2007年05月16日

アハ体験と日本語教育

以下の例文は宇都宮大学の国際キャリア開発セミナーというイベントの二年前の資料を読んでいたときに見つけたものです。このイベントには青年海外協力隊技術顧問の佐久間勝彦先生が講師の一人として招かれていたので、佐久間先生がご紹介になった資料かもしれません。(つまり、又聞きというか孫引きです。さらに引用される際にはその点ご注意を)
アニコーのてがみ(一部抜粋)
今日も 天気は とても いいですが、私の こころは いつも 雨です。ひろしさん、かさを ください。わたしは あなたの かさが ほしいです。まりこには いわないでください。(ハンガリーの中等学校教科書)
*十数年前に青年海外協力隊員によって作成

「ひろし」と「まりこ」と「わたし」はどんな関係なのでしょうか。いろいろ想像できて、興味をそそられますね。このように教材にストーリーを持ち込むと、いろいろなメリットがありますが、特に登場人物の性格や関係などが明らかなので、文脈が豊かになるという点があります。私もモンゴルではラジオ日本語講座に関わったことがあり、そこでもストーリー性を重視した番組を目指していました(もちろん、学習者に「先を聞きたい」と思わせるのがいちばん大きな目的ですが)。

しかし、上記の教材には、それ以上の面白さがあります。言うまでもなく、「かさ」が何を意味しているのか、という点です。「今日も天気はとてもいい」と書いてありますから、本当の傘ではないことは初級の学習者にもすぐに分かるでしょう。

「ああ、日傘ですね」

とサウジの学生なら言うかもしれませんが、ハンガリーなのでそれもない。「まりこには いわないで ください」の「まりこ」というのが女性の名前で、「ひろし」が男性の名前だということが分かっていれば、容易に想像がつくものと思います。

で、この文章の「傘がほしい」が何を意味、あるいは示唆しているかが分かったときの印象というのは、おそらく、ありがちな「今日は雨です。でも試験があります。私は傘がほしいです」という文章を読んで理解したときよりも、はるかに強烈なものになるのではないでしょうか。

これに関して、最近大人気の脳科学者茂木健一郎(NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」の司会、「フュ-チャリスト宣言」の共著者でもある)は、こういった、何かを理解した瞬間の脳の働きを「アハ体験」と呼んでいます。というか任天堂のゲームにもなっていますね。茂木によれば、「アハ体験」は脳の活性化に役立つそうですが、私の感覚では、これは語学教育などにおいても、大いに役に立つのではないかと思います。

で、ちょっと検索してみたんですが、茂木によれば、「アハ体験」はドーパミンを放出されるそうです。
アハ!ピクチャーの答えを苦労して見つけたとき、脳内では、報酬を表現する神経伝達物質ドーパミンがたくさん放出されるはずです。この感覚を覚えてください。
これが病みつきになれば、脳はさらにその感覚を得ようとし、あなたの人生は積極的なものになるはずです。http://www.ssigrp.com/column/kiko/aha/taiken.html

で、このドーパミンをwikipediaで見てみると、やはり「学習」にも関係があるようです。
ドーパミン - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%9F%E3%83%B3
中脳皮質系ドーパミン神経は、とくに前頭葉に分布するものが報酬系などに関与し、意欲、動機、学習などに重要な役割を担っていると言われている。

医学書院/週刊医学界新聞 【緩シナプス電位の分子・神経機構の解明(外山敬介)】 (第2418号 2001年1月1日)
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2001dir/n2418dir/n2418_10.htm
特にドーパミンは学習に最も重要な動機づけ(motivation)の信号を伝えると想定され,それを取り入れた強化学習という新しい学習の枠組みも提案されている。


冒頭にご紹介したハンガリーの青年海外協力隊の教材を作った日本語教師が、はたしてドーパミンまで考えていたかは分かりません。が、感覚的に「こういうのが役に立つ」と捉えていたのだとしたら、かなりセンスのある教員ではないかと思います。
posted by 村上吉文 at 07:52 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
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