2007年05月28日

進化する『どんな時どう使う日本語表現文型辞典』

最近、「ユーザビリティ」という言葉を聞く機会が増えてきたように思います。「ユーザー(使う人)」という語彙は教育の世界ではあまり聞きませんが、教材であれ何であれ、「使う人」とは「学習者」なのですから、実は我々にとって非常に重要な概念なのではないかと思います。

この言葉を流行らせたのは、ヤコブ・ニールセンの『ユーザビリティエンジニアリング原論』だと思いますが、ウィキペディアの「ユーザビリティ」の欄では、ニールセンのユーザビリティの要素を以下のように紹介しています。
学習しやすさ (Learnability)、効率 (Efficiency)、記憶しやすさ (Memorability)、エラー (Errors)、満足 (Satisfaction) といった品質要素から構成される概念

「エラー」に違和感を感じるのは、ニールセンがウェブデザインを対象に考えているからですね。ただ、このエラーに関しては
システムはエラー発生率を低くし、ユーザがシステム使用中にエラーを起こしにくく、もしエラーが発生しても簡単に回復できるようにしなければならない。また、致命的なエラーが起こってはいけない。
ということですから、「システム使用中」を「授業中」とか「受講期間中」になおせば、これはもちろん教師のエラーそのものにも当てはまる概念ですよね。

実は私もウィキペディアを見るまで知らなかったのですが、国際標準化機構が「ISO 9241-11」としてユーザビリティを定義していたんですね。これは定義としてスマートに整理されていますので、以下にご紹介します。
ISO 9241-11の定義
ユーザビリティ (Usability): 特定の利用状況において、特定のユーザによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザの満足度の度合い。
有効さ (Effectiveness): ユーザが指定された目標を達成する上での正確さ、完全性。
効率 (Efficiency): ユーザが目標を達成する際に、正確さと完全性に費やした資源。
満足度 (Satisfaction): 製品を使用する際の、不快感のなさ、及び肯定的な態度。
利用状況 (Context of use): ユーザ、仕事、装置(ハードウェア、ソフトウェア及び資材)、並びに製品が使用される物理的及び社会的環境。


で、ここからが本題なのですが、『どんな時どう使う日本語表現文型辞典』が新しくなるんですね。発売日は三日後6月8日(コメントにより修正)ですが、昨日の学会で手にする機会がありましたので、ご紹介します。

何が変わったかというと、執筆陣の前書きによれば内容に関しても「全体的に加筆修正」したということですが、それ以上に大きな違いが、ユーザビリティの向上なのです。

まず、一点目は、今まで二冊に分かれていた物が、一冊になったいうことです。以前は「初級・中級編」と「中級・上級編」に分かれていましたので、読みたい項目について、利用者はまず「どちらに載っているか」を判断しなければなりませんでした。まあ、日本語教師としてちょっと経験を積めばほとんど判断はつきますが、経験の浅い教師や、ましてや日本語学習者にとっては間違ってしまうことも多かったのではなかったかと思います。

そして、第二点目は、五十音順になったということです。以前は章立ては「時間的同時性」「時間的前後関係」という概念別の分類になっていました。五十音順の索引はありましたが、そこからクリック一つで飛べるのならともかく、さらにページをぱらぱらとめくって読みたい部分を探すのは、やはり手間が一つ余計にかかっているわけです。こうした手間を省くことが、ISO 9241-11で「効率(Efficiency)」と定義されていることなのではないでしょうか。

ユーザビリティが向上した第三点目は、B5版からA5に小さくなったことです。携帯性がよくなるということは、それを使う機会が増えるということにつながります。

そして、第四点目は、特に学習者にとって重要な点ですが、英語、中国語、韓国語訳がついたということです。「どうしてモンゴル訳がないんだ!」と叫ばないでください、そこのあなた。ただ、中国語と韓国語に関しては日本語の翻訳そのままでもいいのでしょうけど、英語に関してはモンゴル人のような英語の非ネイティブも利用するので、もうちょっと噛み砕いた表現にしてもいいのではないかな、という印象はあります。でも、そうすると今度は説明が長くなって、つまり携帯性に悪影響が出てしまうという判断なのでしょうね。難しいところです。

ということで、ISO 9241-11の定義の「有効さ」で以前から定評があった教材が、今度は「効率」の点で大幅に改善されたというニュースでした。

posted by 村上吉文 at 06:20 | Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
こんにちは。

『どんな時どう使う 日本語表現文型辞典』の
編集を担当しました、アルクの立石と申します。

さっそくこのように取り上げていただき
ありがとうございます!
学習者の負担が軽い、そして使いやすくて
持ち歩きやすい辞典を作ろう、
ということを考えながら作ったので
このようにご理解いただけてうれしいです。

まず、本書の発売日なのですが
2007年6月8日(金)になります。
書店に並ぶまでには、
もう少しお時間かかってしまいます。
大変申し訳ございませんがあと2週間ほど
お待ちください。

それから、本シリーズに関して補足を一つ。
この辞典は、確かに
『どんなときどう使う 日本語表現文型200』
と、同『500』をまとめたものですが
この2冊と辞典とは、基本的に使用目的が違う、
ということをご理解いただければと思います。

この辞典は、何よりも文型の意味を「知る」
ということを意識して作りました。
ですので、3カ国語の翻訳や総ルビ、
見出し語の探しやすさについて工夫を凝らし
「意味を調べる」ための学習者のストレスを
最小限にできるよう編集したつもりです。

既刊の2冊は、機能別にまとめられ、
課ごとに問題がついていたりして
「文型を学習するため」
ということを意識して作られています。

このたび、新刊として文型辞典が出ましたが
既刊のシリーズと併せ、それぞれの用途により
上手に使い分けていただけますと幸いです。

これからも、
現場のみなさんのお役に立つ書籍を刊行していけるよう
編集部一同精進して参りますので
ご意見・ご感想等いただけますよう
お願い申し上げます。

むらさん、ありがとうございました。


たていし



Posted by アルク たていし at 2007年05月28日 14:44
立石様。

補足をありがとうございます。
そうでしたね、前作は教科書でした。学習者だけでなく日本語教師にとっても非常に役に立つ本だったので、教師である私にとっては、そういう意識が完全になくなっていました。

発売日の件は本文中で修正しておきました。

今後ともよろしくお願いいたします。
とりいそぎ、お礼とお知らせまで。
Posted by 管理人 at 2007年05月28日 17:28
おはようございます。

アルク たていしです。

むらさん、発売日の訂正、ありがとうございました。
また、「教師にも非常に役に立つ」とのコメント
うれしく拝見しました。
本辞典も、教師の方々にも
重宝していただけるのではないかと思っております。

こちらこそ、今後とも
どうぞよろしくお願いいたします。


たていし



Posted by たていし at 2007年05月29日 08:46
コメントをありがとうございます。
学習者にとって使いやすい教材ということを考えてきたものにとって、非常に嬉しいお言葉をいただき、感謝しています。
Posted by 和栗雅子 at 2007年06月13日 02:11
和栗先生、コメントいただいておりましたことに気づかず、大変失礼いたしました。こちらこそ、コメントをありがとうございました。

今度は「辞書」に特化したことで、教師にとっては非常に使いやすくなりました。私も毎日参考にしています。

Posted by 管理人 at 2007年06月22日 06:41
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