2007年06月05日

日本語教育とパブリック・ディプロマシー

先日、日本語教育学会のセミナーに行ってきました。国際交流基金の日米センター事務局長が講師です。

しかしまたまた驚いてしまったのが参加者の少なさ。日本語教育という、競争が激しく生存の難しい業界で、どうして人々はここまで自分の能力投資に無関心になれるのでしょうか。しかも今回は就職口としても一流である組織の幹部とじきじきにお会いできる、滅多にない機会なのです。人々が殺到しない理由が、私には本当に理解できません。

インターネットでも受講は募集中だし(RSSになっていませんけど)、私自身がmixiのコミュニティに紹介を書き込んだりしているんですけどね。不思議なことです。まあ、この厳しい業界で、競争相手のやる気がないのは、個人としてはとても喜ばしいことなんですが、それでも不思議さは残ります。

さて、ご講義のタイトルは「日本のパブリックディプロマシー」でした。会場は前回と同じナガヌマスクールです。


セミナーの講師は前述の通り、国際交流基金の日米センター事務局長の小川忠先生です。以下のご著書があります。

原理主義とは何か―アメリカ、中東から日本まで
インド 多様性大国の最新事情
インドネシア―多民族国家の模索
ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭―軋むインド

そういえば、私の妻がインドネシア関係だったので、「オガチュー」のことはよく聞いたと言ってましたっけ。

内容に関しては、実は私は修士論文が日本語教育政策の関係だったのですが、書いたのがもうずいぶん前のことで、それ以降は教室活動などの実践的な方向に関心が移ってしまっていたこともあり(政策の狭間で悩まなくて済んだという意味でもあります)、新しい情報をアップデートできたという点でも、非常に有益でした。

中でも興味深かったのが、インターネット空間でのパブリックディプロマシーをこれからは重視しなければならないという視点でした。これはまさに私も同感で、セミナーの後に個人的に聞いてみたんですが、要するにネットの2ちゃんねる化がいろいろな国で進んでいるということなんですね。私は2ちゃんねるの中でも「ニュース速報版」というところを週一回ぐらい見ているだけなんですが、とにかく「ウソをウソと見抜けない人」(2ちゃんねるでは使い古しの表現ですが)には誤解を与えまくってしまう場所です。特に、中国や韓国に関しては、本当にひどい表現が多い。

もちろん、2ちゃんねるには2ちゃんねるの存在意義というものはあります。マスメディアでは報道できない視点からの書き込みなどもありますし、中国や韓国に対する批判としても、正当なものも数多くあります。しかし、それ以上に誤解や憎悪などを拡大再生産してしまうマイナスの方がずっと多いのではないかと私は危惧しています。

そして、同じようなことが中国や韓国では日本に対して起きているということを、小川先生も気になさっているようでした。

そこで私が提案したのが、中国語か韓国語の分かるネット工作員を国費で大量に雇うことです。もちろん、日本で雇う必要はありません。中国に住んでいる人から日本語の分かる人材を選べば、国内で雇うよりはるかに経済的です。

・・・と書くと聞こえが悪いですね。実際、2ちゃんねるでも「工作員発見!」などと叩かれている人がときどきいます。しかし、叩かれるのは第三者の振りをして特定の企業を援護したりするからではないでしょうか。そして、事実とは思えない(あるいは事実でないと簡単に立証されてしまう)ことを書いてしまうのも逆効果です。

そこで、国費で雇うべきネット工作員は、以下の要件を満たす必要があります。
1.自分は日本政府から支援を受けていることを明記する。
2.主観的な主張ではなく、客観的な事実の間違いを指摘し、正確な情報のソースにリンクを貼る。
3.個人的な感想は100%自由に書く。(ホントはこんな工作員みたいなアルバイトしたくないんだよね、とか)

ここで気をつけなくてはならないことは「いやいや、日本もいい国だよ」なんて主観的なことは書く必要がない(というより、心から思っていないのなら書くべきではない)ということです。そんなことを工作員が書いたら逆効果しか生まないことは、2ちゃんねらーなら誰でも知っているでしょう(いえ、もちろん、私は2ちゃんねらーではありませんが)。

しかし、先日ご紹介した「フラット化する世界」にも「日本は中国政府に公式に謝罪していない」というような、明らかな間違いもありました。「心をこめて謝罪していない」という主観的なことなら議論は分かれますが、客観的な事実として公式謝罪は何度も行われているわけで、こうした間違いは即時訂正していく必要があります。それは、「反日分子を論破する」とかそういう意味ではなく、単に誤解が再生産されて摩擦が大きくなることを防ぐためです。誰だって、悪いことをして謝らない奴よりも、きちんと謝る奴の方が好きになりやすいでしょう。

誤解があるかもしれないので明確に書いておきますが、日本への正当な批判というものは歓迎すべきだし、日本側も真摯に耳を傾けるべきです。しかし、間違った情報がネットを流れ、そこで日本嫌いが再生産されていくという今の流れは、どこかで断ち切らなければならないと思います。そしてそれは、2ちゃんねらーに関してもまったく同じです。「低度情報化社会」という本に「バカはバカのみと交信してさらにバカになる」というようなことが書いてありましたが、バカでない人がそういう交信の場できちんと発信し続けることも必要なのではないでしょうか。


さて、その他に、今回のセミナーで面白かったのは、以下の点です。

まず、最近の「クールジャパン」という言い方が、ブレア政権のブレインの一人マーク・レオナード(マーク・レナードとも標記される場合もあります)によって掲げられた「クール・ブリタニカ」のもじりだったという点。

次に、パブリックディプロマシーは発信のみの一方向的なものではなく、双方向的なものになるべきだという視点です。アメリカはイスラム教徒を攻撃したという外交的に致命的なミスもあったが、発信ばかりして受信しようとしなかったのも米国パブリックディプロマシーの大きな失敗だったとか。

これに関しては、私自身も911の直後に非常に驚いたことがあります。というのも、中東で二年ほど働いていた私にとっては、911は「いつか起きることが、ついに起きた」という感じで、悲しくはありましたが驚くべきことではありませんでした。しかし、多くのアメリカ人は自分たちが激しい憎悪の対象になっているということすら知らなかったんですよね。自分たちが嫌われていたことにアメリカ人が驚いているということに、私は驚きました。(日本も第二次大戦中、同じような認識だったとは思いますが。)

それから、今話題の孔子学院は中国の広報としてはそれほど恐れていないというお考えも印象的でした。ただ、既存の中国語学習機関に孔子学院と名前を付けることによって、中国語学習機関が一挙に増加したように演出する方法などは非常に優れているということでした。

この講義には、このブログで何度も取り上げている福島さんもご出席だったのですが、福島さんからは「国益という時、国益の受益者は誰か」というような質問がありました。実は、この辺は「政府の利益=国益」としか考えていないようなエライ人も時々いて困ってしまうんですが、小川先生は「納税者である」と明言していらっしゃいました。それに加えて、イギリスは対外的にパブリックディプロマシーを推進してきたが、ロンドン同時テロを行ったのは国内にいた異文化だった点を指摘し、そういった排除されがちな存在も、国益の受益者として想定すべきだとされていたのも印象的でした。

質問しそこなって残念だったのが、パブリックディプロマシーの担い手として、外務省、国際交流基金、文化庁などがあがっていた部分で、なぜ首相官邸が入っていなかったのかという点です。たとえば首相のメルマガは日本語の他に英語、中国語、韓国語版があります。ブッシュ大統領が日本語で私のところにメールを送ってくるかと言えばちょっとなさそうですから、これはかなりいい線行っているんじゃないかと思います。

もちろんホワイトハウスもメールマガジンをやっていて、週一で受け取るか常時受け取るかの選択、教育問題やイラク問題などのトピックによる選択などはできますが、言語による選択はできません。

先ほど挙げた政府関連のパブリックディプロマシーの担い手の中で、RSS配信もやっているのも首相官邸だけですから、日本の納税者向けのパブリックディプロマシーも官邸は進んでいると思います。RSSは米国のホワイトハウスも配信していますから、この点では互角ですね。

(あ、基金の「地球を開こう」はRSS配信してますよね。それから関係のあるいくつかの学会も対応してほしいです、まじで。難しかったら、私が無料でやってもいいです)

さて、今回のセミナーに参加できなかった方は、小川先生と外務省の方との共著で「パブリックディプロマシー入門」という本が、夏ごろに出版されるそうです。「発売前に一冊くれたら宣伝しますよ」と約束したので、詳しくは後ほど。(宣伝が掲載されなかったら、「ああ、あいつは本をもらえなかったのだな」とご理解ください)

それとは別に、新潮新書から「テロと救済の原理主義」というご著書が今月中に出るそうです。まだamazonでは登録されていないようですが、これも登録されたらご紹介します。
以下は資料ですが、まず小川先生の既刊の著書には以下のようなものがあります。



ご講演中に出てきたブレア政権の若きブレイン「マーク・レナード」の著作としては、以下のものがあります。


ご講演中、マークレナードほどではありませんが、「安倍政権はパブリックディプロマシーを重視している」という部分でちらっと取り上げられた世耕弘成政府広報官は、こんなブログを書いています。
http://blog.goo.ne.jp/newseko/

著書としては、こういう物が見つかりました。
世耕弘成『プロフェッショナル広報戦略』


国際交流基金のメールマガジン
http://www.jpf.go.jp/j/mail_j/index.html

国際交流基金の「地球を開こう」というブログのRSS
http://d.hatena.ne.jp/japanfoundation/rss

ホワイトハウスのメルマガ(英語のみ)
http://www.whitehouse.gov/email/

posted by 村上吉文 at 14:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
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