2015年06月08日

それぞれの冒険家に必要な多様な能力の一覧を簡単に作るには

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス




冒険家の皆さん、今日も次の冒険の地を求めて羊皮紙の地図を広げていますか?
僕も書きたいことは山ほどあるのですが、なかなか時間が取れません。

さて、先日は「余暇としての日本語学習」ということで、特定の課題遂行能力を身につけるよりも、日本語を学んでいること自体を楽しんでいる人たちがいることを書きました。しかし、それとは別に、従来の前提通り、何かができるようになりたいから日本語を学んでいる人も大量にいることも事実です。

その一方で、一斉授業の限界はいろいろなところで見えてきていて、そうした課題遂行能力を育成しなくてはならない現場でも、多様なニーズに対応しきれない例が見受けられます。つまり、自律的な学習者のコミュニティでありながら、サロンのように楽しく学ぶのではなく、多様な課題遂行能力をそれぞれ別のニーズに合わせて育成しなければならないことも多いわけです。

そうした際には、特定の教科書を勧めたりするのではなく、どのようなニーズがあるのかを「キャンドゥ」を使って、それぞれの学習者が他の誰のためでもなく、自分自身のためのオリジナルのコースデザインをすることが求められます。こんなことは10年前にはまるで夢物語でしたが、今ではいろいろなキャンドゥが公開されているので、非常に効率的に行うことができるようになっています。

というのも、キャンドゥの一覧はエクセルなどでも公開されているので、それをレベルや言語活動の種類、目的などでソートすると、簡単にシラバスの一覧ができてしまうのです。もちろん、一斉授業の場合には時間をかけてきちんとニーズ調査を行い、シラバスを考えるのもいいですが、その場合にも「たたき台」として利用することができます。

CEFRのキャンドゥ一覧はどこで表計算用のデータで公開されているか知らないのですが、JFのキャンドゥは以下のリンクからダウンロードできます。(クリックするとすぐにダウンロードが始まることが多いと思います)
http://jfstandard.jp/pdf/20141120_JF_Cando_Category_list.xls

ここでは一つの例として、「ほぼB1レベルぐらいで、職場で日本語のやりとりをしなければならない人」がクラスにいたと仮定しましょう。そうすると、上記のデータをGoogle表計算なりエクセルなりで開いて、「レベル」を「B1」に、「言語活動」を「やりとり」に、そして「第1トピック」を「仕事と職業」にしてフィルターをかけます。

そうすると、以下の11個のキャンドゥが抽出されます。

職場の定期的な会議で、新しい商品開発など、議題の概要を理解し、事実確認をしたり、自分の意見を述べたりして、ディスカッションに参加することができる。 Can participate in a discussion during a regular meeting at one's workplace by understanding the outlines of the topic, such as the development of a new product, confirming the facts, and expressing one's opinion.

イベント後の反省会などで、課題となった点を述べたり、次回に向けた改善案を述べたりして、ディスカッションに参加することができる。 Can take part in a discussion by raising important points and making suggestions for improvements next time, for example, at a debriefing meeting after an event.

研究会の実行委員会で、テーマやプログラムの相談など、議題の概要を理解し、事実確認をしたり、自分の意見を述べたりして、ディスカッションに参加することができる。 Can understand an outline of the main points discussed regarding the theme, programme consultation, etc., check facts and express one's opinion, in order to take part in a discussionin on a research society's executive committee.

研究授業の後の意見交換会などで、良かった点を述べたり、課題や次回に向けた改善案を述べたりして、ディスカッションに参加することができる。 Can take part in a discussion by mentioning good points and problems, and making suggestions for improvements next time, for example, at a debriefing after a demonstration lesson.

飲食店などの職場で、注文の間違いなどの問題が生じたとき、客の苦情を聞いて理解し、謝るなど当座の対処をすることができる。 Can understand a customer's complaints and apologize or take other immediate appropriate action when a problem, such as a wrong order at a restaurant where one works, occurs.

空港のカウンターで、手荷物の紛失などの問題が生じたとき、客の苦情を聞いて理解し、謝るなどの当座の対処をすることができる。 Can listen to and understand a customer's complaint and deal with it immediately and appropriately, for example, by apologising, when a problem occurs such as lost hand baggage, at an airport counter.

取引先で、名刺を交換しながら、名前、所属、業務内容など、仕事上必要な情報などについて、ある程度詳しく自己紹介し合うことができる。 Can introduce oneself in some detail including one's name, position, line of work, and other information necessary for business while exchanging business cards with a client.

交換留学の提携をしている機関の教師同士のやりとりで、いつまでにどのような書類を揃えればよいか、どのような情報を提供すればよいかなどの詳しい情報を質問したり、質問に答えたりすることができる。 Can ask teachers questions and answer questions about detailed information such as what kind of documents one needs to prepare and by when, and what information one should provide, in correspondence between teachers belonging to an organisation taking part in a study abroad exchange.

仕事の面接試験で、志望動機などに関する質問にある程度詳しく答えたり、自己PRをしたりすることができる。 Can promote oneself and answer questions in some detail about why one wants the job, for example, at a job interview.

就職したい会社に勤めている先輩に、仕事内容や会社の雰囲気など、知りたいことについて準備した質問をし、答えを受けて、情報を確認したり、それに続く質問をしたりすることができる。 Can ask questions one has prepared about what one wants to know, such as job descriptions and the workplace environment, to someone already employed at a company where one wants to work, and can understand the answers, confirm facts, and ask follow-up questions.

社内報などに新しいスタッフのインタビュー記事を書くために、その人自身、家族、趣味などについて質問をし、答えを受けて、情報を確認したり、話を続けさせるような質問をしたりすることができる。 Can ask questions to a new staff member about him/herself, his/her family, hobbies, etc., understand the answers, and ask further questions to confirm facts or continue the conversation, in order to write an article based on an interview for an in-house newsletter or other media.

この中には空港や教育関係などの特定の職業に関わりのあるものも含まれていますが、もちろん関係ないものは削除するなり、一部の語彙を変更するなりしていいわけです。また、難しすぎると思ったらレベルを「A2」にすればいいでしょうし、やりとり以外のニーズも見たかったら、言語活動を「受容」「産出」などに変更することもできます。職場の同僚とプライベートな話もするのでしたら、トピックをもっと増やしてもいいかもしれませんね。

ソーシャル・メディアを使って自律的に学ぶ冒険家を育てるには、かつては教員の仕事だったコースデザインの能力も育てる必要があります。その冒険家の卵が今回ご紹介したような課題遂行能力を身につけるために日本語を学んでいる場合は、こうしてキャンドゥを使って自分が学ぶべき能力を選び取っていくのは、そのためにはとても重要です。冒険へ踏み出そうとしている若者たちをみなさんが送り出すときには、ぜひ、こうした方法をご利用ください。

そして冒険は続く。

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posted by 村上吉文 at 01:44 | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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