2017年06月11日

UBERに見る「つなぐこと」の価値

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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冒険家の皆さん、今日もラクダ市場で砂漠を横断するためのラクダの品定めをしていますか?

【Uberの体験】
先日、外に家族で夕食を食べに行った帰りに、Uberを使ってみました。
Uberというのは、自動車の乗り合いサービスで、運転しない人にとっては「安くてハイテクなタクシー」と思っていいと思います。
規制でがんじがらめの日本では「ハイテクだけど安くないタクシー」になってしまっているようですが。

Uberに乗るには、スマホと電子決済の手段(クレジットカードやデビットカード)が必要ですが、登録はそれほど難しい作業ではありません。実は僕も、夕食中に「バス停から遠かったけどタクシーも高いのでUberにしてみようか」と家族で話して、帰りにはUberに乗ったのですから。

なぜスマホが必要なのかというと、アプリを通して配車をお願いするからです。iPhoneでもAndroidでも大丈夫です。GooglePlayなどからアプリをダウンロードして、名前と電話番号とクレジットカードかデビットカードを登録すると、すぐに配車を頼めます。先日の場合は、配車をリクエストしたら「あと3分」という表示が出て、実際に3分後には車が来ました。

ハイテクっぽいと感じるのは(これはカナダの他のタクシー会社も同じなのですが)、アプリの地図で近くの乗車可能なUberの位置が表示されることです。近くにたくさん走っていれば、あらかじめ予約とかしなくてもいいと分かりますよね。また、自分が乗る車も地図上に表示されるので、「あと数秒でそこの角から現れる」というのが分かるのです。そして実際に、その表示のとおりに車が出現します。ただ、日本以外では自動車の乗り合いサービスであってタクシーではないので、見た目はUberかどうか分かりません。

こうしたアプリがない場合は、電話で自分の位置を説明しなくてはなりませんよね。しかも、その地域に慣れていない僕のような外国人の場合は、目印になるランドマークなども分からないし、そもそも現地の言葉が分からないこともあるので、大変です。しかし、スマホのアプリは客の位置情報をUberのドライバーに伝えるので、こうした手間が必要ありません。タクシー会社にいる配車係という人の人件費ももちろん発生しません。

支払いはカード払いになるので、到着した後にもたもたする必要もありません。チップを支払う必要はあるかもしれませんが。カナダ国内の調査では、トロントはUberだと一般のタクシーに比べて半額、僕の住んでいるエドモントンでは30%安いということです。

乗客が目的地に到着したら、アプリは位置情報から自動的にそれを認識し、ほぼその瞬間にメールで領収書を送ってきます。また、乗客によるドライバーの評価もその時点で行われます。今回は一番近くにいるドライバーにお願いしましたが、ドライバーを指名したりすることもできるそうです。

【タクシーだけじゃないよね】
さて、Uberは今までタクシー会社のような組織でなければできなかった「利用者とサービス提供者を直接つなぐ」ということをICTによって可能にしました。でも、これってタクシーだけの話じゃないように思います。

たとえばYouTube。以前は動画の配信は映画会社とテレビ局しかできないことでしたが、今は個人が動画を視聴者に届けることができます。スウェーデンのPewDiePieさんはゲームの体験などを紹介するチャンネルを持っていますが、現時点でのチャンネル登録者は5千万を超えています。昨年の今ごろが4千万ちょっとでしたから、これからもどんどん伸びるでしょう。2016年のYouTubeからの収入は1500万ドル(15億円)と推定されています。

僕自身も提供する側として関わっているのはアマゾンの個人出版。Kindleで誰でも手軽に本を出版して、読者とつながることができるようになりました。そしてその本は世界中、245の国と地域で売ることができるのです。以前は高額なのに販売ルートに乗らない自費出版か、あるいは出版社を通して日本国内限定で売ってもらうしかありませんでした。

AirB&Bもそうですよね。以前はホテルや旅館しか提供できなかった宿泊所を個人が提供し、旅行者と直接つながることができるようになっています。

【外国語学習の世界では?】
さて、こうした大きな流れは、日本語教育の世界にもやってくるのでしょうか。
僕は間違いなくやってくると思います。
というのも、少なくとも英語学習の世界ではかなり似た状況が起きているからです。

例えば僕も一時勉強していた「Native Camp」というオンライン英会話スクールがあります。月に5千円で、1日24時間、週7日勉強できます。1回あたり25分ですが、1日に何回やってもいいことになっています。月に1回しかしない人は25分あたり5000円という高額な授業料ですが、平日に毎日1回ずつだけでもやるのなら25分あたり250円となります。平日に毎日「2回」勉強する計算なら25分あたり125円。ずいぶん安いですよね。

ユーザーはさまざまなデータから講師を選ぶことができ、ユーザーによる講師の評価もあります。そして、こうしたユーザー評価や経験、予約数などによるランキングも発表されていて、そこから直接講師の予約を入れることもできます。こうしたデータの他に、ビジネス分野に強いとか、キッズ英会話に強いとか、映画のトピックに強いとか、多様な観点から講師を選ぶことができます。

ここまで大規模ではありませんが、日本語教育の分野にももちろんオンライン授業の学校もあり、10年前にもこのブログでご紹介した小池慶さんのJapan Online Schoolでも先生の経験や国で講師一覧が並べ替えできるようになっています。

【バラ色の未来なのか】
技術はどんどん安くなりますから、こうした変化が近い将来に止まるということは考えられません。しかし、それではそれはバラ色の未来なのでしょうか。

ちょっと考えてみただけでも、懸念すべきことは2点あります。

一つは、テクノロジーを支配する層だけが金持ちになり、サービスの提供者は安い収入でこき使われるブラックな未来です。実は、Uberの運転手も「Unerは安いからあまり好きじゃない」と言っていました。

また、これは悪いことではないのですが、これまで組織や資格に守られて能力投資を怠ってきた人たちにとっては、そうした壁がなくなって自由にサービス提供者と利用者がつながることは自分たちの立場の低下をもたらしますから、恐怖でしかないでしょう。当然、さまざまな抵抗をすることが予想されます。

その一方で、さまざまな恩恵もあるはずです。

さきほどUberの運転手の不満に触れましたが、George Courosはその著書『The Innovator’s Mindset』の中で、ろうあ者の運転するUberの車に乗ったというエピソードを紹介しています。日本では補聴器があれば聞こえるようになる人ならタクシーに必要な二種免許も取れるそうですが、このエピソードのように完全に聞こえない人がタクシーの運転手になれる可能性はあまりないと思いますので、Uberのような技術により、それまで働くことができなかった人が働けるようになるという恩恵はあるのではないかと思います。アマゾンの個人出版や、AirB&Bなども、これまで働けなかった人が働けるようになるという意味では同じですよね。

もう一つの恩恵は、「インターネットは中抜き」であることです。たとえば作家が本を売るときは出版社、印刷会社、製本会社、取次、本屋などを経てから読者の手に届く仕組みになっていました。ですから作家の取り分はとても少なく、有名な作家でなければ本の価格の6%とか7%ぐらいしか手に入らないのが今でも普通なのではないかと思います。

しかし、アマゾンの個人出版は出版社も印刷会社も製本会社も取次もないので、本の価格の70%が作家の手に渡ります。同じ価格だったらいきなり10倍の収入増です。しかも、マーケットは日本国内限定から世界中に広がるわけです。日本語の学習者は海外の方が国内よりずっと多いですから、日本語の教科書を作ったら、さらに本を作った人の収入が増える可能性が高くなります。

【僕の求める社会】
何度もいろいろなところで話していますが、こうした変化を通して僕が夢見ている社会は、多様な教師が多様な学習者と直接つながる社会です。

日本語教師の世界は本当に多様で、僕の知っているだけでもアイドル歌手だった人とか、お笑い芸人も同時に目指している人とか、証券マンだった人とか、ITエンジニアだった人とか、子育てを終えた人とか、いろいろな人がいます。逆に日本語学習者の中にも、日本でITエンジニアになりたい人とか、声優になりたい人とか、日本人と結婚して日本で子育て中の人とか、いろいろな人がいます。

ところが残念なことに、その多くが同じような教科書を使って同じような一斉授業で教えていたり、勉強したりしています。日本でITエンジニアになりたい人が子育てと日本語教師の経験しかない人から学ぶのは、教師にとっても学習者にとっても不幸なことです。もちろん逆に、ITエンジニアの経験はあるけど育児経験のない日本語教師が、国内で子育て中の学習者に必要な日本語を教えられるかというと、それも難しいでしょう。

理由は主に2つあって、1つは地理的な距離です。今のように教室に集まったり喫茶店などで1対1で教えたりする場合、教師と学習者が同じ場所にいなければなりません。これでは学習者の特定のニーズを満たしてくれる教師に出会える可能性は非常に低くなってしまいます。もちろん、これはICTの普及が進み、オンライン化が進めば解決されるでしょう。

もう一つの理由は、今のところ学習者と教師をマッチングさせる有力な「場」がないことです。作家と読者を結びつけるアマゾンとか、運転手と乗客を結びつけるUberのような「場」が学習者と教師の場合はまだありません。もちろん、その萌芽のようなものはいくつも出てきていますが、アマゾンやUberのようなメジャーな存在にはなっていません。しかしこれも時間の問題で、数年後にはそうしたプラットフォームのようなものができているのではないかと思います。

僕は語学の教師でもあり、学習者でもあります。しかし、そういうレベルで僕のニーズに合った経歴の教師に教わったことはありませんし、「この学習者は僕よりもあの先生に教わったほうがずっといいだろうな」と思ったことも何度もあります。

僕は、どうせ教わるなら自分に合った先生に教えてほしいと思いますし、僕のことを世界の誰よりも必要としている学習者の支援をしたいのです。

あと何年後になるのか分かりませんが、こうした問題が解決されて、早く「多様な教師が多様な学習者と直接つながる社会」の到来を見てみたいものです。

そして冒険は続く。

【参考資料】
ウーバー「縛りだらけ」の日本参入 タクシー業界抵抗  :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ26I1Y_W6A520C1TI1000/

UberやLyftなど世界で急拡大中のライドシェア。なぜ日本では広まらないのか?その原因はこんな法律にあった。
https://share.jp/column/sharingeconomy_law/rideshare/

How Much Do You Save by Using Uber? - The 10 and 3
http://www.the10and3.com/how-much-do-you-save-by-using-uber/

PewDiePie
https://www.youtube.com/user/pewdiepie

Most popular YouTube stars in 2017 - Business Insider
http://www.businessinsider.com/most-popular-youtuber-stars-salaries-2017/#no-1-pewdiepie-541-million-subscribers-18

むらログ: みなさんもKindleで出版してみませんか?
http://mongolia.seesaa.net/article/412250862.html

ユーザー評価ランキング(おすすめ)講師一覧・ -2017年5月16日 〜 2017年5月31日- | ネイティブキャンプ
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posted by 村上吉文 at 03:01 | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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