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2016年12月19日

QFTを利用した研修、もしくは「たった一つを変えるだけ」書評

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス




冒険家の皆さん、今日もオアシスを目指して砂丘を超えていますか。

さて、下記の本、「Just make one change」邦訳「たった一つを変えるだけ」に書いてあるQFTを利用した研修を行いましたので、個人情報などに差し障りのない範囲でご紹介したいと思います。



QFTというのは「Question Formulation Technique」の略で、学習者がよい問いを立てるのを手助けする方法のことです。

考え方の背景としては、教師の役割の変化があります。

大昔、教育のためのリソースが少なかった時代(Age of scarce)には、教師の役割は学習者の知らないことを教えてあげることでした。その後、活版印刷やインターネットの普及で情報リソースがありあまる時代(Age of abundance)になると、情報リソースとしての教師の役割は必要でなくなり、むしろありあまる情報リソースから学習者自身が自分で情報を探しだす能力が必要となりました。そして、教師の役割は情報を与えることではなく、よい問いを立てることになりました。上のスライドにもありますが、たとえばマーク・プレンスキーの「デジタルネイティブのための近未来教室」に出てくる「パートナー方式」などもそうした考え方の一つです。

その後、「良い問いを立てる」能力は教師ではなく学習者にこそ必要なのではないかという意見が注目され始め、教育の現場でもさまざまな試みがされてきました。論文を書いたことのある人なら、「リサーチクエスチョン」の大切さを指導されたのではないかと思います。もっともこれはインターネット時代より前から言われていたことではありますが。

そして、このQFTもそうした背景から生まれたものです。

学習者に良い問いを立ててもらうために、QFTは6つの過程を経て実施されます。最初は、教師が「Q-Focus」というものを提示します。僕が何回かやってみた感想としては、QFTの成否を左右するのは、このQ-Focusです。まさにフォーカスなので、ピントが合ってないと学習者の作る質問もぼやけたものになってしまいます。そしてそれはもちろん、学習者の責任ではなく、教師の責任です。ちなみに、このスライドにある「ICTで私は日本語教師として成長できる」も、ちょっとピンぼけだったなあと反省中です。

2番めの過程では大量に質問を作ります。ここには以下の4つのルールがあります。
1.できるだけ多くの質問を作る
2.質問ではない発言は質問に変える
3.すべての質問を言葉通りに書き取る
4.議論したり答えたり判断のために立ち止まらない
アイデア出しの時にブレインストームをしたことのある人なら、これが問いに限定したブレインストームに他ならないことに気づくでしょう。

この段階で教員が気をつけなくてはならないことは、切れ味が良くて深い問いが出てきたりしても、「良い質問ですね」などと評価をしないことです。これは言うよりかなり難しいことで、口出ししないようにするのは、僕にとってはかなりの意志の力を必要とします。また、ぜんぜん期待と違う方向の質問が出てしまうこともありますが、「いや、そういうことじゃなくてね」とか言うのもダメです。僕自身の体験から考えても、変な方向の質問ばかり出てしまうとしたら、それはおそらく教師のQ-Focusの立て方が悪いのです。なぜ教師によるこうした干渉がよくないかというと、そうしたことがあると、参加者は教師が何を求めているのかを考えてしまうようになってしまい、自由な発想ができなくなってしまうからです。

3番めの過程では、更に議論しながら質問を増やします。議論する方法としては、まず最初にそれぞれの質問に「O」か「C」か「O/C」のマークを付けます。「O」はOpen-Ended Questionで、「C」はClosed-Ended Question」です。この2つはいろいろな定義があって、「疑問詞があればOで、なければC」というようなのも聞いたことがありますが、QFTでは「シンプルですぐに答えが分かるものはC、そうでないものはO」ということになっています。つまり「日本の首都はどこか」という問いは疑問詞はありますがシンプルですぐに答えがわかるのでCなわけですね。一方で「東京は日本で一番重要な都市か」は疑問詞はありませんが、重要性の基準によって答えは違うでしょうから、Oになります。

次の作業もまだ3番めなのですが、OとCのマークが付いたら、今度はOの質問をCに変え、Cの質問をOに変えるという方法で質問を増やします。上の例で言えば、「日本の首都はどこか」という問いを「日本で一番重要な都市はどこか」にすれば、CからOに変えたことになります。

次は4番目の過程ですが、ここでようやく拡散から収束に向かいます。よくある例は「重要な3つの質問を選ぶ」という作業のようですが、上記のスライドでは以下の2つを選ぶように指定しました。
1.自分の成長のためにもっとも重要な質問
2.重要で、かつ30分以内で答えが出せそうな質問
「1」はもちろん今回のテーマに沿っているからですが、「2」は研修のコマの関係で、時間があまりそうだったからです。これらの質問を選ぶ段階でもっとよい問いが見つかることもありますが、もちろん後から足してもOKとします。

さて、5番目の過程は発表です。参加者が自分たちで作り、選んだ問いを発表します。今回は時間が押していたので、この部分があまり時間が取れませんでした。

QFTの本では、最後の6番目の段階は「次のステップを議論する」ということになっていますが、僕はここはやったことがありません。相手に任せてしまってもいいかと思いますし、今回は参加者がそれぞれ遠い各地から集まってきたということもあり、共同して答えを探すようなことも難しいかと思ったからです。それに、参加者の皆さんが非常に優秀な大人であったこともあります。その代わりに、残った15分で、選んだ問いのうちの一つに答えてもらうことにしました。どういう答えが見つかったかは、参加者の個人情報に深く関わるので、ここでは共有はしません。

実は、今回は2日間の研修でこのQFTを2回使いまして、もう1回の方では、「重要で、かつ1年かけたら答えが見つかりそうな問い」を選んでもらい、最後のステップではその問いの答えを見つけるための行動計画を作ってもらいました。

さて、まだ数回しかやったことはないのですが、これは簡単なようで、実は教員によってかなり結果が変わりそうな気がします。上にも書きましたが、やっぱり最初のQ-Focusがぼやけていると、それに対する問いもシャープなものではなくなってしまいます。また、議論の結果をクラス全体にシェアするときの進め方などにも、教室活動の慣れが必要かもしれません。

それから、これはQFTとは関係ありませんが、今回はwi-fiの繋がる会場でしたので、Googleドキュメントを共同編集する形で質問を記録してもらいました。こうすることの理由は、後から質問リストを提出してもらう手間がないなどの利便性もありますが、質問がどんどん出てくると書記が1人で記録を続けるのはしんどいからです。特に書記をやっている人が意見をいう時はどうしても手が止まってしまいがちですから、メインの書記が話している間だけその発言を記録する臨時の書記を作ったりするのにもいいです。もちろん、参加者全員が同時に自分のパソコンで内容を読めることも、議論をすすめる上では非常に役に立ちます。昔はよく付箋に書いてそれを模造紙に貼るような形式の研修がありましたが、それをオンラインでやるようなイメージですね。実際、リアルタイムの共同文書編集があれば、付箋と模造紙の活動よりも記録性なども上がりますので、付箋形式の研修より活用されるべきなのではないかと個人的には感じています。

さて、最後になりましたが、このQFTは学習者の自律性を重視し、かつOER(Open Educational Resources) の豊かさを知っている教員にとっては避けては通れぬ方法であるように思っています。まだ日本語の授業で使ったことはないのですが、少なくとも教師研修では非常に効果的ではないかと思います。

そして冒険は続く。

【参考資料】
Dan Rothstein, Luz Santana 「Just make one change」
http://amzn.to/2heL6U8

ダン ロスステイン, ルース サンタナ「たった一つを変えるだけ」
http://amzn.to/2heDykd

むらログ: 「デジタルネイティブのための近未来教室」の主題は技術ではなく、教授法だった!
http://mongolia.seesaa.net/article/382695710.html

マーク・プレンスキー「デジタルネイティブのための近未来教室」
http://amzn.to/2i2BYBK

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posted by 村上吉文 at 04:20 | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
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