしれませんし)

【ベトナムとワーホリ協定を】
そして、そのためにすぐできる方法もあります。たとえばワーキングホリデー制度。一年間の短期労働ビザのようなものです。ネパールはまだのようですが、ベトナムはすでにワーキングホリデーの制度を作っていて、ニュージーランドなどの先進国とも協定を結んでいます。日本側も、カナダや欧州、韓国などの先進国とはすでにワーキングホリデーの協定を結んでいますから、新たに制度を作る必要はないのです。

ワーキングホリデーの場合は帰国の航空券と当座の生活費の貯金残高の証明が求められますが、アルバイトしながら生活費の足しにすることが認められているし、留学生と違って学費支弁能力は求められないので、それほど高額にはなりません。また、留学制度の学費と違って、一旦その貯金を支払ってしまうわけではないので、「ブローカーに借金を背負わされて帰るに帰れない」というような状況にもなりません。技能実習生などと違って、もともと移動の自由が認められているので、ブラック企業に入ってしまったら「脱走」する必要もありません。(実を言うと、僕も30年前にワーキングホリデー制度でカナダに来た一人です。周りの裕福な家庭の子女がどんどん留学していく中で、僕のような貧乏学生には非常に貴重な機会でした。あの一年がなければ日本語教師の道に進むこともありませんでした)

【長期的には外国人労働者の貢献の周知を】
ワーホリはすぐにでもできることですが、長期的には日本人の民意をしっかり多文化が共存する方向へ持っていかなくてはなりません。そのためには、マスコミに出てくる外国人がみんな「日本ってすご〜い!」とか言うのではなく、逆に、日本に貢献しているすごい外国人を周知していくような必要があるのではないかと思います。何年も一人で日本の相撲界を支えてきた横綱が外国籍だから親方になれないなんて、どう見てもおかしいでしょう。また、旭天鵬は日本人なのに、「旭天鵬以来、4年ぶりの日本人力士の優勝」と言わずに「10年ぶりの日本出身力士の優勝」とかって騒ぐのも、おぞましいです。僕たちは彼らがどれだけ日本社会に貢献してくれたのか、きちんと認識すべきなのではないでしょうか。彼らがいなければ14年間も高いレベルの横綱はいなかったはずなんです。それって面白いんですか?

【本質的な理由】
さて、こんなことを書いていますが、別に僕は博愛主義に走っているわけではありません。むしろ、日本のためです。

僕は日本の最大の弱点は同質性の高さだと思っています。そして、同質性の高さ、つまり多様性の低さは21世紀においては脆弱性なのだということを理解している人もあまりにも少ないように思います。

たとえば被災地の避難所などで同じ仕事しかできない人ばかりいるときと、多種多様な職業の人がいるときでは、どちらが早く復興できるでしょうか。例えば致死的な伝染病が広がったら、同じ免疫しか持っていない人たちの集団と、多様な免疫を持っている人たちの集団では、どちらが生き残れるでしょうか。同じことしか知らない人たちとブレイン・ストームするのと、多様なバックグラウンドの人達でブレストするのでは、どちらがより豊かな発想ができるでしょうか。

前にも書いたように、世界はどんどんVUCA(変動性が高く、不確実で、複雑で、曖昧)になっていきます。以前は同質性の高さがコミュニケーションコストの低さ(あうんの呼吸、以心伝心)につながり、社会の効率性に貢献していたのですが、今はむしろ、多様性の低さはVUCAな世界への対応が遅れるので、デメリットのほうが強くなりつつあるように見えます。

そして、日本の多様性を一気に高めるのが、僕たちの社会に新しい血を入れることだと思うんですよね。もちろん、日本に来たくない人の首に縄をつけて連れてくるようなことはしてはいけませんが、今はまだ留学生のふりをしてまでも労働者が来てくれる時代です。でも、こんなチャンスはあと数年しか続きません。(このあたりも上記の『誰が日本の労働を支えるのか』で詳述されています) 今が最後のチャンスです。開国しましょう。

そして冒険は続く。

【参考資料】
「誰が日本の労働力を支えるのか?」
http://amzn.to/2uEYn29

留学生の就労「週35時間に延長」軸に議論 自民提言に担当大臣も同調 | 沖縄タイムス+プラス ニュース | 沖縄タイムス+プラス
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/97152

「稼げる」と勧誘され、借金して日本へ:急増する日本語学校留学生の“闇” | nippon.com
http://www.nippon.com/ja/currents/d00340/

ニュージーランド移民局のベトナムからのワーキングホリデービザのページ
About this visa : Vietnam Working Holiday Visa | Immigration New Zealand
https://www.immigration.govt.nz/new-zealand-visas/apply-for-a-visa/about-visa/vietnam-working-holiday-visa

新 移民時代ニュース - 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/feature/new_immigration_age/

「日本出身力士」という表現に違和感 日本国籍力士では旭天鵬が優勝しているのに... : J-CASTニュース
https://www.j-cast.com/2016/01/25256567.html?p=all

むらログ: 【彼らは冒険者だったんだ】
http://mongolia.seesaa.net/article/449316472.html
(VUCAについて触れています)

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posted by 村上吉文 at 11:43 | TrackBack(0) | 主張 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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