2016年10月22日

David Burgess『Teach like a PIRATE.』

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス




冒険家の皆さん、今日も海賊船で密航していますか?

さて、冒険家と似た概念というかキャラクターで「海賊」というのがあります。
成功のためにリスクを取っていて、普通の人とはかなり違う生活をしているという意味では確かに共通しているのですが、海賊は「徒党を組んでいる」という点で、冒険家とはまったく違います。

もちろん、冒険家も『インディー・ジョーンズ』に出てくるエジプト人発掘者のサラーや、博物館長のマーカスなどの多くのパートナーや友人と協力して行動することはありますが、基本的には冒険の中の部分的な目標を達成するためですし、それらの協力者も上司に命令されているのではなく、あくまでも自律的な意思によります。
一方で海賊には海賊船の船長がいて、船員たちは絶対服従が求められ、最初から最後まで一緒に行動します。自律学習に比べると、一斉授業の形態により近いといえるでしょう。

そういう意味で、アメリカの教育界で大変人気のある「Teach like a PIRATE」という本は、読んでみると確かにこれは冒険家の本ではなく、海賊の本だな、と思いました。

まず、この本がどれぐらい人気があるかというと、アメリカのAmazon(要するに amazon.com)で450ものレビューがついていて、星の数の平均が4.6なのです。(5が最高) ヴィゴツキーの本だってレビューは多いものでも20ぐらいしかありませんから、この本がいかに人気があるかということが分かるでしょう。

ただ、読んでみると、ヨーロッパの自律性を重視した教育の例などと比べて、「え? アメリカではこんな教師主導型の授業が人気なの?」と思ってしまったのが正直な感想です。

それから言わゆる精神論的な内容も特に後半に非常に多く見られます。

その意味でこの本に全面的に賛成できるわけではありません。しかしとても面白い部分があったのも事実ですので、いつもの通り部分的に引用する形でこの本の内容を紹介したいと思います。

なお、前にも書きましたが、位置ナンバーというのは電子書籍のページ数と行数のようなものです。この数字によって本の中の位置を特定することができます。

まず、なぜ海賊なのかということについてなのですが、PIRATEsというのは以下の単語の頭文字を組み合わせたものです。
Passion 
Immersion
Rapport
Ask and Analyze
Transformation
Enthusiasm
著者はこれを「PIRATEs system」と読んでいますが、個別にこれらの要素について語っているだけで、それらがお互いにどのように関連しあうかが明確ではないので、「システム」という表現にはちょっと違和感があります。

では、以下に内容を一部ご紹介します。

【教師の役割について】
まず、最初に、僕にとって違和感のある部分からご紹介します。それは教師の役割に関する著者の考えです。

位置No. 408
I’m Dave Burgess and I’ll be your host on this Learning Extravaganza!!”
「私はデイヴで、この学びのショーのホスト役です。」
この文からこの本の著者が教師の役割をどのように考えているかがよく分かります。この本の著者にとって教師の役割はテレビのショーのホストのようなものなのです。 ここは、僕を含め、学習者の自律性を重んじる世代の教員にとってはかなり違和感があるかもしれません。

位置No. 454
I then turn off the lights, return to the front of the room, and transform myself into an airplane.
「そして私は電気を消し、教室の前に戻り、そして飛行機に変身します 。」
最初、ここは読み間違えたかと思いましたが、読み間違いではありませんでした。本当に飛行機になるんです。そして海に墜落して孤島に漂着し・・・というストーリーを教員が演じます。その後でディスカッションに入るのですが。

位置No. 508
I believe great teaching incorporates many of the same skills and techniques used in successful salesmanship and marketing−and I use them all.
「すごい教え方の中には、成功するセールスマンとマーケティングと同じスキルとテクニックが内包されていると私は信じている。そして、私はそれを全部使う」
この辺も社会構成主義とか好きな人にはちょっと違和感があるでしょうね。

位置No. 866
One way I try to do it is by attempting to blur the lines between education and entertainment.
(この"it"が何を指すのか忘れてしまいましたが)「私がそれをする一つの方法は、教育とエンターテイメントの間に惹かれている線をぼかすことだ」
最初にご紹介した「Extravaganza」(ど派手なショー)という言葉が示す通り、著者の考えの中心には自分のパフォーマンスで学習者の注意を引き付けるという手法があります。僕は自律性を重視するタイプの教員なのであまり自分がショーの舞台に立つというような考え方はしていないんですが、アニメから日本語を学ぶようなこともそれが効果的だと思う学習者には薦めていますし、教育とエンターテイメントの間に厳密な線が引かれていなければならないという古い考え方には、僕も反対です。

位置No. 1377
I am the director, producer, stage manager, and lead actor for the one hundred eighty different performances that will take place in and around my room.
「私は私の教室の中や周りで行われる180回のそれぞれのパフォーマンスの監督であり、プロデューサーであり、舞台監督であり、主演俳優である」
本書の中には自律性を重視する箇所もいくつかあるのですが、同じ教員から同時にこういう言葉が出てくるのが僕はちょっとよく分かりません。自律学習はself-directed learning なのであって、teacher-directed learningではないのですから。


【リスクを取ること】
上記の教育観はちょっと賛成しかねるのですが、その他はかなりいいことを言っているし、僕自身もその通りに実践していることもあります。最初にご紹介したいのはリスクを取ることに関する考え方です。

位置No. 98
Pirates are daring, adventurous, and willing to set forth into uncharted territories with no guarantee of success.
「海賊は果敢で冒険的で、成功の保証もなく未知の領域に向かって旅立とうとする」
上にも書きましたが、教育において自分でリスクを取り、前例を踏襲しない態度を養うことは僕も大事だと思っています。

位置No. 739
If you haven’t failed in the classroom lately, you aren’t pushing the envelope far enough. “Safe” lessons are a recipe for mediocrity at best.
「最近教室でヘマをやっていない人は、挑戦が足りないということだ。安全な授業はせいぜい凡庸なレシピにすぎない。」
まあ、挑戦が大切という主旨は大賛成なのですが、しかし、それを仕事でやっていいのかはちょっと疑問を持つ人もいますよね。僕は本当に新しい何かを始めるときは、まずは仕事の外でやってみて、それがうまく行ったら仕事でもやってみるという形を取ることが多いです。
たとえば先月から始まったコソボ向けの「日本語の学び方を学ぶオンラインコース」もFacebookの「日本語」コミュニティーでやってみて、出てきた問題点は想定した内容にしてあります。最近は無料でいろいろなことができるようになっているので、仕事でヘマをする前に、別の場所で一通りの失敗を経験することはできます。もちろん、著者のような小学校の先生の場合は子どもたちがオンラインにたくさんいるわけでもないので難しい面もあるかと思いますが。

位置No. 1904
BELIEVING YOU HAVE TO FIGURE IT ALL OUT BEFORE YOU BEGIN
これは見出しなのですが、教師が新しいことに挑戦しようとしない理由の一つとして「始める前にすべてを理解していないといけない」と教師が信じていることが挙げられています。

位置No. 1983
Don’t allow misguided and ill-informed critics to steal your enthusiasm for innovation.
「何も知らない批評家に、我々のイノベーションへの熱意を盗ませてはならない」

位置No. 1997
The best way to overcome fear is to take action. The more action you take and the quicker you take it, the better.
「恐れを克服する最善の方法は行動を起こすことだ。その行動が多ければ多いほど、そして早ければ早いほどいい」


【個性的であること】
著者はネットワーク社会との関連には触れていませんが、僕がいつも書いているとおり、世界中の多様な学習者と多様な教員がインターネットなどを通して結びつくようになると、「どんな学習者にも教えられる」タイプの先生は「こういうタイプの学習者にしか教えられない」という専門性のある教員には太刀打ちできなくなるでしょう。その意味で、僕は個性的な教員はもっともっとその才能を伸ばしてほしいと思っています。

著者はそういった観点はあまり持っていないようですが、しかし、個性的であることは非常に重視していて、この本にも何度も出てきます。

位置No. 263
Resist any movement that attempts to clone teachers and lessons and instead rejoice in the fact that it is your individuality and uniqueness that will always lead you to become the most effective teacher that you can be.
「教師や授業の複製を作ろうとするあらゆる動きに抵抗しなさい。そしてその代わりに最も効果的な教師にあなたを成長させるのは常にあなたの個性やユニークさであるという事実の恩恵に浴しなさい」(我ながら下手な日本語ですみません。翻訳家ってすごいですね)
この点は本当に僕も同感です。前述しましたが、特にこれからネットワーク社会になっていけばいくほど、その個性を必要としている学習者と教師が繋がるようになりますから、どんな個性でもいいので「この分野だけは自分が世界一」という部分があるといいと思います。
僕自身も昔は「ITに強い日本語教師」という面を強調していて、今ではその中でも「ソーシャルメディアを利用した自律学習に詳しい日本語教師・コンサル」という風にセミナー等で自己紹介しています。
自分をそのようにアピールすることで、今度は逆に多くの人から「こんなすごい独習者を見つけた!インタビューしてみたら?」という情報を教えてもらえて、それがさらに僕の成長に繋がるのです。「なるべく他の先生と同じことができるようになりたい」と思っていたら、誰もそのような協力はしてくれないでしょう。自分のユニークさを強調したほうが成長できるという指摘は全くそのとおりだと思います。

位置No. 386
As they enter the room, the first thing students notice is the positive, upbeat energy created by the music playing.
「子供達が教室に入ってくると最初に気がつくのは、そこに流れている音楽によって作り出されるポジティブで明るいエネルギーです。 」
実はこれも僕はやっています。冒険家コースの始まる前と終わったあとにインディー・ジョーンズのマーチを鳴らしています(^^) 

位置No. 393
In my opinion, it is far more important to create a unique experience for them on the first day than it is to be sure they know how many bathroom passes they will have each semester and when it is OK to use the pencil sharpener!
「私の意見では最初の日にユニークな体験をすることは、1学期間に何回トイレに行っていいかとか、いつ鉛筆削りを使っていいかなどよりもずっと大切なことです。」
ここの部分も賛成です。

位置No. 803
I want my class to be, as Seth Godin says, a Purple Cow. In his book by the same title, Seth writes, “Something remarkable is worth talking about. Worth noticing. Exceptional. New. Interesting. It’s a Purple Cow.
「私は私のクラスが紫の牛であって欲しいと思っている。セス・ゴーディンは同タイトルの著書でこう言っている。目立つものは話題にする価値がある。注意を払う価値がある。例外的で、新しく、興味深い。それが紫の牛だと。」
もちろん目立ちさえすればいいというものではないので、なぜ紫色なのかという理由は必要ですが、教育上のきちんとした理由があってそれを追求した結果の個性とか、あるいは絵がうまいとか空手ができるとか、笑いが取れるとかと行った他の教員にはない強みを活かした個性なら大歓迎ですよね。


【標準テストへの考え】
このブログでも以前ご紹介したことがありますが、アメリカでは標準テストに対する反感が高まっていて、著者もその立場のようです。

位置No. 328
At some point in your career you have to decide if you care more about teaching to tests or teaching kids.
「皆さんはキャリアのどこかのポイントで、テストのために教えるのか子供たちのために教えるのかを決断しなければなりません。」
これは日本の教育者にもう少し考えてもらいたいところです。受験勉強に協力することが本当に子供のためになるんでしょうか。アメリカでは標準テスト反対運動なども盛り上がっていますけど、日本でこうした動きが僕の知るかぎり全く見られないのは本当に残念です。何万人もがテストをボイコットしたりしているんですよ。
順序はかなり前後しますが、以下の2つも標準テストに反対する著者の考えを色濃く反映していますね。

位置No. 1754
Never before have we needed more of an emphasis on the development of creativity, but schools have gone the exact opposite direction in an effort to make the best test-taking automatons possible.
「創造力の育成を強調することがこれほど必要とされている時代はなかったのに、学校はできるだけテストが上手なロボットを作るという正反対の方向で努力をしている」

位置No. 1759
Education shouldn’t be about raising statistics. It should be about raising and fulfilling human potential.
「教育は統計を改善するものであってはならない。それは人間の可能性を押し上げるものであるべきだ」

位置No. 898
Give motivating reasons why the material is important to know. “Because it’s on the test” doesn’t cut it. If you can’t explain why someone should pay attention to what you’re saying, maybe you shouldn’t be saying it.
「その教材がなぜ重要なのか、やる気になる理由を与えよう。『テストに出るから』では駄目だ。もし自分が言うことに注意を払ってもらう必要があるかを相手に説明できないのなら、それを言うべきではないのではないか」

位置No. 491
They have been made to believe their unique gifts and talents are not valued by the educational system because they are not reflected in test scores.
「彼らは自分たちのユニークな才能はテストに反映されないので、教育制度に価値を認められていないと信じこまされてきた。」(次に続きます)

位置No. 503
I talk to them about learning styles. I spend a great deal of time discussing Howard Gardner’s theory of multiple intelligences.
上記の位置情報491の部分からの続きですが、著者は学習スタイルやガードナーの多重知能理論についても子どもたちに話しているそうです。多重知能理論は文字と数字の扱い以外の能力に関するもので、職場で今月ご紹介した論文の中にも英語教育でこの理論を応用するというものがありました。
IMPROVING SPEAKING SKILLS B2 (CEFR) FOR EFL STUDENTS BY USING MULTIPLE INTELLIGENCES ACTIVITIES
http://www.vnseameo.org/TESOLConference2016/materials/3_2.pdf


【体験することの重要性】
位置No. 429
Once everyone knows the rules, I tell students to take the next ten minutes to create something with their dough that is in some way representative of themselves.
「ルールを教えたら子供達に次の10分で自分を表す形を粘土で作るように言います。」
これは認知スタイルで言うと運動感覚優位者に対して効果があると言われている方法ですね。この本には他にも実際に体を動かして体験するという例が非常に多く出てきますので、著者自身の認知スタイルが影響している可能性もあります。

位置No. 1717
After hearing about the unbelievable way he became rich without ever mining for gold, I put forth a challenge. Sam Brannan is buried in San Diego−bring me a picture of you with his gravestone.
ゴールドラッシュ時代のお話です。
「サム・ブラナンの金持ちになった信じられないストーリーを聞かせたあとで、私は4つ目の挑戦的な課題を出す。彼はサンディエゴ(著者の勤務校がある)に埋葬されているので、彼の墓石と一緒に撮影したセルフィーを提出することだ」
著者の認知スタイルが感覚運動的な部分に特化しているように見えることは前にも書きましたが、実際に墓まで行くのは確かに忘れられない体験になりますよね。他にも原爆の授業で貞子の折った折り紙を折るような授業もこの本には出てきます。


【創造的であること】
位置No. 523
the myth of the blinding flash of light.
「目のくらむようなひらめきの神話」
これは創造性に関する誤解で、創造性のある人はすごいアイデアが頭のなかに突然パッとひらめくと思っている人が多いという指摘です。実際には多くの失敗があるんですけどね。

位置No. 623
“It’s easy for you. You’re creative.”
「あなたには簡単ですよね。あなたは創造力があるんだから」
と著者はセミナーでよく言われるそうですが、これが上に挙げたthe myth of the blinding flash of light.の例で、そこに地道な努力があることが理解されず、また、地道な努力をすれば誰にでもできることなのにそれをしようとしない人たちへのフラストレーションもこの本には何度も出てきます。

位置No. 530
What is this creative process? To a large extent, it is the process of consistently asking the right questions.
「創造的な過程とは何か。大きく言ってしまうと、それは継続的に正しい質問をする過程だ。」
これは今この本の次に僕が読んでいる「Make Just One Change」http://amzn.to/2d7G3nN という本のメインテーマになっていて、これもとても面白いです。

大昔は先生は「教える」ものでしたが、ちょっと昔から先生は「質問するだけ」という存在に変わり(たとえばマーク・プレンスキーの「パートナー方式」2010など)、今は先生は質問を作らせるのが仕事なんですよね。これは唯一の正解が存在してそれを覚えるのが中心だった時代から、正解とされる答えに疑問を持つことが大切とされる時代への変化とも言えるかもしれません。

さて、長くなってしまいました。この本には諸手を挙げて賛同するわけではないのですが、役に立つ部分も結構あります。時間がない人はこの本の第2部に羅列してある「hooks」と呼ばれている小技集を見るだけでも面白いかと思います。

そして冒険は続く。

【参考資料】
むらログ: 「デジタルネイティブのための近未来教室」の主題は技術ではなく、教授法だった!
http://mongolia.seesaa.net/article/382695710.html


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posted by 村上吉文 at 01:34 | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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