2007年05月18日

「その他の地域」の日本語教育の問題点

日本語教師として辺境をさすらってきた私にとって、先日のカザフ日本センター荒川専門家の帰国報告会はなかなか納得するところが多かったです。

荒川専門家は、外国人に対する日本語教育を国内で行われるもの(JSL)、海外で行われるもの(JFL)を分けた上で、海外の日本語教育をさらに「アジア」「欧米」「その他の地域」に類型化しました。この三つを「文化的存在感」「日本に関する知識の量」「日系企業の数」「日本人観光客の数」「日本語の需要」「日本語学習のタイプ」という六つの視点で特徴を考えました。

それによると、アジアは以下の通り。
文化的存在感:大衆芸能全般
日本に関する知識の量:長い交流の歴史、大衆レベル
日系企業の数:多い
日本人観光客の数:多い
日本語の需要:さまざまな分野で
日本語学習のタイプ:大衆的

欧米は以下の通り。
文化的存在感:マニアックに浸透。サブカルチャー
日本に関する知識の量:学術的日本研究、専門家・マニア
日系企業の数:多い
日本人観光客の数:多い
日本語の需要:特定の分野で
日本語学習のタイプ:特定的

で、カザフなどの「その他の地域」は以下になるとのことです。
文化的存在感:ゼロに近い
日本に関する知識の量:ほとんどない
日系企業の数:少ない
日本人観光客の数:少ない
日本語の需要:あまりない
日本語学習のタイプ:限定的

ここでいう「その他の地域」というのは、先日ご紹介した福島青史さんの「孤立環境」とほとんど重なるかもしれません。福島さんは「孤立環境における日本語教育の社会文脈化の試み」で「地域内に日本語コミュニティーがなく、旅行、留学等で日本に行くことも稀で、教室外で日本語と接触のない海外環境における日本語学習環境」を「孤立環境」と呼んでいます。

また、私自身も、(このブログで当時の日記が読めますが)サウジアラビアで働いていたことがあり、「その他の地域」や「孤立環境」では、国内、東南アジア、欧米などとはまったく学習環境が違うことは身にしみています。また、一番長くいたモンゴルの場合は、日系企業が少ない点、交流の歴史が冷戦構造の崩壊後に限定されている点で、アジアとは言っても「その他の地域」に重なる部分もあります。

で、そういった部分では、学生だけでなく教師も悩むわけです。福島さんの文章から、ちょっと長いですが引用しますね。
教室外でのコミュニケーションの可能性がほとんどない学習者に対して、コミュニケーションを目的とした教室活動を行うことの欺瞞性を感じた教師は筆者一人ではないはずである。応用言語学は社会文化能力を含むコミュニケーション能力を効率的に習得する知見を与えてきたが、海外の現場は「コミュニケーション」を保証しない。いつの日か訪れるであろう「コミュニケーション」を想定したクラス活動は長期にわたる言語学習の動機付けにはならない。ここで教師は学習者とともに「何のために・なぜ日本語を学ぶのか」という根本的な問いにぶつかることになる。

カザフで活躍なさった荒川さんは「学習者の内的ゴール」「学習者の心的発展」というところに、その答えを見出したようです。またウズベキスタンの福島さんは前掲の論文で以下のように述べています。
「相互理解」としての日本語教育は、日本理解はもとより、異文化理解能力を伸ばすことにより、学習者と世界との認知的な接点を増やす自己変容の試みとも言える。その媒体は日本語話者との交流のみならず、日本語学習それ自体、また本やビデオからなる情報でも成り立つ。つまり異質のラングを内部に取り込むことで世界認知の方法を豊かにし、既存の世界観(=ラング)を活性化し、ラング活性化は実践としてのパロール(=個の生)を豊かにしてくれるのである。俗に言う「外国語学習の楽しみ」とはこのような個の生の活性化の喜びともいえる。「日本語の構造を知る」「日本の習慣・思想と自文化との差異を意識する」「文学・詩的テキストの鑑賞」など、この文脈のニーズは多様であり、当該社会に求められる活動の特定と多様性への対応が課題である。

つまり、「実際にコミュニケーションできなくても、世の中が分かりやすくなるので、日本語を学ぶ価値はある」ということですね(噛み砕きすぎかな)。

私もサウジアラビアにいたとき「こんな需要のないところでオレは何をやっているんだ?」と悩んだものですし、世界各地で、今この瞬間も、そうして悩んでいる日本語教師がいることでしょう。

ただ、もしかしたら「フラット化する世界」に象徴される技術の進歩と、それを応用したサービスの多様化により、もしかしたら近い将来、この問題は解決されるかもしれません。

明日のエントリーでは、そういうことを書いてみようと思います。
posted by 村上吉文 at 07:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
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