2013年10月14日

ラポールの形成にオフラインの対面は不可欠か

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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この週末は日本語教育学会の秋季大会でした。僕もいろいろな人に再会したり、あるいは初めて会ったりして、非常に有意義な二日間を過ごしました。

発表内容ももちろんですが、それ以外にも非常に印象的なことがあったので、ちょっとご紹介したいと思います。

それは瀬尾匡輝さんたちの発表「オンラインでの繋がりがもたらす教師たちの変容 」を聞いたあとで、瀬尾さんご本人に声をかけた時のことです。できるだけ記憶に忠実に再現してみるとこんな感じでした。
瀬尾さんは発表が終わったばかりだったので、いろいろな人に捕まっていて、こちらから「瀬尾さん、村上です」とちょっと強引に割って入るような感じで声をかけました。そのとき瀬尾さんは目を合わせて僕を認めると、こんなふうに言ったのです。

「あー、村上さん、お久しぶりです。・・・あれ、もしかしたら会うの初めてでしたっけ?」

僕の記憶でも、あとから思い返してみると、実際に対面した記憶は、そういえばありませんでした。今までの瀬尾さんとの付き合いは、全部オンラインだったのです。

実は、これと同じような体験は前にもありました。僕がカイロで主催していた「オンライン中級日本語講座」にアレキサンドリアから参加していたノハさんという受講者が、別の用事があって僕の務めていたカイロ日本文化センターに来ていたことがあったのです。その時僕は事前に彼女が来る予定であることを知らなかったので、事務所の応接セットに座っているのを見た時に、思わず瀬尾さんのように「お久しぶり!」と声をかけそうになりました。でも、記憶を探ってみるとオフラインで会った体験が思い出せません。実はその時が初めての対面だったのです。

でも、逆に言ってみると、リアルタイムのビデオチャットなどを頻繁にする時代になると、実際に会ったことがあるかどうかなんて、あまり大した意味がなくなったと言えるのではないでしょうか。

いや、むしろ、教室で講演を一方的に聞く場合などは、物理的に同じ空間を共有しているとは言っても一対多の関係ですし、仮に質問できたとしても「その他大勢」の中の一人にすぎません。僕はよくパワーポイントの使いすぎをいさめることがあるのですが、その理由の一つがパワーポイントを多用すると教員と学習者が直接視線を合わせる機会が極端に減ってしまうので、人間関係の形成に障害があると思うからです。実際に、僕がパワーポイントを使いすぎていた時代に、突然停電になってパワーポイントが使えなかったことがあり、その時を境に急に学習者との関係が暖かい人間的なものに変わったように感じた経験もあります。

つまり、そういった一対多でアイコンタクトの少ない対面に比べると、たとえモニター越しであったとしても、一対一で、長時間のアイコンタクトを含むやりとりをしたりするのは、はるかに親近感や信頼感、仲間意識などを作ることができます。

そういうことを教育関係者は「ラポールの形成」などといったりすることがありますが、いまやラポールの形成において、実際に対面しているかどうかということはほとんど意味はないと思います。大切なのは一対多ではなく一対一であることとか、共通のリスクを取って行動するとか、あるいはそういう付き合いの長さなどなのであって、それらはオンラインでも充分に積み重ねることができるのです。

もちろん、モニター越しには握手もハグもキスもセックスもできないので、家族や夫婦や恋人同士なら、もどかしい思いをすることもあるでしょう。しかし、普通の仕事や教育、学習活動には濃厚なスキンシップはもともと必要ありませんよね。つまり、そういう仕事や教育の場では、実際に対面したことがあるかどうかということは、あまり意味がないのです。少なくとも、オフラインで会うのが初めてなのか、久しぶりなのかよく分からないというぐらいの意味しかありません。(教育業界でも幼稚園や小学校ではスキンシップは必要でしょうけど)

これまで、オンラインのみのラポールの形成には限界があるというのは常識でしたし、それはもちろん正しいものだったと思います。なぜなら、オンラインの付き合いというのは文字が中心で、つい最近までそれ以外は記録された音声や動画しかなかったからです。記録された動画は顔が見えるとは言ってもこちらが質問することもできませんし、録画されている本人には誰が見ているかもわからないので、もちろんラポールの形成などできません。

しかし、スカイプやGoogle+のハングアウトなどのビデオチャットの登場により、この状況は劇的に変わりました。相手がどれだけ遠くにいても、リアルタイムに顔も見えて声も聞けて、話ができるのです。確かに相手に手で触れることはできませんが、もともと手で触れ合うような関係を目指すわけでもない限り、ビジネスの場でも学習の場でも、ラポールの形成にオフラインの対面は不可欠ではない時代になったといえるでしょう。
posted by 村上吉文 at 17:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
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