月刊日本語からいらした方はこちらへ!

2016年03月18日

すべてはここから始まった。カザフの冒険家、カリナさんインタビュー!

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス



https://youtu.be/JGTnnsGSHko

冒険家の皆さん、今日も中央アジアの草原でラクダの隊列を眺めていますか?

さて、サマルカンド外国語大学の氏家雄太さんによるレポートに、以下のような部分があります。

「彼女はまさに、カザフスタンの日本語教育界に彗星のように現れ(中略)、これは、日本語教育の末席に連なる人間にとって、驚天動地とでもいうべきものでした。」

これが2013年の中央アジア日本語弁論大会でのレポートなのですが、まさにこの2013年という年は世界各地でこうした驚天動地の出来事が起き始めた節目の年だったのではないかと思います。というのも、スピーチコンテストというのはそれまでそれぞれの国のエリート養成校で学んできた日本語学習者が優勝するものだったのに、突然、どこの日本語教育機関にも属さずにインターネットで日本語を学んだ学習者がまさに彗星のように出現して優勝カップをさらっていき始めたからです。それから3年たったいま思い返せば、2013年がすべての始まった節目だったのではないでしょうか。

さて、上記の氏家さんのレポートに出てくる彗星のように現れた「彼女」にようやくインタビューすることができました。「彼女」はカザフの地方都市カラガンダに住むカリナ・カラシナさん。プログラミングを専攻する大学生です。

彼女の話を聞いてみると、「アニメを見ていて知らないうちに意味が分かるようになっていた」というあたりから、もしかしたらネイティブに近いような学習過程を経ているのかもしれません。日本語の教科書さえ使っていないというところも驚きです。また、アニメを見るときに日本語の字幕さえ必要なく、「文字がなくても気にならなかった」「勉強は声でするのが中心でそっちが得意」というあたりは認知スタイルでいうと明らかに聴覚優位な学習者ということができるでしょう。そして、聴覚優位者らしい彼女がアニメのシャドウイングというもっとも自分の認知スタイルに適合した学習スタイルを採用することによって、このように学習に成功することができたのではないかと思います。

他の成功した冒険家と共通することとしては、最初はアニメで入ってきたものの、次第に日本語そのものに関心が移っていくという点ですね。また、分からない言葉があっても気にしないという点も自律学習で重要視されている点です。従来の授業では教材が「学ぶべき新出語彙」と「既習語彙」だけで構成されていることが多いですが、自律学習の場合はコントロールされていない多様な日本語に触れることになるので、「分からないけど分からないままでいい」という表現にたくさん出会うことになります。

カリナさん自身は「先生がいてくれたらもっと上手になっていたと思う」と言っていますが、実は僕はここはかなり疑問です。彼女はもちろんすぐれた才能を持っているとは思いますが、従来の教え方の先生が普通の教室授業でカリナさんの認知スタイルの偏りやアニメなどの嗜好を踏まえた上で彼女に最適の進度でこれだけのパフォーマンスを引き出す授業ができるかというとまず無理でしょう。というのも学習者の認知スタイルなどは非常に多様で、一斉授業ではもっとも平均的な学習者に合わせるしかないからです。そのような環境で、日本人が誰もいないカザフの地方都市に住んでいる学習者にモスクワのビデオコンテストで優勝するような結果を生み出せる教師がこの世界に存在するかは非常に疑問です。

もうひとつだけ他の成功している冒険家との共通点を上げるとすると、「好きを貫け」ですね。これは2007の3月17日(9年前の昨日ですね)に梅田望夫さんが言った言葉で当時は賛否両論でしたが、こうして成功した冒険家と話してみると、皆が口裏を合わせたかのように同じことを言うのには驚きます。特にインタビューの最後の「他の冒険にアドバイスを」という部分は感動的ですらあります。

それでは以下にカリナさんとのインタビューの要点を時系列に書いておきます。最後のアドバイスの部分以外は音声に忠実な文字おこしではありませんので、正確な発言を知りたい人は必ず上の動画をご覧くださいませ。

【カリナさんってどんな人?】
名前カリナ・カラシナさん
2013年のカザフの弁論大会で優勝した。
カザフスタンのカラダンという街に住んでいる。
カザフスタンの大きな街の一つだが、日本語の学校はないし、自分の知る限り日本人もいないようだ。
大学3年生。今年で卒業。
大学ではプログラミングを専攻している。

【日本語を勉強しようと思ったきっかけは?】
きっかけは2つ。J-Rockとアニメ。テレビではなくてインターネットで見た。
アニメの声優の声が引っかかった。
一人の声優があんなたくさんの種類の声が出せることに驚いていろいろ調べた。
好きな声優は「鋼の錬金術師」のエルリックを演じている「朴 璐美」さん。
「ブリーチ」にも出ている。
J-Rockはthe GazettE。知らない?結構有名なんですけどね。

【日本語の勉強を始めて、最初にしたことは?】
最初は勉強するつもりはなかった。音楽とアニメで満足だった。
でも知らないうちに言葉の意味がわかるようになっていて、もっと勉強したいと思った。
最初は日本語学校を探したけど、ないと分かったのでネットで色々調べた。ひらがななど。ネットで教えてくれる人は恥ずかしくて探さなかった。
教科書は使わなかったけど辞書は使った。辞書は友だちからもらった。ロシア語から日本語への辞書。大きくて便利で使いやすい。会話用のハンドブックも使った。これもロシア語。それからお伽話。ひらがなの読み方の練習に役に立った。ロシア語の翻訳もあるので使いやすい。
カザフの公用語はカザフ語とロシア語。小学校でカザフ語で社会や算数の教科書が書いてある。おばあさんがロシア人なので家では両親とロシア語で話している。

【冒険の仲間は?】
日本人の話し相手はいなかったけど見つけた。首都のアスタナのカザフスタン日本センターの電話番号をネットで探して。最初はロシア語だったけど相手がロシア語がよく分からないようだったので日本語で話してみたら、急にテンションがあがった。それがカザフ日本センターの松島さんだった。
その時は少し日本語で話せた。日本語を使ったのはその時が初めてだった。松島さんはすごくびっくりしていた。それで日本語弁論大会に出てみないかと聞かれた。
インターネットでは日本語の話し相手とかを探したりはしていない。
カザフ人で日本語を勉強している友達はいる。私と同じようにアニメが好きな人とか。一緒に勉強していた人もいるけど、とくに勉強していたのは私。同じ町にもそういう人は何人かいる。
ソーシャルメディアで日本人と連絡したりはしなかった。自信がなかったから。カザフ日本センターに電話するのが精いっぱいで緊張した。でもソーシャルメディアはもっと自信がなかった。
毎日とか毎週とか話せる人はいなかったので、一人で話す練習をした。聞いて真似をするだけ。セリフを聞いた時自分も言う。(つまりシャドウイング?)。文字がなくても気にならない。日本語の字幕もなかった。声だけ。
「あいさつ」という自分のYouTubeビデオはカザフ日本語弁論大会の一年後にモスクワのビデオコンテストのために作った。これで優勝した。ビデオの中の関西弁は聞いてるだけで覚えた。話し方も表情もやわらかくて気に入った。「鋼の錬金術師」や「うえきの法則」や「ラブ★コン」。きいてすぐに普通の日本語とは違うと気づいた。勉強は声でするのが中心でそっちが得意。
YouTubeで日本語を勉強するチャンネルも見たけど、今は覚えていない。たくさんあった。中心はアニメなどのコンテンツ。

【そんな装備で大丈夫か?】
アプリはいくつか使ってみたけど、どれも簡単すぎたのでほとんど使わなかった。

【モンスターは?】
日本語を勉強していて、困ることはいろいろあったけど、がんばれば済むことなので、自分で何とか克服した。
分からない言葉があったときは、ロシア語の字幕があるから気にしなかった。
ロシア語から辞書を引くこともできたし。
毎回繰り返して覚えるようになった。

【情熱は?】
情熱は興味。
J-Rockやアニメや日本語。それが私の情熱。日本語そのものにも持つようになった。日本語を勉強することが面白いと思うようになった。日本語とカザフ語の文法は少しだけ似ている。カザフ語とロシア語はぜんぜん似ていない。ロシア語はもっと難しい。

【外国語教師はもう必要ないと思いますか?】
そんなことは思わない。
先生はいてほしいと思う。でも、いなかったからしょうがなかった。
自分はたまたま成功しただけ。先生がいたらもっと上手になったかもしれない。
(でもスピコンで優勝したでしょ?) 
自分でもびっくりした。ただ日本人や日本語学習者と話したかった。その時の出場者はメールなどで今も連絡を取っている。
もし日本語の先生がいたら、教科書に従って教えてほしい。その方が上手になったと思う。(村上にとってここは疑問ですが)
でも、やっぱり先生がいる人がうらやましい。いろいろ苦労はあったから。分からないことなどの限界もあった。

【他の冒険家にアドバイスをお願いします】
「アドバイスというほどじゃないけど、私が自分でよく言っていることなんです。好きなものにちゃんと素直に向かい合わなければならない。あの、それは他人にどう思われても。だから勉強も同じです。好きなことなら何でもがんばれるじゃないですか。だから自分の道にちゃんと進むべきだと思います。焦らずに。恐れずに。努力あるのみです。がんばってください」

そして冒険は続く。

【参考資料】
カリナさんが優勝したモスクワ日本語ビデオコンテストの映像。関西弁が自然です。
Aisatsu (приветствие) - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=6eo1TNx6GJU

平井 美里/24 年度1次隊 日本語教師/ウズベキスタン
「中央アジアにおける日本語教育事情」
http://www.jica.go.jp/uzbekistan/office/information/event/ku57pq00001niybh-att/report_20130815_01.pdf
カリナさんが紹介されています。

「彼女はまさに、カザフスタンの日本語教育界に彗星のように現れ(中略)、これは、日本語教育の末席に連なる人間にとって、驚天動地とでもいうべきものでした。」
2013 年度 第 17 回中央アジア日本語弁論大会
サマルカンド外国語大学日本語教師 氏家 雄太
http://www.jica.go.jp/uzbekistan/office/information/event/ku57pq00001niybh-att/report_20130815_02.pdf

梅田望夫「直感を信じろ、自分を信じろ、好きを貫け、人を褒めろ、人の粗探ししてる暇があったら自分で何かやれ。」 - My Life Between Silicon Valley and Japan
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20070317/p1

【コメントはソーシャル・メディア上の記事別ページヘどうぞ!】
https://plus.google.com/+YoshifumiMURAKAMI/posts/KeptZHSrgky
https://twitter.com/Midogonpapa/status/710737570955665408
https://www.facebook.com/murakami.yoshifumi/posts/10208431517407502
posted by 村上吉文 at 16:56 | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事へのトラックバック